大好きな家族と2
先を歩くヤカゲを見つめながら、カルマは店の中を物色していた。
ヤカゲに似合うものはあるか。
女の子らしい事って何だろう。
アネモネやクリオネはどんな事を考えていたんだろう。
ヤカゲに当てはまることはあるのだろうか。
シズクはヤカゲの事を呼び捨てするようになった。
迷宮都市での作戦以来、会っていない内に仲良くなってくれた印象。
今度聞いてみるのも良いかもしれないとカルマは考える。
そんな事を考えながら、やはり俺の目は絶えず妹であるヤカゲを追っていた。
「《白嶷》にいる時のカゲちゃんなんて、目も当てられないくらい戦いに必死というか、それしか知らない感じだったのにね」
「ああ、確かにな。……やっと連れて来られた気がする」
クリオネの気持ちは、痛いほどわかる。
「カルマ殿、昔のヤカゲはどんな感じだったのであるか?」
「人よりも何倍も努力して、誰よりも賢く、強くあろうと必死に生きていた子だな。クリオネはどう思った?」
「そうね、誰よりも頑張ってたのは確かだけど、姉さんの事件以来、女の子らしさというかもっと根本的な人間らしさって言うのかな? そう言うのがあんまり感じられなくなった不思議な子よね。良い意味でも悪い意味でも。…ただ、迷宮都市での作戦からちょっとずつだけどそう言う凍った部分が溶けてきてる印象を受けるからちょっと安心」
「そうなのでありますな…。実のところ私は学園の実技訓練で一騎打ちをするまで、ヤカゲの事を何にもわかっていなかったのでありますよ」
そんな感想を述べるシズクが気になり聞き返す。
「どう言う意味だ?」
「何と形容すれば良いのか分からないのでありますが……。軍で仕事をするヤカゲは機械的と言いますか、ただ目の前に起きた異変に対して動く装置のような少し怖い印象を持ってたのでありますよ」
(……装置か)
なるほどとシズクの言葉に納得してしまうカルマ。
アネモネの一件以来、ヤカゲは自分の意思で生きたいよりも家族の居場所を作る事を優先していた気もしている。
ヤカゲは自分を捨て切っているようなそんな気はしていた。
それもあの子が選んで進もうとした道なのだから口を挟むわけにはいかない上、あの時はヤカゲに守られた身。
カルマは、口出しする権利なんか持ち合わせていないと思っていた。
実際に口を挟む機会は、全員違う場所で己が身一つで戦い、成長するという決断によって失われてしまっていた。
それが間違っていたとは一切思っていないのは今でも変わらない。
そして《夜爾》が編成された後、彼女に再会した時には見た目の大人っぽさや内面的な成長に感激したが、その反面機械っぽさも極まっており、作戦を熟す兵器というのを体現したような存在へと昇華していた。
実際に悪鬼共をコア以外無傷で倒す離れ技を見せる彼女の功績は大きく、《方舟》からの信頼と期待も厚い。
《方舟》に所属する職員からもヤカゲに対する評価は高く、良い噂が後を絶たなかった。
その噂とは裏腹に彼女に対する畏怖や崇拝するような人間も出てくる始末。
再会してから彼女の口からはアネモネの一件以降の出来事に関する言及は一切無い。
彼女が発する言葉はいつも表面を取り繕うだけで、俺達の為に妹を演じてるという印象を受けていたのがカルマの正直な感想。
一体何を経験すればあのような強さになるのか一切謎だった。
作戦中の指令や指示、隊長に対する意見を出す彼女は軍人そのもの。
しかし、それ以外の経験がないのだ。
戦う事以外全ての経験が。
そして《白嶷》に自身を否定され続け、生きる事と俺達の居場所を作る事が出来ればそれで良いという価値観だけが残り、戦場出ては悪鬼を狩り続け、彼女を賞賛する声は全てニュクスの秘密兵器としてのヤカゲ。
ニュクスの影としての夜影だ。
彼女は内心、それを受け入れていたのだろう。
自身と俺達を守る為に。
《方舟》があまり《夜爾》の面々に口出しをして来ないのは、ヤカゲの存在が大きい。
一見、無感情に悪鬼を狩り尽くすし、余計な口出しはせず、軍に奉仕しているようにも見えるのだから。
アイデンティティの一切を放棄したのだ。
無我の境地。
そんな言葉があるそうだ。
ヤカゲの自我は、何もない空間で自分がポツンとただ独り。
自身を俯瞰し続け、常にその境地に入って戦い続けていたような状態。
そんな状態に戦闘なった瞬間入り込む。
カルマは童子が刀を振るう際、空間と一体化するような印象を受けていたが、ヤカゲは、まるで空間が彼女を知覚出来ていないような印象を受けている。
それは強かろう。
常に極限の集中状態に入り、生きる為の手段を模索し続けられるのだから。
凄いと思ったのと同時に切なくなった。
ヤカゲは頭が切れるところでは切れる。
俺達が知らない事を沢山知っている。
器用な女の子だ。
だから気づかれにくいのだろう。
知識はあるが、使い方が分からず、初めて経験する事には恐怖し、戸惑いを隠せていない事に。
「ーーマ殿!」
今、目の前で楽しそうに燥ぐ女の子なヤカゲ。
たった1人の妹にそこに至るまでしないと生きていけないと思わせた自分が情けなかった。
「カルマ殿!」
「?!、ーーーどうした?」
「カルマ殿こそ、急に考え込むからびっくりしたでありますよ。カルマ殿の悪い癖であります。めっ であります」
「……悪い」
「あら、素直に謝るなんて珍しいじゃない」
「うるさい」
どうやら随分と表情で悟られるくらい考え込んでいた事に気づかれてしまったようだ。
それにしても、
「シズク、お前はよく人の事を見ているな」
「はて?、そうでありますか?」
「あぁ、それによく見えているからヤカゲはシズクに心を開いたのかもしれないぞ」
「確かにそうよね。……カゲちゃんが私達以外に人懐っこいところを見せるなんて珍しいもの」
「あははっ、そうだと良いでありますな!」
「学園でのヤカゲは宜しく頼むぞ、シズク」
「…承知したでありますよ!」
「私からもお願いするわ、変な羽虫が付かないようにね。うふふ…」
クリオネの笑顔の定義に目元は含まれないのだろうか。
目が笑っていない。
「クリオネ殿の心配はご最も…。実際、ヤカゲは少々天然タラシの気質があります故、実は私も、つい先日やられかけたのでありますよ。あれはクラっときたであります……」
「ん!?、ちょっと、シズク!それ詳しく!!」
「実はこういうことがーーーー」
シズクの口から語られたのは、流石の俺でもうわっ と思うような事だった。
シズクの振るう刀をずっと側で見ていたい。
それはヤカゲにとって、友達になりたいと言う意味になるらしい。
それを聞いたクリオネは雷に撃たれたかのように絶句し、シズクの肩をブンブン揺さぶったかと思うと、魂が抜けたかのように項垂れていた。
全く忙しいやつだ。
しかし、一番最初にできた同い年の友達が、同じ刀を扱う女の子。
言葉ではなく刀を通して心を通わせるというのは、あまりにも女の子らしくなくて少し笑ってしまう。
そうか。
あの子の周りには常に歳上しかいない環境で、そのうち一番懐いていたアネモネが今の状態になってしまっては、誰にも心中は話せなくなるのは必然かと何処か腑に落ちた自分がいた。
(……気づいてやれなくてごめんな。ヤカゲ)
「ねぇ、いつまでそうしてるのさ〜?、やっぱり僕帰る…」
「ごめんごめん、カゲちゃん!、シズクから学園での様子を聞いてたのよ!」
「うぇ、何喋ったのさ、シズク……」
「内緒であります」
「ふっ 、カゲ。2人は放っておいて服見に行くぞ。レディースでもメンズライクに着れるものは沢山ある」
「えへへ、ほんと?、マー兄… 大好き」
クリオネとシズクには申し訳ないが、今回ばかりは妹との時間をもらう事にするぞ。
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