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21 初戦

誤字脱字をチェックしていると豪語しながら、思いっきり間違っていたことをお詫びします。

チェックしている時は間違いない、と思うのですが、気持ちに余裕ができてから読み返すとあら不思議。




「アーロン選手、アーロン選手、居ませんか」


 誰かが寝ていた俺を蹴る。


「よく試合前に寝ていられるよな」

 陰口が聞こえる。


 俺はハッとした。

 呼ばれていた。


「はい、はい、居ます、出ます」

 俺が慌てて返事をすると、失笑がそこかしこから聞こえる。


 みんな、俺が会場近くで眠っていることを知っていたのだろう。

 俺を起こさずに不戦敗にする手もあったと思うが、近くにいるのを知っていて放ったらかしにすれば、後で一番近かった奴が卑怯者とのそしりを受けるだろう。

 そのため、忌々しく思いながらも俺を蹴って起こしてくれたのだ。


 蹴られたのは面白くないが、不戦敗になるより百倍マシだ。

 俺は慌てて試合場に入る。




「それでは、一回戦最終試合、ホルヘ選手対アーロン選手の試合を始めます。試合開始、始め」

 審判は急いで試合開始の合図をする。

 俺がなかなか現れなかったので、少し焦っていたのだろう。


 中段に構えて相手を見る。

 相手も中断に構えて、面白くなさそうな顔をしている。


 そりゃそうだろう。

 このまま誰も起こさなければ、不戦勝だったのだから。

 一応俺は第二シード。

 昨年準優勝しているものの、シード選手の中では、俺が一番弱いと思われている節がある。

 実力の有無はともかくとして、それでもシード選手と当たるのは嫌なことだろう。



 中段に構えている相手の腕がピクリと動いた。

 剣が上がりそうだ。

 このままだと、相手が先に出てくる。

 ダンディーの指示では、前へ出ろ。

 相手が先に出てきたら、前に行けなくなる。


 一瞬の判断で俺は前に出る。

 パン!


「一本。お互い開始戦に戻って」


 俺の剣が先に相手の面にヒットした。

 危ない危ない。


 あともう少しで、相手が先に出るところだった。


「それでは二本目開始」


 今度は絶対に相手よりも早く出る。


 タイミングなんて待っていられない。


 パン!

 あっさりと俺の剣が相手の面に決まった。

「一本、それまで」




「さっきまで寝ていた奴に負けるなんて弱すぎ」

「ホルヘは緊張しすぎていたのかな。あんまり弱い奴じゃないんだけどな」

 一瞬で勝負が終わったことで外野がざわめく。

 ざわめきのほとんどが、相手選手であるホルヘの弱さを揶揄するものであり、いつまでも長く続くものではなかった。

 次の試合がコールされると、そのざわめきもすぐに忘れられた。




 初戦は何とか勝てた。

 危うく寝過ごして不戦敗になるところだった。


 疲労で寝たために優勝できなかったら、それでもダンディーは騎士見習いに口利きしてくれるのだろうか?


 とりあえず、最後まで寝なければ大丈夫だ。

 頭が少しすっきりしてきたから、もう大丈夫だろう。

 本当に危なかった。



★★★



「お兄ちゃん、勝ったね」

「いや、強っ。そもそも私のお兄ちゃんだから」

 ダフネとモニカがアーロンの試合が終わってほっとして言った。


「良いじゃないの。少しだけ貸してよ。代わりにお姉ちゃん貸してあげるから」

「要らないわよ。うちのお兄ちゃんに厄介ごと持ち込んでくる人なんて」

「でもこれで優勝したら、私のお兄ちゃんになるかもよ」

「あの女だけは駄目」

「ひどい。あの女でも、私のお姉ちゃんよ」

 まだ一回しか勝っていないのに、優勝した後のことで言いあう二人。



「まさかお兄ちゃんがこんなに強くなっているとは思わなかったわよ」

「先週、エリオドロをやっつけたの見ていたから、私はそれほど驚かないけど」

「だから、なんでその話、すぐに教えてくれなかったの」

「そんな話広めたら、うちのお姉ちゃんが怒っちゃうでしょ」

「それもそうだけど。お兄ちゃん、いいところで負けてくれないかな。例えば次くらいで」

「負けちゃったら、マジ本当のお兄ちゃんになるチャンス無くなっちゃうんですけど」

「だから良いんじゃない。私、あの女と結婚するのだけは許さない」

「だから、私はその女の妹なのよ」

「ごめんごめん。でも姉妹でも性格全く違うよね」

「そりゃ違うでしょ。ダフネもお姉ちゃんとお兄ちゃん(予定)が付き合って欲しくないのは分かるけど、もう少し友達(わたし)にも気を使ってよね」

「分かってるわよ。だからごめんって」


「でも、あと六試合もあるんだよ。そこまで勝てるかな。勝って欲しくないけど」

「寝なきゃ勝てるかもね」

「プッ、ほんとお兄ちゃんって思っていたより大物だわ。試合前に会場で寝てるなんて」

「ホントよね、まさかそこまで緊張していないとは思わなかったわよ」

 二人も、アーロンが寝ていて呼び出しに応じられなかったところを見ていた。


「そんな度胸のある人だとは思ってもいなかったわよ」

「私だってびっくりだわ。度胸があるというよりも馬鹿なのよ。帰ったらこのネタでいじってやる」

「お昼のお弁当渡すときにいじってみたら。それなら私も一緒になっていじれるし」

「二人でいじり倒してみようか」

「良いわね」

 二人とも、アーロンの優勝を全く期待していなかった。


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