26 疾風剣客団ミランダ
感想、ブックマークありがとうございます。
とても嬉しいものですね。
ミランダがオレイロス村のヤーニャ地区に来てもう半年が経つ。
ここの住民たちとも仲良くやれている。
しかし、来た当初は、ここで道場を開く意味があるのかと疑問を感じたことは一度や二度ではなかった。
この村、特にもこの地区には強い人がいない。
自警団の訓練と言っても、田舎の自警団、馴れ合いの稽古と仲良しクラブの子供たち。
全く持って、強くなれる環境ではなかった。
更に、オレイロス村の中では負け癖の付いている地区の人たち。
強くなろうという気持ちはあっても、強い心で強くなる努力をしているものは一人もいなかった。
こんなところに道場を出してどうするんだろう、と思っていた。
しかし、ここで数か月一緒に訓練をしてその考えが間違っていたことに気が付いた。
この地区の人達は、素朴で純朴で寡黙で真面目で一生懸命だ。
明るいうちは子供たちが練習し、暗くなってからは農作業を終えた人たちが練習する。
肉体労働者しかいないこの地区の人達は、元々身体能力が高かった。
それでも負け癖が付くほど弱かったのは、教える人が居なかっただけだった。
そもそも、田舎村の更に田舎に道場を出したのは、半分は既存の道場との競争を避けるため。
村には明確な道場は存在しないが、村長の私邸が村の道場的存在であることから、村の中心部への設立を避けた。
もう半分の理由は、私を売り出すため。
正確には、疾風剣客団の団員を大きな大会に数多く出場させるため。
そのためには、強いライバルのいない地域が望ましかったのだ。
このオレイロス村から州の大会に出た人はここ数年は確認されていない。
私のような中途半端な強さの団員が州大会に出るためには、そういう地方を選ぶ必要があるのだ。
そもそも私はここに来るまで剣の修業に行き詰まりを感じていた。
なかなか次のステップにたどり着かない、そういうもどかしさを感じていた。
そのような状態で、この地区の人たちに師範とともに教えることになった。
この地区の人たちの上達の早さには驚かされた。
体力があることが条件ではあるが、教えられたことを丁寧に、根気強く続けられる能力があるので、私が思っていたよりも早く強くなっていった。
その彼らに引き連られるように、私にも進歩があったと思う。
そして仲間たちは私と一緒に大会に出て、みんなそれなりに勝ち進んでいる。
私は強い仲間と練習することは出来なかったが、それでもここに来たばかりの修業の行き詰まりは突破した。
★★★
「それでは、ウンベルト選手、ミランダ選手、前へ」
二人が開始線の前に立つ。
「試合開始、始め」
身長が百八十センチのウンベルトと女子では十分に高い百七十センチのミランダがそれぞれ中段に構える。
女子では大きいと言っても、ウンベルトと比べると大人と子供だ。
身長以上に体の厚さが違う。
どう見てもミランダが勝てそうには見えない。
「ミランダ、頑張れ」
観客から応援が飛ぶ。
ミランダが前に出る。
「やあ!」
鋭い剣がウンベルトに襲い掛かる。
ウンベルトの防御がなんとか間に合った。
(剣が軽い? )
ウンベルトが剣を受けて思った。
ウンベルトは剣を払った勢いでミランダに剣を飛ばすが軽く逃げられる。
(ヤーニャ地区の奴ら、動きが素早い)
先手を打つべくウンベルトが圧力を掛けようと前に出る。
動きを察知したミランダは左に避けて剣を放つ。
ウンベルトは右側面を防御すると同時に右に体をひねりながらミランダに体当たりをする。
ミランダは軽く体当たりを避けて距離を取って、剣を中段に構える。
(厄介だな)
ウンベルトは、ミランダの素早い動きに翻弄されていることを感じていた。
前戦のウーゴも厄介だと感じていたが、このミランダは更に動きが洗練されていて素早く感じる。
だが、着いて行けないほどではない。
体の大きさと体力は間違いなくウンベルトが上だ。
フェイントが効かなければ押して押して押しまくるだけだ。
ミランダの剣は鋭いものの、女のせいか結構軽い。
ただ早くて上手いだけ。
そんな剣士に負けるはずはない。
ミランダの次はアーロン。
アーロンにはあっさり勝てるだろうから余裕で無視できる。
決勝はやはりダニエルか。
ダニエルには多少苦戦するだろうが、負けることはない。
間違いなく勝てるだろう。
それを考えると、この女が一番厄介かも知れない。
今まで対戦したことのないタイプだから。
ミランダに合わせて剣を中段に構えながら次の次の試合まで思いを巡らすウンベルト。
呼吸を整え、打ち込む機会を窺う。
ミランダが距離を多めに取っているため、一足で自分の間合いに入ることは難しそうだ。
じりじりと少しずつ間合いを詰めていく。
良い間合いに近づくとミランダが距離を取る。
呼吸は整っているが、少し汗が流れていく。
お互いに慎重な立ち回りをする。
これで負けてしまえば、当然の如く次はない。
ミランダが攻撃を仕掛けた。
上段から剣を振り、前に出る。
間合いが少し遠い。
当然の如く、避けることなくウンベルトが応戦する。
ウンベルトの剣を軽くいなし、連撃を繰り出すミランダ。
体当たりでミランダを吹き飛ばそうとするウンベルト。
ミランダの連撃は、間合いを詰められたことで不発に終わるが、ウンベルトの体当たりもミランダに躱される。
(やはり、このレベルになると本気を出さずに勝つことは難しそう)
ミランダは、ウンベルトと剣を交わして思った。
(この村のレベルなら、本気を出さずに勝てるかと思っていたけど、確実に勝つためには、本気を出さないと無理かもしれない)
このままだと、負けることはなくてもポイントを取るのは難しい。
そう判断したミランダは、本気を出すことにした。
(ポルドー流疾風剣! )
心の中で自分に喝を入れる。
絶対に負けるわけにはいかない。
勝って次のステップを踏むためにこの地に来たのだ。
技術を、技を、本気を出し惜しみしている場合じゃない。
ミランダの手首が動く。
ミランダの剣が不規則な動きをして、ウンベルトの左手首を襲う。
パン!
遅れてウンベルトの腕が剣を避ける動作をした。
「一本」
審判がミランダの剣を有効打と認めた。
ウンベルトは何をされたかよく分かっていなかった。
ミランダの剣が不規則な動きをしたかと思うと、自分の左手首が打たれていたのだ。
フェイント?
フェイントに引っかかったような気もしない。
あの動きは何だったんだろう。
ともかく、あと一本取られたら負ける。
「二本目、始め」
審判の開始の声が終わるか終わらないかくらいで、ウンベルトはミランダに襲い掛かった。
ミランダはウンベルトの攻撃を、軽く木剣を当てて剣の軌道を変えて避けた。
ウンベルトは避けられると、体当たりでミランダの体勢を崩そうとする。
ミランダはひらりと体当たりも躱す。
ウンベルトは振りむいてミランダに構える。
ミランダは間合いを取ろうと後退る。
ウンベルトは呼吸を荒くして間合いを詰めて剣を振るう。
ミランダの手首が動いた。
またもミランダの剣が不規則な動きをした。
パン!
パン! パン! パン!
ミランダの剣はウンベルトの剣に当たりウンベルトの剣の軌道を変えた後、当たって跳ね返った勢いそのままに、ウンベルトの逆胴、胴、面への三連撃が決まった。
「一本、それまで」
審判の声が会場に響く。
ミランダの応援団から歓声が上がった。
「ミランダやったー」
「よし、準決勝だ」
「ヤーニャ地区強い」
呆然とした表情をするウンベルト。
ミランダの剣が速過ぎて、自分の剣が撥ね飛ばされた後は、全く軌道が見えなかった。
そして見えないうちに、三発喰らってしまった。
(三発のうちどれが有効打だったのだろう)
どうでも良いことが脳裏をよぎった。
三発とも有効打だったことは自分の打たれた体が分かっていた。
言い訳ができないほど、しっかりと、そして確実に負けた事実はウンベルトの心に刻まれていた。
(ふう、やっと勝った)
ミランダは、ウンベルトの剣の軌道がしっかりと見えていた。
しっかりとスナップを効かせてウンベルトの剣を弾き、コンビネーションを放ったのだ。
(このレベルで本気を出さなきゃいけなかったか。決勝のダニエルが一番だと思っていたけど、このウンベルトも思っていたより強かったわ。次の対戦者は本気を出さなくても勝てるでしょうけど、一度本気を見せてしまった以上、出し惜しみする理由もなくなったし。体力温存のためにも本気で相手しましょうか)
ミランダは、次の対戦相手がアーロンという選手であることも知らず、知る必要もないと思っていた。
それよりも本気を出すか出さないか、それだけを考えていた。




