11 初めての一撃
ダンディーが木剣を上段から打つ。俺は正面から受け止める。
俺に受け止められたダンディーは、その木剣を弾かれるようにわざと頭上に上げて、再度上段に構えながら、俺に体当たりをしてきた。
いつものパターンだ。
俺は体に力を入れてダンディーの衝撃に備える。
ほどなく予想通りの衝撃が俺を襲い、一歩だけ後退する。
その後はいつものパターン通りダンディーからの一撃を待つ。
衝撃のため、動きづらくなっている体を無理に動かし、その一撃をガードする。
ダンディーとの稽古時間が増えてきた。
少しだけ稽古についていけるようになった。
体当たりでも少しは倒れなくなった。
足払いも少しは耐えることができる。たまには透かすこともできるようになってきた。
それでも地稽古できる時間は、せいぜい三十分くらいだ。
と言うか、ダンディーは、俺が三十分くらいで倒れるように計算して稽古をつけているのではないのか。
そのくらいで稽古を終わらせないと、自分の調査時間が減るからだろう。
そんなケチなダンディーに嫌がらせするためにも、一分でも長く立っていなくちゃ、と思って根性を出している。
二週間経つ今も、技らしい技は教えて貰っていない。
地稽古でも、ほとんどが決まり切ったような攻撃だけしかしてこない。
それでも、そのパターンを読んでガードするだけで精一杯なのだが。
こんな適当なワンパターンな稽古だけでは、絶対にダニエルに適わないような気がする。
そろそろ技を教えて欲しい。
じゃないと、大会で勝てる気がしない。
「ダンディーさん、少しは技を教えて欲しいんだけど」
俺は不安に耐えかねて言った。
「技も良いけど、まだきちんと振れてないからなぁ。もう少しきちんと振れるようになったら教えようと思っているから」
「でもこのままじゃ、大会で勝てないんじゃないかと思うんですよ」
「大丈夫だ。きちんと振れたら絶対勝てる。安心しろ」
ダンディーは根拠のない約束とスマイルで俺を安心させようとする。
が、その安心ができないんだよ。
そもそも、きちんと振れるってどういうことだ。
曖昧過ぎるだろ。
「きちんと振れるってどういうことですか」
そのきちんと振れる、と言う意味が分からないので聞いてみる。
多分、まっすぐ振れているか否か、ということだと思うけど。
「自分にとって最高の一撃を、いつもでも放つことができるってことかな」
答えすら、更に曖昧になっているじゃないか。
「強いて言えば、素振りと同じ一撃ができるか、普段の素振りで最高の一撃が放てるかってことかな」
続けてダンディーが言った。
素振りで最高の一撃が放てるか。
試合で打つ剣が、素振りと同じレベルで放てるか。
俺の素振りはどうだろう。
地稽古で素振りと同じ感覚で剣を振って来たか。
ダンディーは言った。
正しく振る、美しく振る。
ダンディーの指導を受けてから、それだけを頭に置いて何万回も振ってきた。
その振りを実戦と融合させる必要があるのか。
それがこの短時間で可能になるのか。
振りだけではない。
足法もそうだろう。
同じ間隔で同じ速度で移動し、同じように剣を振ることを、この二週間一生懸命、体に染み込ませてきた。
その振りが最高の一撃を考えていたものだったろうか。
否。
言われたことを黙々とこなしていただけだ。
俺は勝ちたい。
勝って手に入れたいものがある。
あと二週間、死ぬ気で稽古してダニエルに勝つ。
勝てないのなら死んでもいい。
と言うよりも死んだ方がマシな人生だ。
ただ、美しく動くことイコール強くなることとは思えない。
がむしゃらに、泥臭く戦う方が勝利に近いのではないのだろうか。
美しく動くことは自分の動きに制限をつけている感じがして違和感を感じる。
それでもダンディーの言うとおり、美しく動くことを心掛けているのは、ダンディーが強いからだ。
いつ見てもダンディーの動きは美しい。
美しいのに強い。
無駄な動きがないように見える。
その強さが美しさを追求した結果であるのなら、それを目指すしかない。
そもそも、今まで練習していた、村での指導と我流では、ダニエルに勝てなかったのだから。
そんなことを考えていると、ダンディーの動きが素早くなってきた。
打突も強くなってきた。
俺のガードを潜り抜けて、バシバシと防具に当たるようになってきた。
防具を着けていても痛いものは痛い。
(くっそー)
そろそろ三十分。
決めに来ているのが分かる。
今日も簡単に三十分で終わるのか。
一本でもダンディーの剣をかわし、止め、時間を稼ぐ。
いつも思惑通り、三十分で終わってたまるか。
(きちんと振れるだけで勝てるのか? 振るだけで勝てるのか? 本当に? 振らなきゃ勝てないじゃなくて? )
「逃げてるだけで勝てるのか」
ダンディーが俺をあおる。
その一言に俺は反応する。
(今日こそは一本決めてやる)
激しい剣撃をかいくぐり、わずかなスキを探す。
俺が打ち込める空間、時間を必死になって探す。
そんな時に体当たりを食らって倒れる。
倒れた俺に一撃入る。
息が苦しい。
それでもすぐに立ち上がる。
ダンディーを警戒しながら。
倒れた時でも相手を見る。
相手から目を離さず観察するのが基本だ、と言われたことを思い出す。
すぐに立たないと、追撃が来ることになっている。
一秒で一撃、二秒寝転がっていたら二撃。
起きる時に無防備で起き上がると更に追撃か体当たりか、足払いが来ることになっている。
この終盤になって、体力が大きく削られる。
息があがる。
俺はダンディに向かっていく。
足法をきちんと守って。
こんな足法じゃ、ダンディに動きを読まれていることは承知している。
本音では、この足法を崩した方がダンディに勝てるチャンスは増えると思う。
それをしないのは、足法を崩すと途端に足払いが飛んできて簡単に転がされてしまうからだ。
この二週間で、ダンディーの足払いにも耐性が付いたと思っているが、足法を崩した時だけは本気を出されてしまうのか、足法を守らないから、まともに喰らうのか分からないものの、足払いで簡単に転がされてしまう。
リミッターが効いているような足法を守りながらではダンディに勝てない、という想いを感じながら、それでも決められた足法を守り、そして駆使してダンディに立ち向かう。
負けるべくして負けているような感覚で戦っている。
「やあっ! 」
ほとんどやけくそで剣を振る。
当たらないのは分かっている。
それでも、少しでもチャンスがあるのならと思い、隙のような空間目がけて剣を振る。
体が酸素を欲している。
それでも体を無理してでも動かす。
気合を入れ過ぎて、声が出る。
やけくそだが、最高の一撃を放つつもりで振る。
やけくそと言っても、美しく振ることを忘れた訳ではない。ダンディーが見せてくれた振りをイメージしながら、木剣を振る。
肺が焼けるようだ。
カスッ。
わずかにダンディーの体に届いた木剣。
その喜びも一瞬で、防具越しに三発入れられる。
それだけでは終わらず、体当たりが来る。
思いっきり吹き飛ばされるアーロンだったが、自然に受け身を取っていたため、頭を打たずに済んだ。
立てない。が、追撃も来ない。
「これで終わりのようだな」
ダンディーの声が聞こえる。
今、無理して立っても、あと一合で限界を迎えることは充分過ぎるほど体が分かっている。
このまま休んで、次の地稽古まで待った方が、次の地稽古では、少しは体が動くのだろうか。次の地稽古に望みを託すか。
アーロンは、そんな弱気な考えを捨てて起き上がり、カウントを取っているダンディの前に立った。
「もう少しだけアーロンに付き合いますか」
そう言ってダンディーは無造作に木剣を振る。
無造作と言っても、無駄な力を入れずに上段から振ってきている。
その姿勢は美しくもあり、威圧感もある。
アーロンは、とっくに限界が来ている体に血液を送るため、肺に酸素を無理やり入れながら、体を動かす準備をする。
ダンディーの木剣は正確にアーロンを捉えている。
やけくそだ。
どうやっても一合で終わってしまう。
ダンディーの一撃をどうする? 受け止めるか、躱すか。
足法はどうする。受け止めるなら留まるか。後ろに動くか。
躱すなら左右どっちだ。
どうせ終わるなら、予想もつかない方法で負けてみよう。
受け止めても、躱しても、叩かれる未来しか見えない。
それなら、最後の一撃くらい、まともに喰らってみよう。
アーロンは、今までの選択肢になかった前へ進むことを破れかぶれで選択すると同時に、ダンディーの振りに合わせて同じ上段から木剣を振った。
バシッ。
(当たった? )
そう思った瞬間、ダンディーの木剣が複数見えたかと思うと、数発の重い剣撃に吹き飛ばされた。
(ああ、もう立ち上がれない。でも初めて一発入れた)
アーロンは、満足感に浸りながら、しばらくの間、石畳の固さと冷たさを味わおうとしていたが、ダンディーが木剣を構えて振り下ろそうとするのが見えた。
(ちょっと待て)
あの姿勢、振りは、明らかに今よりも重い一撃を放とうとしている。
(殺される! )
体に緊急信号が伝わる。
心臓から、冷たいものが全身に流れ、動かないはずの体が、石畳から背中を離し、木剣から逃げる。
さっきまで立つことができないはずの体で、ダンディーに対して木剣を構えるアーロン。
「よし、一旦終了するか」
アーロンの構えを見て、爽やかに休憩宣言をするダンディーだった。
そして初めての、テンカウント以外の休憩であった。
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