43 レベル差
「今日はここまでにしようか」
ティシムがアーロンに告げる。
アーロンは疲労困憊で返事もしたくない。
「ところでユダの少年のレベルはどのくらいだ」
「よく分かりませんね。まあ州大会レベルなら勝てる程度にはあるかと思いますが」
「そうか。お前程度でもそうなるか」
レティシアは、ティシムにアーロンのレベルを尋ねるが、はっきりとした回答は得られない。
「レガネスギルドの流派は、アドルフォ流迅狼剣ですから。ユダの少年とは相性が良いかと思います」
「まあダンディーがしっかりと土台作りをしていた痕跡が認められるから、多少無理に詰め込んでも大丈夫だろうが」
「そうですね。体の線が細すぎるかと思いましたが、しっかりと鍛えられているようでこれなら多少の無理も可能ですね」
二人の会話を聞いてアーロンは絶句した。
ダンディーの弟子と言うくらいあって、ダンディーくらい無茶をする。
今日の稽古が無理に詰め込んだ部類なのか、そうでないのかが分からないだけに今後が不安だ。
しかし、あと数日頑張れば、アイネと一緒に居られる資格が手に入る。
この二人が大丈夫と言っているくらいだから、稽古は自分でもきっと耐えられるレベルなのだろう。
★★★
「やっぱりこの程度じゃティシムでもレベルが分からないか」
「ええ、レティシア様ならもっと分からないかと。準デスペルタル級の私でさえこの程度しか分からないのですから」
二人はアーロンのレベルについて相談していた。
この二人のレベルになると、州大会レベルの子供たちの強さは誤差でしかない。
正直、州大会レベルはどんぐりの背比べだ。
例え優勝したとしてもその者が同じ大会でもう一度勝てるかどうかなんて分からない。
その程度の差しかない者たちを判断するなんて、強すぎる者たちからすると不可能に近いことなのだ。
「よくダンディーは、このレベルの子供に教え込んだものだ」
「そうですね。今日の稽古で、強くなっているか弱くなっているかすら正直判断が難しいです」
「この五日間、今日は終わったから、あと三日と少しでどこまで強化できるかだな」
「今でも勝てるかもしれませんが、負ける可能性もありますからね。試合慣れしていないところがマイナスですね」
「正直、長期的になら強くできると思うが、短期間勝負は教師がうちらじゃ分が悪い」
「全く持ってそのとおりですね。でもこれで負けたら、レティシア様は娼館送りですよ」
ティシムが心配する。
「まあどうせ貞操なんてものは、この歳になると大して意味のあるものじゃないからな。そんなモノよりもダンディーが馬鹿にされたままにしておく方が悔しい」」
「それは分かりますが、負ければ団も含めて影響は計り知れませんよ」
「だから私を担保に一億貸してくれたんだろ。勝てば奴に一撃喰らわせられる」
「ダンディーが誰かってことを知っているのは少数ですからね。奴もダンディーが誰かって知ればびっくりするはずですよ」
「知っていようがいまいが、我らがダンディーを馬鹿にしたことは十剣の一人として許せるものではない」
レティシアは拳を作って握りしめる。
「負けた後のことはその時考えましょう。とりあえず今はユダの少年を一時的にせよ強化するだけです」
「そうだな。しかし一時的に強化するのは、ダンディーが嫌うことだ。ユダの少年は正しく将来を見据えて稽古をつけてやる」
「マジですかレティシア様」
「ダンディー最新にして最後の教え子だ。正しく導いてやらずして十剣、というよりダンディーの弟子を名乗れはしない」
「まず目先の勝負に勝ってからにしましょうよ」
ティシムは正しい。
しかし、そんな正論よりも自分の生き方を貫こうとするレティシアだった。




