適度とテキトーは紙一重
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発足祝いの翌日。
私と童子は要塞都市ニュクスにある悪鬼対策機関の《方舟》の本部へと訪れていた。
少し窶れ気味の童子は「ったま、いてー」と言いながら頭を押さて隣を歩いていた。
二日酔いかな。
童子は何かを思い出したかのように私に声を掛けてきた。
「なぁ、副隊長さんや」
「なんでしょうか?」
「お前さん、ノトスの迷宮区に2ヶ月以上篭りっぱなしみたいだったらしいけど、あれまじ?」
「え?、はい…。ーーー恥ずかしながら無我夢中で2ヶ月くらい、そこの生物を狩りながら食べれそうなやつを焼いたり、煮たりして食べてましたよ?、生でもいけましたね…流石に死んだと思いましたけど生きてます!」
「見掛けによらずワイルドな人生送ってんのな……」
「あはは、そうですか?」
懐かしいなぁと思いながら、なぜ迷宮都市ノトスに行くことを決意したのか思い出す。
単に要塞都市ニュクスの《方舟》が少し信用できない。かと言って《方舟》の信用を損ねると返って危険と判断。
折衷案でナットが教えてくれた知識を頼りに《方舟》にとって有益な素材を回収する事を建前にニュクスから離れる事にした。
それにカルマ、クリオネ、私の3人にはそれぞれ1人の時間が必要だと感じたのも理由の一つ。特に私だね。
共依存のような関係になるのが怖かったんだよね。
アネモネとナットの件で深く傷ついたのは紛れもない事実だが、このまま3人で「だれも欠けないでいようね」なんて口約束をしても枷が増える一方で、益々心のゆとりや自由を縮小させてしまう気がした。
それならいっそ、各々に1人の時間を設けて、今自分自身に何が一番足りないのか、そしてその足りない何かを獲得する為にどのような努力をすれば良いのか…其々考えて生きる道を探る方が建設的と感じた。
自立や自律みたいな?
私の場合は、卑屈な性格の矯正も兼ねていたりしたが、実のところ、序盤の数年間は寧ろ悪化してしまった。
早すぎたかな?と思う頃には遅く、後悔した事は懐かしい。その頃に天童が私を迷宮区まで迎えに来てなかったらと思うとゾッとする。
迷宮区でのサバイバルは、料理を趣味として楽しむきっかけを作ってくれた出来事でもあるので良い思い出として脳内保管している。アネモネの一件以来、人間一人で生きると言うのは難しいと改めて実感し、アネモネの存在が如何に偉大だったかもより鮮明に理解する事になった。
私達の長女が今、意識不明に陥っている。前世の両親と同様に私達のエゴで生きながらえさせていると考えると、少しはあの時の両親の気持ちも分からなくはないかなと感じ始めたが、同じ結果にはしたくはない。
現在のアネモネは、ここ7年間は特に意識回復の兆しはないが、身体は正常そのものにまで回復。現在8年目。
健康体と言っても良い状態。ただ、寝たきり。
前世の私と違う点は覚醒状態では無いと言う事。しかし、決めつけてはいけない。覚醒していないだけで、実は意識そのものはあるのでは? と思ってしまう。
寝たきりになり、意思疎通が図れないまま、意識が存続していた場合、メンタルのピークがあるのは自明の理。
私は2.3年は希望を持って生きることが出来ていた様な気もするが、具体的には思い出せない。
何故なら時間の概念が怪しくなるからだ。
代わり映えのしない景色を淡々と見続けるだけになっていたので、精神が徐々に消えていくような感覚。
意識が鮮明だったとは言え、本能が考える事を拒絶していた。
周囲と自分が溶けていくような…。
兎に角そんな印象。
思い出しただけでもあの恐怖は蘇る。
自分基準で考えるとあと2年のうちにはアネモネを回復させる。あるいは対話ができる何かしらの手段を獲得する事が目標だ。
カルマもアネモネもそれぞれで別のアプローチを模索してくれており、7年間の間で時間を見つけては顔を出している。クリオネに関しては水上都市にいた為ほぼ毎日通ってくれていたそうだ。
意識は目覚めているのではないか、という仮説を信じて、献身的にお見舞いに行ってくれていたクリオネとカルマは本当に良い兄姉だなと素直に感動した。何より嬉しかった。
前世の世界では、約20年以上植物状態で意識不明と診断された人が奇跡の回復をみせ、会話はできないもののあらゆる補助具を使い対話できるまでに至った症例が何人か存在しているため、希望は絶対に捨てない方が良い。
ましてやここはファンタジーあふれる世界だ。
私のように見捨てられて欲しくない。
そう思いながら聞き流していた童子の言葉に耳を傾ける。
「ーーーんでまぁ、今回、今までのヤガゲの功績もあって、迷宮都市に行く作戦が《夜爾》に対して司令部から出されるわけだけど」
「はい、そうですね」
「俺、迷宮区に関しては殆ど知らんが宜し?」
「はい、そうです…ふぇ?」
「ふぇ?」とかよく自分の口から出たなと廊下で一度立ち止まって、童子の顔をまじまじと見てしまった。
ちょっと引き攣った笑顔を童子は、奉仕生物の事は全く知らない中、上層部が出した作戦に参加する予定なのだろうか…。
「いやな? 俺が学生の頃って人間同士か悪鬼か、もしくは両方とチャンバラだろ?? 迷宮区に潜るって事自体できなかったのよ。そこに巣食ってる生物に関しちゃ知ってるし、斬った事も覚えているが…。まぁ、オヤジの目的は別にあるっぽいけど大丈夫そ?」
「そういえばそうでしたね…。な、なんとかします…」
「おぉっ!、頼りにしてるぞー。義理の妹よっ!」
「は、はい…」
時折、童子はテキトーというかいい加減というか雑になる時があるので、幻滅する事はある。
しかし、頼られていると思う事で自分を律していくしかないのかなと思う私は、幾分かポジティブになれている気がする。
あぁ、女の子したい。
でも無理なのも分かっている。
まずは私達《夜爾》の有用性を《方舟》に示す。
それが天童と掲げた当面の目標である。
この時のヤカゲはそう考えていた。
ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・
「はいんぞー」「失礼します」
童子とヤカゲは《方舟》司令室に入り、中央の席に座る司令部の最高司令官アイザック・バレンシュタインの背中に視線を送る。
「来たか…」
アイザックは椅子に座ったまま振り向き、《夜爾》の隊長と副隊長の面を拝む。先日の初任務では、回収された目標大型悪鬼の保存状態が劣悪な物になっていた事は既知。
D³s第二世代、シズク・ナデシコによる戦犯である事はアイザックも理解しているところだが、隊長と副隊長の業務不届きだと言うことも又、事実である。
アイザックが思案する中、ヤカゲは司令室に入って早々頭を下げていた。
「…先日の件、申し訳ありませんでした」
「……貴様は8年前から十分に理解していると思うが、《方舟》にとって研究資材は宝だ。国内の研究はノアおよびA-CKIから産出される鉱bーーーーー」
「ーーーー話長くなりそう?、その辺はもう昔っから言われてっから作戦について確認したいんだが…、ーーーーー宜し?」
「ーーーーちょっ、童子さん?!」
アイザックの言葉を遮り、童子は心底面倒臭そうな表情を浮かべる。一方ヤカゲは慌てふためいていた。
「…ちっ、天童の息子。お前は父親と違い思慮が浅い…。貴様らの立場は私の権限で幾らでも変えられる事を忘れるな?」
「へーへー、言うても、今回の調査は俺のオヤジの頭と隣にいる副隊長さんが迷宮区内の地理に明るいから成立する話ってご存知?」
「童子さん自身は、その態度を取る理屈には含まれて無いんですね…。申し訳ありません、アイザックさん」
司令官を睨みつける童子と対照的に、素直な態度を見せるヤカゲの事をアイザックは、酷く気に入っていた。
8年前から軍の犬として働く彼女の姿勢は非常に好ましく、《方舟》が今後目指す未来への礎として大きく貢献しているのは紛れもない事実であるとアイザックは考えていた。
「はぁ…童子。貴様は所詮、前時代の兵士…。いずれ、隣に居るD³sが盤面を塗り替える事を忘れるな?」
「ハッハッ、言ってろ」
二人の険悪な様子を見兼ねてか、ヤカゲは童子に問い掛ける。
「あぁ…もう…ッ、童子さん、今日の目的ッ!」
「…わぁかった、わかった」
「タバコもダメですからね?」
「……保護者かっ!」
童子が胸ポケットに手を伸ばそうとしていた所をヤカゲが手でキッパリと止める。
「アイザックさん…そろそろ」
「ふん、痴話喧嘩は終わったか…?」
アイザックはヤカゲを一瞥する。彼女は童子の態度に対して年相応のアワアワとした困惑の色を見せるも、隊長より節度礼節は守れる。同じく作戦内容の確認に此処へ訪れている事は間違いない為、早々に説明してやるのも司令官の勤めであるとアイザックは判断した。
「午前中に送った資料の通り…今回は迷宮都市へ向え。国に許可なく研究を進める背徳者共の調査…。内部を暴く必要は無い。早々に取り押さえて貰う」
「はい…。ですが、今回接触する施設…。証拠は揃っていないそうですが?」
「……物的証拠の差押は、捉えてからで十分だと思うが? それにA-CKIに纏わる研究は現在、我々《方舟》とエクスマキナート魔法師学園の一部教諭とそれに連なる学生のみ。取り扱ってるだけで既に罪なのだよ。利口な君なら理解が及ぶ所だろう?」
「ーーーー」
ヤカゲは思案顔を浮かべるが、すぐに返答が帰ってきた。
「承知しました。決行は書類に記述された日程で進めさせて頂きます」
「そうしろ。今回の結果次第では、追々、エクスマキナート学園にも潜入捜査を向かって貰う…。いいな?」
ヤカゲは少し表情を変え、笑顔になったようにも見えたが、アイザックは新たな任務を予期されて喜んでいるものだと勝手に解釈していた。
その後も、幾つか童子とヤカゲからの確認事項はあったものの、アイザックは淡々と事務的に返し、作戦前の会議を抜かりなく終えた。
「では、アイザックさん…、恐らく迷宮区の研究資材に関しては数が減っていると思いますが、なるべく回収してきますね?」
「ほう…、研究員にも伝えておこう」
「はい、お願いします」
「副隊長は真面目だね〜」
「…童子は少し見習え」
手をヒラヒラさせながら司令室を後にする童子を、うんざりした目を向けるアイザックは、本当に親を同じくして育てられたとは思えない対照的な二人だと関心する。
「では、失礼します」
ヤカゲは、アイザックに一礼をしてから部屋を後にした。
ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・
「はぁ、緊張した〜」
「副隊長は良く、あの偏屈な奴と話できるよなぁ」
「童子さんは、よくあんな態度取れましたね…。ヒヤヒヤしましたよ?」
「ハハハ、老害には、あんなもんで良いんだよ」
「そんな、歳変わらないですよね?」
「6歳上だが?、だから気に食わなねぇんだよなぁ…」
(え、意外と離れてた )
私は《方舟》最高司令官のアイザックとの会議を終え、《夜爾》の隊員が待つ作戦会議室へと向かっていた。
実のところ、アイザックと対面する前に童子が何を考えているのかは想像が付いており、ワザとあのような態度を取っている事は理解していた。
「…何れにしても、少しやり過ぎですよ?」
「ん?、でもそのお陰で悟られてないと思うが? どう思う?」
「それはそうですけど…。心配したんですからねっ」
童子の顔を覗き込むと、いつものように剽軽でニヤニヤとした表情を浮かべる。
義理の兄として出会ったのは迷宮都市と要塞都市を行き来しながら悪鬼討伐作戦を1人で来なしている時になるのだが、「お前さん…、俺の妹なんだってな? いつ出来たよ? 誰の子?」と軽いノリで話しかけられたのは随分と懐かしい。
「ヤ、ヤカゲ様っ!、お久しぶりでございます」
「…素材提供感謝しておりますッ!」
「ん? いえ…それより学園からの連絡はありましたか?」
廊下を歩いていると、《方舟》の研究員が話しかけてきた。名前は正直覚えていないが7年近くの付き合いになる。
「はい、それが新しく狙撃銃が完成したとのご連絡がありまして。既にヤカゲ様の一室へ届けさせて頂いてますっ!」
「直ぐにでも試せるかとっ!」
狙撃銃自体は私が扱える訳じゃないんだけどね。
研究員達は、直接カルマに渡すでなく、何故か私に届けてくる。でも有難いのは有難い。
「報告、ありがと、お疲れ様」
「…い、いえっ、では私達はこれでっ」
「…童子様も、失礼致します」
「へ〜い、お疲れさ〜ん」
研究員は報告を終え、走り去っていった。
「副隊長は人気なのな〜」
「え?、素材提供したのは私なので、態々、筋を通してくれてるだけじゃないですか?」
「そんなもんかね…。まぁ、カルマの玩具が増えた訳だ、あいつだったら直ぐ実戦に取り入れんだろ」
「あはは、そうですね」
(マー兄、喜ぶかな? )
ジェミニーが「また、浮気相手がぁ〜ッ!!」と文句を言うと思うが、彼女自身、スコープを付けたがらないので甘んじて受けて欲しい。
「今回の作戦の部隊編成は、俺がやっから追々、ヤカゲに引き継ぐけど良いか?」
「はい、お願いしますね」
「んじゃまぁ、とりあえず皆と話しますかぁー」
《夜爾》の隊員が待つ作戦会議室の扉の前で大きく伸びをした童子の後ろに着き、扉を潜る。
これから忙しくなるなぁ。
そう思いながら気を引き締めて会議に臨むのであった。
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