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兄姉

 2年が過ぎ、私ヤカゲは7歳になりました。


 天童にあの刀を渡されてから以来、本格的にここは異世界なんだなと痛感するイベントが後を立たない。


『ーーーNo.04、1分後、戦闘を開始してください』


「……了解」


 そんなアナウンスと共に私は目を開き、眼前に佇む白い異形との戦いに明け暮れていた。


 No.04というのは、私がD³s(ドールズ)の4番目に製造された個体だからそうだ。


 いつもなら「ヤガゲちゃん」やら「ヤカゲ様」と呼んでくれるスタッフ達も、私の親代わりであり、祖父代わりの天童が居ない現場では名前で呼ばれず、製造番号で呼ばれる。


 あからさま過ぎて、一掃清々しさすら感じるね。


 なんでも私は欠陥品だそうだ。


 知ってたよ。


 身体能力が高いだけ。


 頭も中途半端。皆100点だよ?おかしい…。


 4歳くらいの時から陰ながらそう言われ続けていた。


 でも、あまり気にしないようにしてる。


 身体が自由に動く。


 呼吸ができる。


 会話ができる。


 生きている。


 人間として当たり前だった事を矜持できる新たな人生。


 兵器だろうが、なんだろうが、自分自身が人間らしく振る舞う事ができていればそれ以外は然程どうでもよかった。


 身体を動かすのが楽しい。


 肌で感じる刺激が心地良い。


 目で物を追うのは興味深い。


 お姉ちゃんが可愛い。これ大事!


 人間らしく生きているという事がここまで尊い事なのかとこちらに来てから感動する事が多い。


 普遍的な事を自身の幸せと捉える事ができる。


 女の子らしく生きたいとは思う。


 だが、そうも言ってられない気がしてきている。


 何故なら、他者から人間らしく扱われないからだ。


 寂しいね。


 他のD³s達は各々の特性や個性のあるモノリスが体内から生成されており、戦闘能力や軍事的生産性は比較的高く、それ相応の扱いを受けている。


 人間らしく扱ってもらっている。


 私はまだ、まともな服すら着ていない。


 白い布切れのような物にとりあえず首と手が出るように穴を開けたようなそんな服。


 実験体らしい扱いだね。


 そもそも(ドール)とは何か。


 それは、Deviate(ディビエイト)-Dominion(ドミニオン)-Doll(ドール)の略。


 アッキを殲滅するために作られた体内にモノリスを内包する新世代の生体兵器。


 男の子が聞いたら泣いて喜ぶ横文字の応酬だね。


 そんな事を考えるくらいには、目の前にいる化け物と対峙する余裕はある。


 最初こそ恐怖で足が竦んだり、怪我をしたりと危なっかしさはあった。


 しかし最近では、全く問題がない。


 寧ろこのアッキという異形に同情さえしている。


 対話さえできれば。


 意思さえ通わせる事ができれば。


 そう思う事がある。


 この子達は目の前に対峙する人間に暴力を振るうだけの存在になっている。


 もし仮に心を持って居るのだとしたら?


 この子達は一体どんな風に私の事を思っているんだろう。


 前世の私。


 寝たきりで意思疎通が図れなかった私のようにさぞ苦しいだろう。


 せめて安らかに眠れるように。


 苦しまないように。


 そう考えてしまう。


 しかし研究員は見ている。


 私に「心」は要らない。


 そう言われているような気がする。


『開始』


「……グルルッ」


 唸り声と共に化け物が飛びかかってくる。


 斜め横方向に踏み込みながら、私の約3倍ほどの大きさがある化け物の首を目掛けて刀状のモノリスを振り上げる。


 ーーーガキンッ


 金属同士がぶつかり合うような音が、真っ白の部屋に鳴り響く。


「ッて、カッチカチだね!、何これ、君カルシウム取りすぎじゃないの!?」


『No.04…。 戦闘中です。私語を慎みなさい』


「あはは、ごめんね…」


 そんな軽口を叩きながら、武器の跳ね返りで体勢が崩れそうになるのを持ち前の身体能力で立て直す。


(…さっきのは踏み込みが浅かったかな、そもそも面で攻撃しすぎたかな)


 先程の動きを脳内でシミュレーションしつつ、次の動きを修正。


 最適解を模索する。


(……硬度は前回戦ったアッキより高めだから、点で仕留める方が良さそうかな)


 相手は4足歩行で動きは直線且つ単調だ。


 まるでプログラムされたかのような動きしかできないため、3次元で立体的に動く相手が苦手というのが、容易に汲み取れる。


 目の位置もやや前方に付いてる。


 突進を左右上下、天井や壁を使いながら避けつつ、敵の弱点部分であるコアを見つける。


 天童から教わった内容だが、アッキには核やコアと呼ばれる心臓部が存在しており体表からはその位置を特定するのは困難な個体が多い。


 アッキとの戦闘に於いて核の位置を特定する事が重要。


 魔力を使ってコアの位置を感知魔法を利用して特定する。


 火力で押し切れない欠陥品の私には必須らしい。


 当時5歳だった私にしつこくあーでもない、こーでもないと髭を靡かせながら教えられた事を懐かしく思う。


 今にも襲いかかって来そうな異形を前にして5歳の女児に教える内容では無い。


 しかしD³sとして、まともな扱いを受ける為に、天童がこっそり教えてくれた温かい魔法でもある。


(ーーー見つけた)


 アッキが突進を仕掛けてきたと同時に真上へ飛ぶ。


 天井を勢いよく蹴り、首元に存在するコアを目掛けて刀に自身の体重と勢いを乗せる。


 そうしないと刺さらないから。


「ごめんね…」


 メキと硬い装甲を貫き、その後はスッと刃がすんなり受け入れられる。


 喉元まで到達した刀に赤々とした血が滴る。


 顔や服とも呼べぬ服にアッキの血が飛び散る。


 命を刈り取る感触。


 この感覚だけは慣れたくないと刀の血を振り払う。


 命の奪い合いとは呆気ない。


『呼吸を整え、神経を研ぎ澄ませろ、勝負というのは案外一瞬じゃ』


 と口癖のように天童が言っていた。


 刀を突き刺されたアッキの紫の瞳は、明滅しながら光が消えていった。


(本当に…、ごめんね…)


『カカカッ、腐ってもD³sぞい…』


『ほう、身体能力に関しては他のD³sを超えていますね…身体能力は…』


(聞こえてるよ…… メガネさん……)


 憎まれ口を叩く白衣にメガネの研究員とその隣のお爺ちゃん研究員を睨みながらも、今日も生きる事が出来たと安心する。


 本当に嫌になる。


『お疲れ様でした。これで実践訓練を終了します』


 女性研究員の無機質な声と共に今日の訓練は終了した。



 ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・



「お疲れ様!ヤカゲちゃん! 」


「ん、ありがとう。アー姉」


 アネモネから手渡されたタオルと飲料水を貰いながら「今日もお姉ちゃん可愛い」と先程研究員から言われた悪口を血と汗と共に頭から拭い去る。


 荒んだ私の心を癒してくれるのは素敵な兄姉の存在だけだ。


「ヤカゲ、今の訓練で見せた技は何だ?」


「ん?、マー兄珍しいねっ、私に質問なんて。そもそも、今日は作戦とか無かったの?」


「確かに…。カルマくんにしては珍しいわね」


「んね 、雨でも降るんじゃ…イテッ」


 無言で私の頭にチョップをしてきたのは、いつもクールなD³sの先輩であり、お兄ちゃんのカルマだ。


 歳は私の4つ上の11歳。


 数年前から既に小規模なアッキ討伐作戦に参加しており、かなりの戦績を残しているエリートさんだ。


 生体兵器には年齢は関係ない。


「……今日は休日」


「あら、休みだったのね。言ってくれれば昼食用意したのに…」


「ありがとう、姉さん。でも無理はしないで欲しい。……出来れば食べたいが」


 律儀に今日の訓練を見にきてくれた理由を言ってくれるところに萌えと母性を感じてしまう。


 この兄ちゃんはかわいいのだ。


「話を戻すがあのコアを一撃で仕留めた剣技はなんだ?」


「んー、剣技というか……。感知魔法でコアの位置を割り出しただけで、刀自体は汎用型だし、普通にコアに刺しただけだよ?」


「…は?」


「…え?」


 カルマと私はキョトンと目を合わせながらお互い言った事を確認した。


 何に驚いたのだろうか。


「うふふ、ヤカゲちゃん。天童様よね? 教えたの」


「ん? どいう事だ?」


「んー、そうね…。 カルマくんやヤカゲちゃんが生まれる前アッキと戦う際に汎用型モノリスは無かった訳だけど、その時純粋な魔法師はどうやって戦ってたと思う?」


 笑みを浮かべながらカルマに聞き返すアネモネ。


(確かアネモネは、魔法師なんだよね?)


 一瞬思案顔を浮かべたカルマは、ハッとした表情になり、


「軽視したつもりは全くないが…。なぜ教えてくれなかったんだあのクソジジイ…ッ」


(……口悪っ!)


 でも、それはそれで11歳らしくて良い。


 時折見せるアウトロー感が良い。


「ーーーだってカルマくん…。急所なんて狙わなくったってアッキを1発で蒸発させるじゃない?、地形も変わっちゃうし…。魔法師は近接戦になると大変なのよ?、対抗用の魔法はあるのだけど」


「……それもそうか」


(……お、恐ろしい子っ!?)


 直接戦闘を見た事は一度も無いが、アネモネの発言から考える。


 なるほど。


 私は確かに欠陥品と言われても仕方がないかなと思う。


 他のD³sも皆凄いのかな。


 察するに弱点を探る感知魔法含めて、魔法技術をしっかり学ばずともモノリスの力でゴリ押しできるわけね。


 アネモネの言う近距離対抗用魔法は概要だけ聞いた事があるが、速度を重視しているため悪鬼には殆ど使えないらしいけど。


 私のお兄ちゃんは正しくD³sの鑑。


 脳筋ですね。


 ちょっと落ち込む。


「でも、あれよ?、ヤカゲちゃん。感知魔法で、敵の急所を特定できるのも必要な技術よ。実際正確にできる人少ないんだからっ! それも才能…いや貴女の努力ね!」


「あぁ、そうだな。言われて出来る気はしない」


「そ、そうかな」


「うんうん! ……あっ、そういえばクリオネちゃん帰ってきてるらしいわよ」


「ん、ほんとか?、久々に診てもらうか。 ……肩の調子が悪い」


 パンッと手を合わせながら、もう1人の姉貴分であるクリオネの話題へとシフトした。


 さり気無く、話題を変えてくれるあたり本当に良い姉貴分と兄貴分だなとつくづく思う。


 私もその気遣いと話に便乗する。


「クー姉!、1年ぶりくらいだね!、元気かな?」


「大丈夫だろう」


「ふふっ、今日の夕食は作り甲斐があるわねっ!」


 3人は、廊下で夕食の話をしながらD³sのホームへと帰宅するのであった。

毎日12時、17時に更新予定。

よろしくお願いします。

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