仮面を外して
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よろしくお願いします。
「テレシア様、よろしく頼む」
「えぇ、こちらこそ宜しくお願い致します。ロイス様」
「誰やねん二人とも」
「おい、G。私語は慎め」
「…お嬢様、お気をつけください」
私とクリオネ、ジノ、そして童子は、迷宮都市の地下に存在する迷宮区へ足を運んでいた。
ジノの小言はクリオネと童子には聞こえており、睨まれていたが、どうやらロイスには聞こえていないようだったので一安心。
事前にロイスが迷宮区に入る為の手続きを済ませていたのでスムーズに向かう事ができた。
都心部のネオン街から離れた所に位置する迷宮区の入り口付近は、栄えていなかった頃のノトスの面影残っており、人影が少なく辺りを照らす街灯すら無い。
残るのは崩れかけた建物のみ。
数年前にも訪れたが、様子は変わっておらず炭鉱跡地のような雰囲気が漂っていた。
「テレシア様、この迷宮区は一体どういうものか、ご存知ですかな?」
「そうですね。一説によりますとーーー」
迷宮区。 聖樹の枝。
それはノアが飛来した時期と同時期に出現したとされている。
あるいはそれ以前から存在していた巨大な縦穴。そしてそこから無数に横穴が広がっている洞窟だ。
所々、人が立ち寄った痕跡が残っており、整備されている部分も散見するが、鉱物類は取り尽くされ、もっぱら奉仕生物の狩場となっている。
また、上層から中層手前までの出入りは、ノトスの迷宮管理を行う役所から許可を取れば自由に立ち入る事が可能だが、中層中腹分から下層になると国の許可が必要になり自由に出入りをする事はできない。
また下層からは近衛魔法騎士団の同行が必須。
上層や中層と名前はついているものの階段があったりエスカレーターのような昇降台があったりするわけでもなく、縦穴や傾斜に沿って下るため明確な線引きがないのも特徴だろう。意外と曖昧である。
下層に関しての情報は国家機密情報になる為、クリオネが通っていた学園にも開示されていない。
そして、聖樹の実態は巨大な魔力場のようなものらしく、この事に関しても厳密に把握されていない。
視覚的に見えるという事は無く、感知魔法を使う事ができる人間が、洞窟に漂う魔素として視認できる。
地中深くまで続く魔力が枝のような形をとっている事に由来しているらしいが、どう調べたのかは謎。
過去訪れた事はあるが、当時は無心に刀を振っていたので、感知魔法しか使えなかった私には、その魔法越しに見ると金色に輝く魔素が絶えず滞留している場所という印象しか無かった。
扱いとしては地球で言うところの地熱や太陽光といったフリーエネルギーのようなもの。
聖樹はノアと違い、魔力を知覚できないと見えないと言うこともあるためノアより信仰の対象とされている節がある。また、学問としても普及しているためにノアや悪鬼よりも世界的にポピュラーなものとなっている。
以前、悪鬼化したアネモネが使った魔法は、全て学術系魔法と呼称され、皆が使えるように体系化されたもの。
聖樹に対しての信仰心をこの世界の科学で証明しつつ、学問として発展させ、信仰心に関係なく使える魔法として確立した歴史的背景がある。それ以前の魔法は信仰系魔法っていうらしい。胡散臭いね…。
「ーーー私個人としては、そのような見解ですわね」
「ふむ、素晴らしい! 実に素晴らしいですぞ。貴殿…、もしや学園には通われていたのかね?」
「えぇ、お恥ずかしながらエクスマキナートに…」
「通りで…。ふむ。ーーーところでカゲロウ殿は通われる予定はあるのか? 歳は15か16と言ったところ。ちょうど良い歳ではないか」
「いえ、私はあくまでも執事の身。それに学園に通ってしまってはお嬢様の側を離れてしまう事になりますので……」
「ふむ…… それは残念だ」
「ふふふ、魔法なら私が教えても構わないのよ、カゲ」
「それは、大変光栄な事ですが……」
「はっはっは、カゲロウ殿はやはり献身的でありますな」
一体何が残念なのだろうと疑問に思うが、クリオネが上手く会話に同調しながらも学園に行くことは否定的に答えてくれていた。
(でも、学園は正直行ってみたいなぁ…)
そう思った事は内に秘めておく。次の任務が学園って言ってた事には少し期待はしてるけど…。
易々と行けない立場である事は自覚していた。
ちなみに私が男装している時はカゲロウという名前にしている。
由来があったりするのだが…。
「ーーー早速来たようですわよ」
「おっ、そのようですなぁ」
「お嬢様、お下がりください。ここは私が」
「ええ、分かったわ。《アレースの加護》」
目の前に現れた奉仕生物。
悪鬼と比較すると艶かしい不気味な存在。
こちらの世界の住民からすれば、地球で言うところのちょっと珍しい動物と同じ扱いで一切不気味さを感じないそうだ。
私からすればただの化け物。しかし、8年前にも戦った事はあるが…この子はなんというか美味しい…。
癖はあるがナット風に言うと、実に野性味がある美味さ。私は嫌いじゃない。
クリオネが放った魔法は武器に魔法と同じ効果を付与する付与魔法。
「ありがとうございます。お嬢様。ーーーレインティアですね。側方からの攻撃に弱いので、G。盾を」
「ーーりy、承知しました」
ジノが《アレースの大楯》を発動しながら、私達の前に立ち、レインティアからの突進を防ぐ。
ーーークヒィン
「……かるいねぇー」
レインティアの角が大楯で弾かれノックバックし、体勢が崩れたところを、私は側方から真っ二つに切り裂く。
「ほう、見事ですな。そこのボディーガードも中々良い盾を扱えるようだ。これは期待できますなぁ」
「ど、どうもっす」
「G、言葉遣いがなっていませんよ。申し訳ありません。ここ最近、スラム街から雇った方でして…」
「はっはっは、私は元々そのような節度、礼節にこだわる輩ではない。ですので気になさらずとも良い。 それにしてもスラムから雇用されるとは、テレシア様は懐が広い…ッ! それにスラムと申されても私は悪い印象はありませんな」
「……あざっす」
どうやらテレシアもとい、クリオネの株が上がったようだ。
しかし、たまたまロイスが気にされない方で良かったと心の底から思う。それにフォローも完璧である。
ジノが使った魔法は、漫画風に言うと魔力障壁的なものだろうか。
盾の形をしているのでお洒落だとは思う。言葉遣いに関しては目を瞑ろう。
「御嬢…、次が来ます」
「あら、そうみたいね」
(お、お嬢?、)
童子は、感知魔法で先んじて発見した奉仕生物の位置をパーティに共有する。
「後ろの御仁は、感知魔法が使えるのですな」
「ええ、ただ私は他と違って不器用なものですから、感知と、……刀くらいしか使えませんが」
童子はそう言いながら刀に手を掛けロイスに柄の部分を見せる。
「はっはっは、では、私と共闘してくれますかな。右翼側の2体を頼みます」
「ええ、喜んで。 御嬢」
「ふふふ」と笑いながら童子の剣にも魔法を付与し、「ロイス様は?」と聞く頃には、先人を切って先程と同じ種の奉仕生物に突っ込んでいった。
「《アレースの小盾》 ーーーぬん!!」
レインティアの角を魔法でできた小さい盾で勢い良く去なしながら弾き返す。
「《ヘルメースの速剣》」
学術係魔法の中で発動最速と呼ばれる魔法剣によって奉仕生物の首を切り落とした。
「……すごくね、普通に?」
「……すごいね、あれは」
後ろで傍観していた私とジノはロイスの動きを素直に称賛していた。
もう言葉遣いはいいや。
それを後から追いかけるように見ていた童子の口元は少しニヤついているのが見えた。
「……じゃ、俺もやりますかぁ」
小言を呟きつつ、童子は2体で並走するレインティアの突進を頭上スレスレで飛び交わし、通り過ぎ際に刀で切り裂く。
切られたことに気づかず童子の後方へ突進をやめないレインティアは、走りながら矢状面で二つに分かれて倒れた。
「ほう…、これは見事な剣捌き、いや刀捌きですな……」
「いえ、それほどでもございません」
刀から血を払い納刀する童子は徹底的にボディーガードとしてのロールプレイに興じているようで、ここまで徹底すると思っていなかった。
(それよりロイスなんだよね…)
もし、カルマとシズクの事前情報がなければ、まず間違いなく人良さそうな雰囲気に騙されていたと思うと、ゾッとする。
カルマとシズクの二人は、また別の任務へと赴いており行動を共にしていないが、任務が終わった際に改めてお礼をしようと思う。
ロイス率いる一行は、迷宮区の上層を一気に突き進み中層間際で休憩を取る事にした。
ーーーーー
ーーー
ーー
ー
クリオネ、ジノはキャンプを張り、童子は周辺警戒とカルマ達との連絡を取っている最中の為近くには居らず、私とロイスで料理を作っていた。因みに通信機でこの状況に関しては筒抜けになっている。
「それにしても、驚きましたね。やはりテレシア殿ほどのお方に付き従う執事は料理もできる!、いやぁ 多彩ですなぁ。……ますます欲しいッ!」
後半部分は料理を焦がさない事に集中していて聞き取れなかったが、様子を覗きに来たロイスがそんな感想を述べていた。
「いえ、私にはこれくらいしかできませんので」
「何を仰いますか。護衛として十分に強く、また、仕え従う者に対しての敬意と忠誠心もある。その上料理も出来てしまうとは、うちの娘に欲しいくらいだ」
(……娘? )
そんな情報はカルマからは聞き及んでいない。ブラフだろうか? と返答を思案している。
「どうですかな?、カゲロウ殿。うちの娘の執事として、いや将来を約束された殿方として仕える気などはありませぬか?」
「ーーはい?」
真面目な顔つきで物申すロイスに、つい素の反応を見せてしまった。
『そっちかぁ…』
通信機越しにジノの声が聞こえたが、本当にその通りでだよね、と心の中で同意する。
カジノの従業員は皆、美男美女だった気はするが、本当に男の方にも声を掛けてくるとは思わなかった。
もし男性として見られているなら作戦としては及第点を自分に挙げたいが、女の子として少々複雑である。
「はっはっは、急にそのような事を言われて戸惑われるのもおかしくないでしょう。私の話を少し聞いてくれますかな?」
うっかり出てしまった反応に対しての追及は一切なく、『話に乗るつもりで聞け』と童子から通信も来たので、そのまま話を聞く事にした。
「私如きで宜しければ…」
「本当に貴殿の心は広いですな……。実は」
ーーーーー
ーーー
ーー
ー
会話の内容は、娘を守る為に行動を起こす父親そのものだった。そして《方舟》と《白嶷》の研究に対しての疑念。
知ってか知らずか私達D³sに対しての同情すらしている真っ当な人間の姿がそこにあった。しかし『情に流されるな』と童子からの通信が入っていた。
隊長の言う事は最もだと理解できるが、現状の私にはどう判断すべきか分からない。
何が正しいのか、間違っているのか。
確かにロイス本人の口からは悪鬼の密輸や研究やカルマの情報にあった黒ローブの集団に関して語られる事は一切ない。
直向きに隠している為、後めたい事をやっている自覚があるのは明確。
しかし、娘を安全なところで匿い、密猟密輸、研究に加担していないであろう人材に護衛をさせようと言う判断は間違っていないと言える。至極真っ当だ。
「……私は妻を守れなかった。だからせめて娘だけでも守ってやりたいのです。ですからーーー」
「ーーー私には、兄と姉が居ました」
(あれ?、)
私は、何故この話をしようと思ったのか。
気づいたら口に出していた。
結論は出ていないし、話の着地点も決めていない。
でも、どうしても気になってしまった事があったので口を挟んでしまったのだろう。
話を遮った申し訳なさはあるが、話を続ける。
「一人は行方不明。もう一人は病棟で意識不明の寝たきり。言葉を交わす事ができません。原因も不明です。そのような時に支えてくれたのはテレシア様であり、その他の従業員にございます」
決して嘘は吐いていない。隠すところは隠しながら話を続ける。
「そ、そのような事が……」
顔を顰め親身になって話を聞くロイスの表情から察するに娘に関しての内容に嘘はないのだと思う。
( この人も私達と同じなんだね… )
「ええ、ーーーその時に思ったのです。私自身が落ち込み続け、負の感情に支配され、復讐に身を焦す悪鬼へと成り果てる訳には行かないと。私自身の手で守りたいと思い行動し続けるべきだと…」
「ーーー仰る通りですな…。でしたら私の話も」
「ええ、理解できます。ですがそれは、娘さんが望んでいる事なのでしょうか? 」
「ッーーーー」
「娘さんは側に居たいと思っていたりしてませんか?」
「ーーーー」
どちらの質問も私達にも言える事だ。アネモネは本当に起きる事を望んでいるのか。私達の側に居続けたいと思ってくれているのか。疑問に思わなかった事は無い。
ロイスの見せる表情は、私が寝たきりの時に見た、自身の無力さに打ちのめされている時の両親の表情、そしてアネモネを助ける為に奔走する私達にそっくりだった。
私は料理を焚火から離し、ロイスの隣に座りながら顔を覗き込む。
「娘さんは元気に学園に通われているんですよね?」
「え?、えぇ、勿論ですとも…。仕送りも現実的な範囲でさせて貰っています。喜んでくれていると良いのですが…」
(いい、お父さんだなぁ…)
パチパチと音を経てながら燃える焚火を見つめながらロイスは呟く。その表情は人良さそうな父親の顔という印象だった。
「あははっ、だったら娘さんに直接確かめるべきですね。娘さんのお気持ちをお聞きした事はありますか?」
「そ、それは……」
今更だろうという表情で私の顔を見つめるロイスに言葉を続ける。
「私が大切にしたいと思った姉や兄には言葉を掛ける事が現状叶いません。しかし、ロイス様は違います。きっと娘様はロイス様と、いえ父親と共に過ごしたいという気持ちが必ずあると思いますよ。なにせ、貴方様はここまで孤独に頑張ってきた一人の父親ですから。カッコいいと思います」
ロイスは自分自身のできる範囲というのを理解している。
それ故に、良かれと思った事を強いてしまう。
誰かに頼るのはいい事だ。しかし、頼るべき人はもっと他に居なかったのだろうかと、ロイスの裏に隠れている悪鬼の密猟密輸の件を勘繰ってしまう。
自身の身近な人間に頼り辛いのは理解できる。
私達も側に居るべきと思っている割にはアネモネを別の施設へ移して離れてしまっている為、ロイスも已むを得ない事情がある可能性も理解できる。
ロイスの目には少し涙のようなものが浮かんでいた。恐らく法に反している自覚があるからだろう。
しかし、裏でやっている行動がどうあれ、娘さんの事を大切に思い、行動に起こす彼の気持ちは間違っていない。
「でも私なんかに頼るより、直接話を聞いてくれるお父さんの方が現実的ですし、頼りになると思いますよ?」
彼の意思や行動には庇護対象の気持ちが一切介在していなかった。それは私達にも言える事だが、ロイスの娘は生きて言葉を交わす事ができる。確かに悪事を働いてしまっているが、単に頼る人が居なかっただけに過ぎないと話を聞いて理解できた。
仮にロイスのこの態度が演技なのだとしたらという不安はあるが、娘を思う気持ちは本物だと信じてみたい。
まだ、間に合う筈。
「ーーー妻は、娘は、私を許してくれるでしょうか?」
「ええ、きっと。私達に頼ろうとしたのは別の理由があるんですよね? ーーーさぁ、レインティアを使ったシチューができましたので、テレシア様を呼びに戻りましょうか」
「ははは、ーーーそうですな」
人間は何度も間違える。しかし修正が効く。
過ちを認め、償い、改める事もできる。
時間が解決してくれる事もあるだろう。
しかし今回は違う。
間に合わない可能性だってある。
前世の私のように。アネモネの一件のように。
この人には私達と同じ過ちをさせてはならない、私はそう思ったから話し込んでしまったのだろうと今更ながらに思う。
そして、任務が始まる前から疑っていた《方舟》の情報…、恐らく間違った情報を私達が掴まされている可能性がロイスの態度から見てとれた。
この人からアネモネの事件に関わる情報が聞ける事に期待してクリオネ達と合流するのであった。
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