22 二試合目
一試合目を寝ていて見逃したアーロンは、ライバルである二人の試合をチェックした。
ダニエルとウンベルトは二試合目も危なげなく勝った。
正直二人とも強いのか弱いのか分からない。
試合中の構えを見ていると、自分でも勝てそうな気はする。
しかし、自分が立った時も全く同じ相手への構えでは、少し構えも変わるだろう。
他人との試合で構えを見ても、参考程度にしかならない。
それでも相手の動きを参考にして、次に当たる時の戦略を立てておく。
教わったばかりの形を試すな、と言われ、前へ出ろ、とだけ指示されている今、戦う方法が制限されているので、対戦相手の研究は大切だ。
二人とも体の大きさを生かした戦いをする。
これは昔から変わっていない。
剣を振りながら前に出て圧力を掛ける。
剣が当たれば良し、当たらなくても場外に押し出す反則を誘う。
反則を嫌って、一か八かで勝負に出てきたところを決めるパターンだ。
今の俺なら、奴らにどう対抗するか。
圧力を掛けられようと、どうしようと、前に出て隙を見つけて打つしかない。
ダンディーの縛りがなければ、下がりながらでも、しっかりと間合いを取って剣筋を見極めて打つ、というのが普通のやり方だろう。
圧力を掛けられても、左右に捌く。場外に近い真後ろには下がらない。
彼らの戦い方は、王道と言えば王道の戦い方だ。
体のあるものは、その体を使う。
体がない者は、しっかりと剣を躱して、圧力を逃がしながら、隙を見つけ次第正確に打つしかないだけだ。
ただ、今の俺には後ろに下がることができない。
当たって砕けろ、か。
砕けたくはないが、当たって行くしかない
賭かっているものが俺の人生だ。
絶対に勝たなければならない。
奴らを砕くつもりで戦う。
★★★
「それではパンチョ選手、アーロン選手、前へ」
審判が名前を呼ぶ。
「今度は大丈夫か」
「また寝てんじゃないか」
心無いヤジが飛ぶ。
しかしアーロンの心には届かない。
アーロンは、目の前の試合に集中している。
ゆっくりと試合場に入る。
開始線の前に立つ。
相手を見る。
二回戦の相手は、ヨネージャ地区の選手だ。
そこに強い選手はいないはずだが、相手は背が高い。百八十センチはある。
(俺にもこのくらいの身長があればダニエルともまともに戦えるのに)
百七十センチを少し超えている程度のアーロンは羨ましく思う。
(肉を喰わないから? それとも遺伝? )
身長があまり高くない両親のことが思い浮かぶ。
「それでは、二回戦最終試合、パンチョ選手対アーロン選手の試合を始めます。試合開始、始め」
開始合図とともに、相手が剣を振ってきた。
様子見とか一切なしだ。
「おーっ」
会場がざわめく。
前へ進め。後ろに下がるな。
ダンディーの言葉が頭をよぎる。
普通なら、左右に少しずれながら後ろに下がって躱すのだが、今日はできない。
アーロンは前に出る。
相手の剣が真上から来る。
自分の体の分だけ、相手の剣を横に躱す。
躱した直後に剣を振りたいのは山々だが、相手との間合いが近すぎて、まともな打突が出せない。
前に出た勢いそのままに、体当たりをする。
相手がまともに体当たりを喰らって、後ろに吹っ飛ぶ。
(よし、間合いができた)
相手が吹っ飛んだことにより、一瞬間合いができた。
前に出た勢いそのままに、思いっきり剣を振る。
狙い通り、相手の面に剣がヒットする。
バン!
(会心の一撃だ)
打たれた相手は、そのまま地面に倒れた。
「一本。アーロン選手、開始線に戻って待て」
審判が倒れたパンチョに駆け寄る。
「救護班! 」
救護班が試合場に入る。
救護班がパンチョに質問をする。
パンチョは弱々しく首を振る。
「パンチョ選手の負傷による試合続行不能により、アーロン選手の勝ち」
審判が宣言する。
(倒れた時に頭でも打ったか。そう言えば、俺もダンディーに体当たりされたとき、受け身を取れずに頭を打ったっけな)
アーロンは一か月前を思い出しながら、試合場を出た。
朝の稽古や走ってきた疲労はだいぶ抜けて回復してきている。しかし、試合時間は短くても集中力を使うことから、まだ体力的には不安が残る。
(あと五試合。いや、あと四試合勝てば、最後は思いっきり限界を超えて戦えばいい。とにかく決勝まで行かなくては話にならない)
アーロンは次の試合ではなく、決勝戦のことだけを考えていた。
★★★
「ちょっとお兄ちゃん、強すぎない? 」
「対戦相手をあそこまでやっちゃうなんて、さすがの実妹でも引くんですけど」
モニカもダフネも、アーロンの圧倒的な勝ち方に驚く。
「本当に優勝しちゃうんじゃない? 」
「それは困る」
「私はアリかな。でも今さらお姉ちゃんが受け入れないと思うけどね」
「そうして欲しい」
最も、驚いているのは二人だけではない。
「アーロンって、あんなに強かったっけ」
「アーロンと対戦しなくてよかったよ」
「俺、次アーロンとなんだけど、あんなにあっさり負けたら恥ずかしいんだけど」
「負けることよりも、自分の体を心配したほうが良いんじゃないか」
「ヨネージャ地区だからあっさり負けたんだよ。あいつらは一・二回戦の常連じゃないか」
「自分より体の小さい奴に負けるのも恥ずかしいけど、棄権するのも恥ずかしいな」
「秒で負けなきゃ恥ずかしくないだろ。今までの奴は秒で負けてるんだから。しかもパンチョなんかは秒でKОされてるし」
「防具付けていても怪我しそうだよ」
「棄権するのが一番かもな」
アーロンの試合を見た者たちの会話で、会場がざわついている。
試合を見ていない者たちは、何で会場がざわついているのか理解できていない。
「一体何があったんだ」
「アーロンがえげつない? 」
「強さがってこと? 」
「強さもだけど、試合内容がえげつないらしい」
「あのアーロンが? 」
「そう。去年ダニエルにあっさり負けた奴だよ」
「小柄で細い奴っていう印象しかないけど」
「そう、そいつだよ。試合内容が去年とは別物だよ。一試合目も見ていたけど二本取るのに十秒かかっていなかったし、二試合目は一発決めたら相手がKОされちゃったよ」
「去年は、ねちっこく相手の剣を躱して、たまたま打った剣が当たって勝ち残ったラッキーボーイにしか見えなかったけどな」
「あれはやばいよ。まともに相手できるのはダニエルくらいじゃないか。もしかするとダニエルでも相手にならないかも」
「本当かよ。俺が見ていないからって話を膨らませるなよ」
「次の試合見てみろよ」
「分かったけど、四回戦にもなれば、弱い奴は残ってないぜ」
「そもそもパンチョは弱くなかったと思ったけどな」
「でもどうせまぐれだろ」




