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13 登校



「お兄ちゃん、今日は必ず行かなくちゃ駄目だからね」

 ダフネに注意される。


 先週も先々週もサボった。

 そりゃ学校くらいサボるさ。


 だって、大会まで残り一週間だ。

 俺の一生と比較したら、一週間や二週間なんて微々たる時間だ。

 それに勉強なら、教えて貰う程じゃない。


「学校? そんな日なら行って来なさい」

 ダンディーが登校を勧める。


「学校行ったら、ダンディーさんの手伝いができなくなるじゃないですか」

「そんなことよりも勉強しなさい」

「学校の勉強なら、もう教わることはないです。それよりも稽古をして絶対に優勝したいんです」


 俺はどうしても勝ちたい。

 それに学校で教わる程度の勉強なら、すでに終わっている。

 ダンディーに剣術を教わって三週間になるが、強くなっている感じがしない。

 正直焦っている。


「今日は手伝いは休みだ。訓練も休む。少しは気分転換しないと、たかが村の大会ごときで潰れてしまうぞ」


 たかが、じゃない。

 その村の大会は、州大会へつながる道なんだ。

 村の大会をクリアしない限り、自分の恋は成就しない。



「お兄ちゃん。ダンディーさんもそう言っているんだから、今日はきちんと学校行こうね。先週、リサちゃんやモニカちゃんに、何で休んでるのって言われて困っちゃったよ」

 ダフネは兄の表情を観察しながら言葉を選んだ。


「みんなに言われたよ。アイネさんにも言われた。お兄ちゃん居ないと寂しいって」

「アイネが? 」

「そう」

 少し動揺した。

 アイネが?


「そう言えば、アイネに頼まれていたことあったんだよな。忘れてた」

 少しわざとらしかったか?

 理由は何でも付けられる。アイネに話すことがあったような気がする。


「じゃあ、私は村長のところに顔を出してみるか。顔出さないことで、大切な時期に面倒くさいことになっても困るしな」


 ダンディーは、村長からお誘いが来ていたが、理由をつけて先延ばしにしていた。

 それが、そろそろ村長のところに行くと言う。

 それなら、アイネに会いに行くのも悪くない。

 大会前に、アイネの顔を見ておきたい。

 週一の自警団の訓練もサボっているので、ここしばらくアイネを見ていない。


「じゃあ、今日は学校行ってくるか」

 俺は少しだけ不純な気持ちで学校へ行くことを決めた。

 誰もこの不純な気持ちに気が付いていないと思いながら。



★★★



「おーいアーロン、久し振りだな」

「マルティン、元気か? 」

 久しぶりに会うマルティン。

 一番仲の良い友達だ。

 マルティンは剣術をしない。

 将来は商人になって、この村を脱出するのが夢の男だ。


「もしかして大会のために秘密特訓でもしていたか? 」

 冗談めかして言うマルティン。


 その冗談がまさに正解だとも言えずに、言い訳をする。

「調査員がきているから、その手伝いさ」

「アーロンは調査員の手伝いができるくらい勉強できるから良いよな。俺もそのくらい勉強出来たら、もっと簡単にこの村を出ていけるのにな」

「マルティンなら大丈夫だろ。この間、商人から丁稚の誘いがあったと聞いたけど」


「丁稚じゃ高が知れてる。もう少し良い待遇を勝ち取らないと底辺で終わってしまう」

「マルティンならどこから初めてもすぐにイケるだろ」

「そう思ってくれるのは嬉しいんだが、現実はそんなに甘くないよ。そのためにも俺は毎日頑張ってんだぜ」

「まあ、頑張っているのは俺もだけど」

 二人は和気あいあいと笑いながら挨拶を済ます。


「ところでダニエルとウンベルト達は? 」

「来るわけないだろ。お前さんと同じで今頃ロベルトさんにでも教えて貰っているころだろ。先週もいなかったけどな」

「ふーん。今年は負けてやる気はないけどな」

 強気な言葉を吐き出す。


「俺が言うのもなんだけど、アーロンは勉強ができるんだから、剣術なんかに構っていないでもっと別なことやればいいと思うんだが。剣術強くても、所詮貧乏騎士が関の山だろ。金を稼いだ方が将来的にも楽しく暮らせるし、女にもてるはずだよ」

 マルティンはアドバイス的なことを言った。


 マルティンは、アーロンの気持ちは知っているものの、相手(アイネ)の色々な背景を考えると友人として素直に応援する気にはなれない。


「俺は今やれることを一生懸命やってるだけさ。将来何になるとか今はどうでも良い。今年こそダニエルに勝っておかないと人生面白くないしな」

「お前その年で人生とか振り返ってんじゃないよ」

「それもそうだな」


「アーロン、今日はサボらずに来たのね」

「アイネおはよう。学校に来なかったのは、ちょっと調査員の仕事手伝っていたからだよ」

 理由を聞かれてもいないのに、下手な言い訳をする。

 アイネには、特訓していたことをあまり知られたくないと思った。


「おはよう! だけど、ちょっと見ないうちに少し背が伸びた? 」

「ん? いや分かんない。伸びてる? 」

「なんか、おっきくなった感じがする」

 自覚はないが、アイネに言われると、なんか嬉しい。


「そういや、そんな気がするな。アーロン太ったか」


 太っていない。

 決して太っていない。

 最近無理に肉を食べさせられているが、全く太っていない。


「前よりちょっと逞しくなった感じがする」

「やっぱりコソ錬していやがったな。サボリだサボり! 」

 煽るマルティン。


「えっ、コソ錬? 」

「アーロンがコソ錬して授業サボっていたんだよ」

「アーロン、サボっていたの」


「そんな訳ないだろ」

 否定するアーロン。


「こいつ、ちょっと逞しくなってるんだよね」

 余計なことを言うマルティン。


「アーロンなら、ここ最近、うちから肉を倍も買ってるんだよね。ちょっと太ったのかもね」

 途中からリサがはまってくる。


「アーロンは肉が嫌いじゃなかったっけ」

 マルティン。

「今の調査員が好きなんだよ。それでついでに無理やり喰わせられて大変なんだよ」

「アーロンは、うちのお肉好きじゃないの」

 恨めしそうな眼付きで睨むリサ。


「そういう訳じゃなくて、うちの調査員が特別にお肉が好きで、俺も大量に食べさせられているんだよ」

 無理やり言い訳をするアーロン。

「うちのお肉は愛情たっぷりなんだよ。美味しく食べてもらうために、うちのお父さんは一生懸命頑張っているんだからね」


 リサの父親だけでなくリサもお肉を美味しく食べられるように手間をかけているのは知っている。

 ただ俺は肉が嫌いなだけだ。

 それでも何とか食べられるのはリサのおかげだと思っている。


「分かってるよ。俺が肉を喰えるのはお前あのおかげだってことぐらい」

 勝つために肉を食わせられていることぐらいアーロンも知っている。

 リサの店が、丁寧に処理をしているから美味しい肉を食べられる。

 ただ、肉が嫌いなのだ。口に合わないから食べたくないのだ。


「そう思っているのなら、たまには態度で示して欲しいのだわ」

「ありがと、お前のところのお肉だけは食べられる」


「イマイチ感謝を感じづらいな。まあ、アーロンだからこんなものか」


 そんな会話中に、おなかを触ってくるものがいた。

「ちょっと、本当に少し逞しくなってるかも」

 アイネがおなかから胸へを手を移動させて筋肉を確かめている。


「ちょっと何すんだよ」

 ぶっきらぼうに話すアーロンだが、周囲のリサやマルティンが邪魔で逃げられない。

 しかし、アイネの手を振り払うにもアイネとの距離が近すぎて払うに払えない。


「えー、アーロンに筋肉があるの」

 リサも便乗して触り始める。


「アーロンに筋肉が付くなんて、アイネに脳みそが付くのと一緒かもね」

「ちょっとマルティン。少し頭が良いくらいで何私を馬鹿にしてるの」


 アイネはマルティンの腹にパンチを入れる。


「グエッ」

「隊長! マルティンに筋肉はありませんでした」

 アイネはリサやアーロンに向かって敬礼をしながら報告した。


「アイネ、ちょっとひどいぞ」

「おなかに筋肉のないマルティンが悪いんでぇす。一番悪いのは私を馬鹿って言ったことでぇす」


「俺だけじゃないだろ」

「馬鹿って言ったのはマルティンだけでぇす」

「アーロンだって腹の中ではアイネに脳みそないって言っているよな」

「ちょっとマルティン、お前、何俺にまで振ってくるんだよ」

「ちょっとぉ、アーロンもそんなこと思っていたわけ? 」

「そんなこと言ってないだろ」

「ふーん、まあ仮に思っていても、筋肉の付いたアーロンを叩くと、こっちが痛そうだからやらないわよ」


 アイネの言葉に、アーロンは少し残念な気がした。

 アイネにちょっかいを掛けられたマルティンが少し羨ましい。

 筋肉が多少付いたからと言って別に手が痛くなることはないんだけど。


「隙あり」

 アイネのパンチがアーロンを襲う。


 無意識に避けるアーロン。


 避けただけでなく、アイネのパンチを捌いてしまった。


 よろけたアイネがマルティンにぶつかる。

「グエッ」

 マルティンが声を上げる。


「ちょっとアーロン、素直に殴られなさいよ。マルティンにぶつかったじゃないのよ」

「ほんと、女の子が軽く叩こうとしたくらいで本気で避けるなんて男らしくないぞ」

 アイネとリサがアーロンに文句を言う。


 (いや、俺だってアイネのパンチくらい喰らっても良かったんだけど)

 声に出せない言葉を飲み込む。

 理不尽な女達の言葉による攻撃。


「全く、空気の読めない男だな」

 やれやれ、といった感じでマルティンはアーロンに声を掛ける。


「空気読める男なら、そもそも可愛い女の子に馬鹿って言う訳ないでしょ」

「そうよ。空気読めるくらいなら、さっさとアーロンを捕まえて動けなくしてよ」


「ほら、おとなしくしてろよ」

 マルティンが、形だけアーロンを羽交い絞めする。


 アーロンは、仕方がない、といった感じを装いながら、腹に力を入れ、女子達のパンチに備える。


「「せえの」」

 女子二人は、掛け声を合わせながら思いっきり溜を作ってパンチを繰り出す。


「グエッ。なんで俺なの」

「「大成功! 」」


 あっけにとられるアーロン。


「これが空気読める女なのよ」

「そうそう」

 マルティンにパンチを喰らわせた女子二人は笑いながらマルティンに言い放つ。


「空気読めるって、そう言うことなのかよ」

「こういうことも含まれてるの。だって多少筋肉付いたからって、アーロン骨だらけで叩くと痛そうなんだもん」


 (なんだよ。俺をネタに三人で遊んでいただけかよ)

 ちょっとがっくりするアーロン。

 アーロンは自分も構って欲しかったのだが、その気持ちは誰にも届かなかった。

読んでいただきありがとうございます。

なるべくたくさんの方々に読んで欲しいと思っています。


続きを読んでみたいと思う方は、下にある一番星をチェックして評価をお願いします。

面白かったという方は多めに、面白くなかったという方はそれなりに。


評価がモチベーションになりますし、反省の材料にもなります。


次の作品のためにも、どうかよろしくお願いします。

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