28 準決勝~ダニエル戦
ここまで予定通りに勝ち進んだ。
いつもと違うのは、ヤーニャ地区の奴らが強くなっていたことだ。
準々決勝は、ヤーニャ地区のウーゴに一本取られてしまった。
いつもなら、ヤーニャ地区の選手とは一・二回戦でしか当たらない。
それが準々決勝まで来ただけでなく、一本取られた。
あの地区に都会から来て道場を開いた奴がいるとは聞いていたが、多分そいつらのおかげなんだろう。思っていたよりも厄介だ。
次の準決勝もヤーニャ地区の奴。
決勝は、アーロンかヤーニャ地区の女。
まあ、アーロンはたいして強くないから、ヤーニャ地区の女が勝ち上がってくるだろう。
昨年はアーロンが決勝に来てびっくりした。
簡単に勝てたから良かったけど。
今年も間違ってアーロンが勝ち上がってきたら嬉しいけど、ヤーニャ地区の躍進を見る限り、それはなさそうだな。
「ダニエル、今年も優勝できそうだな」
「父さん、まだ早いよ。あと二試合も残ってるんだぜ」
「昨年よりも強くなってるとロベルトが言っていたから、今年の方が昨年よりも優勝するのは容易いだろう」
「まあ優勝できるように頑張るけどね。とりあえず期待していてよ」
俺は父の期待に応えるつもりだ。
最も期待がなくても優勝するつもりだが。
同世代の中では頭一つ抜きん出ている自覚がある。
多少自分に近い強さを持つ者はウンベルトだが、あいつは性根が弱虫だから、最後まで勝ちきれない。
昨年だって、俺に勝ちを譲ってきたくらいだ。
はした金で。
そんなはした金、本当に欲しい訳でもないだろうに。
ウンベルトはそんな奴だから、女子選手に負けたんだと思う。
俺は心も弱くない。
そこがウンベルトと大きく違うところだ。
俺は勝つ。
どんなことをしても勝つ。
勝つための努力は惜しまない。
強くなければこの田舎村では同世代に尊敬されない。
アーロンのように頭だけ良くても、俺のように村長の家に生まれ落ちても、力がないと馬鹿にされる。
特にアーロンのように頭だけ良くて、剣が中途半端だと余計馬鹿にされる。
俺が親の跡を継いで村長になるためには、まず同世代からの尊敬を集めなければならない。
頭が良いとか仕事ができるとかそう言うことは二の次だ。
正直この村の中だけで一番強ければそれでいい。
ロベルトさんも言っていた。
俺なら頑張るだけでこの村では一番強い剣士になれると。
頑張るのも今年で最後だ。
剣の大会に出るのも今年で最後だ。
剣の腕は荷物にこそならないものの、村長になるための仕事としては、何の役にも立たない。
あと二試合で俺の剣の修業も終わる。
あと二試合が終わったら、自警団の訓練に時々出るだけにするつもりだ。
そして村長を継ぐために父の仕事を手伝う。
「ダニエル、頑張って優勝しろよ」
「お前が一番だ」
「ヤーニャに負けるなよ」
俺の仲間が色々言ってくる。
昼飯を食べているのに邪魔だな、と思う。
俺は悠然と昼飯を食べ続ける。
こいつらにそういう態度を取っても大丈夫だ。
何と言っても俺はこの中で一番強い。
一番尊敬されている。
何をやっても許されるのだ。
試合前に飯を食べて、次の試合に備えようとしている選手の邪魔をしていることにも気が付かない鈍感な奴ら。
怒らないだけましだと思えよ。
★★★
「それでは準決勝始めます。ダニエル選手、ポンシオ選手」
呼ばれて開始線に立つ。
ポンシオなんて知らない。
昨年の大会に出ていたのかどうかさえ分からない。
ただ、普通に強そうではある。
こいつなら、ウンベルトと良い勝負になりそうな感じがする。
「試合開始、始め」
木剣を中段に構える。
ヤーニャ地区の奴らは、剣を躱すことに重きを置いているような気がする。
絶対に打たれない、しっかり躱して打つ。
そういう戦法なんだろう。
しかし俺は俺。
いつも通りに戦うだけだ。
ロベルトさんも言っていた。
普通に戦えば、俺が負ける相手はいない、と。
少しずつ間合いを詰める。
ポンシオは詰められた間合いを元に戻そうと後退する。
俺は左右の逃げ道を塞ぎながら、再度少しずつ間合いを詰める。
ポンシオは少しでも脇に逃げようとしながら少しずつ後退する。
「やあ! 」
ポンシオが足を運ぶ先を予測して俺は前に出る。
ポンシオが大きく躱そうとするが間に合わない。
俺は剣を振る。逃げ切れないポンシオは木剣で防御する。
剣を戻さずにそのまま場外まで押し切る。
「場外、ポンシオ場外反則一回」
審判が場外を宣告する。
場外反則は二回になると剣で一本取られた場合に相当する。
押す方と押される方、どちらが悪いかということではない。
押されっ放しになる方が弱いという意味の反則だ。
(これで簡単には後ろに下がれなくなったはずだ)
ダニエルはほっとした。
躱され続けるのは辛い。
一度押し出して、次はない、と相手の行動を制限すればスムーズに勝てるはずだ。
「試合再開、始め」
審判の合図で開始線から再開される。
ダニエルはもちろん前に出る。
ポンシオは慎重に構える。
ダニエルの間合いに入った。
相手が後ろに下がれない状況だが、遠慮せずにダニエルは打ち込む。
ポンシオは左後方に下がりながら躱す。
ダニエルは微調整しながら再度場外を取るべく打ち込むながら体当たりをする。
ポンシオは剣を受け止めながらダニエルの体当たりに備える。
ポンシオの体に衝撃が走る。
頑張って前、左右に逃げようとするが、ダニエルにコントロールされて後ろにしか下がれない。
じりじりと押し込まれる。
「場外、ポンシオ場外反則二回で一本」
あっさり場外を割ってしまったポンシオ。
「二本目、始め」
審判の合図で、ポンシオが即行で前に出て打ち込む。
防御するダニエル。
ポンシオが体当たりをして押し込む。
ダニエルはポンシオの体当たりを受け止めるが、少し後退してしまう。
追撃するポンシオ。
ポンシオの息が荒い。荒い呼吸を隠すこともなく押し込もうとする。
ダニエルも呼吸は荒いがポンシオの荒さは異常なほどだ。
ダニエルが体を入れ替え、距離を取って中段に構える。
呼吸を整える。
ポンシオは荒い呼吸のままダニエルに合わせる。
ダニエルは突然のポンシオの攻撃に驚いていた。
もう少し大人しい試合運びをすると思っていたのに、反則で一本取られてから急に積極的に攻めてこられた。
ただ、ポンシオは体力が持ちそうにないように見える。。
少し攻めさせれば、動けなくなるだろう。
その時に攻めればいいか。
ポンシオはダニエルと少し戦ってすぐに分かった。
自分ではダニエルに勝てない、と。
負けないように試合を進めることは出来るが、それじゃあ意味がない。
負けないように試合を進めていても、このままでは、いつかは負けてしまう。
いい試合だった、と言ってもらえても負けてしまえばミランダと戦えない。
ただ負けるのも悔しいし意味がない。
だったら、ダニエルをとことん疲れさせてやる。
そもそも準決勝に来た時点で疲れ果てている。
一時間休憩したところで、手も足も全て疲れて、きちんと回復できていない。
やはり試合は普段の稽古とは違う。
普段の稽古は、十本やってもまだ体力が残っているが、試合は疲労度が格段に違う。
せっかくここまでたどり着いたんだが、ダニエルには勝てそうにない。
それなら少しでもミランダの役に立ちたい。
「やあ! 」
攻める。
体力切れするまで攻める。
そしてダニエルを少しでも疲れさせる。
それが俺にできる一番の貢献。
攻めていると俺の攻撃もダニエルに結構通じているのが分かる。
決めることは出来ないまでも、そこそこいい試合になっている感じがする。
そもそも瞬殺されない。
俺の攻撃にダニエルは防戦一方だが、多少の余裕はありそうだ。
もう少し体力があれば、もう少し技術があれば。捨て石を選ばなくても良かった。
もう少し練習していたら、きっと届いていたに違いない。
残念だ。
彼女しかダニエルを超えられない。
パン!
「一本、それまで」
ポンシオの大会が終わった。
僅かなスキを突かれて一本取られた。
僅かではないかもしれない。
疲れたのだ。息が続かなくなって動きが止まってしまった。
場外反則の一本と併せて負けてしまった。が後悔はない。
あるとすれば、もう少し練習していれば自分の剣がダニエルまで届いていたかもしれないということだけだ。
開始線に戻って勝ち名乗りを受けるダニエルを見ると、荒くなった呼吸を整えている。
それだけで自分の役目が果たせたと思う。
今日はミランダの祝勝会だ。
絶対に盛り上がるだろう。
もう倒れそうなほど呼吸が荒くなっているポンシオは、ミランダが優勝することを疑っていなかった。




