16 モニカの独り言
お姉ちゃんが帰ってきた。
ものすごく怒っているようだった。だった、と言うのは怖くて近づけなかったから。
近づいたら、確実にコロサレテいたと思います。
アレを見てから、サッサと私は離れたので、お姉ちゃんが何で怒っているのかは分かりません。
私のお姉ちゃんの名前は『アイネ』です。
見た目はとてもきれいな女です。
女です。
大切なところなのでもう一度言うと、女です。
何を言いたいのかというと、お姉ちゃんには女の全てが入っています。
良いいところと悪いところと。
良いところは、見た目がいいです。
いい匂いもします。
お姉ちゃんは男の人にすごくモテます。
いつも貢物が絶えません。
おかげで私も美味しいお菓子を食べることが多いです。
それと、お姉ちゃんがきれいだと、私まで色々気を使って貰えます。
悪いところは、性格が悪いです。
性格が悪いと言うより、女の人なんです。
それ以上言うのは勘弁してください。
お姉ちゃんは怖いんです。
ところでお姉ちゃんは、最近よくエリオドロに絡まれています。
お姉ちゃんも悪いんです。
ちょっと気のある振りをしていたんです。
お姉ちゃんは、男の人にモテるためなら何でもやります。
チヤホヤされるのが好きなんです。
しかも年上からチヤホヤされるのが一番好きなんです。
なぜなら、お金をいっぱい持っているのが大人だからです。
正直、同級生以下は男として見ていません。
正確には、男になっていない子供としか認識していません。
それでも今日は同級生をエリオドロへの盾として使っていました。
盾役となったのは、私のお兄ちゃん(予定)であるアーロンです。
アーロンは、少し年上だけどちょっと可愛い顔をしているし、男臭くなくて私の同級生にも人気があります。
もっとも、アーロンにはダフネという本物の妹がいます。
ダフネは、アーロンにちょっかいを出そうとする同級生たちに目を光らせています。
ダフネも『お兄ちゃん』に関しては、ちょっと面倒くさい性格をしているけど、お姉ちゃんに比べれば何てことありません。
私は恋人よりもお兄ちゃんが欲しいので、ダフネと仲良くできています。
アーロンはお姉ちゃんのことが大好きなようです。
好きなのに、気取られないよう素っ気ない態度を良く取っています。
好きな女に対するアプローチとしては最悪だと思いますが、お姉ちゃんは子供っぽいアーロンに興味は無いので、特に気にしていません。
アーロンがもう少し頑張ってくれたら、本当のお兄ちゃんになる可能性もあるのですが。
そんなお姉ちゃんは、エリオドロに絡まれて迷惑していたので、今日は誰かを盾にして、エリオドロを遠ざけようとしていました。
本当は、村長の息子であるダニエルを引っ張り出してくる予定だったのですが、ダニエルはもちろん、その取り巻きも登校していなかったので仕方なくアーロンに白羽の矢を立てたのです。
ダニエルならアーロンよりも強いし、村長の息子なので、お姉ちゃんの作戦にぴったりだったのですが、さすがに居ない人をどうする訳にもいかなかったのです。
私の役目は、アーロンがエリオドロにやられ始めたら、すぐに助けを呼びに行くことでした。
つまり、アーロンがエリオドロにやられること前提の作戦でした。
アーロンは、去年大会で二位になったとはいえ、体は大きくありません。
対するエリオドロは、一九〇センチメートルの巨体です。
それでも、お姉ちゃんのことが好きなアーロンなら、エリオドロの『稽古』で粘るだろうと思いました。
エリオドロの『稽古』はねちっこいので、一部界隈では有名なんです。
性格が悪いので、時間を掛けて相手を苛め抜くんです。
そんな性格の悪い男に、私のお兄ちゃんになられても困ります。
見た目もごつくて可愛くないし。
お姉ちゃんの男の趣味は私と合わないのが残念であり、良いところでもあります。
あんなごつい男なんて、私なら気のある振りすらしません。
そんなダニエルのスペアとしか認識されていないアーロンとエリオドロの自称『稽古』は、意外な決着となりました。
あの可愛い顔をした、アーロンのえげつない打ちで、エリオドロの手首と鎖骨が折れてしまったようです。
骨の折れる音を聞いたのは初めてでしたが、『あっ、折れた』と瞬間的に分かる音でした。
それでもエリオドロは、アーロンに脅しを掛けてきましたが、アーロンは全く気にしていませんでした。
お姉ちゃんにも脅しを掛けてきましたが、お姉ちゃんもあまり気にしていません。
だって、うちには住み込みの従業員もいるし、お姉ちゃんにはたくさんの彼氏候補がいるんです。
怪我をしたエリオドロなんて、全く怖い訳がありません。
それどころか、今まで悪さばかりしていたエリオドロが、アーロンに怪我を負わされたと噂が広がったら、どういう復讐をされるか見ものです。
可愛い顔をしたアーロンにやられたなんて噂が立った日には、間違いなく弱い奴認定されるでしょう。
しかも骨折してろくに戦えない体です。
今まで稽古をつけていた相手に、これからどんな稽古を挑まれるのか本人も薄々分かっているのではないでしょうか。
それよりも、その後のお姉ちゃんのお誘いを断ったアーロンが最高にアホです。
素直に受け入れれば、私の本当のお兄ちゃんになれたものを、なぜそこで断る?
お姉ちゃんから誘っているのに、それを断るなんて、馬鹿じゃないでしょうか。
お姉ちゃんのことを嫌いならともかく、嫌いじゃなかったらさっさと喰っちゃえばいいじゃないですか。
何かの恋愛小説でも真似しましたか?
そんな駆け引きなんて、お姉ちゃんには通じませんよ。
しかも、大会で勝ったら、なんて言っているくらいなんですから、お姉ちゃんに愛の告白をしているようなもんじゃないですか。
意味不明。
お姉ちゃんに告られて、告り返すけど、キスは断る。
しかもドヤ顔。
言っときますけど、お姉ちゃんはお兄ちゃん(予定)のことは好みじゃないんですよ。
ただ雰囲気に流されただけで、冷静になれば、その時の気持ちなんて忘れてしまいますよ。
さっさと既成事実を作っ(し)ておけば、そのまま付き合えたかもしれないのに。
でもそんなお馬鹿で女性のことを知らないお兄ちゃんのことが大好きです。




