着飾る、言わざる、見えざる
毎日12時と17時に更新!!
よろしくお願いします。
前半カルマ、シズクペア視点、
後半ヤカゲ、クリオネペア視点ですぞ〜
「ーーこれでいいだろう」
「カルマ殿は、流石でありますな」
カルマは、Kn-Silent8/12.7-99 用の弾丸からカメラを取り出し、試験管に差し替える。
急造ではあるものの確実に試験管を飛ばす為に改造した。
機械を弄る方法は、随分昔にナットと色々試行錯誤をしながら学んでいた。
今思うと遊んでいたに近い。
言葉は余り交わさないが、お互い無駄な事は話さないタイプであった為、居心地は良かった。
お互いコミュ症だったのかもしれない。
妹の事になると油を刺したように饒舌なるのも似ていた。
作った試作品が成功したり、失敗して爆発したりすると笑い転げ回っていた。
その爆音に気づいた天童が物凄い形相で怒ってきたのを一緒に逃げ周り、最終的には説教を食らっていた。
思い出すと少し可笑しくて笑いそうになる。
表情には出さないが。
カルマが少し怪我をした時にはクリオネを呼びつけ、大袈裟に取り乱していたナットはもう居ない。
いつからかは、思い出せないがナットは研究室に篭りっぱなしになってしまった。
ヤガゲについて話をする際にはいつも真剣で、彼女が家族の希望だと信じて疑っていなかった。
カルマもそう思う。
何度も思う。その彼はもう居ない。
上手くいかないことだらけだ。
完璧に熟さなければ。
「これくらい大した事はない、なにせーー」
「ーーヤカゲ殿なら、でありますか?」
「ーーーー」
それもあるが、ナットならもっと上手くやるのでは?という親バカならぬ兄弟バカのような思考をカルマは巡らせてしまう。
そもそも、ジャミングの可能性に気づけなかった時点で詰めが甘いと感じてしまう。
狙撃というのは必中必殺。
今回は標的を仕留める事で無いにせよ、一撃で任務を遂行してこそだとカルマは考えている。
故にミスは本来許されないのだ。
そう自分を卑下しながら横目でシズクを確認しつつ、狙撃銃を調整する。
シズクは、何やら思案顔を浮かべていたが、何かを思い出したかのようにパッと表情を変え、すぐに柔らかい笑顔になり言葉をカルマにか掛ける。
(コロコロ、表情が変わる奴だ…)
「……人生は刀と一緒でありますよ!」
「ーーー?」
カルマには何の事だかさっぱりだったが、シズクが話し始めたので作業をしながら耳を傾ける。
「どういう意味だ?」
「刀を一本作り上げるのに、素延、火造り、焼き入れ、鍛冶押、色々工程があるのでありますが、それは人生と同じ。一朝一夕で出来るものではないのであります。加減やタイミングを違えば、何かしら不備が生じるものなのであります。ーーーーでも、」
シズクは狙撃銃を構えるカルマの隣にしゃがむ。
彼女の顔は、まるでカルマの心を見ているかのような真っ直ぐな笑顔を向けていた。
「ーーー叩けば、何とかなるのであります!」
形容すれば陽だまり。
太陽のようなあっけらかんとした笑顔だ。
そして随分と大雑把なオチ。
そう思ったが、意外にもすんっと心の底に落ちてきたような気がする。
「人間も、自分自身を律して…叩いて…、その都度修正すればいいだけであります」
スコープから目を離し、シズクの顔を見ると満面の笑みを浮かべる少女の顔がそこにあった。
「カルマ殿はご存知でありますか? ……人生も刀も1人じゃ満足に打てないであります」
言い得て妙だ。その言葉で、カルマは大事な事を失念していた事に気づく。
ヤカゲが一人でできない事をカバーする為に日々努力をしてきたのに、カルマ自身が一人で何でも熟そうとしていた。
刀のように一本芯が通った真っ直ぐなものも、最初からその状態で生まれた訳ではない。最初から完璧な事など一つもないのだ。
(ーーー叩けば、なんとかなるか)
「……なんて、私が言えた事ではない上に、最近ミスばかり。それに先程の言葉は父上の受け売りでありますが、きっとなんとかなるでありますよ。カルマ殿なら!」
シズクはカルマの隣に置いていた1発の弾丸を握りしめる。
「ウカノミタマ、第一上限解放」
すると弾丸は紫色に光りだし、色そのものが純白に変化していく。
「なぁに、今回は10発分も残っているであります!、数発外しても問題ないでありますよ!」
「ふっ 確かにそうだな」
作戦中に笑みを浮かべながら、その屈託のない真っ白な弾丸をシズクから受け取る。
(綺麗なものだ……)
カルマに渡された弾丸は彼女の精神性を表しているかのような美しいものだ。
シズクの事を少し誤解していた。
そもそもカルマは見ようとしていなかった。
この子は恐らく刀や戦う事以外学んで来なかっただけで、知識や経験を積めば変わるのかもしれない。カルマはそう考えながらも一言だけ訂正する。
「……言っておくが狙いを外すつもりは微塵もない」
「あはは、カルマ殿ならそう言う思ったのであります」
分かっていたようだ。
カルマはスコープを覗き、集中する。
俺は1発の弾丸。
銃を構え標的に向かって飛ぶ。
ただそれだけだ。
いつも無機質に、無感情に引き金を引いていたが、今回は違う。
「エネルギー充填、セーフティ解除」
引き金に指を掛ける。
「シズク」
「はて?、なんでありますか?」
いつもの魔の抜けたシズクの言葉だが、今までのような不快感はカルマは感じなかった。
(童子…、あいつは結果が分かってたな… )
「ーー敵の尻尾を叩き出すぞ」
「はい!、隊長達に情報を持ってかえるのであります!!」
そしてカルマは熱の籠った確かな引き金を引いた。
ーーーーー
ーーー
ーー
ー
ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・
ヤカゲとクリオネは、カルマとシズクが数日前に手に入れた情報から、1つのカジノ店に目星をつけた。
カルマの情報によると迷宮区に悪鬼を匿っており、また店のオーナーがモノリスらしきものを持っているという事実が発覚している。
私とクリオネが入ったカジノはセキュリティが厳重であった為、然程情報が手に入らないだろうと思っていた。
裏を返せば、一番怪しいと予測する事は簡単に出来るが、断定はできないと言うもの。
そう考えていたのだが、カルマとシズクの働きは想像以上だった。何故そこまで詳細な情報が入ったのかを聞くと「シズクのおかげだ」とカルマが珍しく素直に褒めていた。
きっと何かがあったのだろうと嬉しい気持ちで一杯になったが、今は作戦中。
考慮しなければならないのは、「国内に《白嶷》と《方舟》以外にモノリスを完成させた、あるいは持ち込んだ勢力が存在する可能性がある」という事。
この情報だけでも、カジノのオーナーを差押してもいい気もするが、水面下で暗躍している何かが、想像以上に深刻化しているような気がする。またアネモネが何故、悪鬼化したのかの情報も含めて集められる可能性もある…。
より内部に潜入し、情報を集めたい欲がある。《方舟》のアイザックが「内部調査不要」と言い切るには早計…。何かを隠してると考える方が妥当。
そう考えながら、目の前にいるカジノ店のオーナーと対峙する。
鋭い目付き、表情。
煌びやかな服装を身に纏ったオーナーと思しき人物が、私達を値踏みするような視線を向けていた。
「いやはや、素晴らしいものですな。お嬢様」
「いえ、たまたま運が良かっただけに御座います」
揚々しく、赤いドレスを両手で持ち上げながら上品なカーテシーを見せるクリオネは、どこに出しても恥ずかしくない貴族令嬢そのもの。
私もクリオネに倣い、揚々しく胸に手を当て一礼をする。
「はっはっは、謙遜する姿も実に美しい。名を何と申すのだ」
「私は、テレシア・ライ・メルトラインと申します。貴方様はここのオーナーとお見受けしますが?、何用でございましょうか」
「これこれは丁寧に… ご存知でしたか。いかにも、私はロイス・オクタビア。ここのオーナーを務めるものでございます。こう見えても過去、探索者として名を馳せた男爵家でありましてですな。貴殿もまた、名誉ある貴族のお家柄とお見受けしますが」
「ふふふっ、私はただの騎士爵家。身なりこそ飾らせて頂いていますが、大した家柄では御座いません…」
(これは私には出来ないなぁ……)
見事なまでのノブレスオブリージュ。
クリオネの対応を横で見ながら私は感心を寄せていた。
昔からクリオネは仮面というものを被って生活していたので慣れているのだろう。ここまで違和感のない立ち振る舞いを見せられるとは思って居なかった。因みに「テレシア」は偽名なのだが、クリオネが学園へ通っている際に学園見学にきた学生の名前らしい。
「ほう… 騎士爵という事は名誉貴族。もしや身内の何方かに探索者として名を馳せた方がいらっしゃるのでは?」
「ええ、私の兄弟と後ろに控える使用人が少々腕に自信がありまして…。また私も幼少期の頃から魔法を嗜んでおります」
クリオネの言葉にある意味嘘はなく「ほう」と言いながらロイスは私を一瞥する。
どうやら家柄に対しての偏見はないそうだ。しかし、視線に違和感を感じる。
気にする素振りを一切見せず、私はまた一礼する。
「なるほど、なるほど…」
「オーナー」
「なんだ?」
ロイスの隣に立つ使用人らしき人物が何やら彼に耳打ちをした。
「ふむ、テレシア殿、そしてそこの使用人。込み入って相談があるのですが、少々お時間を頂いてもよろしいかな?」
「あら、オーナーからのお誘いだなんて。どんな話が聞けるのかしら。……構いませんわよ。 カゲも宜しいですわね」
「お嬢様の仰せのままに」
「はっはっは、決まりですな。ーーーおい、そこの。準備をしなさい」
「はっ、かしこまりました」
そして私とクリオネは、ロイスの案内のもとカジノにある別室への招待された。
「カゲ、エスコートしてくださる?」
「?、承知しました。足元にお気をつけください」
「ふふっ、ええ、勿論よっ」
クリオネが私の腕に抱きつくように歩く。逆に歩きにくいのでは? と思うが、クリオネは嬉しそうなのでそれで良いのだろう。
エレベーターに乗り、数階登ったところで止まったその先にある一室。
中に入ると、カジノの煌びやかな雰囲気から一点。
そこに広がるのは大量の資料や研究機材が立ち並ぶ部屋だった。
「ふぅ」とため息をつきながら、使用人を下がらせ、ロイスは手につけているアクセサリーを含めた全てを外し出した。
私も現在は使用人であるため部屋から出ようとするとロイスは「君は入っても構わんよ」と先程と打って変わった優しい表情を浮かべ、中へと案内された。
「ささ、こちらへ」
ロイスに案内されるままソファーへとクリオネは座り、私は後ろに待機しようとすると、
「お二人は、珈琲はお好きかね? ……君もソファーに座りたまえ。見たところテレシア殿は貴殿にかなりの信頼を置いておるようにお見受けする。そのような御仁に失礼があってはならない」
驚いた事に私とクリオネの関係を見抜いてきた。
軍人であることもバレているのではと内心焦ったが、とても悪鬼を密猟密輸に加担している人間とは思えなかった。
(これ見よがしに抱きついてきてたし普通かな…? )
「ふふふ、ロイス様はよく見ていらっしゃいますね。驚きました。 カゲ、こう仰られていますし、貴方も隣に座りなさいな」
「宜しいのですか?」
「ええ、かまいませんわ」
「…では、失礼します」
私もクリオネの隣に座ることにした。
珈琲を入れ終えたロイスは、いつのまにか研究員が着ているような白衣を身に纏い、向かい側のソファーに座りながら珈琲と簡単な茶菓子を出してくれた。
「……いやはや、肩が凝りますな。あのようなものを身につけると…」
「は、 はぁ…」
「……ん? はっはっは、実は私、あのようなアクセサリーは基本好まないのですよ。様式美と言えば宜しいかな? あのような店を扱うにはそれ相応の身なりというものが付き纏うものなのですよ」
「ふふふ、ロイス様はユーモアな方なのですね。この部屋とその服装から察するに貴方様は、何かしらの研究を縄張りとしている方なのですね?」
「うむ。いかにも。テレシア様も人をよく見てらっしゃる」
「ふふふ、わかりやすく白衣へ着替えたではありませんか。面白い方ですね」
この腹の探り合いのような会話がいつまで続くのだろうと居た堪れない気持ちになってきたが、本題は案外すんなりと目の前に対峙するロイスが語ってくれた。
「今回、折り入って相談がございまして」
「何でしょうか?」
「えぇ…実はですなーーーー」
ロイスに語られた内容を纏めると、1.迷宮区へ同行し奉仕生物の調査を手伝ってほしい、2.今回の調査は迷宮都市ノトスからの依頼ではなく、あくまでもロイス本人からの依頼であること、3.この事は一切他言無用、という非常にシンプルな内容だった。
「なぜ、お嬢様と私なのでしょうか?」
私も質問を投げかける。
ロイスは嫌な顔一つせずに、これもまた素直に答えてくれた。
「ふむ、理由は3つだ。1つ目は貴殿だ。何でもルーレットを連続でストレートアップベットを当てたとか。そのような御仁がこの都市で有名になっていないわけがない。故に娯楽慣れとは別。……何かしらの訓練を受けているのでは? 2つ目、店頭に控えさせているボディーガードらしき2人は、テレシア殿。貴殿の使用人である事はカメラ映像で判明している。彼らも手練れである事は間違いありませんな?」
眼光を飛ばす、ロイスにクリオネは頷く。
(この人、見かけによらず鋭いし目敏いな……。テンじぃの狙い通りだけど…)
「そして3つ目ーーーー」
鋭い目を向けるロイスに息を呑む私とクリオネは、出された珈琲を一口啜りながら聞き返す。
「「3つ目は?」」
屈託のない満面の笑みを浮かべるロイス。
「……私の勘だ」
「「勘…?」」
この人は相当に手強い。
私とクリオネはそう思わざるを得なかったのであった。
ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・
一方その頃。ジノと童子は。
「はぁ、は、はっくしっ!!!」
「っくそ、おいこらきたねぇだろ…。ほら、ティッシュでふけ」
「おぁ、あ、なんか、あざっす」
「ハンカチかティッシュくらいもってこい……。なんだ?」
「いや、なんか 女子力高いっすね」
「うっせ、隊長なめてんのか、ゴキブリがよ」
「玄関に待たされてる身としてはゴキってるようなもんすよ」
「ハハハッ、違いねぇな…」
随分と冷え込んできた街の夜。
二人のボディーガードは、任務を忘れたわけではないが、暇を持て余していたのだった。
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