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38 賭け

「こんな僻地(いなか)に連れてこられていい迷惑だわ」

 貴賓室の中で、第八騎士団団長のレティシアは伝令のティシムに悪態を吐いた。


「それは自らの行いのせいだということをご理解していらっしゃらない、と解釈しても宜しいのでしょうか」

 言い返すティシム。


「こんなところに居る訳ないでしょ」

「じゃあ、居るところで見つけていれば良かったじゃないですか。それができていないからこんな僻地(ところ)に居ることをご理解下さいませ」

「全くあなたって口だけは減らないわね。私の目に適う、誰にも目を付けられていない原石なんてこの世のどこを探しても居ないわよ」

「そういう先入観を持っているから、形だけでも探しに行かされるんですよ。こんなところまで」

 言い負かすティシム。


「原石が居ないのであれば、入団希望者だけで十分よ」

「その入団希望者の有望株を排除しているのは誰なんでしょうかね」

「根性がない者をいくら入団させても無駄でしょ。そもそも排除なんてしてないし」

「排除したつもりのない根性がない者たちは、他の団に入って根性を見せていますけどね」

「うちの団に残るものも多いでしょう。騎士団の中では一番人気なんだから」

「ええ、入団希望者が一番多い、と言う点では一番人気なんでしょうが、そのうちの何割が残るんですか。うちの団がなんて呼ばれているかご存じですか? 美女と野獣軍団とか、アマゾネス軍団ですよ。頭のおかしい女と、女に縁のない男だけですよ。うちで頑張れるのって。」

「頭がおかしい女たちって失礼な奴だ。でもまあ、脳筋寄りと言えば()()かもな。否定はできない。だが私はそんな彼女らのことは嫌いじゃない」

 ドヤ顔で擁護するレティシア。

 呆れるティシム。


「貴女の考えについては諦めますが、今回は一人でもスカウトして業績をアピールして下さいよ。とにかく誰でもいいですから。どうせうちの訓練を受ければある程度にはなりますから」

「ああ、死ななければな」

「団長自らそんなこと言わないでください。ただでさえ、うちの訓練はきつすぎて、一部の者たちからは不評なんですから」

「ああ、善処しておく」

「本当ですよ。約束しましたからね」

 しつこく言質を取るティシム。

 やる気のない顔を崩さないレティシア。




 そんな二人のやり取りとは別に、貴賓室で笑いあっている二人がいた。


「うちのサイナーよりも強い奴は居ないだろうが、面白い奴の一人ぐらい居ても良いよな」

「面白い奴なら一人見つけましたよ」

「どんな奴だ」

「このページに載っている奴で、指導者の名前がダンディーだそうですよ」

「ダンディー? それは面白い名前だな。誰がこんな名前付けるんだよ。今日日(きようび)平民の親だってもっとまともな名前付けるぜ。しかも出場(教え)選手(子)がユダ? 確かに面白い奴らだ」

「でしょ」


「しかも流派が近衛騎士流正派とは更に面白い。どういう奴がこんな僻地で近衛騎士流正派を教えてるんだ。オレイロス村なんて聞いたことがない村だぞ。どうせこのダンディーって指導者(やつ)は最弱流派時代に近衛騎士流正派を齧っただけの奴だろ。こんなふざけた名前の指導者、十剣でもないし聞いたこともない」

「でしょ。笑えるでしょ」

「まあネタでスカウトしてもいいけど、ネタで終わるな。うちの団員たちに受けるだろうがスカウトたちからは反感買うだけだな」

「そうでしょうね。まだ大会まで四日もありますからね」



 そんな二人の会話にレティシアが反応した。

「おい、今なんて言った? 」

 二人のテーブルを蹴り、因縁をつける。


「おい、何てことするんだ」

 従僕らしい男が椅子から立ち上がってレティシアの前に立つ。


「おい、お前は下がれ。誰かと思えば天下の十剣、暴風(ストーム)(プリン)(セス)であられるレティシア様じゃありませんか。ずいぶんとお行儀の悪い御身足をお持ちのようで」

 にやつくハビエル。

 (天下の十剣から直接声を掛けられたんだ。こんな幸運中々ないぜ)


「お前たちの方から、随分行儀の悪い言葉が聞こえたものでな。こっちもお前たちの行儀に合わせるのに苦労したよ」

「それはそれはお姫様の方から我々に合わせていただいて、身に余る幸運に私は身も心も震えております」

 (十剣のうち、一番の脳筋だ。何に反応したのか分からないが、面白くしてやるぜ)


「フン、そいつは我ら第八騎士団でスカウトする予定の男だ。あまり馬鹿にするな」

「ちょっと団長、まだ何も見ていないじゃないですか。誰のことを言っているんですか。そもそも何をしているんですか」


「お(ティシム)は黙ってろ。スカウトするなら誰でもいいと言っていただろ。ところでお前らは誰だ」

 レティシアはティシムを制しながら、目の前の男たちに質問する。


「お姫様に名前を名乗れる日が来るなんて夢にも思っておりませんでした。私の名前はハビエル。カウチョ商会の次期会長候補と言えば帝都でも多少は知られた存在となります。本日はレガネスギルド代表という立場でスカウトのためこちらに足を運んでおりました」


「そうか。これからは商売と一緒で周囲を確認してから言葉を選ぶことだな」

「はい、大変失礼しました。常日頃から正直な商売を心掛けておりまして、つい商売と同じく本音を漏らしてしまいました。今後は権謀術数に長けた宮殿の方々を見習わさせていただきたいと思います」


「ちょっとレティシア様、レガネスギルドと言ったら最近大会でも良い成績を残している剣士を輩出しているギルドじゃないですか」


「これはこれは、お付きの方にまで我がギルドのことが知られているとは。流石実力者揃いで有名な第八騎士団の方ですね。遅ればせながら、先程最弱流派と言ったことを謝罪させていただきます。お二方もスカウトに来られているのであれば、話の行き違いで素性の知れないものをスカウトされるより、うちのギルドに所属しているサイナーという選手に声をおかけになっては如何でしょうか。まあ、この大会で優勝するのはサイナーで決まりですので。ここは謝罪のつもりでうちの有望選手をそちらに差し上げることも可能ですが」

 商人らしく、交渉するハビエル。


「要らん。ここでお前の誘いに乗る理由がない。近衛騎士流正派が優勝するからな」


「それは素晴らしい。まさかサイナー以上の選手が隠れていたとは。しかし私も商売人でありギルドの代表です。私の目が腐っていると思われるのは今後の商売にも差し支えますね。ここは一つ握りませんか」

「分かった。お前の言い値で握ろう」

「ちょっとレティシア様! 」


「商談成立ですね。それじゃ大会運営者を通して契約を結びましょうか」

 思わぬ方向へ転がっていったことに、ハビエルは自らの幸運を喜んだ。

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