家族水入らず
「やはり、そうじゃったか…」
「んまぁ、何がともあれ、カルト集団の動向は今後も追った方がいいのは明白だな」
「そうですね。テンじぃ、ロイスさんの件だけど…」
「分かっておるわい。ーーーー今回の重要人物な上に、私情を挟んでミスを招いたが一度は国の目を盗んで、悪鬼の密輸を独力で管理しよった切れ者じゃ。目の届くところに置いておくのが得策じゃろうて」
「よかったな、ヤカゲ」
「うん!」
ヤカゲと童子は天童考案の迷宮調査と《方舟》司令部の作戦を終え、一度天童もとへ帰還した後、ロイスをノトスから秘密裏に運び出し、楽園都市ガーデンに建設された孤児院の別室で調査報告をしてきた。
孤児院は白主体のゴシック調建築なのだが、別室には派手すぎないステンドグラスにローズマリーの花が描かれており、そこから差し込む光が幻想的に見える。
備え付けられたソファーや、木製チェアのクッション部分は全てダークグリーンの革で統一されており、暖炉を挟んだ部屋の奥にはグランドピアノが置いてある。
これは全て、アネモネの趣味。
《白嶷》が殺風景だからという理由で、天童に文句を付けていた事をこの部屋に入るたびに思い出す。
いつでも帰ってきて良いように。
そんな願いが込められている印象を受ける。
孤児院は童子と天童が作った施設であり、あらゆる研究機関との結びつきがなく、《方舟》の息が全く掛かっていない数少ない施設。
《ネフィリムの厄災》によって楽園都市には悪評が付き纏うと思われた中、《方舟》の関係者である童子や天童が孤児院を建設する事を許してくれた国王は一体どんな人なのだろうか。
そして、国王とのパイプを持つ天童と童子は何者なのだろうかと疑問に思う事はあるが、今までお世話になっている人を詮索するのは良く無いと思い詳しくは聞いていない。
出資は童子と天童で間に合っているらしく、子供達には何不自由なく生活を送る事が出来ている様子。
従業員は、昔天童や童子さんに助けられた人達が挙って集まってきてくれた有志達だそうだ。
ロイスは一度、孤児院の施設員として住み込みで働いてもらう予定だ。
クリオネやカルマは、シズクとジノと共に孤児院の子供達に、奉仕生物の肉をこれでもかと言うほど使った料理を配給していた。
ちなみに作ったのは私。
ゲテモノではなく、しっかり見た目にもこだわった料理を提供したので問題はない筈。
「問題は、軍への作戦報告ですよね…」
「そうだなぁ、ヤカゲはどう考えてんだ?」
「……あまり、こう言う事は言うべきではないんでしょうけど、やはり司令部の人達は何かを隠しているとしか思えなくてーーー」
「ほっほっほ、取り繕わなくて良い。ワシも息子も気持ちは同じじゃろうて」
天童と童子さんは、うんうんといつもの優しい表情を向けてくれていた。
それに安堵する私は話を続ける。
「多分ですけど、《白夜の帳》と呼ばれる教団はニュクスの軍内部の人間も加担してるのかなって」
「ーーふむ、やはりそう思うかの」
「やっぱ、オヤジも気づいてたのな…。 なんで作戦前に言ってくれなかったのよ?」
「お主はまだまだ鈍いの〜、作戦の本筋を考案したのは軍司令部の人間。作戦の通達も勿論司令部じゃ。誰に、いつ、どこで話を聞かれておるかわからん。それならいっそ書面にも言葉にも残さない状態で向かわせた方が安全じゃろ?」
「現場の判断に委ねたわけな。てかヤカゲは何のきっかけで気付いたのよ?」
「軍からの情報とロイスさんの人柄と目的が食い違っていた事と教団が襲撃してきたタイミングでしょうか?、そもそも迷宮に悪鬼を連れ込めてる時点で怪しいですし…」
「まぁ、そうなるよな。それは俺も同じだ」
どうやら、童子も同じ事を考えていたようだった。
「だとすれば、ロイスを生かしておく理由は何だったんだ? 《方舟》はロイスの抹殺も含めて考えていると仮定すれば、この後向かう作戦においても支障が出るような気がするが?」
童子の疑問はもっとも現実的な気はするが、私自身にも考えはある。受け売りだけど。
「ロイスさんの暗殺だけなら10人も向かわせる必要はないでしょうし、わざわざノトスを危機に陥れるだけの理由で、悪鬼の密輸に関与したりしないと思うんです…」
「軍も別の目的で動いているという訳じゃな?」
天童の返答に頷く。
「別の目的ね…。十中八九モノリス絡み。人体実験だな」
童子からロイスとの戦闘後、《夜爾》が集合した際に聞いた話だが、童子やカルマとシズクのところにも悪鬼化をするような奴らと戦ったそうだ。
理由は不明だが、カルマとシズクには内緒にしてほしいとクリオネやジノにも伝えていた。いずれ支障が出る気もするが、杞憂だろうか。
何れにせよ、国の方針として人体実験は、《ネフィヒムの厄災》以来、《方舟》が猛反対を見せるも全面禁止となっている。
そうなれば事故を装いつつ実験を繰り返す他ならない。
巻き込まれる側としては溜まったものではないが。
実際、第二世代型D³sが生まれている。
余り突っ込まない方が良いと思いのD³sになった経緯については聞いていない。
「ん?、でもそれだとロイスを生かしておいた理由には程遠いぞ?」
「ーーー司令部は、ロイスさんが生き残っていると何かしらの不都合があるんですよね?、ロイスさんは密輸だけ関与してましたが、他の誰かが密猟と実験をしていますし、その足取りを追ってみたい」
「ほっほっほ、儂好みの回答じゃわい」
「ロイスの存命をきっかけに何かしらの綻びと尻尾が見つかる…。そう言うことか?」
「はい。あと…、これはただのエゴですけど娘さんに会って欲しかったんです」
建前として、ロイスの存命をきっかけに《方舟》の実態と暗躍する《白夜の帳》に関する情報に探りを入れる事を理由にしているが、正直な理由はロイスさんには生きて娘さんと幸せになってほしい。
私の前世と同じような結末になって欲しくないという気持ちの方が強い。
クリオネに相談して建前の理由は考えて貰っていた。
私情を挟むのは忍びないが、嘘を吐く方がより嫌だったから口走ってしまった。
クリオネには申し訳ない事をしてしまった。
後で謝ろう。それにロイスと娘さんが再会する事が良い事だと証明して欲しい。私達もいずれアネモネを起こす事に対して前向きに考えていきたいから。
「ほっほっほ、そっちが本音じゃな?、その優しく面倒見の良いところはアネモネに似たの」
「ーーー全くだな。あの寝坊助にも早く見せたいもんだわ」
どうやら育ての親とその息子にはバレバレだったようだ。
「ーーーごめんなさい」
「娘の我儘に付き合うのが親の勤めじゃて。軍への報告は儂に任せぇ」
「オヤジの言う通りだぞー。まぁ俺もロイスの事は嫌いじゃないし、寧ろ好感を覚える人間だしな。妹の願望くらい叶えてやるさ」
私は生まれ変わってから、ここ最近に至るまでそれなりに人と関わってきた。
転生後の親の顔は全くと言って知らないが、拾ってくれたのが天童で、頼れる兄や姉に囲まれて本当に幸せだと思う。
確かに血は繋がって居ないが、こういう家族の形もあって良い筈。
他人に家族ごっこだの、そもそもお前は人間じゃないだの言われようと私がこの人達と家族で居たいとそう思える事が何よりも大切な事だ。
この人達もそう思ってくれるかな?
カルマやクリオネ、ナット、そしてアネモネ。
幼少期からお世話になってきた人の顔を思い浮かべながら感傷に浸っていると、コンコンと扉をノックする音が聞こえた。
天童が「入って良いぞ」と声をかけると
「カゲちゃん!、料理無くなっちゃった!」
「お代わり作れるか?、コイツらが」
「ヤカゲ殿!、私にも頼むであります!」
「お前が食べんのかよ。俺にも作ってくれ」
「ねぇ、カゲ姉が料理作ったんでしょ!」
「すごく美味しいよ!」「お代わり!!」
クリオネ達が子供達を引き連れて続々と入ってきた。
「随分と騒がしいの〜、どれ儂も子供達の顔を見るとするかの」
「おいおい、ガキ共まだ食べれんの?、てかミクリヤ、お前デカくなったな!、ジノ!お前は働け!」
「なんで、俺だけなんすか?!」
一気に賑やかになった光景を目の当たりにして先程の感傷は何処かに吹き飛んでいた。
何を悩んでいたのだろうと可笑しくなってつい笑ってしまう。
「あはは、そうだよー、お姉さんが頑張るからちょっと待っててねーっ!、 クー姉、マー兄手伝ってくれる?」
「エプロン姿のカゲちゃん……ニュフフ」
「ああ」
「私も手伝うであります!」
「シズクは、さっき皿割ったところだろうが!、やめとけ、子供の相手すんぞ」
「うぇ、ジノ…それは言わない約束であります…」
私達はそれぞれ子供達を両手で手を繋ぎながら孤児院の中庭の方へと向かう。
私が大切って思えれば今はそれで良いもんね。
そして私に与えられたものを今度は、皆んなに返していくのだ。
迷宮都市での作戦で、経験した出来事は今後も考え続けなければならない事だと認識した。
ロイスという存在は、自身がした選択によって道を少し外れて失敗しかけた存在だ。そして私にも酷く似ていた。
自身が選択した事によって生まれる影響は、周りにも波及する。それを少し失念していたようにも思える。
過去私が選択した事も、今後していく選択していく事も全て自分に良くも悪くも返ってくる。また、周りにも影響が出てしまっているのだろう。
カルマやクリオネは私の事をどう思っているのかな?
独り善がりで済む事も在れば、済まなかった事もあったかもしれない。
8年間がむしゃらに生きたいとだけ願った私は、今後周りの事を考えて生きよう。
改めてそう思った。
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