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44 狼狩り


「第一試合、サイナー選手対アーロン選手」



 第一試合に組まれた賭け。

 正直大会の結果はどうでも良い。

 賭けに勝ちさえすれば。


 強い奴は最後まで残る。

 弱い奴は負ける。


 組み合わせは色々な思惑で決まる。

 その最たるものが第一回戦、第一試合だ。


 レティシアとハビエルの賭けは周知の事実。

 オッズはサイナー一のアーロン四十五。

 本来なら百倍を超えるはずのオッズであるが、あの暴風(ストーム)(プリン)(セス)が乗っている選手なのだ。

 それだけで半分以下の倍率に落ちた。



 サイナーは、試合会場の真ん中でアーロンと対峙する。


 サイナーはハビエルから事情を聴いている。

 勝てば報奨金(おこぼれ)が出る約束になっている。

 そもそもサイナーは優勝候補の一角である。

 オレイロス村なんて田舎村の選手なんて気にも留めていない。


 この十数年、州大会に実力不足を理由に選手を派遣していない村からの、久し振りの選手派遣なのだ。


 村では、この十数年で一番の強さだろうが、州大会で上位常連のレガネスギルドから見れば、敵にもならないレベルだろう。


 なぜなら剣の強さは歴史だからだ。

 ギルドでも騎士団でも、団体として強いレベルを保っていないと強くなれない。

 一時的に強い奴が現れることはない。

 一人だけで強くなることはできない。

 ちょっとだけ、頭一つ抜け出すレベルが出る場合はあるものの、所詮頭一つ分だけだ。

 そんなところは敵ではない。


 州大会と言えども出場選手にレベル差はある。

 上位と下位では頭一つでは効かないほどのレベル差だ。


 ぽっと出の出場者などレガネスギルドの敵ではない。




「試合開始、始め」

 審判が合図をする。


 開始の合図前から臨戦態勢のサイナー。

 相手は自分より小柄な剣士。


 力で押すか、技術で押すか、勝ち方だけを考えていたサイナー。

 まずは先制攻撃だ。


「やあ! 」

 アドルフォ流迅狼剣はその名の通り、剣聖アドルフォが創設した、狼の行動を剣術に取り入れた流派だ。


 田舎剣士に格の違いを見せつけてやる、そういう気持ちで(けん)を振るった。


 バン!

 サイナーが降り下ろした剣がアーロンによって力強く払われた。


 サイナーは危険を感じ、払われた剣を中段に引き戻す。


 バン!

 引き戻して防御に徹した瞬間、サイナーの剣が更に振り払われた。


 二撃目は一撃目よりも大きく振り払われた。

 そしてアーロンの剣が反転している。


 足で逃げるのか剣を引き戻す方が早いか、瞬時に判断する。

 足で逃げながら剣を引き戻した。

 狼の判断。

 一旦撤退するも、隙を見て噛みつくつもりだ。


 バン!

 惨劇目で引き戻した剣が腕ごと持っていかれた。

 腕に釣られて体勢も崩れた。


 対戦(アー)相手(ロン)の連撃が止まらない。

 剣を引き戻すよりも早く対戦(アー)相手(ロン)の剣が自分を襲う。

 四撃目。


 バン!

「一本。開始線に戻って」


 目がチカチカする。

 こんな強烈な一撃を貰ったのは何年ぶりだろう。


 力で押すか技術で押すかを考えていたことすら頭から吹き飛んでいた。


 (出鼻に良いものを貰ってしまった)

 回復に努める。

 自分の攻めと相手の攻め、偶然相手の技にタイミングが合ってしまったようだ。


 (これはちょっとまずい。少し時間稼ぎをしなければ)



★★★



「サイナー、何やってる。そんな奴になんで取られてるんだよ」

 青くなったハビエルが怒声を上げる。


 まさかレガネスギルドの金の卵であるサイナーが、こうもあっさり、開始数秒で一本取られるとは思ってもみなかった。

 しかもあの技は、近衛騎士流正派・攻めの形五番、レティシアの得意技だ。

 得意技と言うよりも、暴風(ストーム)(プリン)(セス)の異名の元になった技だ。


 (まさかこの数日でアレを会得したのか)

 ハビエルは有り得ないはずの現実に頭がクラクラする。


 あの(かた)は、単なる左右の袈裟切りだ。

 近衛騎士流正派の形の中で、最も使えない形として有名な技だ。

 その使えない技を唯一行使するのが暴風(ストーム)(プリン)(セス)だ。

 男でも使えない技を女性剣士が使う。

 しかもその技をもって、デスペルタル級の剣士として認定された。


 ()()は技じゃない。

 気の触れた剣士が無茶苦茶に剣を振り回しているだけの形だ。

 それでなければ、近衛騎士流正派の連中だって、もっと五番を使っている奴がいるだろう。

 暴風(ストーム)(プリン)(セス)以外、誰も実戦はおろか試合で使ったという話を聞かない。

 五番を使えるのは才能がある剣士だけ。

 いや、少し違う。

 才能があって気が触れている、頭のおかしい奴だけだ。

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