42 下種
「いやあ、全く幸運も幸運だったぜ」
「そうですね。うちのサイナーと聞いたこともない村の選手が一回戦ですからね。確かに近衛騎士流正派は十剣がいますけど、所詮十剣だけ。どこの何の流派を練習しても剣を極められたであろう才能の持ち主だけが目立っていますからね」
「そのとおり。十剣以外は大したことのない奴らの集まりだからな。十剣以前は本当に最弱流派だったからな。それにしても脳筋とは良く言ったものだ。あの暴風剣姫を抱けるんだから。本当は俺専属にしたかったがギャンジーに忠告受けたから娼館送りで我慢したよ」
残念そうにハビエルが言う。
「ハビエル様って豪運を持っていますよね。あと数日で億の金をゲットするだけじゃなくて、あの暴風剣姫を娼館に沈めて最初に抱けるんですから」
「まあ、俺について来れば人生勝ち組だわさ。ハッハッハ。お前がユダを見つけて笑わせてくれたのがスタートだったな。お前にも小遣いやるよ」
「いえいえ、そんなことまで結構です。私はハビエル様に仕えさせていただいているだけで幸せになっていますので」
「欲がないのも人生損するぜ。欲を出すのも出世する秘訣だぞ」
「そうですね」
「いやあ自分の豪運が怖いぜ。これでお貴族様とのコネクションが増えるぜ。あの暴風剣姫を抱けるとなれば、みんな俺と兄弟になりたがるだろうからな」
「あの暴風剣姫と言えば、婚姻話を全て蹴っている鉄壁の処女で有名じゃないですか。貞操の防御力(堅さ)は剣の腕前に匹敵するとまで言われていると噂の。しかも美人だとは聞いていましたが、実物は話以上ですね」
「貴族たちの間でもあの美貌と貞操の堅さは有名でな。あの暴風剣姫を抱けるならいくら払ってもいい、という貴族が多いんだよ」
「それを無料どころかお金を貰って抱けるハビエル様は前世でどれだけ徳を積んだのやら」
「笑う門には福来る、って、お前が笑わせてくれたからさ」
二人は下種な笑いで、まだ手に入ってもいないお金と欲望で喜んでいた。
★★★
ギャンジーは手筈を整えるため奔走していた。
せっかくのチャンスを生かすために。
州都ムルシアでは知られたギルドではあるが、王都には手を伸ばせていない。
やっとカウチョ商会の次期代表と繋がりができた。
更に、暴風剣姫を娼館に沈める道筋ができた。
暴風剣姫のネームバリューはすさまじい。
彼女のことは王都から離れたムルシアでも有名だ。
彼女を抱ける機会があれば、いくらでも金を払う大尽がいるだろう。
それこそ彼女が借りた一億ギニーでも簡単に。
しかし彼女の実家はオソリオ公爵家。
身分の高い女性を抱けるとなったら、普通の貴族はもちろん、成金がどれだけ騒ぐか想像もつかない。
それには、暴風剣姫の貞操の堅さもある。
鉄壁の処女という噂は、彼女の経歴を知れば知るほど本当だろうと思わせる。
加えてあの美貌。
本物を見たのは初めてだったが、肖像以上の美しさ。
破滅してでも抱いてしまいたいと思うほど。
今回の契約は、彼女からの依頼であり相手はカウチョ商会。
契約書は完璧。
自分がオソリオ家から恨まれることはあっても、攻撃を受けることはない内容。
自分がレティシアを抱かなければ。少なくとも抱いたことがばれなければ。
レティシアに頼まれて仕方なく急所急いでお金を用意した結果が娼館送りとなっただけなのだ。
契約書類ではそうなっている。
でも抱いてみたい。
高貴な身分であり、貞操が堅い美貌の持ち主を。
どうすればレティシアやオソリオ家にバレずに自分が抱けるかを考えている。
客が誰か分からないように目隠しさせるか。
自分が抱いたことがオソリオ家にばれたら間違いなく潰される。
客は自分の顧客のほか、ハビエルに紹介してもらう。
何人まで紹介できるだろうか。
何日娼館に沈めていられるだろうか。
オソリオ家から身請け話が出た時点でレティシアを店で売ることは出来なくなる。
それまでに何人客を取れるか、何人有力者と繋がりを作れるか。
その間に自分が知られずにレティシアを抱けるのか。
下卑た考えを手放せない。
レティシアは魔性の女なのかもしれない。
手に入らないものが、手に入るかも知れない、と思った時の飢餓感。
金じゃない。
しかし金を使ってしか達成できない夢。
この賭けを仲介することによって得た人脈を使って王都に進出したい。
できることならば、彼女を抱いたうえで。
そう思うギャンジーだった。




