一匹いたら三匹以上は居るアレ
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中央都市に物資調達を行った際に、カルマとシズクはロイスと接触した黒ローブの男の動向を追って良いか童子に確認を取っていた。
『めんどくせぇ事になりそうだから追うのは後日。目的と規模が一切分からん。深追いは厳禁。……カルトくせぇし、情報不足。そういうのは皆で考えんのよ。その方が合理的かつ安全。お前は1人じゃない事を忘れんな。ただやる気だけは百点な〜』
隊長の意見も一理あるとカルマは思い、黒ローブの追跡を断念。
物資調達を終えた後《夜爾》の隊員全員で手元にある仕掛けた盗聴器と監視カメラ映像を調べると、ロイスに接触した黒ローブの男と同様の服を着た集団が迷宮都市に点在する民間の研究所や調剤薬品を扱う店へ向かう様子が判明し、映っているだけでも人数は5名。
『くぅうう こういうのはゴキブリなんだわな。1匹いたら何とやら……。めんどくせぇなー タバコ吸ってくる』
童子は少々過激かつ辛辣な事を言っていたが後日に回して正解だったのは間違いない。
そして、ヤカゲ達の迷宮入り当日。カルマとシズクは迷宮区近くに佇む廃墟に身を潜め、偵察任務に就いていた。
「シズク、奴らの様子はどうだ?」
「何やら、迷宮区入り口付近に5人ほど、集まってきたのでありますよ。入る様子も会話する様子も今のところないであります」
「よし、そのまま監視を続けろ。動きが有れば言ってくれ」
「承知したであります」
カルマは、シズクのモノリス、ウカノミタマは第一上限解放時、自身の血液を媒介に意識を投影する事ができるのは以前把握したが具体的にどの距離まで可能か等の詳細は理解していなかった。童子に確認を取ると「え、おま 知らんかったの? まじで?」と爆笑された。
煽り方が非常に腹立たしいものだったが「カルマは身内以外の事に関心を持て」と珍しく真面目に言われ、反論の余地も無ければ全くもってその通りだとカルマは反省した。
結果から言うと、血液5mlの試験管から半径200mの範囲なら可能。
また、試験管とシズクが離れても良い距離が400m。
つまりシズク自身から半径600mは能力圏内と言える。
シズクと試験管が離れても良い距離はある程度血液の量で比例するそうだが、量を増やしても試験管からの見える範囲は変わらない。
また、短時間で血液を抜き過ぎると臓器に十分に血液が行き渡らず出血性ショックと呼ばれる症状が出てしまうリスクが伴うという事もあり、それなら小分けにしてしまう方が利便性が高いので5mlが最適解と言える。
量を指示したののも童子らしい。
また自身を中心に意識を飛ばしても現在可能な範囲は約半径200mだそうだ。
それでも十分過ぎるとカルマは思う。
「カルマ殿……」
「ーーなんだ?」
「お腹すいたであります。ヤカゲ殿のシチュー食べたいのでありますよ」
通信機からヤカゲ達が迷宮区内で休憩中の音が聞こえるらしく、映像こそ見えないがシチューを食べており、クリオネやロイスが絶賛している様子が聞こえてきていた。
「ーーーー」
カルマもヤカゲが作った料理は食べた事がない事を思い出し、クリオネは良いとして、ジノや隊長、ましてやロイスに先を越された事に苛立ちを覚えるが、
「…これで我慢しろ」
「うへぇ、この固形は飽きたでありますよ……」
カルマは、高カロリー保存食をポケットから出した。
シズクにそれを渡すと心底嫌そうな顔をしたが任務中という事もあり渋々、スティック状の固形を食べながらモノリスの能力を行使していた。
第一上限解放で負担は少ないとは言え、モノリスを行使するにはそれなりに体力が必要。
カルマがジェミニーを使う際、第一上限なら2時間、第二上限ならその半分しか維持できない。
しかし、シズクは血液入りの試験管を複数使用しながら約3時間ほどモノリスの能力を行使出来ている。
(……休ませた方がいいか )
カルマはシズクに声を掛ける。
「シズク。一度交代するか?、この距離ならスコープでも十分追える」
「いや、大丈夫でありますよ!、私には現状これくらいしかできないであります。黒ローブの会話は、スコープだと難しいでありますからな……。カルマ殿はもし戦闘になった際の温存をして欲しいのでありますよ!」
「……そうか」
シズクの人隣は献身的そのもの。
この忍耐力は並大抵のものではない。
一体何が有ればここまでの精神力が身につくのか、カルマは少し気になった。
それにスコープ越しでは無理ではなく、難しいと言ってくれるあたり細かい気遣いを感じる。
「……今度同じような任務が有れば、携帯食料は少し変えるか」
「あはは、そうでありますな! もう少し甘いのがいいでありますよ」
「…俺は甘いのは苦手だ」
「えぇ〜」
「ふっ」
二人は気が合い始め、トラッシュトークも増えてきたが、どうやら食に関しては全く合わないようだった。
数分後、シズクはいつもの笑顔から突然表情を変え、声を顰めてカルマに告げる。
「……カルマ殿」
「なんだ?」
「落ち着いて聞いてほしいであります。 私達から約500m先、8時の方向。黒ローブを着込んだ5名が近づいてきてるであります」
「何? 迷宮前の奴らと合流か?」
「どうやら、迷宮前の黒ローブと合流する雰囲気ではないでありますよ。明確に私達を狙って探しにきてるであります」
「ふっ、 ゴキブリか……」
カルマはボソッと童子が言っていた事は当たっていたと心底嫌な気持ちになったと同時に、今回作戦のパートナーがシズクで良かったと思った。
「感知魔法が使える人が1人いるでありますな。先行する4人の後方に着いてきてる奴が使っているであります。……会話から察するに幸い私達の明確な位置はバレて居ないでありますよ」
「了解、50m毎に距離を教えてくれ」
「承知したであります。迷宮前の黒ローブはどうするでありますか?」
「迷宮に入るようなら隊長に報告。現状分かってるのは数だけだ。ヤカゲ達になんとかして貰うしかない」
「そうでありますな。残り450」
シズクに童子に連絡を取ってもらい、カルマは、ジェミニーを起こす。
「ジェミニー 第二上限解放、仕事だ」
『はいよ、マスター。今回も僕モドキ使うの〜?』
「確実に感知魔法が使えるやつを仕留める」
『えー、たまには僕も使ってよ』
「スコープを拒絶するからそうなる」
『僕のビジュアルにスコープは美学に反するよ』
相変わらずの減らず口だが、確実に仕留めるために自分に似た性能の物体にエネルギーを込めさせて貰えているだけ、我儘に付き合ってくれる優しい子だとカルマは気持ちを改める。
「ジェミニー、この1発が終わったら好きなだけ暴れさせてやる」
『へぇ…、今日のマスターなんだか優しいね!、好きだよそう言うところ』
「うるさい」
「距離、残り400。ーーー結構早いであるな…」
「了解、エネルギー充填、セーフティ解除」
仕留めるなら感知魔法が使える1人。
ヤカゲが使う感知魔法が異常な距離なだけで通常の魔法師なら詳細な位置を割り出せる距離は広くて100mかそこらと言うのはアネモネが昔に言っていた。
カルマはその言葉を信じるとして、残りの4人の中でもし使える奴がいると少々厄介だが、現状その1人を撃ち抜くのが最適だと判断した。
「シズク、感知魔法が使える1人を200m付近で仕留める」
「承知したでありますよ!、ーーーー残り350、迷宮区側が動き出したであります。どうやら中に入るようでありますね」
目的がはっきりしていないが、迷宮区に何かあると見て間違いない。
それをヤカゲ達と黒ローブが接触する前に報告として上げたいところ。
数十秒に満たない情報戦だが、多少でも優位性を確保したいカルマはシズクに指示を出す。
「5分間だけ、残り250m付近から通信障害用の機器を起動させろ」
「良いのでありますか?」
「構わない……迷宮区に入った奴らを呼び戻される方が面倒だ」
「承知したであります。残り300、ーー280、260、」
シズクは、通信機の電波障害を起こす機械を起動しながらカウントを続ける。
「ジェミニー、周りの建物に影響を出さない程度で、真ん中1人を仕留められるか?」
(できれば、残り1.2人仕留めて、情報を吐かせたいところだが…)
『あはは、誰に言ってんのさ』
「ふっ、行くぞ、ジェミニー」
『はいよ、マスター。ぶち抜くぜー!』
「ーーー230ーー220ーー210、200であります!」
シズクのカウントを聞きながら、カルマはスコープを覗き、ライフルの照準を合わせ、5人組みの丁度真ん中のゴキブリを狙う。
「『貫け!』」
迷わず、飛んだ先の目標へ。
あとは勝手にジェミニーが当ててくれる。
カルマはそう確信した。
「シズク!、着弾するまで確認を頼むぞ!」
「承知したであります!!」
ー
ーー
ーーー
ーーーーー
「くそ、俺達を監視してた奴らが迷宮前に潜んでるはずだって言ったのは誰だよ、クソが」
「全然見つかんねぇーぞ!!、本当にこの方角であってんだよな?」
「ああ、間違いねぇって」
「A班にも確認取っておくか?」
「あぁ、そうだな」
黒ローブの5人組みB班は、今回の標的に接触した際に監視しようとしてきた連中が確実に今回も来ると上からの指示があり、迷宮区の入り口から8時方向250m付近まで建物の天井を全力で走りながらぼやいていた。
「通信が、効かねえ…」
「おいっ! どう言う事だ?!」
「デルタ!、感知魔法は?!」
ーーーーパ、ヒューーーー
「待ってろ、今確kーーー」
「な?!、どうiーーー」
「これ シnーーー」
一瞬何が起きたのかが分からなかった前方を走る2人は、振り返った瞬間、いきなり3人の上半身が光に包まれ消し飛んだようなように見えた。
「な?!」
「一体、何が?」
2人は光が飛んできた方向から射線を切るように建物の影に身を潜めた。
ーーーーー
ーーー
ーー
ー
「ーーカルマ殿、着弾は確認したのであるが……」
「ジェミニー」
『うはははは、こっちのがいいんでしょ?』
カルマとシズクが見たのは、最前を走る2人の間を素通りし、後方からついてくる1人と、その手前の2人を線で結ぶような三角形を描く閃光だった。
ジェミニーは、感知魔法が使える黒ローブを含めた3人を纏めて撃ち抜き、上半身を蒸発させていた。
『あれ、僕なんか不味かったかな?』
「……いや、上出来だ」
「す、凄いであります!!」
『にゃははは!! そうでしょ!、僕って凄いんだよ!』
いつも無邪気に遊ぶ様に見えていた蠱惑的なモノリスは、主人の意思を尊重し最適な結果を出した。
カルマは、確かに凄いと褒めてやりたいところだが、まだ2人残っており、どちらか片方だけでも生捕にして情報を吐かす必要がある。
「シズク、ジャミングの必要が無くなった。一度、隊長に連絡を取る」
「承知したであります!!」
黒ローブの生き残り2人は直ぐに出てきそうにない為、カルマは通信機電波障害用の機械の停止を確認し、童子に連絡を取る。
「5人の黒ローブと戦闘になった。いや、俺が先んじて打った。その内、感知魔法が使える奴を含め3人は処理したが、相手がどう出てくるかはまだ不明だ。どうすればいい?」
『え?、まじで? ぁあ、良くやったと言いたいとこだが…。 犯罪集団が最終的にどういう行動に出るか教えてなかったな』
「どう言う事です?」
『大抵、追い込まれた後の方がめんどくせぇって相場が決まってる。狂気に当てられた奴らは大抵何しでかすか分からん。……シズクには第二上限まで解放しておくように伝えろ。モノリスの能力を使ってダミーを作れと言えば、分かる筈だ。後はカルマ、判断は任せるぞ。わからんかったら聞け』
「了解。迷宮区に向かった5人の件は済まない…」
童子は「はぁ」とため息を吐きながら言葉を続ける。
『んだそれ、心配するな〜。俺がいる限りは誰も死なせんよ。お前は目の前の問題にだけ集中しとけ!、戦闘が終わったらもう一度報告なぁ、んじゃまぁ、頑張ってくれ〜』
部下が正体不明の集団と戦闘していると言うのに相変わらず緊張感の無いラフな隊長だなとカルマはゲンナリするが、緊張が解れてきた自分に気づく。
(……相変わらず凄い人だ)
「シズク、第二上限まで解放しろと隊長からの指示だ。ダミー?が作れると聞いたが」
「ダミー?、あっ 影写でありますな!、承知したであります」
カルマの言葉を聞いて理解したのか、シズクは両手を広げて自身の血、モノリスに呼びかける。
「ーー第二上限解放。ウカノミタマ、頼むであります!」
シズクの透き通った黒い目の虹彩が、紫色に変化し、体内から朧げに光り揺らめく白い炎のような物体が現れた。
『呼んだか、小娘。……して何用だ?』
「いつもお世話になっているでありますな!、影写を私とカルマ殿の分を作ってこの建物に配置して欲しいでありますよ!、なにぶん時間がないので、早急に頼むであります!」
『うむ。承知した。おい、カルマと言ったか。近う参れ』
ウカノミタマの厳格そうな声色が響く。
カルマは「わかった」と短く返事をし、白い炎へと近づくと、
『ほう、主の魂はなかなか面妖であるな』
「どう言う意味だ?」
『にゃはは、シズクちゃんのモノリスは厳格そうなクセして、プライベートに首を突っ込むタイプなのかい? ……モテないよ?』
『む?、ーーーカルマ殿、済まぬ』
意外と素直だなとカルマは思ったが、今はそれどころではない。
「構わない、続けろ」
『承知』
ウカノミタマは自身の光を3つに分け、その内二つが、俺とシズクと瓜二つの形を形成し始めた。
「なるほど、だからダミーか」
シズクが言っていた影写は自分自身のドッペルゲンガーのようなものを作り出す能力。
陽動や情報捜索にかなり実用的なものだ。
(こんな能力もあるのか… )
カルマは今更ながらにモノリスと言うものの面妖さに関心を持った。シズクのモノリスがあれば相手の出方を探れると思案し、作戦を練る。
「影写で様子を見るでありますか?」
「いや、こちらから仕掛ける」
『ぎゃはは、そうこなくっちゃね!ーーーいい顔してるよ、マスター』
カルマとシズクは謎の集団との本格的な戦闘準備に取り掛かるのであった。
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