モツは煮るか焼くかの二択
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私はモツ煮が好きです。
《夜爾》発足祝いと評して中央都市アルバスに位置する飲食店で夕食を取る事となった私達は、実際のところ反省会とシズクの再教育を行っていた。
ちなみにニュクスからアルバスへ車を運転してくれたのはカルマである。軍事ヘリ内で、私の膝の上で寝ているカルマを散々弄り倒した童子も運転できるが、「ギルティ」と評して罪と業を背負ったカルマに運転させていた。
何の罪なんだろ?
でも運転する男の子ってなんか良いよねっ。
それはそうと、店に付いた私達は、店内へと入り、飲み物をそれぞれ注文までは良かったのだが…先程からシズク以外の空気が重たい…。
現在進行形で童子がシズクに対して、部隊として動く為のルールを先程から小出しにしつつ確認している。
「はぁ…、シズクに問題で〜す…」
「はいっ!」
「目の前に大型悪鬼出現しました。敵個体に自身は認識、把捉されておりませ〜ん。貴女どうしますか?、5秒以内に答えてくださ〜い」
「は、はいっ!!!ーーーとりあえず様子見で斬るであります!!!」
ーーぺシン!!! 「ーッあうっ」
出題した童子に叩かれ、頭を両手で抑えるシズク。元気さは及第点である。可愛いし。
「部隊長に報告だろがぁ!!このポンコツ脳筋娘がぁ!!」
「悪鬼の特徴、大きさ、推定される被害規模、遠・中・近距離、どのタイプの攻撃が予測されるのかも忘れずに。ちなみに部隊長が不在の場合は私に報告してね」
私は補足説明を入れる。
「そ、そうであったのでありますか!?、ーーひゃうッ」
ーーーパシンッ
「こいつ…ッ!! 表でろ!!脳みそ、ハチノスにすんぞコラァ」
「まあまあまあ、……モツも頼みましょ」
「臓物の話じゃねぇええええ!!……いや腑は煮え繰り返ってるから、正解か……、うめぇな…」
「焼肉だけにっすね〜」
「…焼きならシマチョウ」
( マー兄も乗っかるんだ… )
先ほどからこの脂の調子で、何度もジノに羽交い締めにされた童子を宥めるという事を繰り返している。
私とカルマはというと、シズクの両隣に座り色々と解説をしながら教えている。
「悪鬼が戦闘中、変異種に変わる事例が何度かあったから、隊長と副隊長以外に単独は許されてないんだよ」
「……その為に狙撃兵が重要になる」
( そうそう、遠距離砲撃で変異種に変わってくれるなら対策立てやすいしねっ )
「ほーっ!、そうだったのでありますなっ!! つまりーーー皆で様子を見てから、斬るのでありますなっ!」
満面の笑みを浮かべるシズク。
「…あはは」「ーーー」
「わお、ホr…、ホンモノじゃん」
「はぁ、得手不得手あるか…。くぅうう、店長、ビールッ!!」
「はいよ」
(それで良いのかなぁ…、いや良くない良くないッ)
ホルモンと言いかけたジノはさて置き、敵を目前にして斬り掛かることを抑えられない衝動は、まるで網の上で焼かれる肉を今か今かと待っているような感じで、皆揃って頭を抱えていた。
でも、シズクの直ぐにでも切り掛かる衝動は少しわかるかな。
私もアネモネの為に無心で悪鬼や迷宮区の生物を討伐していた時期があるので、シズクも何か抱えているのだろうと思う。
違うかもだけど。
レクチャーの後半からカルマは、焦げた肉を見るような顔つきになっていたので諦めてしまったのかもしれない。
(マー兄が、完全に煤けてる…… )
カルマは作戦中の気疲れが出たのだろう。
複数人参加型の作戦では、カルマのモノリスは威力が高く、また広範囲に影響が出る為、一般兵を巻き込む恐れがある。試作品の狙撃銃が完成するまでは魔力操作が並大抵で無い事は皆も知るところ。
様々な事を含めて文句を言わない辺り、本当にできた兄だ。
「…シズク。また今度《方舟》に戻ったら復習しようねっ。大丈夫?」
「…ッ! ヤカゲ殿、宜しくお願いするでありますよ!」
「俺も付き合うわ」
「ん?、ありがと、ジノくん」
「おぉ…ジノも助かるであります!」
「うぃ〜」
意外にもジノから名乗り出てくれた事に心で感謝しつつ、終始「はて?」と言った表情で首を傾げるシズクに翻弄される私達は、今回作戦に参加していないもう1人の隊員を待っていた。
水上都市からこちらに向かっているそうなので、到着が遅れると言っていたが実際始末書やら、報告書やら、お叱りやらで時間が押してしまい先ほどテキトーな店を見つけて入った次第だ。
カルマのリクエスト通り焼肉である。やったね。
ちなみにこの世界では、お酒は15歳からという配慮なので私とシズクとジノも飲める。
ちょっとだけ興味はあるけど、甘いのしか飲めないかも。今日は遠慮しておこうかな。
それはさておき、何を注文するにしても、そろそろ彼女が入ってくる頃合いだった。
ーーーガラガラガラ
見計らったかのようなタイミングで扉が開く音が聞こえ、皆で振り返るとそこには純白の修道服を見に纏った銀髪の女性が入ってきた。
「…あっ、いたいたっ!、久しぶりねっ!、カルマ、カゲちゃん! ……服、間違ったかしら」
「久しぶり!、……服大丈夫?」
「元気だったか?」
「うん、元気よッ!、ほんと服どうしようかしら」
白い服が汚れてしまうと大変なので、一つ提案。
「私の上着貸すよ?」
「あら、いいの?、……カゲちゃんの上着…ッ、ニュフフ」
「……やっぱりやめとこうかな」
「いやァッ!!、そんなこと言わないでぇッ!!」
「うそうそ、冗談だよっ」
気持ち悪いニヤつきを見せるクリオネとの再会は数ヶ月ぶりの事。
クリオネは水上都市のエクスマキナート魔法師学園で勉強を積み、その傍ら私と同じように迷宮都市ノトスの迷宮に籠っては、そこに潜む悪鬼とはまた別の化け物を狩りまくっていた。
たまにパーティを組むこともあったので全く会わなかった訳ではなかったが、歳を重ねる事にクリオネは、より一層何処となくアネモネに似てきたような気がする。
私から上着を受け取りつつ、クリオネは周りの隊員に挨拶をし始めた。昔みたいに匂いを嗅いだりしない辺り、周りが見えているのだろう。ほんとよかった。もう遅いかな。
「童子さんもお久しぶりですね」
「ーーー?」
「……覚えてませんか?」
不安げに見つめるクリオネ。
童子がクリオネを見た瞬間一瞬フリーズしたように見えたが、ハッとなり口を開いた。
「おま、クリオネか? あのちんちくりんの?、まじか!、見違えたな!!」
「ち、ちんちくりん?、私そんな感じだったかしら?」
クリオネにそのようなイメージはないが、童子にとっては、私が知らない幼少期のイメージが強いのだろう。
それにしても昔なら少し弄られると反発してたような気もするけど、19歳にもなると非常に落ち着いていた。
そんな彼女を見て嬉しくもあり、ちょっぴり寂しい。
「成長って早いのな〜」
「美人さんキター」
「これジノ、はしたないでありますよ」
「うふふ、これはどうも」
ジノの発言にシズクがまともなツッコミを入れた事に驚くが、確かに美人さんだと思う。
幼少期から怒涛のイベント続きであまり女の子らしい事してないなぁとふと思い出す事があるが仕方がない。実は、転生してから外食は始めてだったりする。
クリオネが向かった先の水上都市ティアネコッタには様々な飲食店やブティックが存在しているらしく、景観もさる事ながらアルバスの観光名所となっている。
15歳の乙女になりたい私は非常に興味を唆られるが、今は必要ない事だと割り切る。
何れにせよ、クリオネは前世でいうところの上京した女が地元に帰ってきた構図だね。
心の中でサムズアップ。
「あら、カゲちゃん今、変なこと考えてないかしら? ……視線を感じたのだけれど」
にっこりスマイルがちょっと怖い。
どうやら美しさ以上に強かさを身につけてしまったらしい。
「そ、そんなことないよ?、元からクー姉は、綺麗だったけどもっとこー、洗練されたというか……」
少し吃り気味な感じになってしまった。
クリオネは私の発言を聞くや否や、顔が少し伏せ気味になり、肩をプルプルさせ始めてしまった。
(怒らせたちゃったかな…?)
「にゃはあああーーー!、やっぱりもうほんと可愛い!! カゲちゃんサイコーっ!!」
「?!、うわっ!?、やめてよ…クー姉!!」
飛びつく速度が昔が比較にならない。
もはや風を切った速さだった。
どうやらスタイルもより女性的になり、白い修道服から伝わってくるボリュームが素晴らしい。
フローラルっぽい香りが非常に良く、こう言うところも女の子らしくなったなぁとつくづく思う。
「変わってないところは、変わってないな」
「カルマはなんというか…、伸びたわね、身長。体つきも良くなったし男らしくなったわ!!」
カルマの顔を下から覗き込みながら脇腹を小突気に行くクリオネ。
久しぶりに見る光景は、見慣れていた筈の光景で、当たり前だと思っていたもの。
(昔は、クー姉とマー兄って身長同じくらいだったっけ……?)
ここにアネモネが居たら「ほんとに大きくなったわよね」と言ってくれていたのだろうか。
ナットはあまりホームに顔を出すことがなかったけど、「実に〜」なんとやらと言っているに違いない。
カルマとナットがお話しているイメージは想像しにくいけど、仲良かったみたいだし。
8年前を皮切りに見られなくなってしまった温かい光景。
くんかくんかと鼻息が少し荒しい危ないクリオネに再度抱きつかれ、頬擦りされながら考える。
アネモネとナットは現在居ないが、いずれ揃ってくれると信じて、私の出来る事をしよう。
「んまぁ、クリオネも揃った事だし、テキトーに頼むかぁ、シズクの奢りだし遠慮すんなぁ」
「うぅ…、それをすっかり忘れていたでありますよ」
「あら、そんな話になっているのね」
「此奴は初任務でやらかしたからなぁ」
「隊長殿…、初対面のお方に言わないで欲しいでありますぅ…」
クリオネは話を混ざりながら、童子の隣に座り、涙目のシズクの様子を窺う。
「ふふっ、シズクちゃんだったかしら? 失敗は誰でもあるものよ。私は自分で出すから安心して頂戴。ウーロンハイ頼めるかしら…?」
「?!、クリオネ殿は噂通り優しいであります。店長殿ッ!、注文であります!」
「はいよ」
クリオネはどうやらお酒は飲める口らしい。そしてシズクはチョロかった。
ウーロンハイってどんな味なんだろ?
シズクの再教育を打ち切り、各々好きな物を頼みながら《夜爾》結成を祝す。
天童は「儂、胃もたれする」と参加を辞退したので明日にでも肩を揉んだり、叩いたりして労を労おうと思う。
テーブルの一番奥に座る私は、みんなの様子を伺いながら何となく、烏龍茶をストローでちまちまと飲む。
するとジノがこっそり話掛けてきた。
「ヤカゲちゃん、何頼むよ?」
「?、そうだね…。 私こういうところ慣れてないから何が良いのか、わかんないや」
「まじ? んじゃ、俺のお勧め、頼むべ」
( ん?、……べ? )
「うん、何でも大丈夫だよ」
「うぃ、……店長ッ!」
「はいよ」
ジノの語尾は兎も角、幼少期に焼肉には来たが親が頼んだものを口にする事はあっても、自分で注文する事は無かった。
料理はこちらに来て、アネモネの姿を見てからするようになったので、何があるのかは分かるが…。
「何でも良い」って一番難しい返しだった気もするするので、申し訳ない。
運ばれてきたジノのお勧めは、タン塩だった。
食べるのは好き。
でも、何かが足りたい感じがした。
素直に祝う事ができない自分は、やっぱり根っ子の部分は変わって無いなとつくづく思う。
気取られないように明るく振る舞う。仮面を被る。
目の前に居るジノにメニュー表を見せながら声をかける。
「ねっ、ジノくん、……このザブトンって何?」
「お、いくねぇ〜。ザブトゥンは希少部位って言ってなーーーー」
「ーーーおぉいッ!ジノッ!、何、ヤカゲと二人でヒソヒソやってんだぁ?」
「うぇっ?!」
「……あはは、ザブトンって何か聞いてただけですよっ!」
お酒でほろ酔い気分の童子は、私とジノの様子を見てウザ絡みをするようになってしまった。クリオネの視線がジノに向き、鋭くなっているのは気のせいだろう。
終盤、童子の悪ノリで、お茶と見た目がそんなに変わらないお酒をジノに飲ませて、彼が気を失うアクシデントはあったものの、和気藹々と仕事の事を忘れ、話をしながら食事を進めていくのであった。
前世でも飲み会ってこんな感じなのかな?
ちょっとジノが可哀想。
彼の事は私は知らない。
あまり興味がないのかもしれない。
でも、話しかけてくれたのは有難いと思った。
会計は、酔いが覚めた童子が「俺にも隊長としての責任があるからなぁ クソがッ」と言い始め全額払い、ジノを背負って帰る事になった。
その辺はしっかりしてるなと改めて思う。
明日は《方舟》の司令室へ向かう予定。恐らく次の作戦についてのお話があるのだろうと考えながら皆と帰路へ着くのであった。
ちょっと焼肉臭い…。
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