18 家族の想い
「どこで喧嘩してきたんでしょうね」
ベリダがアントニオに問い掛ける。
「まあ自分で言わないのなら、放っておくしかないだろ」
「でも、あの子がねぇ……」
「アーロンも、もうすぐ大人だ」
「子供なら、喧嘩も分かるけど、大人になって喧嘩はねぇ……」
アントニオも少しは心配している。
しかし、アーロンの表情に曇りがなかった。
あれなら大丈夫だろうと思う。
勝ったにしても、負けたにしても、後悔していないのなら大丈夫だ。
「母さん、あいつも男だから喧嘩くらいはするさ。何かあったらその時は俺が何とかするから心配するな」
「お父さんはそう言うかも知れないけど、顔に傷なんて作ってきて。気付かないとでも思っているのかしら」
少しくらいの傷や怪我は、男だったら別にどうでも良いのだが。
そう思っていても、母親であるベリダには理解してもらえないのかもしれない。
「まあ、大会さえ終わればどうにかなるだろう。おやすみ」
そもそも怪我が大会と関係があるのかないのかさえ分からないのに、無理に大会に関連付けて、会話を終わらせて寝ることにしたアントニオ。
「ちょっとあなた。アーロンがどうなってもいいの」
簡単に終わる訳がなかった。
アントニオはしばらくの間、ベリダの話に付き合わされる羽目になった。
★★★
「お兄ちゃん、その怪我どうしたの」
お兄ちゃんの可愛い顔に傷がついている。
「ちょっと稽古でぶつかった」
お兄ちゃんは稽古のせいにしたが、どう考えても稽古じゃない。
学校で会ったときはそんな傷はなかった。
今日の稽古は家の庭でしかやっていない。
いつもよりも軽いものだったはずだ。
「そうなの」
「そうだ」
取り付く島もない。
学校から帰るまでの間に何かがあったのは間違いない。
お兄ちゃんが誰と喧嘩をする?
今までそんなことなかったのに。
そもそもお兄ちゃんが喧嘩をする理由って何?
一つしか思い浮かばない。
しかも妙に嬉しそうにしている。
お兄ちゃんが嬉しそうにする理由も、一つしか思い浮かばない。
あの女絡みだ。
あの女絡みとなれば、男女関係のもつれに駆り出されて殴られた。
そしてあの女に感謝された。
そういう物語しか思い浮かばない。
なんで男って、顔だけの女に惹かれるのかなぁ。
あんな女、厄介事しかないのに。
性格だって良くはないし。
お兄ちゃんは頭が良くて、顔も可愛い。
剣もそこそこ強くて、普通にモテるし。あんな女じゃなくても。
しかもあの女、男の趣味というか対象は、お兄ちゃんじゃないし。
あの女の性格の悪いところは、自分の趣味以外の男にも良い顔をするところなんだよな。
趣味の男だけでもたくさんいるんだから、それ以外の男を惑わせるなよ、って思う。
あの女のおかげで、お兄ちゃんは大会で優勝することだけに血道を上げているし。
お兄ちゃんが何でもできると言っても、剣は無理。
そもそも体が大きくない。
パワーがない。
それでもそこそこ強いんだから、それで満足すればいいのに。
十分すぎるほどお兄ちゃんはすごいんだから。
頭は良いし、顔は可愛いし。
ちょっと抜けているけど、そこがまた可愛いし。
その抜けたところに、あの女が入っているのよね。
忌々しい。
でも何かに一生懸命なお兄ちゃんは見ているだけで可愛い。
稽古で疲れて食事中に寝そうになる姿や、嫌いな肉を無理に食べている姿。
風呂場で寝ている姿。
それがあの女のためかと思うと、超腹立つけど。
まずはモニカちゃんから詳細を聞き出さねば。
★★★
アーロンの振りが少し変わった。
少しだけ迷いがなくなっている。
これは、どこかで自信をつけたようだ。
しかも顔に痣なんて付けている。
間違いなく喧嘩をしたな。
そこで剣を振ってきたようだ。
しかし妙に晴れ晴れとした顔をしている。
喧嘩なんてつまらないからやめておけ、と言いたいところだが、こんな些細なことでも剣が変わるのか。
もう少し土台を作っておくか。
土台を強固にしておけば、喧嘩でもそうそう負けることはないだろう。
アーロンを最も強くすることだけを考えよう。
私が相手をできる期間中に。




