17 前へ進め
済みません。
投稿予約忘れていました。
この一週間死にそうなほど忙しくて大変でした。
今日だけは休めます。
「前に出ろ」
ダンディーが檄を飛ばす。
大会までラスト一週間。
残り一週間の課題は、前進あるのみ、徹底的に前に出ることが課題として与えられている。
石像と思えるほど不動のダンディーを相手に、ただひたすら前へ。
打たれては前へ。
倒されては起き上がって前へ。
剣を振っては前へ。
前へ進んでは剣を振る。
普段の稽古よりも疲労が激しい。
ダンディーの圧力に負けて少しでも下がると、バンバン剣が飛んでくる。
「そんなに打ったら、前に進めないよ」
アーロンが愚痴をこぼす。
「それでも前へ進め。これが大会への最終課題だ」
「こんな打たれやすいように前に出ることで、大会に勝てるんですか」
「打たれないように前に出ろ。打たれる前に打て。これができたら絶対に優勝できる」
ダンディーが、必殺の言葉を投げかける。
絶対に優勝できる、と。
優勝できるなら何でもやる。
優勝して、恋を成就させる。完璧に。
これのためだけに、きつい稽古を耐えてきた。
肉も食った。
走った。
あと一週間。
これを乗り切れば、優勝が手に入るらしい。
まだ、ダンディーの言葉を信じ切れていないが、アーロンにすがれるものはダンディーの稽古しかない。
「そもそも石像のようなダンディーをどうやって後ろに下げるんだよ。無理じゃないか」
「俺は石像じゃない。壁だと思ってぶち壊して前へ進め」
壁の方がもっと厄介だろ。
はなから動きようがないんだから。
「ほら、休んでいると稽古を終わらせてしまうぞ」
稽古を終わらせてしまっては、ダニエルに勝つことも大会で優勝することもできなくなってしまいそうだ。
昨日のエリオドロとの件は、誰にも詮索されなかった。
顔に殴られた跡が少し残っていたが、何も言われなかった。
多分、ダンディーは何かあったくらいは薄々感じているんだろうけど、何も言わない。
父母については、稽古でできた怪我くらいに思っているんだろう。
そうだ、ダフネにだけは、ちょっと聞かれた。
気のせいじゃないか、と適当にごまかしたが。
あいつなら、適当にごまかしておけば簡単に済む。
それでも、エリオドロとは相性が良かったのか、面白いように剣が当たった。
会心の一撃で。
体捌きも嵌るように、きれいに捌けた。
自分が強くなったかのように感じたが、今日のダンディーとの稽古をしてみて、そんなことは夢だったことを実感した。
ダンディーの強さは相変わらずだった。
少しも自分が強くなっていないことが分かった。
全く歯が立たない。
何と言っても圧力が凄すぎる。
三週間も一緒に稽古しているが、未だに慣れない。
手加減してこれかよ、と落ち込みそうになる。
エリオドロは体の大きさだけで、今まで大きい顔をしてきたのだろう。
体は大きいし、力もあったけど、ダンディーとは比べ物にならなかった。
技術的なものが一切感じられなかった。
今考えると、隙だらけだった。
今まで、あの見た目でビビっていたが、実際は冷静に対応すればあんな風に剣では簡単に勝てる相手だったんだろう。
だから、エリオドロは訓練とか大会に出たことがなかったのだろう。
出てしまえば、弱いことがバレルから。
ウンベルトがビビっていたのだって、実際は剣を交えたのではなく、家の中だけで、拳でやられていたのだろうと思う。
それに、エリオドロにはウンベルト得意の口撃は使えないだろうし。
「ほら、もっと集中しろ。前に出ていないぞ」
昨日のことに思いを巡らしていると、ダンディーから檄が飛ぶ。
今は昨日のことを思い出すんじゃなく、あと一週間で少しだけでも強くなることを考えて前に進まなければならない。
紙一重だけでも相手より強くなる。
ウンベルトよりも。ダニエルよりも。
絶対にアイネを諦めたくない。
アイネのいない人生なんて歩みたくない。
アイネが誰かと付き合っているところを見たくない。
アイネが誰かと家庭を築いていることなんか考えたくもない。
そのためなら、打たれても、倒されても、前に進む。
紙一重でいい。
たった一か月で、この自分がダニエル達を超えられるほど、簡単に強くなれるとは思っていない。
しかしこの一か月で強くならなければ、アイネと一緒に歩む人生が消えてしまう。
だから紙一重でいい。
その紙一重のために、あの圧力に飛び込む。
壁を壊せなくても、皹くらい入れられるように。
自分とアイネが一緒に歩む道に、日が差し込む程の皹を入れられるように、剣を振るう。
僅かでいい。少しでいい。
人生の運を全て使ってもいい。
ダニエルやウンベルトのように、大きくなれないこの体。
ユダの墓守と言う家系。
頭の良さだけでは手に入らないものが多すぎる。
生まれ持った運というものがあるのなら、自分の運は彼らよりも少なすぎる。
彼ら以上の努力をしても、追いつくことさえ難しい。
それでも絶対に、大会では勝つ。
そのためだけに、前へ進む。




