学園の様式美
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クラウン・サーチェス・チェネンシス。
かつて藤原童子と肩を並べ、戦場を駆け抜け、数多くの悪鬼と人間と戦ってきた戦友である。
現在は軍を抜け、水上都市ティアネコッタに存在するエクスマキナート魔法師学園の理事長を務める準一級魔法師。
童子には戦術的思考で少し及ばなかったものの、戦略的思考では童子の父親である天童と遜色ない実力を持つとされていた。
そんな彼は理事長室に入ってきた一人の学生と今年から編入する三人の生徒についてお話をしていた。
「クラウン、転入生?」
「貴女は耳が早いですね。昔の友人が面倒を見てる子達ですから良い子だと思いますよ。気になりますか?」
「強い?」
「フフフ、そうですね。余り生徒には教えてはいけないお約束なのですが、貴女なら問題ないでしょう。友人の義理の兄弟、カゲロウさんは魔法こそ今は使えませんが、非常に優秀だと聞き及んでいますよ」
クラウンは転入してくる生徒が彼女達がD³sであり、1人は性別を偽っていると言うことは伏せつつ、生徒の質問に答える。
しかし、今目の前にいる生徒にはあまり意味の無いように思えるが、友人からの言い付けを形式的には守る。
「楽しみ?」
「フフフ、貴女はどうなんです?」
「わからない?」
「言ってはなんですが、貴女は不思議ですね。私にわざわざ時間を割いて聞きに来るくらいですから、少しは興味があるんじゃないですか?」
「そうなの?」
「ええ、そうですとも」
「そう」
「ええ、何なら挨拶しますか?」
「別にいい」
それだけを言い残し、彼女は理事長室を後にする。
クラウンの目の前から去っていった女子生徒は編入してくる三人の生徒と同じ学年、同じクラス。
「フフフ、一体何の偶然なんでしょうね」
しかし、彼女は研究を目的にこの学園に入り、授業には全くもって出席していないと担任からのお話を伺っている。
「彼女は、お友達欲しく無いんでしょうか…?、いいモノだと思いますけど」
放課後の静けさと下校中の生徒の談笑が生むコントラストは、学生時代にしか感じる事ができない情景だ。
まるで机上の片隅に淹れている紅茶のような柔らかな夕空。
その温かな日差しは今日も一日、お疲れ様と、そう告げてくれる。
それは非常に美しいものだとクラウンは思う。
しかし、友人が必要ないという価値観は決して否定してはならないとも考えていた。
その価値観もまた尊く、学生らしい。
友人というのは、決して有意義な時間だけを提供してくれる存在では無い。
必ず、苦しみ、悩む時間も提供してくれる存在なのだ。
それもまた、人間の情緒を育む上で重要な要素でもあるのだが、恐らくその価値観の押し付けが、現代に生きる子供達にはウザったらしく感じるのだろう。
他人を他人と割り切ってしまう方が生きやすいと感じる人間は必ず存在する。
独りの時間を楽しみ、有意義に過ごす手段は幾らでもあるのだから。
クラウンもまた独りを好む人間だった。
かつての仲間を思い浮かべながら、資料をペラペラと頁をめくり、学生だった頃のことを思い出す。
童子とは学生の時からの付き合いだが、彼の事は全く理解できなかった。
遅刻は常習犯。
早く来たと思えば制服を着ていない。
授業はサボる。
居ると思えば教科書は忘れる。
机に向かって別の事をしている。
そして寝る。
魔法を使って教員に悪戯を働く。
女子生徒にちょっかいをかける。
先輩と喧嘩を繰り返しては、顔は傷だらけ。
虐められていた生徒を見つけては、犯人を捕まえ懲らしめる。
同じクラスの生徒が困っていれば、すかさず手を差し伸べる。
勝手に視界に入る。
聞いても無いのに話しかけてくる。
食べているもの好きだからと勝手に奪う。
近くに来ては肩を組む。
そして気づいたら隣にいた。
「フフフ、よくよく考えれば可笑しな人でしたね」
久々に会って話をしてみたい。
理解し合わなくて良いのが友人である。
クラウンはこう考えている。
机に広がる書類に目を通す。
「おっと、私としたことが…、全く頭に入っていませんね」
ティーセットに入れられた紅茶は既に冷めており、淹れ直すのも少し煩わしく感じた。
その煩わしさすらも今のクラウンに取っては愛おしく思う。
時間の流れとは斯くも尊く、愁を感じさせるものなのかと。
「フフフ、随分と歳を取ったような気がしますよ。これから青春を謳歌する子達に取って学生時代というのは必ずステキなものにしなければなりませんね」
今年も優秀な生徒を迎え入れる事ができたと満足げな笑みを浮かべ、学園の行事について思案する。
先程入ってきた女子生徒は、転入生について関心を持っているようにも思えるが、有益かどうかの判断基準が「強い?」の一言に全てが現れていた。
それだけでは少し、物足りないでしょうに。
有意義な時間を温かく頂ける内に頂くに越した事はない。
学生時代というのはそういうものだ。
「童子くんは、何を考えているんでしょう。彼もまた枢機…、いや破天荒な人生を送っていますし、この学園に何かあるんでしょうか?」
あるんでしょうね。
預けられた三人もまた、学園にいる子達と同じようにその歳でしか見えないものを童子は教えたいのだろう。
名目上、任務とはなっているもののそれだけではないとクラウンは無粋な事を考える。
余計なお世話かもしれませんが、
「それが教師であり、友人というものですから」
クラウンは椅子から立ち上がり、紅茶を淹れ直す準備をするのであった。
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