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聖夜とデート(?)と思い出

作者: 月影ましろ

「「「ありがとうございました――」」」

時間は12月。

今日も加賀かが 蒼羽あおばは、バイトを頑張っている。

「それにしても、今日は本当に千客万来だな。」

「みんなは加賀くんが作ったケーキが好きですからねー」

今日のバイト、蒼羽はキッチンでデザート担当。

本来お菓子作り担当だった店長が、隣町で開催する臨時会議により不在だから、デザート作り経験者の蒼羽が担当することになった。

「もう、からかわないでください、先輩。僕が作ったお菓子なんか、店長には足も及ばないですから。」

蒼羽に話しかけるのは、店のウェイトレスで、店長の娘である、神代かみしろ 瑠璃るり

「謙遜し過ぎですよ、加賀くん。加賀くんの作ったデザートが、お父さんが作ったのに比べても遜色しないレベルです。この売上を見ればわかるでしょう。」

蒼羽がカウンターのパソコンを覗いたら、確か今日の営業額の中、デザートの割合が高い。

「確か今日の売りはいいのですが、そもそも今日、客の数が尋常じゃないですから。おかげさまで、休む暇もなくて…」

「ええ、たしかに。おそらくですが、あそこのお二人が原因じゃないかな…」

蒼羽と瑠璃は、カウンターからちょっと離れたところで接客している二人を見る。

「いらっしゃいませ。二名様ですね、席を案内します。」

「ティラミス二つ、オレンジジュースとコーヒーそれぞれ一つですか。かしこまりました、少々お待ち下さい。」

「何を言えばいいのですか…あのお二人は、本当に天才でしたね。」

「ああ、まったくだ。」

慣れた動きで接客しているのは、学園での仲間、風見かざみ さとる朝倉あさくら 美月みづき

今日は店長以外にも、諸事情によりシフトを入れない人も多い。そのことを瑠璃は美月に相談したら、美月は暁を連れて、一日臨時シフトに入るということになった。

「美月は『ウェイトレスは未経験者』と言ったけど、あれはどう見ても未経験者とは思わないのですね。」

「ええ、暁のやつも。財閥の跡継ぎなのに、接客に関してはまるで天才みたい。」

「それに、あのお二人は学園内でも人気者ですからね。今日の客の中、うちの学園生がかつてないほど多い。」

「ああ、本当だな…」

店内を見渡せば、ほとんどの客が私立戸津田学園の制服を着ている。

「きゃーウェイター服の風見さんが接客してるー」

「ウェイトレス姿の朝倉会長、これはこれで…イイ!」

どうやら暁は女の子に、美月は男の子に人気が高いみたい。

「…ま、まあ、先輩。おかげで今日の売りもいいですし、いいじゃないか。」

「え、ええ、そうですね。さて、頑張りましょう、加賀くん。」

「6番テーブル、会計お願いしますー」

「あ、はい、ただいま!それじゃ加賀くん、デザートの方はお願いしますね。」


「ふぅーみんな、お疲れ様でしたー」

瑠璃の一声で、ようやく閉店時間を迎えた蒼羽たち。

「はぁーマジで疲れたー」

暁が脱力したようにカウンターで倒れ込む。

「だらしないですよ、風見くん。仮にも生徒会の役員ですから、示しをつかないと。」

「えぇ、朝倉会長、学園内でもありませんし、少しくらいはいいじゃないですかー」

「はいーお二人ともお疲れ様。売れ残りですが、よかったらケーキをどうぞー」

瑠璃はケーキを乗った皿を暁と美月の前に置く。

「お、ありがとう、神代先輩。もぐもぐ…お、うまいな、これ。確か、今日のデザート担当は蒼羽でしたっけ。」

「もぐもぐ…ええ、確かに美味しいですね。まさか加賀くんは料理だけでなく、お菓子を作るのも上手だなんて。」

「いや、だからお二人様、それは買いかぶり過ぎですよ。」

「そう言ってもさ、この味、普通の人じゃできないものだぞ、蒼羽。」

「ただ母さんに教わっただけですから。」

「それでも、料理作りやお菓子作りに興味がなかったら、教わったとしても、ここまでの味を作れないです。前にご馳走になったオムライスも、なかなかいい出来です。」

「それは…まあ、父さんは、母さんの料理を食べる時、いつも幸せそうですから、つい僕も、そんな風に人を幸せにしたいって…」

(それにしてもオムライス…あれは確か、バレンタインのちょっと前のことだな。もう十ヶ月も経ったのに、まだ覚えているなんて…)

「いい夢じゃないですか。加賀くんはきっと、一流のパティシエになれるのですね。」

「いや、ですから朝倉会長、まだ将来のことは決まっていなくて…」

「まあ、そろそろ考えてもいいじゃないか、蒼羽。店長さんは、蒼羽のことを気に入っているようだが。」

「また何を言っているのですか、風見くん!」

頬を赤める瑠璃。

「はぁ…暁、わかって言ってるのだろう。」

「はいはい、わかってるよ、冗談だから。でも、店長が蒼羽のことを気に入ってるのも本当のことだから、卒業後、パティシエになるのも一つの選択肢じゃない。」

「まあ、考えておこう。」

「それじゃ、今日はここでお開きにしましょう。時間も遅かったですし。」

美月の声で、壁時計に視線を向かう蒼羽と暁。壁時計の指針は、もう八時を指していた。

「おっと、もうこんな時間か。ウチもそろそろ迎えが来るところだったな。」

「では僕もそろそろ帰りますので。」

「おう、また明日、蒼羽。帰り道、気をつけてな。」


それは、12月のなんてことない一日の出来事だった。


翌日――


「おはよう――って、どうした、暁?」

教室に入った蒼羽が見たのは、机の上で伏せている暁の姿だった。

「ああ、蒼羽か…いや、ちょっと、な。」

「もしかして、昨日のこと?」

「いや、アルバイト自体は大したことじゃなかったし、むしろいい経験とも言えるのだろう。ただ、今日は朝から話しかける人が多くて、それも学年問わず、女の子ばっかり。」

「それはご愁傷さま。でもまあ、暁は学園内でも人気者だし、おまけに昨日はウェイター姿も見られたから、こうなってしまうのもしょうがないだろう。」

「まあ、確かに、『ステラ』は味だけではなく、制服のこともかなり評判されているが…まあ、どうせそのうち落ち着くのだろう。ところで蒼羽、来週末はなにか予定ある?」

「来週末って…クリスマスだな。当日はシフトに入る予定だが、どうした?」

「クリスマスもバイトか…人気店って本当に大変だな。」

「暁の方こそ、誰かと出かけたりする予定はないのか?人気者だし、誰を誘っても嬉しく付き合うだろう。」

「そう言われても、気安く他人を誘う人じゃないってのは知ってるだろうな、お前は。」

「まあ、確かに、そんなのは暁らしくないな。で、クリスマスの日、暁はどうする?」

「おそらく親はパーティーを開くだろうが、まあ、俺が出なくてもいいものかも。」

「ふーん。じゃ、店で一杯飲もうか?」

「蒼羽が奢ったら。」

「暁の方が金持ちなのに…まあ、それくらいなら。」

「やったなーそれじゃ、蒼羽、また後で。」

鈴が鳴らした。

「ああ、また後で。」


そして、なんてことない数日間が過ごし――


クリスマス当日。

「うーん…雪が積んでいる。今日はホワイトクリスマスだな。」

アパートの外は、一夜降った雪があちこち積んでいた。

「寒い…そろそろバイトに行こう。」


「おはようございますー」

「いらっしゃい――あら、蒼羽くんじゃない。おはようございます。」

「あれ、あや姉?どうしてここに?」

蒼羽を出迎えるのは、地元の神社の巫女で、瑠璃の従姉、神代かみしろ 彩花あやか

彩花は蒼羽より年上で、小さな頃から蒼羽、暁と瑠璃と一緒に遊ぶ仲で、蒼羽の幼なじみの一人であって、蒼羽にとっては姉のような存在。

「今日はクリスマスだから、神社での用事は少なくて、だからここで手伝うことになったの。あれから元気か、蒼羽くん?」

「はい、お陰様で。あや姉は?」

「いつも通りよ、彼氏もまだないし。どうだ、蒼羽くん?お姉さんと一緒にクリスマスを満喫しましょうか?」

「いや、遠慮しましょう。」

「となれば、もう予定があったのかなー」

「あや姉までからかわないでください。着替えに行きます。」

着替え室に行こうとする蒼羽。

「あ、そう言えば蒼羽くん。賢孝叔父さんからの伝言だが、今日は、蒼羽くんにデザート作りの担当をお願いするね~」

神代かみしろ 賢孝よしたか。それはファミレス『ステラ』の店長で、瑠璃の父の名前であった。

「店長さんと一緒にお菓子を作るのですか…責任重大ですね。それじゃ、着替えに言ってきます。」

「はいーいってらっしゃいー」


クリスマスの原因なのか、もともと人気店である『ステラ』は、今日は大繁盛でした。

「二番テーブル、ガトーショコラ二つ、カプチーノ二つ!」

「八番テーブル、タルトタタン一つ、ティラミス二つ、カフェラテ二つ!」

「はい、ただいま!」

キッチンの方も大忙しかった。

「店長!ベリータルトできました!」

「おう!瑠璃、これを七番テーブルへ!そして彩花、このアップルパイを十三番テーブルへ!」

「「はーい!」」

(客の数がここまでになると、さすがに店長でも対応しきれないだな。もっと頑張らないと…)


数時間後――


「「「ありがとうございました!――」」」

長時間の苦戦の末、店もようやく落ち着くところだった。

「ふぅ…疲れた。」

汗を拭きながらキッチンから出た蒼羽。

「お疲れ様です、蒼羽くん。」

「よう、蒼羽。お疲れさん。」

「あれ、暁に朝倉会長。いらっしゃいませ。」

蒼羽に話しかけるのは、カウンターでコーヒーと紅茶を飲んでいる暁と美月。

「蒼羽、今日もデザート担当だったな。今日のデザートは、客さんの間ではすごく評価されているぞ。」

「そうなのか。店長の作ったお菓子と一緒に店で並ぶのは、未だに不安はあるが。」

「自分の腕にもっと自信を持っていいです、加賀くん。」

「美月ちゃんの言う通りだ、蒼羽くん。そもそも、生半可の腕じゃ、店長としてキッチンで並べるわけがなかろう。」

「あ、お疲れ様です、店長。」

いつの間にか、店長もキッチンから出て、会話に加わった。

「お疲れ様、蒼羽くん。もう店のこともだいぶ落ち着いたから、休憩をとっていいぞ。」

「それじゃ、お言葉に甘えて。」

蒼羽はコーヒーを注ぎ、美月の隣で座る。

「改めまして、お疲れ様です、加賀くん。」

「あ、は、はい。ありがとうございます、朝倉会長。」

(やばい、やはり緊張する…)

ごまかすようにコーヒーを一口飲む蒼羽。

「加賀くん。もしかして、緊張していますか?」

「あ、あの、その…」

「店長さん、ちょっと加賀くんを借りますが、いいですか?」

「あ、朝倉会長!?」

「うん?蒼羽くんを借りる、か。ああ、そういうことか。わかった、美月ちゃん、蒼羽くんのことを好きなだけ借りていいぞ。」

「って、店長まで!?」

「大丈夫だ。蒼羽くんのおかげで、店も落ち着いたし、あとのことは俺たちだけでも対応できるから。そうだ、瑠璃。せっかくだし、お前もクリスマスを満喫しよう。」

「でも、お父さん、まだ閉店時間じゃないのですが、本当にいいですか?」

「彩花たちもいたし、大丈夫だ。それに、瑠璃も本当は誰かと一緒にクリスマスを過ごしたいでしょう。」

「…わかった、お父さん。それじゃ、お言葉に甘えて。」


店の外。


「それじゃ、私たちはあっちに行きますので。」

「はい、瑠璃と風見くんも、また後で。」

店を出たら、瑠璃と暁は違う方向へ向かった。

「やはり、あの二人は…」

二人の後ろ姿を見て、思わずつぶやく蒼羽。

「加賀くんはもう気づいたでしょう。さぁ、行きましょう。」

「はい、先輩。」


クリスマスの街は、いつもよりすごく賑やかな雰囲気だった。

「先輩、手を繋いでもいいですか?こんな人集りじゃ、はぐれやすいですから。」

「はい。」

美月はそっと蒼羽の手を握る。

(誕生日パーティーの時も握ったけど、先輩の手、本当に柔らかくて、温かい…)

「どうした、加賀くん?」

「あ、い、いえ、なんでもないです。」

「自分から手を繋ぐって言いましたのに、変な加賀くんですね。」

「あ、ごめんなさい…」

「大丈夫です、別に責めるわけじゃないですから。さて、加賀くん。せっかくですし、どこに行きましょうか?」

「そうですね…ですが、僕はなんの準備もしていないですので、おそらくウインドウショッピングくらいしかできないのですが…」

「それで構いません。加賀くんと一緒にいられるだけでも充分ですから。」

「先輩…」

「ところでですが、加賀くん、その包みはなんですか?」

美月が指すのは、店から出たから、蒼羽が持っている小包のこと。

「これですか。そうですね…もう少し秘密にしましょう。さぁ、行きましょう、美月先輩。」

「はい。」


クリスマスの街で歩いている二人。

「まだ雪が降っていますね、先輩。」

美月の隣で傘を広げる蒼羽。

「大げさですよ、加賀くん。そんなに大きな雪じゃないのに。」

「それでも寒いですから、もし風邪を引いたら大変じゃないですか。それに…」

「うん?なに?」

「…それに、今のこの時間くらい、先輩のことを、誰にも見られたくないなのも、本音です。」

「独占欲が強いですね、加賀くん。」

「いえ、そういうわけでは…」

「大丈夫、今なら、誰も私たちのことを気づかないですから。」

「それは…」

(確かに、他人から見たら、今の僕たちは、他のカップルとあまり変わらないのだが…)

恥ずかしさを感じ、誤魔化そうとする蒼羽は、あるものを見つかる。

「あ、これ…」

「どうしたのですか、加賀くん?」

あれは、ショップのウインドウで陳列している、一枚の指輪。

「いえ、なんでもないです。」

(あの指輪、きっと美月先輩に似合いますね。でもあの値段じゃ、さすがにバイトだけじゃ厳しいかな…)

「変な加賀くんですね。」

「あ、そう言えば、美月先輩。ちょっと行きたいところがありますが――」


少し後――


「ここでしたか。」

「はい、先輩。クリスマスですから、ここなら人も少ないと思いまして。」

蒼羽と美月が着いた場所は、町からちょっと離れた丘。

芝生に覆われた丘の一番高いところには、一本の大きな桜の木がある。

丘を登った蒼羽と美月は、見晴台にあるベンチで座る。

「いい景色ですね。」

美月の視線の先は、明かりが満ちていた町。上には、満天の星空。

「先輩は、ここに来たことありますか?」

「いいえ、加賀くんも知っているのですが、私は小さな頃、ほとんど自分の部屋から出たことがないです。」

あれは、この前美月の誕生日パーティーの時、蒼羽に告げられたこと。

「加賀くんは、よくここに来ますか?」

「はい。先輩はたぶん知っているのですが、ウチの会社は倒産の危機が迫ることがある。その時、両親は会社存続のためにあちこち忙しくて、僕は暁やあや姉と一緒に遊ぶことも多いですが、一人の時はよくここに来る。父さんの話では、父さんと母さんはここで出会ったらしい。だからなのか、よく父さんにここで連れられることがあります。それ以来、一人の時よくここに来ています。ここは、地元の人でもあまり来たことがないですから、一人で町を眺めて、気持ちも落ち着くになります。」

「確かに、こうして町を眺めるのは、なんだか世界には自分だけが存在している気がしますね。」

「僕もこの感じが大好きです。それに、ここなら、星空もよく見られますから。」

「加賀くんは、星空を見るのは好きですか?」

「母さんの影響なのかな。実は母さんは、天文学者でもあって、小さな頃からよく星や星座のことを教えています。気づいたら、星を眺めるのが好きになりました。」

「いい母親ですね。」

「はい、僕の誇らしい母さんです。」

しばらくして、二人は無言で町と星空を眺める。

「まだ、雪が止んでないですね。」

「はい。雪が降っているのに、星空を見えるのは、本当に不思議ですね。」

「思えば、父さんと母さんも、こういう雪の降った日で出会ったのですね。」

「そうですか。」

「はい。」

また、無言。

こういったクリスマスの過ごし方、他人から見れば変かも知れないが、蒼羽にとって、こういうのは一番心地よい。

町の喧騒から離れて、人気のないこの場所で、好きな人と一緒に静かに過ごす。

それは、蒼羽が選んだクリスマスの過ごし方だった。

(先輩は、どう思うのでしょうか…退屈と思うのかな…)

蒼羽は、隣で置いた小包に手を伸ばす。

「先輩。」

「どうした、加賀くん?」

「これを。」

蒼羽は小包を美月に差し出す。

「これは、加賀くんが持っていた包みですね。私にくれますか?」

「はい、先輩。」

受け取った美月は、包みを開く。

中には、一枚のケーキ。

「これは…ガトーショコラ。」

「先輩、メリークリスマスです。先輩、ガトーショコラが好きですね。」

「覚えていますか、加賀くん。」

「先輩が僕の作ったオムライスを覚えるように、僕も先輩の好みを一応覚えています。」

「ありがとう、加賀くん。それじゃ、いただきます。」

美月はケーキを一口運ぶ。

「もぐもぐ…この味は…加賀くんが作ったのですか。」

「店で並んだものを一枚とった。本当ならちゃんと焼きたいのですが。」

「いいえ、加賀くんの作ったケーキを食べるだけでも、それで嬉しいですから。」

「そうですか、本当に良かったです。」

一口、また一口。

「ふぅ…ごちそうさまでした。」

最後の一口を食べ終わった美月。

「味は、いかがですか。」

「美味しかった。」

「そうですか。」

また、無言で町を眺める二人。

(他人から見たら、きっとおかしいか、歪めた関係とかも思うのかな。)

遊園地の時も、プールの時も、パーティーの時も、そして今も。

蒼羽は、もう美月が自分に対する気持ちを感じたはず。

おそらく、美月の方も。

でも、誰もそれを言わなかった。

ただこうして、二人で肩を並べるだけ。

(でも、それでいいんだ。これこそが、僕たちらしいじゃないですか。)

正式な恋愛関係を確立していない、そもそもこれは恋愛感情である確信も持っていない。

それでも、こうして二人だけで、安らかな一時を過ごせるのは、蒼羽にとっては嬉しいこと。

(先輩は…)

蒼羽の視線は隣の美月に向かう。

「すぅ…すぅ…」

美月は頭を蒼羽の方に預けて、静かに寝息を立てる。

「…まったく、無防備すぎるじゃないですか、先輩は。それに、こんなところで寝たら、風邪が引きますから。」

苦笑いをしてならが、蒼羽は自分のコートを美月に羽織る。

(ずっと保留のままだったが…先輩は、もうすぐ卒業するから、そろそろ、ちゃんと自分の気持ちに向かわないと。)

先輩のためにも、そして自分自身のためにも。


――これは、あるクリスマスの夜で、一人の少年が新たな決意をした話。


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