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31 凱旋


 やった。

 勝った。

 優勝した。

 アーロンは目標を達成し、心の中で喜んでいた。


 表面上はクールに、静かに。



「なんで優勝しちゃうかな」

「お兄ちゃん(仮)おめでとう」

 ダフネとモニカが表彰式直後のアーロンに声を掛ける。


「ありがと。モニカちゃん」

「なんでダフネはモニカちゃんのようにお祝いを言えないのかな」

 アーロンは二人に返事を返す。


「そんなこと言ったって、お兄ちゃん本当に優勝するとは思っていなかったんだから仕方ないでしょ。応援しただけありがたいと思ってよ」

「本当に優勝したんだよね。すごいよ。一番応援少なかったのに」

「それ言えてる。一番応援少なかったのお兄ちゃんだったよ。それで優勝したんだから、これは私の応援のおかげだね」

「私も応援してたよ。ダフネは負けちゃえばいいのに、って言っていたよ」

「何てこと言ってるのよ。本気で言っていたわけじゃないでしょ」

「ダフネはそんなこと言っていたのか」

「いや、お兄ちゃん、冗談だってば。試合中私の応援聞こえていたでしょ」

 ダフネが慌てる。


「応援? 試合に集中していて気にしていなかった」

 アーロンが衝撃の事実を口にした。


 (黙っていれば分からないものを)

 二人はそんな女心が分からないアーロンに少しばかりショックを受ける。


「えー、ショック。あんなに一生懸命応援してたのに」

「そうそう。みんなダニエルさんを応援している中でお兄ちゃんのこと一生懸命応援していたのに」

 反転攻勢だ。


「だって仕方ないだろ。優勝しなきゃいけなかったんだから」

「ハイハイ。妹の応援よりも優勝の方が大切なんですね。でも帰ったら今日は祝勝会してあげるわよ。リサちゃんのところに早く寄って、買い物してから家に帰ろ」

 帰りを急かすダフネ。


 アーロンはふと周囲を見渡した。

 今日はまだアイネの姿を見ていない。

 剣術の練習を見るのが趣味のアイネが、大会を見に来ない訳がない。

 だが今日は一切見ていない。


「モニカちゃんは今日お姉ちゃんと来なかったの」

 さりげなくアイネのことを聞き出そうとするアーロン。

 さりげなくどころか目的が見え見えだ。


「ダフネと一緒に来たからお姉ちゃんは知らない」

 そう答えるモニカ。

 アーロンにムカついたから試合を見に来ていないようだ、とは言えない。


「ふーん、そうか。モニカちゃんも帰りは気を付けてね」

「了解なのだ。それじゃまたね」

 アイネを怒らせたことに全く気が付いていない鈍感男の質問から逃げるため、そそくさと帰るモニカ。



★★★



「お母さん、お兄ちゃん優勝しちゃったよ」

 家に帰るなりダフネは兄の優勝を勝手に報告した。

 アーロンは、自分から優勝したことを家族に説明するのは恥ずかしかったことから、妹が報告してくれてほっとしていた。


「あら、本当なの。本当に優勝しちゃったんだ」

 思ったよりも淡泊な反応にアーロンは拍子抜けした。

 もう少し興奮してくれるかと思っていた。

 それだけのことをしたはずなのに。


「ダンディーさんは? 」

「まだ帰っていないわよ。あなたの代わりにお父さんがお手伝いに行ってるから。間もなく戻ってくるでしょ」

 アーロンはリサのところで買ってきたお肉や総菜をベリダに渡した。


 (本当にあっさりしてるな。大会で優勝したのに反応がこれだけだと寂しいな)

 ダンディーに優勝報告したらどうなんだろう。

 母親よりもあっさりしたものだろうか。


「お母さん、お兄ちゃんね試合の前に昼寝して失格になりそうになったんだよ」

「ええ、流石にそれはないんじゃない」

「本当だよ。お兄ちゃんに聞いてみればいいじゃん。ね、お兄ちゃん」

 まさか見られていたとは思わなかった。

 遅刻しそうになったことは話していたけど、まさかあのことを見られていたとは。


「ちょっと返事が遅れただけだよ」

「まさか本当に寝ていたの」

 優勝を聞いた時よりも母親の反応が大きい。

 ちょっとショックかも。


「そのくらい図太い神経だから、応援が一番少ないのに勝ったのかも」

 ダフネがいちいち余計なことを話す。


 そりゃあ村長の息子で昨年の優勝者のダニエルに応援が多いのは当たり前だよ。

 ヤーニャ地区だって、一・二回戦常連から上位に入賞すれば、地区の人だって本気で応援するだろう。

 俺は、ダニエルと同じ地区だし、ユダだし、少し通りから離れているし。

 応援が少ないのは仕方ないことだ。


 ただ、アイネからの応援が欲しかった。

 一体どうしたんだろう。




★★★



「「「「「おめでとう! 」」」」」

 家族とダンディーに祝われるアーロン。

 目の前にはお肉が並ぶ。

 今日くらいはお肉は要らないな、と思いながら、肉以外の食べ物を物色する。



「ダンディーさん、ありがとうございます。調査の時間を削ってまで稽古をつけていただいて。まさかアーロンが優勝するとは思ってもみませんでした」

 アントニオがダンディーに謝意を述べる。


「いえいえ、アーロン君が頑張ったからですよ。私がやったことと言えば、キチンと剣が振れる程度に教えただけですよ」

 謙遜かどうかよく分からない。

 そもそもキチンと剣が振れたら優勝できる、と言っていたし。

 技術的なことを教えて貰ったのは、今朝だけだし。


 本当に剣が振れる程度の技術しか教えていないとすれば、それ以上の技術ってどういうものなんだろう。

 剣が振れる、と言うことはどう考えても、剣の技術の初歩の初歩だろうと思う。

 今日の大会では優勝できたけど、そんな初歩の技術だけで州大会では勝てるのだろうか。


 とにかく州大会までの期間で何か教えてくれるのだろう。

 今朝だって形を教えてくれたくらいだし、何かは考えているのだろう。



「ダンディーに魔法を掛けてもらったおかげで勝てたよ」

「良かったな」

 なんか反応が薄い。


「ダンディーの魔法凄かったよ。あんなに簡単に決まるなんて」

「そうか」

 反応が薄すぎる。


「ダンディーの魔法って、今朝の(かた)だよね」

 念のため尋ねてみる。

 無意識に教わった形で一本を取っている。

 間違いないはずだが、ダンディーの反応の薄さが気になる。


「まあ、それも魔法の一つかな」

 歯切れが悪い。


「ダンディーの魔法って何を言っていたの」

 ストレートに聞いてみる。

 なんかはっきりさせないと気持ち悪い。

 魔法が何であれ、優勝できたのはダンディーのおかげには間違いない。

 次の大会では、その魔法を自らかけたい。


「まあ、特にはリラックスして試合ができるようにしたことかな」

「意味がよく分かんないけど、具体的には何」

 突っ込む。

 ここまで曖昧にされると余計に聞きたくなる。


「試合前にしっかり稽古して、走って頭使って、試合の緊張を感じなくしたことかな。そしてしっかり体動かしたから、本番でも体の切れは普段通り良かったでしょ」

 ダンディーが今さら今朝の調子を聞いてくる。

 結果、予想外の魔法が明らかになった。

 予想外、と言うよりは予想以下の魔法だった。


「そっかー。だからリラックスしすぎて試合前に寝てしまったのね」

 笑いながらダフネが要らない一言を発する。


「アーロン、試合前に寝ちゃったのか」

「そうなのよ。お兄ちゃん、何回呼ばれても起きなくて、ほかの選手に起こされてるんだから。見ていてすっごく恥ずかしかったんだから」


「これは大物だな、母さん」

「本当に、さすがお父さんの子供ですよ」

 両親がブラックにアーロンを褒めあっている。

 アーロンが自分の子供じゃないとでもいうように。


「もしかして、夕べ緊張して眠れなかったのか」

 ダンディーの要らない一言。

 俺って試合程度で緊張する小物か。その通りなのだが。


 そりゃあ一生が掛かっている試合と思えば、なかなか寝られないのも当たり前だと思う。

 しかも少しばかり早く起こされたら、試合前に少しぐらいウトウトするのも仕方ないのではないかと思う。


「勝ったんだから、どうだっていいだろ」

 家族やダンディーと目を合わせずに料理を口に運ぶ。


 美味しい。

 勝利の味がする。

 少しばかり恥ずかしい苦みもあるが。

 肉ばかり食えと言われない食事は特にも美味しい。


 今日は良かった。

 目的に少しだけ近づいた。

 まだアイネと一緒の未来を目指せる。

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