朧げな影と月
毎日12時と17時に更新!!
よろしくお願いします。
黒ローブの2人は焦っていた。
見た事もない攻撃で仲間を一瞬にして3人も撃ち抜かれ、感知魔法が使えるデルタ、防御魔法特化の通信機の持ちのガンマとイプシロンを的確に狙った攻撃だった。
建物に影を潜め、相手が諦めてくれる事を必死に願うしかなかった。
「くそッ!、何だあれは!」
「なぁ、あの光って…、噂で聞いた事があるんだが…」
「ど、どうした?、知ってんのか?」
「多分だけどよ…。あれはニュクスのD³sかもしれねぇ…」
「冗談だろ?、ニュクスの軍が正式に迷宮都市にくるのは先の話だぞ!」
「身内に嵌められたかもな……」
「なんだってんだよ!!ちくしょうっ……!!」
現在ニュクスの悪鬼討伐用特殊部隊を指揮しているのは、かつて戦場を刀一本で走り抜けたという藤原天童。
数多くの悪鬼を狩り続けた彼は悪鬼と戦う以前、人同士の戦争にも大きく貢献した。
最前線で戦いながらも全体を把握し、戦局を操る智略の鬼。
部隊を迷宮区に派遣し、奉仕生物の調査を行う旨が、各都市に通達された時点で詰んでいたと言う事になる。
黒ローブの二人は、自身の命を諦めるしかないそう思った。
「なぁ、どうせ死ぬならよ……」
黒ローブの一人アルファは、ポケットから禍々しく光る漆黒の塊を取り出した。
その表情を見たベータは動揺するも、アルファの顔は狂気で顔が引き攣っていたものの、目は本気だと語っていた。
「仕方がないか…」 ーーーチーカチーー
「ーーー見つけたぞ」
「大人しく投降するでありますよ!」
黒ローブの2人に警告するのは、銃を構えた青年と、刀を構えた少女。
そして霞んで見えるもう1人の姿。
もう1人の姿ははっきりしないが、青年と少女はどちらも10代にしか見えなかった。
「はぁ、ほんと狂ってるよな…。うちの娘っ子と殆ど変わらねぇじゃねーか」
「それだけ世界が狂ってるって事だな」
「もし、D³sのモノリスを持ち帰れば、主人も喜んでくれるだろうぜ……。家族にも金が行く」
「ははは、そうだな」
2人は手に持つ塊に自身を喰わせながら叫ぶ。
「「《白夜の帳》に叡智ある世界を!!!」」
黒い物体から禍々しい触手が、ローブの男たちの身体を這いずり回る。
痛みにもがき苦しむも、カルマとシズクを見つめる目は、恨むでなく、どこか寂しげな表情をしていた。
モノリス、いや悪鬼に飲み込まれた2人は、大きく膨れ上がり、お互いを捕食し合う。
そして、
ーーーーググギギギイルルル
「なっ?!」 「ーー!!」
《ヘルメースの速剣》を両手で構えながら、勢いよく、2人の脇腹を切り裂いていく1匹の異形の黒い化け物へと姿を変えた。
ーーーーーーー
ーーーーー
ーーー
ーー
ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・
「童子隊長、黒ローブの2人が…、融合?…、とりあえず悪鬼化しました。それと《白夜の帳》という名前に聞き覚えは?」
『ーーなんだ、それ。とりあえずってなんだ?、……まぁ、いいか。その名前はさっきロイスから聞いた。詳しくは知らんが、ロクでも無さそうなのは確かだな。とりあえず直ぐに向かう。それまで出来るだけ待機。いいな?』
陽動のために放ったシズクの影写と呼ばれるダミーは、それなりに戦闘力もあり並の悪鬼なら対峙できるらしいが、先程出現した化け物に一瞬にして刈り取られた。
油断した。
もし生身で向かっていたら死んでいたかもしれない。
カルマは息を呑む。
「了解」
迷宮都市、ネオンが輝く夜の都市に佇む黒い影は、その光を遮り、吸収しているかのようなそんな静かな禍々しさを放っていた。
「隊長殿は、なんと?」
「待機、だそうだ。 できると思うか?」
「あははっ、無理でありますな!」
2人は何故、そう思ったか。理由は単純。
あの異形の化け物は、各地に置いたシズクの試験管を破壊して捕食し続けており、確実にモノリスを狙って動いていた。
つまりモノリスを内包するD³sも対象という事だとカルマは察した。
「できるだけ距離を取りながら戦うぞ」
「承知したであります」
「ジェミニー、我慢しなくていいありったけ込めろ」
『OK、マスター』
カルマは、ジェミニーに出来うる限りのエネルギーを収束させた。
接近してくるであろう異形は感知魔法が全く使えないカルマでも、その存在は目視で確認できる。
大きさにして5m程だろうか?、両手には魔法を常に構え、建物を破壊しながら一直線に走ってくるのが見える。
「エネルギー充填、セーフティ解除」
「『穿て』」
避ける気がないなら良いだろう。
正面からブチ当ててやる。
巨大なエネルギーを確認したのか異形は、頭上に魔法陣を出現させ、その場に留まった。
放たれた魔法は《アレースの大楯》が合計4つ。
直列に並べられた大楯は、ジェミニーが放った極大のレーザー砲を受け止める。
キリキリと金属同士が擦れ合うような耳をつん裂く音は、100m以上離れていても耳に届いた。
「砕けろ!!」
大楯が、一枚、二枚と砕けていくが、残り一枚。
砕く事が出来ずエネルギーが縮れるように消えた。
「…ちっ」
『意外と硬いね〜、でもこれ以上込めると被害が大きくなるよ?』
ありったけ込めろとは言ったがジェミニーの言う通り、これ以上やると周りの被害が大きい。
自然とジェミニーはその辺りを調節してくれる事に内心、カルマは胸を撫で下ろす。
「カルマ殿、私も戦うであります」
「?、…危険だ! シズクは近接戦。距離を取って隊長が戻るまでーーー」
「わかるでありますが、カルマ殿は中、遠距離戦の方が得意であります。ならカルマ殿に近づけぬよう私が直接叩くでありますよ」
非常に理にかなった要望だったが、不確定の要素が多すぎる。
「ーー忘れたでありますか?」
「何をだ?」
「私が初任務、大型と一人で戦っていた事であります」
この状況で、笑顔を向けてくるシズクという少女は本当に肝が据わっているとカルマは思わざるを得なかった。
確かにあの時、彼女が一個人であの大型の悪鬼を切り刻み、葬ったのかきになるところ。
「ーーわかった。しかし」
「後ろから援護してくれると心強いのでありますよ!、何分、私は斬るくらいしか能が無い故!」
一瞬ためらったが、「了解」とだけシズクに伝える。
どうやら一人で突っ込んで独りで戦う訳では無さそうだ。
「では、行って参るのでありますよ!、カルマ殿はいつでも撃てる準備をしていて欲しいのであります」
と言いの残し、接近する異形に対峙する。
その時、シズクの顔つきが変わった気がした。
いつもの優しい表情ではなく、そこに立つのは一人の武人。
「さぁ、行くでありますよ!!、ウカノミタマ!」
『うむ、承知した』
汎用型モノリス打刀二式を構え、モノリスの名を呼ぶ。
打刀二式が、ウカノミタマの能力によってシズクの手元から白く染め上げ、純白の太刀へと変化した。
さらに彼女の周りを囲うように4つ、朧げに光る紫色の焔が現れ、シズクが持つ太刀と酷似した物へと形が変化していった。
ーーーギギギグギギガガ
「ーーまずは一太刀であります!、朧月!!」
唸りながら接近してくる異形に対峙するシズクは、浮遊する太刀を全て放つ。
その太刀筋は只々、真っ直ぐに上段で払う。シズクには迷いが無かった。
異形の悪鬼は、透かさず《アレースの大楯》を構え受け止めてようとしたが、盾をすり抜け頭部を穿つ。シズクが放った剣撃は防御不能の技だった。
ーー!グゥギギィ?!
盾で受け止められると油断したのか、4本全て真っ正面から切り裂かれる。
異形は大勢を立て直し、距離を取った。しかしシズクはその行動を読んでいた。
「甘いでありますな。 ーーー影月」
距離を取った先に出現したもう4本。
朧月に似た不可視の刀が放たれ、背中を切り裂いていくが、悪鬼の動きは止まらない。
顎を大きく開けエネルギーを収束し、一気に解き放つ極光。
肺に響くような怒号を響かせながら放たれた破壊の光は、シズクを目掛けて突き進む。
避けるのは、ほぼ不可能なタイミング。誰もが間に合わないと思あるタイミングだったが、カルマは冷静だった。
シズクの姿が霧散し、極光は彼方へと消え去る。
「一度見せたでありますよ。……忘れたでありますか?、カルマ殿!!」
影写によって姿を偽り、シズクの本体が何処からともなく現れ、カルマの隣に降り立つ。
「ーーーよくやった」
カルマはこの瞬間を逃さなかった。
忘れる筈がない。過去に見た光景を。
極光を放った後のクールタイムという名の硬直を。
「ジェミニー、ーーーやれ」
『シズクちゃんも可愛いね!』
「『砕けろ』」
異形の悪鬼の頭部を目掛け、カルマとジェミニーが放つ最大火力。
硬直した悪鬼は、避ける術も防ぐ術も使うことなく、飛翔する極大のエネルギーを受け入れる。
ーーーグギュギギギ
甲殻が溶け、肉を露にしても異形は、地面に爪を立て身体を襲う波動に抵抗する。
「しぶといでありますな」
「ーーーちっ」
異形は、唸り声を上げるも表面がブクブクと泡立つように膨れ上がり再生し始めていた。
もう一度エネルギーを充填し、再度ジェミニーに砲撃指示を出そうとしたその時、
ーーーグギュ
と声にならない悲鳴をあげ、空間に溶けてゆくように異形の姿が消え始めた。
「……は?」
「一体どういう事でありますか…?」
何者かの介入によってカルマとシズクは、先程まで何と戦っていたのか、数分前からの記憶が頭から抜け落ちて行くのであった。
いつもお読みいただきありがとうございます。
ブクマ&評価&いいねもありがとうございました。
「面白い」「続きが気になる」「更新頑張れ」と思われた方ブックマークと評価の☆☆☆☆☆を押して頂けるとすごく嬉しいです。
これからもよろしくお願いします。




