12 土台作り
「面白い」
窓の外に広がる暗闇を見ながらダンディーは独り言を言った。
暗闇の中には星の煌めき。
開かれた窓からは青臭い匂いが入ってくる。
そもそも暗闇の部屋に見えるものもなければ、見るものもない。
窓の外の闇には、大空に広がる星以外の光はない。
今日の稽古を思い浮かべる。
アーロンは意表を突く、いいタイミングで間合いに入ってきた。
避け切れるかと思ったが、拳一つ分の距離だけ避け切れなかった。
分かっているのと実際に剣を交わすのでは、勝手が違う。
同じタイプの剣士と普段から稽古をしていてこそ、あの一撃は躱せるものであって、そうでもなければ一発くらいはたまに貰ってしまう。
そう言えば、あの一撃の前にも擦るくらいの振りもあったか。
あの振りで、アーロンなりに微調整したんだろう。無意識かも知れないが。
それにしてもしばらくぶりで良い一発を貰った。
昔の仲間がこれを知ったら、アーロンは大変なことになっているな。
次から次に稽古相手が出てきて、立てなくなっても尚相手をさせられる。
彼らの剣を高める稽古相手として。
それでも、ようやく最低限の土台作りはできたか。
この生活をしながらの土台作りと考えると、優秀な方だろう。
毎日、全日訓練だけならもう少し早く終わったかもしれないが。
嫌いな肉も、無理して食べている。
自分のころは、そこまで量がなかったから、なんとか食べていたが、よくあれだけ食べられる。
私も肉が嫌いだった。
アーロンの困っている顔を見るのが楽しくて、つい面白がって量を増やしていることは内緒にしよう。
アーロンをこれからどうするか。
土台をもっと強固にすれば、州大会に出ようが、良い成績を収めなかろうが、昔の仲間に、このことを伝えるだけで喜んで見習い程度にはするだろう。
アーロンの気持ちを考えると、私が裏工作的なことをするよりも、自力で勝ち取る方が嬉しいだろう。
土台さえしっかりと作っておけば、州大会でもそこそこ良い成績を取れるだろうが、クジ運次第では一回戦負けもあり得る。
それにアーロンは、雑貨屋の娘に良いところを見せたいのだろうから、モチベーションを保つためにも州大会の優勝を餌に練習をきつくするか。
それなら土台作りをおろそかにせずとも、技術をも並行して教えることができるだろう。多分。
ただ、村の大会で圧倒的に勝ちすぎれば、練習への必死さは薄れるだろう。
技術を教えるのは、村の大会後にするしかなさそうだ。
土台がしっかりできた今では、村の大会程度では負けることは考えられない。
それどころか、更に土台を大きくすれば、土台だけでも圧勝する可能性すらある。
土台はしっかり作りたいものの、村の大会で勝った後のことを考えると、短期間であまり強くするのも考えものだな。
今宵は月が見えないせいか、星がたくさん見える。
昔の仲間を思い出すときは、無性に月が見たくなる。
月が見えない。
アーロンを育て上げて、あいつらに見せるのも面白いだろうな。
アーロンを見ただけで、私が指導したと分かるだろうか。
多分分かるだろうな。
そもそもあいつらを鍛えたのも私だから。
懐かしい。
月が見えなくてもあいつらのことが思い浮かぶ。
それだけ濃い時間を過ごしたあいつらが懐かしい。
あいつらに会いたい。
あいつらに会えなくても、アーロンをあいつらに見せたら驚くだろうな。
驚く顔が見たい。
想像することしかできないが。
新しい仕事に打ち込めているかと思えば、昔のことを思い出す。
今の仕事に就きたくて、馬鹿みたいに恋焦がれていた。
昔は、この仕事に就くなんて、絶対無理だと思っていた。
それが実現した今、仕事の楽しさよりも、あいつらのことを思い出す。
仕事云々じゃないんだろう。
あいつらとの時間が、ただただ懐かしいだけなのだ。
全て捨てたはずなのに。
名前も家も。
仕事も、しがらみも。
ああ、アーロンをあの世界に触れさせていいのだろうか。
抜けるに抜けられなくなりそうだが、それも彼の意志。
初恋かどうかは知らない。成就するもしないも私には関係ない。
男と女の関係なんてそんなものだ。
まっすぐ向かって行くほど遠ざかる恋もある。
近距離にあっても気が付かないほどの恋が本当の愛かも知れない。
そんなこと正直どうでも良い。
今、恋が成就しようが成就しまいが、数年後にはどうでも良いことになっている。
はずだ。
ただ一生懸命突き進んだものだけが、少しだけ後悔を残さずに人生を過ごせるだけだ。
恋や愛なんて、所詮そんなもの。
剣の道に比べれば、そんなものどうでもいい。
剣の道は簡単だ。
正しいことを正しく練習するだけで強くなれる。
剣の練習が曖昧だと、練習しても結果が曖昧になるだけだ。
正しく練習すれば誰でも強くなれるのだ。
ただ、正しいことを正しくできる者が世の中にどれほどいるのだろうか。
正しく練習できる者は、運が良いだけなのだろうか。
正しい人生を歩める者は、間違いなく運が良い奴だろう。
俺は正しい人生を歩めているのだろうか。
いや、どうでも良いことだ。
少しでも自分のやりたいと思った人生を歩めているのであれば、少しだけでも運が良いのだろう。
ここでアーロンと出会ったことは、この人生にどう影響が出るのだろうか。
よく分からないが、アーロンに剣を教えることは面白い。
読んでいただきありがとうございます。
なるべくたくさんの方々に読んで欲しいと思っています。
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面白かったという方は多めに、面白くなかったという方はそれなりに。
評価がモチベーションになりますし、反省の材料にもなります。
次の作品のためにも、どうかよろしくお願いします。




