32 特訓
「今日から、少し訓練内容を変える。体力を付けてもらうことと、初見の技に対応する訓練をしてもらう」
ダンディーは大会後の翌朝、新しい訓練内容について説明を始めた。
体力なら十分付いたと思っているが、まだ足りないんだろうか。
初見の技とは一体何だろう。
剣術に技って必要なんだろうか。
初めて見たら負けるくらいの技ってあるんだろうか。
そんなものがあるのなら、その流派は実戦最強じゃないか。
疑問が湧き上がる。
そんな俺の表情を呼んだのか言葉を続ける。
「州大会くらいになると、村の大会に出てきたような簡単な相手は居なくなる。その中で、初見の技で一本取られるか、それを防ぐかは非常に大切だ。更にそのギリギリな戦いの中で冷静でいられるには体力が必要だ。今日からはそのための練習をする」
「昨日教わった形は? 」
「もちろん普通にやる。その上での追加だ。もちろん私の仕事も手伝った上でだが」
一番聞きたくない言葉が追加された。
スカウトされるために、良いところを見せるまで勝たなければならない。
そのためには少しでも練習したいし、教えて欲しい。
でも仕事の手伝いは最小限にして欲しい。
ダンディーが家に来た時、村の大会までの一か月は練習に専念させて欲しいと言った。
そのことを蒸し返すことなく、父親もダンディーも大会に協力してくれていることは感謝する。
しかし、本当の目的は騎士見習いとしてスカウトされること。
実際に騎士になりたいとは思わない。
アイネがそう言えば話は別だが。
それでもその目的を叶えたい。
「これから体力づくりの練習は、これを使って、ここでやるように。仕事場の方にも同じものを作ったから」
ダンディーに手渡された堅い木の棒。
結構重い。
そして案内されたのは、家から歩いて二・三分の場所。
太い木の棒が地面から十メートル間隔に二本立っているだけだ。
「これをこの距離から叩くだけだ」
アーロンが渡された堅い木の棒をつかみ取るとダンディーはダッシュして太い木の棒に近づいて思いっきり棒を振った。
ガーン!
大きい音がする。
自宅から少し離したのは、うるさいから、という理由がすぐに分かった。
このくらい音がすれば、母親に文句を言われるだろう。
ダンディーは、反転してもう一本の棒を叩く。
ガーン!
地面から立っている太い木の棒が大きく揺れる。
「こんな感じで。剣は担ぎで構える。そして思いっきり踏み込んで木を叩くだけだ」
事も無げに言うダンディー。
「これをどのくらいやればいいの」
「立っている木が折れるまで、と言いたいけど、折れるまで出来ないだろうから一日千本くらいかな」
出来ないだろう、と言う言葉に少しだけカチンとしたアーロン。
「この棒が折れたら、体力づくりは終了なんですね」
「土台の木が折れたらね」
一週間で折ることを心に誓うアーロン。
ダンディーから木の棒を受け取り、試しに叩いてみる。
バーン!
手にしびれが伝わる。
思っていたより、ダッシュして棒を振ることは体力を削りそうだ。
こんなこと、一日何本できるのだろうか。
千本?
ダッシュ込みでなら不可能に近い。
(一週間で折ることは諦めよう)
木を折る前に、心が折れたアーロンだった。
「これを時間を見つけてやること」
ダンディーの特訓には上限がないのかと思うアーロンだった




