もう一人の兄
17時投稿分です。
「はぁ、これもダメか……。実に不快だ」
ある研究室。
1人の少年は、酷く結果に落胆していた。
『後天的なモノリス移植手術に関する実験結果と展望』という目の前に広がる資料を眺めながら、思考を巡らせる。
「ナット様…、如何でしょうか?」
「…如何も何も、症例が少ないケースで凡例を出す事など出来るわけがないだろう。統計を取るにせよ、母数が圧倒的に足りない。ネガティブデータの応酬だな。……もどかしい」
「で、では、人体実験で試すほかーー」
「ちっ、論外だ…。実に愚行!、本末転倒も良いところだろう!」
「…しかし」
「ーーなら貴様が試すか?」
「そ、それは……」
「ーーふんっ」
彼はわずか9歳にして、対A-CKI汎用型モノリスの発明を成し遂げた天才科学者であり技術者。
名をナット・A・ブバルディア。
頭部と臓器以外を代償に生まれたD³s-No01。
賢者と呼ばれた原初にして最高のD³s。
その能力は、生体以外の合体と解体。
ありとあらゆる物質に対して作用する。
書面上はそう言う扱いにしている。
身体のほぼ全てモノリスで構成されているため、D³sがドールと名付けられた由来を作った存在でもある。
実に、皮肉が効いているではないか。
ナットは、汎用型モノリスの開発に留まらず、この2年間『モノリスを成人に移植する事は可能か』という命題に取り組んでいた。
現状、生後数ヶ月の幼児にしかモノリスの移植は成功していないため、成人でも移植できることはD³sの未来にとって重要だと彼は考えている。
何故、そう思い至ったのか。
『我々のような人間でも、A-CKIでもない存在を生み出してはならない』
我々は大人共の人形ではないのだ。
ナットはそう考えている。
今後生まれてくる生命に、人間に、生活に、A-CKIや人間同士の全面衝突が無くなった後、我々のような存在は不要になると確信している。
居場所を失うのだ。
もともと存在していた居場所をオトナのエゴによって奪われるのだ。
オトナと呼ばれる存在は、何故自分自身は代償を支払わず、我が物顔で我々コドモを扱うのか…。
答えは分かりきっている。
それは誰しもが保身的になるからだ。
生き延びたいのだ。
どんな犠牲を払ってでも。
自身の生存を優先するのだ。
実に、人間らしいではないか。
エゴイズム。ネゴシエーション。
それが当たり前であろう。
保身的な人間こそオトナであり、オトナと呼ばれる存在の本質であり、象徴なのだ。
ならば私は一生、ガキのままで良い。
そんなクレバーな戦いは、ヤカゲが生まれ、笑い、励み、悩み、苦しんでいる様子を見た時からその辺の犬に食わせた。
上層部の命令とは言え、汎用型を作ったのも、現在進行形で行っている研究もヤカゲという奇跡を観測したからだ。
ナットはそう確信している。
思いたいだけかもしれないが。
「ふっ、実に愉快だ」
「急にどうなされましたか?」
「いや、何でもない。アネモネを連れてこい」
「ーーーはっ 承知致しました」
出来うる限り、ヤカゲには天童と共にある程度、知識を付けさせた。《白嶷》という施設が立つこの国の事も、各都市の特徴も…。
彼女なら気付くだろう。
彼は一人。
今後起こりうる何かに抗う為、孤独に戦いを繰り広げるのであった。
ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・
「姉さん、今日のご飯サイコーッ!!私一生これで良いわ」
「ふふっ、クリオネちゃんは相変わらず大袈裟ね」
「ほんと、ご馳走様。アーメン!」
「私で良ければ、貴女が居る日は毎日作ってあげるけど?」
「んーっ!! ジーザス!!姉さん 大好き!」
そんな会話を聞きながら、アネモネが作ったビーフシチューを完食し終えた私と天童とクリオネはリビングで寛いでいた。
カルマはというと「ご馳走様、美味かったよ、姉さん」と言い残し、以前見た私の戦い方を参考にしながら高火力ぶっ放ではなく、より指向性を持たせ急所を突く戦術を開発するとかなんとかで、最近では珍しくワクワクしながら訓練場に向かった。
そんな事できるようになったら私の存在が霞む気もしたけど、お兄ちゃんが頑張ろうとしているのだから笑顔で「気をつけてね」と見送った。
「ヤカゲ。カルマは訓練所に行ったが、お前はどうするんじゃ?」
「テンじぃ…、年端のいかない少女を硝煙が立ち込める場所に赴かせる気分ってどんな気分なの?」
「ほっほっほ、汎用型一撃でアッキを仕留める奴を今更女扱いする方が変じゃろうて。もう儂は、お主の速さに付いていけん」
「ぅ……昔はあんなに優しかったのに、じいちゃんきらーい」
「まだ、戦場に出していないだけ、優しいじゃろうて」
「うわぁ…」
(確かに…)
納得しているあたり、自分自身もこの世界の常識とやらに馴染んできているような気もする。
(普通に、生きたいだけなんだけどなぁ…)
戦える事に生き甲斐を感じ始めたらきっと私が私ではなくなってしまう。
そんな気がしている。
魔法使えるかもとワクワクしていた童心は既に消え失せていた。
「ふふふっ、天童様。そんなに焦る事も無いと思いますよ」
「姉さんの言う通り。お爺様。私の可愛い妹をイジメないでくださいな」
「甘いの〜、小娘2人は。ーーーほれ、見学するだけでも行ってこい。お主自身のモノリスが顕現するヒントがあるやもしれんぞ?」
それは一理あると思った。
本当は別の理由で行きたくないけど、仕方がない。
「ーーー確かに…ッ!、それもそうかも! 行ってくる!」
私自身のモノリスは実戦訓練が始まっても尚、扱う事は出来なかった。
モノリスとやらの感覚すら感じ取れずにいた為、同じD³sとして生まれた兄姉の様子を見ることは参考になるかもしれない。
兄姉は、必要に迫られなければモノリスは答えてくれないと言っていたけど、3人とも何に迫られたのかと尋ねても口を揃えて「秘密」と私の頭を撫でながら誤魔化してくる。
(みんなしてずるいなぁ…)
そう思い、私は汎用型モノリス打刀二式を持ち訓練所へと足を運ぶことにした。
廊下を歩いている最中、黒い服を着込んだ研究員と思しき人物と腰が曲がった研究員を目撃した。
( なんだろう?、お客さんかな? )
そう思いながらも、研究員とはあまり関わりたくなかっため、無視してカルマの後を追った。
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