25 疾風剣客団
第一会場では、準々決勝である五回戦が始まった。
第一会場の決勝戦だ。
前年優勝のダニエルと、ヤーニャ地区のウーゴ。
昨年まで、ヤーニャ地区出身者は、一回戦か二回戦で全員敗退していた。
今年は、第一会場だけでなく、全ての会場でヤーニャ地区出身者がベストエイトまで残っている。
しかも第二会場で勝ち残ってたのは全員ヤーニャ地区。
「今年はどうしたんだ。ヤーニャばっかじゃねえか」
「確かに。ベストエイトにヤーニャばかり五人も残っているよ」
「凄いな。どこの会場でもヤーニャが残ってるよ」
「ヤーニャ地区に疾風剣客団の道場が出来たからだろ」
「なんだそれ? 聞いたことないけど」
「ヤーニャは田舎なこの村の中でも飛び切り田舎だからな。なんでも去年都会から疾風剣客団が来て、ヤーニャ地区の自警団に指導を始めたって話だ」
「たった一年足らずでこんなに強くなるんだな」
「凄いのはそれだけじゃない。疾風剣客団の中に、強い女の子がいるんだよ。ミランダって子なんだけど、地区の子供たちの中で一番強いんだよ。もしかするとダニエルに勝って優勝するかもしれないな」
「女の子が出てるのかよ。今初めて知ったよ」
「女の子に負けたらトラウマものだろうな」
「結構可愛い子だってよ。負けても良い記念になるんじゃないか」
★★★
「試合開始、始め」
ダニエルとヤーニャ地区のウーゴの試合が始まった。
身長百八十センチのダニエルに対し、相手のウーゴも百八十センチ。
ダニエルの方がガッチリしているため、体型的にはウーゴの方が少しだけ見劣りがする。
ダニエルがいつも通り上段から剣を振り下ろして攻める。
ウーゴは大きく左に避ける。
ダニエルは連打を繰り出すが、ウーゴはそれらの攻撃を大きく、そして素早く躱す。
躱されたダニエルは、イラつきを覚えながら再度連打で繰り出す。
ヤーニャ地区のウーゴ如きに躱されたのがムカつく。
多少のゴリ押しでも構わない。
徹底的に叩きのめす。
ウーゴはダニエルの連打をまたもや大きく躱す。
ダニエルの剣が当たらない。
ウーゴは遠い間合いからダニエルに剣を振るう。
ダニエルはウーゴの剣を完全に見切って体一つ分だけ躱す。
そしてウーゴに反撃するが、ウーゴは大きく躱して全く当たらない。
ウーゴの動きが素早いのだ。
ダニエルは体当たりをしながら距離を詰める。
鍔迫り合いになる。
ゴリゴリと押し込む。
場外際まで押されるウーゴ。
激しい息遣いと汗が零れ落ちる。
ダニエルは容赦なくウーゴを場外に押し出した。
と思った瞬間、ウーゴにするりと体を入れ替えられる。
パン!
ダニエルの面から乾いた音が発せられた。
「一本」
ウーゴが体を入れ替えて距離を取る時に、下がりながらダニエルの面に剣を振ったのだ。
見ていた者たちが一斉に声を漏らす。
「今年はヤーニャが優勝か」
「まさかダニエルが負けるとは」
「まだ一本取られただけだ。ダニエルが勝つ」
「それにしてもヤーニャ凄いな」
「俺も疾風剣客団で練習するかな」
「ヤーニャまで遠くて行けないよ」
★★★
一本取られた。
すごくやりづらい。
大きく避けるものだから、当たる気がしない。
体当たりしても、場外まで押し出す前に捌かれて体を入れ替えられた。
どうすればいいか。
あれ、ウーゴの奴、勝っているのに息が上がっているな。
なぜだ。
もしかして、無理して動いているのか。
五回戦だものな。
こいつら、ここまで上がってきたことなかったよな。
それならまだ十分勝機はあるか。
★★★
「二本目開始」
審判の声でお互い中段に構える。
ダニエルは注意深くウーゴの動きを見ている。
ウーゴもダニエルの動きを見ている。
ダニエルはゆっくりと少しだけ前に進む。
ウーゴも併せて少し下がる。
一本目と違って、静かな展開になっている。
ウーゴは構えながら息を整えている。
ダニエルが先手を打つ。
前に踏み込みながら剣を振り上げた。
ウーゴは大きく右に移動した。
ダニエルは剣を中段の構えに戻す。
ウーゴも間合いを図りながら中段の構えで対抗する。
ダニエルが再度剣を振りかぶる。
ウーゴが大きく右に移動する。
ダニエルが予測していたかのように右に移動したウーゴを狙う。
ウーゴは更に大きく避ける。
ウーゴの足がふらつき始めた。
フェイントを織り交ぜながら、ウーゴを動かすダニエル。
フェイントの中に本気の剣が隠れている。
ダニエルが足がもつれかけたウーゴに襲い掛かる。
ウーゴはダニエルの剣を自分の剣で捌こうとする。
ダニエルは剣の軌道を変え、ウーゴの胴を狙う。
パン!
「一本」
審判の声が響く。
主にダニエルの関係者からは歓声が、ヤーニャ地区を応援している者たちからは悲鳴が上がる。
「これで追いついた」
「やっぱりダニエルか」
「ダニエルには敵わなかったか」
「まだ、これからどうなるか分からない」
「たまには田舎の地区からも優勝者が出て欲しい」
「開始線に戻って。始め」
「ウーゴ、教わったこと全部出せ」
「気持ちで負けるな」
「全力で行け」
ヤーニャ地区の応援だろう。
ウーゴを応援する声が一際大きい。
ウーゴもその声に押されて前に出る。
ダニエルはウーゴの剣を受け、防戦一方になる。
「あれじゃ無理ね」
二人の試合を見ていたミランダの独り言が声援にかき消された。
どう見ても、攻めているウーゴが無理攻めにしか見えない。
いつかあっさり逆転されるだろう。
しかもポイントを取る前に。
パン!
「一本、ダニエル選手の勝ち」
ウーゴは善戦した。
ただ、相手の圧力がウーゴの体力と精神力を削ってしまっていた。
打たれたウーゴは、敗北の声にも反応できずに、荒い息遣いで、木剣を杖にしてようやく立っている。
「よくやった、ウーゴ」
「途中までは勝っていたぞ」
「ダニエル相手に善戦した」
ヤーニャ地区の者たちであろう。
ウーゴを讃える声が聞こえる。
「ウーゴがこれなら、ヤーニャ地区の誰かが優勝しそうだな」
「優勝するのはミランダじゃないか」
「さすがにダニエルもミランダには勝てないだろ」
「ダニエルがウーゴとどっこいどっこいじゃ、ミランダの方がダニエルよりも強いよな」
ヤーニャ地区の者たちは、自分たちの地区から優勝者が出ることを期待していた。
そしてそれが、間違いなく叶うと信じていた。




