期待と杞憂
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よろしくお願いします。
アッキとは何か。
ヤカゲは疑問に思わなかった事は一度もない。
俗に言う洗脳教育、英才教育のようなものを施されてきた私達D³sはアッキに関して誰よりも熟知しているつもりだ。
しかし、精神的に…では無いにしても前世の倫理観が脳裏を過っている私には疑問に思う事がいくつもあった。
確証はない。
ただ《白嶷》という施設の教えには偏りがあった。
それも致命的ではく、私が考える仮説がもし真だとすれば《白嶷》に居る大人達が隠した大穴がそこにはあった。
いや、隠す気はないのかもしれないね。
そして今日、カルマの訓練を見る事でそれは確信に変わるのだろうと内心不安になっていた。
6歳の頃、いつものように天童から逃げ回っている際、研究室っぽい部屋に隠れ込んだ時の事だ。
ー
ーー
ーーー
ーーーーー
その部屋に転がっている資料や金属めいた標本。
とにかく色んなものが転がっていた。
そこにはA-CKI、ノア、モノリス…etc、天童や《白嶷》の先生から学んだ事以上の情報が多数存在した。
「……誰だ?」
「わ、わ! ごめんなさい!!」
「む?、その声は、……ヤカゲか?」
「ん? 、あれ? なんだナツ兄かぁ」
「なんだ、とはなんだ?、一体、何をしている? ……ここは私の研究室だ」
どうやらここはナットの研究室だったらしい。
「わぁ…、ナツ兄は相変わらずおっきいねっ!……ねぇ、これ何?」
「おい、話を聞いているのか?」
「いいじゃん、ちょっとくらい! ねぇ!」
深いため息をつきながらも机に広がる資料や機材を見せてくれた。
当時6歳の私には難しくて理解できないものだろうと思ったのだろうか。それとも別の意図もあったのか。
それは定かではないがナットは色んな事を教えてくれた。
前世の私は、学校教育というものを経験する事は結局叶わなかった。
視線の先に入ってきたものだけが私の世界。
ただ只管に、愚直に目を通し、それに縋った。
記憶してはその内容を用いて脳内で妄想を膨らませ、想像する。
何せ、両親が持ってくる物が何なのか、全くわからないからだ。
この本は、この話は、この文字は、この音は…。
今回一度限り。
二度見れないかもしれない。
聴けないのかもしれない。
質疑応答が出来ないのだから。
そう思うと必死に一回で覚えるしかない。
こちらの世界に来てからと言うもの、その癖が残っているらしく、一眼見れば大抵の内容は入ってくるし、内容が欠けていても脳内の情報、知識で補完する事が可能になっていた。
それと同時に、
「ーーーふ〜ん、要するに私達D³sはA-CKIのコアから発生する信号を利用してモノリスを生成する機構を体内に移植された生体兵器ってことなんだね……。それ拒絶反応とかなかったの?、あっ、抗体が既に発見されているとか?、それとも遺伝子操作……。だとすれば268ページ右下23行目の『聖樹』って矛盾してるんじゃ?」
「む?、よく勉強しているな。それはーーーー」
気になった事は聞きまくる悪癖が身についた。
研究室に忍び込んでは、ナットに捕まる。
そして話を聞く。
「ねぇ?、これいつ取るの?」
「……気が向いたらな」
椅子に座るナットの膝の上に乗っては、フルフェイスを両手でペチペチ叩いたり、脚をパタつかせながら話を聞く。
ツンケンした態度を取っていたが、なんだかんだ言って優しいお兄ちゃんなのだ。
好きな話になると止まる事はなく、この状態で2.3時間過ごす事が何度もあった。
理解度に合わせて、私に確認を取り、話を進めてくれる。
質問を丁寧に答えてくれる。
この世界についても色々教えてくれた。
そして、問題を出してくれる。
「ーーーーー何故私達が移植に成功したか解るか?」
「自我が無かったからだよね? 体内の魔素って本人の性格に似るって話だし…」
「ふむ。概ね、正解だ」
「あははっ、やったぁッ!」
ナットは先生に向いているのかもしれない。
そう思った。
無論、前世の私は学校の先生という存在にお世話になった事は一度も無い。
幼稚園は行けなくなった。
だから先生という存在はどういう人を指すのか知らなかった。
私に色々教えてくれるナットはフルフェイスを取る事は一度もなく、どんな表情をしていたのかは今でもわからない。
しかし私にとっては最高の兄であり、きっとナットのような存在を先生というのだろう。
「ナツ兄は、私の先生だね。いつもありがとっ!大好きっ!」
「……ふむ」
その時に得た知識と思い出でいつものように思考を巡らせる。
ーーーーー
ーーー
ーー
ー
(訓練所で戦わされていたアッキは恐らく…)
「ヤカゲ?……始めるぞ」
そんなカルマの声で我に帰る。
私は、一つの疑念を胸に兄が今から行う訓練を見学する。
「うん!、私はここで良い?」
「あぁ そこで良い…。いやもっと下がるか? それとも壁を作るか…寧ろ俺がいっそ、壁に…ーーー」
そんなに危ないのかな。
カルマがぶつぶつ言いながら私の位置を更に下がらせる。
(D³sのモノリスは私の仮説、もとい妄想が正しければ…)
私に研究員達が、魔法を教えてくれなかった理由にも直結しているかもしれない。
期待と不安の両方を抱きながら、心配性の兄の姿を凝視する。
カルマは、両手を軽く開き何かを掴むような動作をしながら、
「ジェミニー、第一上限解放」
その言葉と同時に、両手と心臓部から白く輝く紫電が走る。
さらにカルマの心臓部から服越しに、白い金属質の流体が形状変化させながら両手に留まり銃を形作る。
彼の切り揃えられた綺麗な桃色髪が揺れる。
(あー ほんとファンタジーヘア……。前世にも居たのかな?、ピンク髪)
この場に似合わない、要らない事を考えていると、
「……エネルギー充填、セーフティ解除」
金属性の何かが回転する際に発生するモーター音のような音が耳をつん裂く。
カルマはモノリスの解放と使用に必要な手順を踏んでいた。
「…ねぇ、マー兄」
「なんだ?」
「クー姉もナツ兄も同じ感じなの?」
「ん?、いや全然違う。全くの別物だな。なんというか俺のモノリス、ジェミニーは最も兵器らしい…、奪う事しかできないものだ……」
そんな事ないだろうに。
だって綺麗だし。
彼の表情も自身の言葉を否定したがっていた。
彼の皮肉めいた言動が気になるが、どうやらクリオネやナットが持つモノリスは全く違う物らしい。
確かにクリオネが、天童の腰や肩の治療している際は同じように白く輝く事はあっても紫色に淡く光る事はあってもスパークが走る事もない。
ナットに関しては紫色に発光している部分はあっても流動的に動く金属ではない。
常備装着、発動しているようにも見える。
「ただ『上限』という制限が掛かっているのは皆同じだな」
「……それは聞いたことがあるよ! 確か…、第一、第二、完全解放の三段階だって」
「あぁ、第一上限解放はモノリスの能力だけの解放だ」
カルマが両手に持つモノリスを後ろに控える私に見せる。
「第二上限解放がお話出来るんだっけ? …可愛い?」
「ウザいだけだ…」
「ええ…」
カルマが心底疲れたように言うので、逆に気になる。
ナットに話を聞くと、自我を持つ兵器というワードが脳内に浮かんだ。
兎に角、男の子が好きそうだと思った。
大抵、美少女の自我みたいなのが入ってると勝手に思っている。
偏見だろうか。私は、女の子がいい。
男の子だとちょっと恥ずかしい。
某マスコットと契約して魔法少女になるよりはマシな気もするけど…。そして、
「完全上限解放…って結局何なの?」
「…俺にもわからん」
「そうだよね。なんで教えてくれないんだろ」
「…さぁな」
これだけは謎のまま。
《白嶷》が隠している内容の一つだ。
前世で目を通した「移植手術」に関する同意書に「拒絶反応」に関するリスクについての内容を記憶している。
カルマは、生後数ヶ月の段階で移植された事が予測できる。
免疫力が低い…、育ってないと言った方がいいのかな。
拒絶反応のリスクは低いものの成功率は約34%。
これは前世の話。
一方、こちらの世界で体内の何処かしらに存在するモノリスへの免疫反応に対する処置や理屈は無いと言っていたが…。
そんなは筈ない。
モノリスの移植というのは恐らく、前世の移植手術というよりファンタジー小説に出てくるような物に近いのなのかと思ったが、それなら兄姉は身体の一部を失って生まれたのだろう?
体細胞の殆どがモノリスで構成されているナットは恐らく想像もつかないリスクがあった中、D³sとして生まれ、成長している稀有なケースという事は彼の机に並べられた資料と話から想像がついた。
不思議だね。
まじまじとカルマのモノリスを見ていると、
「……ヤカゲは気が早いな」
「あ、何さ!、今バカにしたでしょ?」
「ふっ」
カルマの言動は最もで、私自身のモノリスはモの字も見えてきていない。
しかし、仮説はどうやら正しいようだった。
「……やっぱり、私達D³sのモノリスって白いんだね」
「ん? ヤカゲどいう意味だ?」
「ううん、何でもないよ! あとマー兄」
「なんだ?」
「さっき言ってたけど、マー兄のモノリスは、私や沢山のーーー」
「ッ?!」
ーーーーーゴゴゴゴゴゴゴゴゴッッ
私の言葉はカルマに届かなかった。
地響きと爆発音が数箇所。
「ーーーヤカゲッ」
「マー兄ッ?」
そのあとの事は、よく覚えていない。
壁が破壊される音に伝えるべき言葉は揉み消され、瓦礫の山で視界が暗転した。
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今日の晩ご飯はぺぺちーです。




