ネオン下暗し
毎日12時と17時に更新!!
よろしくお願いします。
一方その頃って事でシズクとカルマのお話。
12時はハイミルク、17時はビターミルクな感じです。
シズクはカルマと共にヤカゲ達と別行動。
迷宮都市へ、他の《夜爾》の隊員より1週間ほど早めに潜入していた時の事。
事前情報に上がっていた複数の建物付近の屋上からあらゆる角度で見張り、盗聴器や小型カメラの設置等を行っていた。
なぜ他の皆と別行動であり、カルマと一緒に居るのか。この時のシズクは事情をよく理解していない。
二人はそれぞれ、いつもの軍服ではなく潜入密偵捜査用の隠密性に優れたボディースーツを着用していた。
水上都市ティタネコッタに位置するエクマキナート魔法師学園の教師が開発したもの。
黒い伸縮性のあるタイトめのスーツは、ボディーラインがはっきり出てしまうのでシズクは個人的には恥ずかしく感じていたが、幸い光が反射しないようなノングレアタイプの黒地であるため奇抜な印象は全く受けない。
ただ、一つだけ気になる点がある。
カルマ殿だ。
シズクはカルマの事は少し苦手だった。
いつも無表情で、無口。
何を考えているのか正直全くわからない。
そんな関わり合いの薄い男性と裏路地で二人っきり。
こんな日が5日も続いている。今夜は、皆がくる2日前。
2人は最後の建物への盗聴器等の設置に向かっていた。
シズクは気まずくて仕方がない。
「カ、カルマ殿、どこへ向かっているのでありますか?」
「ーーー密偵」
(わ……わからないであります…ッ)
「そ、それは知っているのでありますが…」
「ヤカゲ達は表舞台から、俺達は裏側から調査し、裏組織の内部構成、規模、密猟密輸の手段、そしてその先を探っている」
カルマは、後ろを歩くシズクの表情を汲み取ったのか、ある程度説明した。
「ヤカゲ達なら心配はない。俺の妹だ。情報をある程度揃えれば、そこから答えを出せる。そんな奴だ」
「……そ、そうでありますか」
(……妹思いの優しい人でありますな)
この5日間でカルマについてシズクが理解できた事は、ヤカゲの事になると口数が増えるという事と、淡々と目的・目標に向かって仕事を熟すストイックな人という事だけ。そして「ヤカゲはこんなもんじゃない」といつも口にする。
( ヤカゲ殿は確かに凄いのであります… )
シズクがヤカゲの凄さに気づいたのはここ最近の話。
シズクは前回の初作戦で少しだけ…いやほんのちょびっとポカをやらかした時、彼女が討伐した悪鬼の状態は無傷。わずか数十秒の攻防で約20体をコアだけ破壊したことをジノから聞いた。
最初は耳を疑ったが、作戦後現地から運び込まれる悪鬼の屍を目の当たりにすると信じざるを得なかった。
安らかに眠った表情に見える悪鬼の姿にシズクは驚きを隠せなかった。
敵であり、決して言葉を交わすはずのない悪鬼にさえも慈悲や慈愛のようなものをかけている同い年の女の子。ヤカゲ。
普段は「美味しいご飯〜、ご飯〜、食べれるぞ〜」と呑気な鼻歌混じりの独り言を言っていたり、カルマが時々、中央都市で買ってくる菓子類をパクパク食べてながらニマニマと破顔させているような女の子で全く想像がつかないが、今回の作戦においても何とかしてくれるような…、そんな淡い期待をシズクはしてしまう。
ヤカゲ本人は無意識らしく、周りが見ている事に気づいて居ないのは内緒の話である。
シズクは不思議と《夜爾》の初作戦以来、卒なく仕事を熟すヤカゲを目に追うようになっていた。
シズクには「ヤカゲ殿のようになりたい」という密かな目標があった。
「登るぞ」とカルマから急に声がかかった。
「しょ、承知したでありまふ?!ーー? どうやって登るのでありますか?」
シズクに一瞬ジト目を向けるカルマは、胸ポケットから10センチくらいの白い金属製の筒を取り出した。
「ジェミニー、第一上限解放」
カルマの胸部が光だし、右手に、金属性の白い流体が集まる。そして、紫色の眩い光と共に純白の拳銃が現れた。
「これが、カルマ殿のモノリスでありますか……」
「ーーーー」
前回作戦時は二丁出していたそうだが、今回は一丁のみ。
そもそも銃すら作らずにエネルギーを放出する事もできるそうだが、シズクはカルマのモノリスについて詳細を知らない。それはカルマも同様でシズクの事を知ろうとしていなかった。
先ほど取り出した金属製の筒をカルマは銃口にカチャカチャと手際良く取り付け、高さ30mほどのある建物の天井に向けた。
カルマは、シズクを一瞥し「はぁ」とため息をつきながら左手をくいくいと、
「おい、掴まれ」
と面倒くさそうにシズクに言葉を投げる。
「……つ、掴まるのでありますか?」
シズクは、カルマに恐る恐る近づくと、手を掴まれた挙句、腰へと手を回された。
「ーーふえっ?」
「エネルギー充填、セーフティ解除」
シズクの情けない声をそっちのけにカルマは、モノリスに指示を出していた。
(ちょっとは考えて欲しいものであります…ッ )
こんなに身体を密着していても、何も思わないのだろうか。シズクは一人の乙女として少し傷つく。
「跳べ」
カルマの掛け声と同時に、先程つけた銃口の筒から鉤爪付きのワイヤーが射出され、遥か上空に音もなく飛び出す。
その挙動を確認しつつ、屋上の手すりにワイヤーが引っかかる。
( この人はしれっと高い技術を見せてくるからズルいのでありますよ… )
「しっかり掴まれ、落ちるぞ」
「え?ーーーッはいっ?!」
カルマが「しっかり」と言い切る前にはもう、ワイヤーの牽引力で、シズクの足部は既に地面に無く、約5mくらいは飛び上がっていた。
「言うのが、遅いのでありますよぉぉおおおおおお」
「ーーうるさい」
ーーーシュルルン
ワイヤーが巻き取られていく音と風を切り裂いていく音を聞きながら二人は上空へと飛ぶ。
高所から自分で落ちるのは良いが、他力でスピードが速すぎるのは怖いとシズクは感じていた。
シズクは恐怖のあまり目を瞑る。カルマは、そんな彼女を落ちないようにとぎゅっと抱き寄せていた。
「ーーん」
シズクは少し苦しさを感じるも目を恐る恐る目を開ける。下を覗くとそこには迷宮都市のネオンが一面に広がっていた。
高さは裕に40mを超えている。
飛び上がった二人に慣性が働き始め、数秒間空中で浮遊しているかのような感覚をシズクは感じていた。
(綺麗でありますな……)
シズクは素直な感想を抱くくらいには少し安心感と余裕が生まれた。
シズクはカルマの様子を伺うと、目がばっちり合ってしまった。
紫色の瞳を持つ彼は全く動じることなく、いつもの無表情。
「ど、どうしたのでありますか?」
「ーーーー」
「ーーーはて?」
首を傾げでいると、カルマが重々しく口を開いた。
「ーーーー飛びすぎた」
「え?ーーーえぇえええええええ!?」
「うるさい」
カルマがコントロールを誤ると言う珍しい光景を目の当たりにしてシズクは動揺するが、それでも彼は冷静だった。
先程使ったワイヤーを再度、屋上の階段があるであろう壁付近に照準を定め撃ち出す。
鉤爪が壁に突き刺さるのを確認し、ワイヤーが金属製の擦れる音を響かせながら巻き取られ始める。
ある程度スピードがついたところで、ワイヤーを切り離し、カルマはシズクを抱き抱えながら屋上に着地した。
「大丈夫か?」
「もう、心臓が止まるかと思ったのでありますよ!!」
「…止まってないならいい。離れろ」
「しょ、承知したのである…」
シズクは、ちょっぴり切ない気持ちになったが、素直に離れ、カルマは何も気にせずワイヤーを回収。
次の準備を淡々と淡々とし始めた。
先程の絶叫体験のせいで、シズクの心臓は鼓動を強く打つ。
この時の彼女は心臓の鼓動が別の理由でも高鳴っている事を理解していたかったのであった。
ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・
屋上に着いたカルマは盗聴器、小型カメラの準備に取り掛かった。随時、情報が童子とヤカゲに共有されている。
今回、目標の建物は巨大なカジノ。恐らく迷宮都市で一番大きい事はカルマも知るところ。ヤカゲ達が作戦を開始する頃には潜入すべき建物を割り出すだろうとカルマは確信している。
本日の目標が最後である。
カルマは、淡々と指示された建物に必要なものを取り付けるだけだと冷静に作業を進める。
しかし、今夜取り付けなければならない建物は少し難航する予感がしてた。
建物そのもののセキュリティがほかの建物より厳重。カメラを設置することが不可能…いや、設置したい所に既にカジノ側が設置していると言っても過言ではない。それ故に目星がつけやすく、怪しいという話でもある。
目標の建物にあえて潜入せず、数百メートル離れた別の建物で準備に取り掛かり、そこから狙撃することで盗聴器をつけようとしていた。
それを可能にしたのが、目の前で準備を進めている狙撃用の兵器なのだが、
「カルマ殿、それはモノリスでありますか?」
「ーー違う。ただ少し似ている」
Kn-Silent8/7.62-51のβ版。
ボトルアクションを採用した対物スナイパーライフル。
後半の数字は銃弾の口径を表しているそうだ。
水上都市ティアネコッタに位置するエクスマキナート魔法師学園の教員であり研究者が開発を進めており、魔力親和性の高い近代兵器を生み出そうとしている。
前回作戦時のレポート提出から即座に納品された飛距離と精度が向上したライフルとなっていた。
数年前からヤカゲ宛に試作品が提供されているらしいく、出どころは怪しいが、使いやすいのでカルマ個人としては問題は無く、妹から貰ったと言う理由で十分使う理由になる。
「どう違うのでありますか?」
「ーーーしらん」
「んぇえー?、それ絶対説明が面倒くさいだけでありますよー!!」
「ふっ、分かっているなら少しは考えろ」
「カルマ殿は、イジワルであります…」
組み立ている最中、ずっと後ろから見ているシズクというヤカゲと同い年の少女は、この作戦から行動を共にしているが、妹と違ってポンが目立つ。
ムードメーカーとしてはある種のカリスマ性を感じるが、D³sとしては未知数。
どのような能力を持っているのか定かではないが、カルマはあまり興味がなかった。
最後のパーツであるスコープを取り付け、特殊なバレットを装填する。
カルマが使う銃弾には、弾薬が入っていない。寧ろ必要がないと言った方が適切だろうか。
カルマは銃弾を飛ばすためのエネルギーをモノリスが担えるため、銃弾の中には別の物が入れられている。
弾丸は盗聴器が障害物に接触する前に内部から展開され、壁に付着する精密な機構が仕込まれている。また、着弾前に減速するための魔法が発動するらしい。
一体誰がこんな代物を作ろうと思ったのか。カルマは少し気にしていたが、今はそんな事はどうでもいい。
スコープのキャップを指で弾き、覗き込む。
たかだか約1000フィート。
メートルにして約305m。
これまでの訓練に比べればクズをゴミ箱に投げ入れるようなものだとカルマは感じていた。
狙いを定め、気温やビル風を含めた抵抗による誤差を脳内で修正。
「エネルギー充填完了、セーフティ解除。ーーーー射抜け」
瞬く間に弾丸は一直線に飛び出し、目標は向かう。
本来薬莢部分であるはずのパーツが外れ、内部構造の展開と、魔法による減速を確認。
そのまま建物の壁へ吸い付き自立。
小型マシンが盗聴器を壁へ埋め込む。
「着弾を確認、盗聴器の設置ーーーーー完了」
「命中したのでありますか?」
間抜けなシズクな言葉は無視し、次の作業に取り掛かる。
次に使用するライフルは、先程と同じモデルだが、口径が大きいものを使用する。
Kn-Silent8/12.7-99。
いくら小型とはいえ、カメラと映像出力用通信機が内部に入っているため、必然的に口径を大きくする必要があるのだろうとカルマは考え、組み立てながら、盗聴器を確認する。
ーーージーザザザーーピーーージジ
盗聴器から砂嵐のようなノイズのみが聞こえてきた。
「ーーーちっ」
「わ、私が何かしたでありますか?」
「違う、おそらく盗聴器に対してのジャミングだ」
「ええっ!!?、どうするでありますか?」
「知らん」
即座に盗聴器との通信を遮断し、遠隔で盗聴器を破壊。撤収作業を速やかに済ませて、場所を移動する。
ジャミングが入るという事は、逆探知をされている可能性も高いため場所が特定させるリスクがある。
ライフル二本をシズクに渡し、モノリスに持ち変える。
「わわわっ!」
驚くシズクを再度抱き抱える。うるさい。
ジェミニーから射出されるワイヤーを駆使しつつ、より離れつつも、弾丸が届く距離の建物へと移動する。
幸い、近代兵器の中でスナイパーライフルは、現状誰も持っていないため存在は知られていないはず。
場所を特定されたとしても誰なのかは分からない。
また、《夜爾》が《方舟》の司令で正式にノトスに入るのは先の話。
軍が怪しまれる事は無いと思いたいところ。
情報戦や潜入捜査に関しての知識不足を痛感するが、今回の標的がビンゴである可能性が高い。しかし、確かな情報が持ち帰える事ができていない現状どうすればいいのか次善を考える必要がある。
目標の建物を眺めながら移動しつつ、カルマが思案していると、
「申し訳ないのであります…」
抱き抱えていたシズクが突然謝罪をしてきた。
「私は、前回の作戦から何も役に立てていない上にお荷物でありますな……」
「ーーー」
どうやら、前回のことから今回にかけて彼女は彼女なりに悩んでいるようだ。確かに目星しい功績を挙げるどころか、目的の物を破損させてしまっている。
しかし、その失態で霞んでしまっているが、前回の作戦であの大型を一人で叩きのめせるだけの実力があるのは確かだとカルマは認識していた。
(そこまで落ち込む必要はないのだが……)
そもそもシズクのモノリスは一体何なのだろう。
興味がなかった事にカルマは頭を回す。
純粋に身体能力を向上させるようなものだと勝手に思っていたが、あの天童がそれだけで配属させる道理はない。
戦力的なものはヤカゲや童子で間に合っている。
それ以外の何か。別の可能性がある筈。
そして、隊長がオモリを理由に俺と行動を共にさせてる訳がない…。ないよな?
カルマは希望的観測をする。
今まで童子と共にした作戦を思い出すと少し怪しいが…。
カルマはシズクを下ろし、俯く頭にデコピンをする。
「ーーアタッ!」
おでこを両手で抱えるシズクは少し涙目を浮かべていた。
「今は作戦中だ。一々、落ち込むな」
「しかし、実際役に立ててないのであります…」
「……はぁ、俺らはわざわざ目立つ功績を出す為に行動はしていない。そもそも、そういうものは期待されていない」
「ーーーー」
さらに落ち込む素振りを見せたので言葉を選ぶ。
「俺達は、表では掴めない情報を掴み。ヤカゲ達に共有することが今回の任務だ。盗聴器とカメラの設置は今回難しい。……だから知恵を貸せ」
「……ち、知恵でありますか?」
「ああ…。現状、俺のモノリスと兵器だけじゃ、あの建物内の情報は掴めない。正直俺だけだと詰んでる。お前は何の為にいるんだ?」
シズクの落ち込んでいた顔が、考えるような表情を浮かべ始める。
「私は馬鹿でありますよ…。現状、何が足りないのでありますか?」
「ジャミングの影響を受けず、誰にも悟られず、建物内の情報を掴む手段だ。何かあるか?」
思案顔のシズクが目を瞑り、ハッとした表情になり「ダメであります〜」と言いながらまた頭を抱え始めた。
(ーーーはぁ)
「一体、何がダメなんだ。一人で考えるな。なんでもいい……、言ってみろ」
カルマが言えたことではないのだが、一瞬でも可能性を感じたシズクの考えを問う。
「私のモノリス、ウカノミタマは、血を使って自分の霊魂…… 意識を外に飛ばせるのであります」
「は?」
霊魂… というのは、カルマには理解が及ばなかったが、意識を飛ばせるというのはつまり、遠くの物を見たり、聞いたりできるということだろうか?
「え、あの、その… 」
「かまわん。……続けろ」
「えと、物質に…、カンショーされない……?と隊長殿は仰っておりました故、壁くらいならすり抜けられるのでは? それならあの建物の中を覗けるのでありますよ。ただ…」
「ただ?」
「私のモノリス、一定量の血を遠くへ飛ばす手段がないのでありますよ…」
「ーーーーー」 「故に……。カルマ殿?」
カルマはシズクの手元に持っているものを指差し、「はぁ」とここ最近で一番のため息をついた。
ーーーー呆れた。
シズクにもだが、なによりも俺自身に。
カルマは呆れた。
シズクの視線が、手元に向かうと「あああっ!!」と驚き、先程カルマが使っていたライフルをこれ見よがしにパートナーへ見せつける。
「と、飛ばせるであります!、飛ばせるのでありますよ!!、カルマ殿なら!!」
「ふっ、ーーーそういうことだな」
シズクは、飛ばせる事が分かった途端喜び、顔を綻ばせる。カルマが外さない事は彼女の中で確定しているようだ。
早速と言いたいところだが、どのように血を採取するのかがカルマは気になった。
しかし、答えはすぐに出た。シズクは胸元にあるポケットから小型の試験管のような物を取り出した。
そこには5mlほどの赤い血液が既に入っていた。
「使えるかわからなかったのでありますが、一応ここに10本!、作戦前に入れたのであります!ーーーこれで、大丈夫でありますか?」
随分と準備が良い。しかし、灯台下暗しが過ぎる。
彼女は彼女で自分自身に出来ることを考えていたのかと、カルマは感心した。
なら自身も役目を果たさなければならない。
カルマはシズクの評価を改め自身の至らなさを反省する。
「ふっ、十分だ。それと」
「何でありますか?」
「こういうのがあるなら先に言え」
「め、面目ないであります…」
申し訳なさそうにするシズクから試験管を1本、拝借し準備に取り掛かるのであった。
こいつは少し褒めてあげたほうが良いのでは?
この時のカルマはそんな事を考え始めたのであった。
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