表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
12/85

12 土台作り


「面白い」

 窓の外に広がる暗闇を見ながらダンディーは独り言を言った。


 暗闇の中には星の煌めき。

 開かれた窓からは青臭い匂いが入ってくる。


 そもそも暗闇の部屋に見えるものもなければ、見るものもない。

 窓の外の闇には、大空に広がる星以外の光はない。


 今日の稽古を思い浮かべる。


 アーロンは意表を突く、いいタイミングで間合いに入ってきた。

 避け切れるかと思ったが、拳一つ分の距離だけ避け切れなかった。

 分かっているのと実際に剣を交わすのでは、勝手が違う。

 同じタイプの剣士と普段から稽古をしていてこそ、あの一撃は躱せるものであって、そうでもなければ一発くらいはたまに貰ってしまう。


 そう言えば、あの一撃の前にも擦るくらいの振りもあったか。

 あの振りで、アーロンなりに微調整したんだろう。無意識かも知れないが。


 それにしてもしばらくぶりで良い一発(もの)を貰った。

 昔の仲間がこれを知ったら、アーロンは大変なことになっているな。

 次から次に稽古相手が出てきて、立てなくなっても尚相手をさせられる。

 彼らの剣を高める稽古相手として。


 それでも、ようやく最低限の土台作りはできたか。

 この生活をしながらの土台作りと考えると、優秀な方だろう。

 毎日、全日訓練だけならもう少し早く終わったかもしれないが。


 嫌いな肉も、無理して食べている。

 自分のころは、そこまで量がなかったから、なんとか食べていたが、よくあれだけ食べられる。

 私も肉が嫌いだった。

 アーロンの困っている顔を見るのが楽しくて、つい面白がって量を増やしていることは内緒にしよう。



 アーロンをこれからどうするか。

 土台をもっと強固にすれば、州大会に出ようが、良い成績を収めなかろうが、昔の仲間に、このことを伝えるだけで喜んで見習い程度にはするだろう。


 アーロンの気持ちを考えると、私が裏工作的なことをするよりも、自力で勝ち取る方が嬉しいだろう。


 土台さえしっかりと作っておけば、州大会でもそこそこ良い成績を取れるだろうが、クジ運次第では一回戦負けもあり得る。


 それにアーロンは、雑貨屋の娘に良いところを見せたいのだろうから、モチベーションを保つためにも州大会の優勝を餌に練習をきつくするか。

 それなら土台作りをおろそかにせずとも、技術をも並行して教えることができるだろう。多分。


 ただ、村の大会で圧倒的に勝ちすぎれば、練習への必死さは薄れるだろう。

 技術を教えるのは、村の大会後にするしかなさそうだ。

 土台がしっかりできた今では、村の大会程度では負けることは考えられない。

 それどころか、更に土台を大きくすれば、土台だけでも圧勝する可能性すらある。


 土台はしっかり作りたいものの、村の大会で勝った後のことを考えると、短期間であまり強くするのも考えものだな。



 今宵は月が見えないせいか、星がたくさん見える。

 昔の仲間を思い出すときは、無性に月が見たくなる。


 月が見えない。

 アーロンを育て上げて、あいつらに見せるのも面白いだろうな。


 アーロンを見ただけで、私が指導したと分かるだろうか。

 多分分かるだろうな。

 そもそもあいつらを鍛えたのも私だから。


 懐かしい。

 月が見えなくてもあいつらのことが思い浮かぶ。

 それだけ濃い時間を過ごしたあいつらが懐かしい。

 あいつらに会いたい。

 あいつらに会えなくても、アーロンをあいつらに見せたら驚くだろうな。

 驚く顔が見たい。

 想像することしかできないが。


 新しい仕事に打ち込めているかと思えば、昔のことを思い出す。

 今の仕事に就きたくて、馬鹿みたいに恋焦がれていた。

 昔は、この仕事に就くなんて、絶対無理だと思っていた。

 それが実現した今、仕事の楽しさよりも、あいつらのことを思い出す。


 仕事云々じゃないんだろう。

 あいつらとの時間が、ただただ懐かしいだけなのだ。


 全て捨てたはずなのに。

 名前も家も。

 仕事も、しがらみも。



 ああ、アーロンをあの世界に触れさせていいのだろうか。

 抜けるに抜けられなくなりそうだが、それも彼の意志。

 初恋かどうかは知らない。成就するもしないも私には関係ない。


 男と女の関係なんてそんなものだ。

 まっすぐ向かって行くほど遠ざかる恋もある。

 近距離にあっても気が付かないほどの恋が本当の愛かも知れない。


 そんなこと正直どうでも良い。

 今、恋が成就しようが成就しまいが、数年後にはどうでも良いことになっている。

 はずだ。


 ただ一生懸命突き進んだものだけが、少しだけ後悔を残さずに人生を過ごせるだけだ。

 恋や愛なんて、所詮そんなもの。

 剣の道に比べれば、そんなものどうでもいい。


 剣の道は簡単だ。

 正しいことを正しく練習するだけで強くなれる。

 剣の練習が曖昧だと、練習しても結果が曖昧になるだけだ。

 正しく練習すれば誰でも強くなれるのだ。


 ただ、正しいことを正しくできる者が世の中にどれほどいるのだろうか。


 正しく練習できる者は、運が良いだけなのだろうか。

 正しい人生を歩める者は、間違いなく運が良い奴だろう。

 俺は正しい人生を歩めているのだろうか。


 いや、どうでも良いことだ。

 少しでも自分のやりたいと思った人生を歩めているのであれば、少しだけでも運が良いのだろう。


 ここでアーロンと出会ったことは、この人生にどう影響が出るのだろうか。

 よく分からないが、アーロンに剣を教えることは面白い。


読んでいただきありがとうございます。

なるべくたくさんの方々に読んで欲しいと思っています。


続きを読んでみたいと思う方は、一番星を押して下さい。

面白かったという方は多めに、面白くなかったという方はそれなりに。


評価がモチベーションになりますし、反省の材料にもなります。


次の作品のためにも、どうかよろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ