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最も愛される魔法

 今日の午前中は、初の実技演習。


 先生はいつものようにシリウス先生が担当するようだ。


「魔法師がなぜ、剣を振るうかわかる奴はいるか?」


 と無機質な声で生徒に問う。


 そしていつものように挙手をする生徒が1人も現れず、シリウス先生が生徒を指名するのが鉄板の流れとなっている。


 だいたい当てられる生徒は、カルメア、ヴィンセント、そして何故かジノにもよく当たる。


「ジノ、答えてみーー」「わかりません!!」


 若干被せ気味に答えるジノの返答を予期していたのか、シリウスは手を下ろしたまま予備動作が一切ない《クリュサオルの飛剣》をジノの首元目掛けて放つ。


「《アレースの小盾》!」ーーーガキン


 金属が衝突し合うような音を残し、実技演習場の上空へと輝く剣は飛んでいった。


「っぶねぇ、殺す気っすかまじで」


 いつもの教室なら笑いが起きていたが、今回は何も起きず静まり返っていた。


 シリウスが放った魔法に対しての対応が、完璧だった事に驚いている様子だったが先生がいよいよ容赦なく攻撃してきたかという恐ろしさが勝っているような印象だった。


「なかなか良い反応だ。 では、カゲロウ。答えてみろ」


 ジノをそっちのけに私に質問を振ってきた。


「はい、学術系魔法の殆どが剣を模倣しており、魔法の発動には明確なイメージを抱かなければなりません。中でも《ヘルメースの速剣》は魔法師が近接戦に持ち込まれた際、最も使用される魔法です。その間合いは近接戦を得意とする騎士、あるいは奉仕生物と戦闘する際、剣の間合いを知っておく必要があります。故に、剣の戦闘訓練は魔法を扱う上で最も実践的であり、合理的だと私は考えます」


「ふむ、完璧だ。座れ。 ジノお前は立ってろ」


「えぇぇ?!」


 どうやら正解のようだ。


 クスクスと生徒が笑う中、シリウス先生が話を続ける。


「カゲロウが言ったように《ヘルメースの速剣》は魔法師の近接戦に置いて命綱だ。また、探索者、魔法師、そして前世紀の軍人共に最も愛された魔法と呼ばれるほどの基本的な魔法だ。できれば、ーーーーこのように敵から悟られず名前の発声なしで発動できるのが好ましいが、ここまでは求めない。そして、」


 魔法を無詠唱で発動した事に動揺を隠せないが、その反応すらどうでも良いかのようにシリウス先生は、言い放つ。


「ーーー魔法とは手段であり、それそのものは目的ではない。ーーーーそれを理解し、肝に銘じておけ。良いな」


(目的では無く、手段か……、確かにそうかも)


 今回学園に来たのは、魔法の習得という学業に専念する事では無く、あくまでターゲットとの接触を目的としていたので、魔法を取り敢えず使えるようになれば良いやと楽観的に考えていた。


 小さい頃に使いたいと漠然と思っていた魔法。


 使用する目的を見据えなければ、使いこなすのは愚か、発動自体難しいのかもしれない。


「さて、貴様らはそれぞれ入学前に剣を揃えろと通達があったと思うが準備はできているだろうな?」


 生徒全員が持っている事を確認し、事前に組んだペアで模擬戦を行う事となった。


 殆どの生徒は、中等部の卒業生のため実剣による戦闘訓練は既に受けているらしく、いきなり模擬戦でも問題はないらしい。


 ルールは簡単。


 魔法の使用は一切禁止。


 戦闘は全て実剣で行う。


 どちらか一方が戦闘不能、あるいは降参を認めれば勝敗が決定する。


 というものだった。


 それぞれのペアで準備体操を終え、合計10ペアの模擬戦を五十音で若い準備から行なっていくようだ。


「今日もあいつ来てないのか?」


「まぁ、研究目的で入ってきたって言ってたし、良いんじゃない?、お陰で誰もあぶれてないし」


「確かに」


 誰かが休んでいるようで、確かに教室の席は一つ空いていたような気もする。


 少し気になったので、カルメアに聞いてみる事にした。


「ねぇ、カルメアさん」


「カゲ様どうされました?、はっ?!もしや!、私とペアを!?、いけませんわ…、いけませんこよっ!そんな淫らなッ!」


「いや、違うけど。 ……誰か今日休んでるの?」


 小指を立てた状態で口元に手を当てるオーバーなリアクションは冗談だったらしく、途端に冷静になるカルメアは


「ええ、今日というより学校が始まってからずっと居ませんわ。彼女は」


「ふーん、聞いていのか知らないけど、何かあったのかな?」


「いえ、そんな事はございませんわ。ーーー研究室でずっと籠っているそうで、授業には参加しませんの。聞いたところによると盲目ながらも10歳の時点で学術系魔法は全て会得してるそうですの。ほんと、凄いですわよね」


「……それは、凄いなぁ。確かにそれなら授業ってつまらないものって感じちゃうのかも…?」


 どうやら今日休んでいる子の存在は転入してきた私達以外全員そういう認識らしく特に問題はないそうだ。


 私としては授業が受けられる身であるにも関わらず、受けていないのは勿体無いと感じてしまう。


 前世の私は受けたくても受けられなかったのに。


 友達が欲しくても出来なかったのに。


 そういう黒い気持ちが顔を出しそうになる。


 しかし、一つ気がかりな事がある。


(それにしても、もう盲目かぁ…、前世と私と逆だなぁ)


 身体が動かないが、目は見えていた前世の私。


 身体が動くが、目は見えていない話題の子。


 私にも私にしか理解できない価値観がある。


 その子にも他人には理解されない価値観があるのだと思うと、先程抱いてしまった黒い感情が薄れるのが分かるし、失礼だと思い直す。


(…話、聞いてみたいなぁ。迷惑かもだけど)


「次、カルメア、ロロアーナ来い」


 シリウスの声が聞こえ、思考が切られる。


「あら、私ですわ。それではカゲ様、行ってまいります」


「うん、頑張って!ーーーーぁ、名前聞けなかったな」


 研究室に篭っている子の名前を聞きそびれてしまったが、機会は幾らでもあるのだ。


 追々にしよう。


 カルメアはロロアーナと共に実践訓練場中央の闘技上へと足を運ぶのを見守る。


 何やらカルメアとロロアーナなバチバチ言い合っているようにも見えたが、仲良さげで何より。


 シリウス先生が両者を確認し、「始め」の一言で戦闘を開始する。


「今日という日をどれほど待ち侘びたかしら。ーーー跪けば、首に輪をつけてペットにして差し上げても宜しくてよ」


「へぇ、奇遇じゃん。私もよ。そのウザったらしい髪、切り刻んで首に巻き付けてあげるわ!」


 全然、仲良くないのである。


 剣呑な雰囲気を漂わせる2人の攻防は、ロロアーナが振るう剣から始まった。


「ハァーッ!!」


「甘いですわ!」


 上段の構えから綺麗に振り下ろされる剣をカルメアは独特のステップで交わし、中段で構える細い剣をとてつもない速度で突き立てる。


「そっちこそっ!!」


「ーーークッ?!」


 ロロアーナは瞬時に切り返し、カルメアの刺突を剣の腹部分で薙ぎ払う。


「おぉ、凄いね」


「カルメアさんの使ってる細剣、あれレイピアって言うらしいぞ〜」


 友達から聞いたのかジノがわざわざ教えに来てくれた。


「あの刺突、連続されると面倒くさそうだね」


「んまぁ、そうだな。 魔法なしだと」


 確かに実戦を考えると、《アレースの大楯》で対処されるのは容易に想像がつく。


 盾持ち相手にはどのような切り返しをするのか見てみたいなととも思う。


 彼女の性格なら盾とか貫通させてしまうのだろうか。


 カルメアは、距離を取るため後方にステップを踏むも、ロロアーナがそれを許さない。


「ーーここっ!」


「ーーーッ!!」


 下段から切り上げられた剣が前髪を掠めるも、カルメアは後ろにのけ反ったまま、体の柔らかさを生かした滑らかなバク転で距離を取った。


「ーーーちっ」


「…あぶねぇですわ」


 あ、あぶねぇ?ですわ…と言葉遣いに疑問は残るが先程回避のために行ったバク転は見事なものだった。


 距離を取ったカルメアは、左右にステップを踏みながら確実に、されど欲張らず脇腹や、首筋を的確に狙い攻撃を繰り返す。


「ほらほら、どうされまして?」


「くっ!ーーーるっさいわね!」


 ロロアーナは、自身の間合いを作るため上段から剣を振り下ろそうとしたその時、


 ーーーーガキィィン


 と剣同士がぶつかり合い共鳴した際に鳴る甲高い音が鳴り響いた。


 そして数秒後、空中へ舞い上がった剣が地面へと突き刺さる。


「チェックメイト、ーーーですわ」


「くそっ、負けたぁああ」


「ふむ。勝者、カルメア。なかなか良い剣だ、励め」


 珍しくシリウス先生が褒め称えていた。


 それもそのはず、カルメアが行った技術が素晴らしいものだったからだ。


 所謂、パリィという盾や剣で相手の得物を弾き返すという高等技術。


 盾によるパリィはロイスやジノで目撃した事はあったが、剣で剣を弾くというのは初めて見た光景だった。


「ーーすげぇですわ」


「ジノ、口調…」


「ん、わざとな」


「知ってる」


 闘技場からカルメアは私の顔を見るや否や、ニコッと満面の笑みを見せ、手を振ってくれたので私も振り返す。


「ロロアーナ、距離を取りたいのであれば、上段片手持ちではなく下段両手持ちの斬り上げしろ。貴様は筋は良い。励め」


 ロロアーナは悔しそうな雰囲気をしていたが、シリウスのフォローが入り、気を取り直していた。また、何処か、やり切ったような清々しい表情をしていた。


 2人が闘技場から降りてきた際、カルメアが私に駆け寄ってくれたので、先程の攻防について声をかける。


「さっきの凄かったね!」


「うふふ、大した事ありませんわ。あのような小手先の技術くらいしか私には出来ませんの」


「ううん、そんな事ないよ。あれは相手の間合いや剣の太刀筋、リズム…。何よりパターンどれも把握しないとできないと思うんだ」


 その言葉を聞き、少し驚くカルメアは微笑み、


「ロロアーナさんは、中等部からの知り合い…というより幼馴染ですわ。あの子の振う剣と魔法は私が一番理解してましてよ」


「なるほどね、それでも凄いと思うな」


「うふふ、そろそろカゲ様の番でしてよ。頑張ってくださいまし」


 カルメアは恐らく、ロロアーナの振るう剣や魔法が大好きなんだろう。


 そしてロロアーナも同じ感情を持っているのだと私は思う。


 模擬戦前の憎まれ口の叩き合いは、仲が良いからこそ生まれる関係なのかもしれないと悟る。


 同性ながらも少し、そのような関係に憧れてしまう自分がいた。


「次。ーーーカゲロウ、シズク、来い」


 シリウス先生の無機質な声を聞き、私は闘技場へと赴く。


 横を歩くシズクは何処か緊張しているように見えた。


(……怯えてる?)


 いや違う。何かもっと別の何か。


 私にはわからなかったけど、こんな状態じゃ、全力のシズクを見れないと思った。


 一度、本気で同い年の女の子とぶつかり合ってみたい。


 普通の女の子ならこんな事思わないんだろうなと思いながら少し可笑しくてクスッと笑ってしまう。


 でも私は友達の作り方なんて知らない。


 前世は病院のベッドで独り。


 今まで軍で育ち、家族には恵まれたが、同い年の子が居なかった。


 贅沢な願望なのかもしれない。


 あくまで任務中。


 そんな事を考えるべきではない事も理解している。


 しかし、私は同い年で同性のお友達が欲しいんだ。


 前世で叶わなかった夢。


 どんな時でも一緒に居てくれる親友を。


 そう思い、私は闘技場へ足を運んだ。

いつもお読みいただきありがとうございます。


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これからもよろしくお願いします。

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