シスコンは業が深い
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最近冷え込み過ぎて足先の感覚ありません。
カルマは狙撃手として悪鬼討伐用特殊部隊《夜爾》に配属され、ヤカゲと過ごす時間が確保され歓喜に満ち溢れていた。
《夜爾》が発足される約8年前。即ち《白嶷》で起こった事件の後の事。
《ネフィリムの厄災》と呼称され、宗教国家アルバス全土で大きく取り上げられた。
楽園都市ガーデンに存在する要塞都市ニュクス管轄施設の殆どが倒壊し、ありとあらゆる研究資材やデータが紛失。
また、複数の研究員に死者が出ており、今後の研究継続は困難。《白嶷》は実質的に撤廃を余儀なくされ、研究の一部をニュクスに引き継ぐ形となった。
そして、カルマを含めたD³sは、要塞都市ニュクスに存在する独立軍隊、兼悪鬼対策研究機関の本部《方舟》が存在する万年雪が吹き付ける山脈へと移住が決定したのだが…。
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ーー
ーーー
ーーーーー
「やっぱり、そうだよね…」
「お爺様!、なんとかならないの?!」
「ーーーー」
D³sが《方舟》司令部から宣告されたのは《白嶷》と軍管轄の施設に対する被害を出した長女の医療費を免除できないという事。また、当面の間D³sの組織的な投機、運用は禁止された事が天童の口から知らされた。
不幸中の幸い。暴走状態にあったアネモネを無力化し、異業種の悪鬼による被害拡大を抑えたのがヤカゲと言う事もあり、アネモネの死罪は免れ、D³s単騎での作戦参加は定期的に認められた。
カルマは自分の不甲斐なさを酷く呪った。
あの時戦った悪鬼がアネモネであった事に全く気付けず、助けられた身。さらに肝心な時に目覚めることがなかった始末。
妹を守る?
あの場で守られ、助けらていれたのは自分自身だった現実はプライドが高いカルマにとって耐え難いものだった。
以前からアネモネが体調を崩しているのは知っていた。しかしあのような事態になる事は全く予想が付かなかった。
また、何故アネモネがあのようになってしまったのか、原因は全くの不明。
《方舟》が調査を行っているが《白嶷》に帰属していた天童や生き残った研究員、そしてD³sが積極的に捜査を進める事は認められなかった。
ヤカゲと共に訓練所へ向かった時、アネモネはナットに呼び出されおり、彼女が研究室に向かっていた際に起きた後の出来事だと、事件収束後にカルマは知った。
監視カメラ映像等が残っていればいいものの、どうやらあの戦いの前に別のところで爆発が起きており監視棟が崩壊。
証拠がひとつも残っていない。残っていないが故にナットに疑いの矛先が向く事はなかったのだが…、そもそも生きているという確証がない。しかし、
「ナツ兄は生きてると思うんだ…」
「カゲちゃん、どうしてそう思うの?」
「わからない…。でも、もしナツ兄があの場にいたのだとすれば、アー姉をあの状態で放って置くはずがない…と思う」
「……そうじゃの。彼奴がみすみす悪鬼化直後の者に遅れを取る気はせんわい。ーーーとなると」
思案顔を浮かべていたヤカゲが口を開く。
「……研究員と一緒に黒いローブを着た人が居た。関係あると思う? 」
「ーーッ!、お爺様!」
「うむ」
何かを思い出したクリオネは天童の顔を見て、確認を取り、お互い深く頷く。
「お爺様と一緒に、カルマとカゲちゃんのところに向かう前…。ーーー爆発音は明らかに人為的なものだったの。……第三者が居た事は間違いないと思うわ!」
「うむ、第三者が居たという線で、黒ローブの奴を調べる必要があるのは、まず間違いないじゃろう。この事に関しては他言無用、この場に居る者だけに留めておくのじゃぞ。それとアネモネの件じゃがーーーー」
「私が絶対に医療費は賄う。……だからそのために迷宮都市にも向かわせて? それと、アー姉は《方舟》に任せられないから、できれば別の場所がいい」
ヤカゲが最初から決めていたかのような勢いで申し出た。
妹は必死だった。
今まで、ここまで自身の気持ちを他人にぶつけるヤカゲをカルマは初めて見た。
黒ローブの人間に声を掛け、引き留めなかった事に対しての責任を彼女は感じているのかもしれない、とカルマは杞憂した。
「…心臓も動いてる。…呼吸もしてる。それにクー姉のモノリスだってある。必要なカロリー…栄養があれば何とかなる筈……だよね?」
「そ、そうじゃが……」
「……私も出すわ。カゲちゃんにばっかり負担をかけるつもりはないかしら。それと私も独自に動く…。姉さんが入院する施設とできれば学園を行き来してみる。カルマも大丈夫よね?」
ヤカゲもクリオネも諦めていなかった。
アネモネは絶対に助ける。
堅い意思が彼女達にはあった。
ーーー諦めるにはまだ早い。
ーーー長男の俺がこんな状態でどうする。
「ーーああ、勿論だ」
天童はカルマ達の顔を見て、覚悟を感じ取ったのか、優しく微笑む。
「ほっほっほ、ヤカゲは戦う前から覚悟を決めていたようじゃしな。ーーーーアネモネの身柄は任せておけ。水上都市にある、儂の息が掛かった病院施設がある。そこで療養させることにしよう。《方舟》の奴らには好きにさせんよ。それは儂とて気持ちは同じじゃ」
「テンじぃ!!」
「お爺様!!」
「ジジイっ!」
「ジジイは辞めんか…」
天童は《ネフィリムの厄災》の責任を取る為、《白嶷》管理者としての地位を剥奪されたものの、国内での影響力は無視できない。
アネモネを《方舟》から無碍にさせる事なく安全に匿う事が出来るとカルマ達は確信していた。
残されたD³sの3人は、アネモネを存命させるべく各々別の場所へと向かった。
カルマは、要塞都市ニュクスで《方舟》の任務をこなしつつ、疑念を抱かれないように対処。
クリオネは水上都市ティアネコッタの学園で、救う方法を独自に調査をしながら、クリオネの病態管理。
そしてヤカゲは3年間カルマと同様に《方舟》の任務に当たり、その後、迷宮都市ノトスの迷宮区と防壁を超えた最前線を行き来しつつ、《方舟》からの信用回復に努めた。
それぞれ7年間、アネモネの医療費のため、より強くなるため、それぞれ異なるところへ向かう事になったのだが…。
カルマは再開したヤカゲの様子が気になっていた。
妹のヤカゲが独り立ちをし、ノトスの迷宮区や《方舟》の単独任務でより強くなったのは間違いない。
迷宮に巣食う生物と最前線の悪鬼を駆逐し、素材を軍本部に納め、天童と共に小規模、大規模問わず、悪鬼の討伐作戦に向かった際には数百体の悪鬼をたった二人で狩り尽くしていた。
そして、ヤガゲが持ち帰る素材は全て表面上無傷。
研究資材としての価値が跳ね上がり、ヤカゲに対しての扱いは、皮肉な事に《白嶷》での扱いより改善。
寧ろ丁重に扱われている話は、耳に挟んでいた。
カルマは本人からは詳しく聞いていない。
と言うよりもヤカゲが話したがらない。
少し気になるところではあるものの、兄としては見守るべきだとカルマは感情を押し殺しながら考えている。
《夜爾》という悪鬼専門の特殊部隊が発足するきっかけを作ったのもヤガゲの働きと元々《方舟》に勤めていた天童の息子である童子がヤガゲに呼びかけたのが大きいそうだ。
ヤカゲは内面的にも外見的にも成長したなとカルマは、開会して一年で感じる。
女の子らしくなったと言うか、女性らしくなったと言うか。
しかし《白嶷》で見せていた自然な笑顔は、全くと言って見られなくなった気がしていた。
どことなく無機質。
悪鬼を倒し、金銭を稼ぎ、アネモネの存命と家族が生き残る事だけを優先しているような。
そんな印象を受ける。
兄としては、ヤカゲ自身の人生を楽しんでほしいのだが…。
ーーーーー
ーーー
ーー
ー
初任務が終わり、軍事ヘリに搭乗。シズクは軍事ヘリに乗り込む前に、こっぴどく童子に叱られていたが、カルマは特に興味が無い上、自己責任な為同情はしない。しかし、妹にも責任が付き纏うので、教育する必要はあると考えていた。
夕暮れ時の空を眺めながらカルマは、横目で正面に座るヤカゲの顔を覗く。他の隊員は疲れて仮眠を取っているようだ。
「マー兄、どうしたの?」
「いや…、何でも無い」
「ん?」
真正面に座るヤカゲは眉をへの字にしながら首を傾げ、カルマの様子を窺う。
「心配?」
「ーーーまた、今度話す」
「……そっか」
カルマの本心は、ヤカゲには妹として、女の子として明るく暮らしてほしいと考えていた。
ちゃんと洋服やら化粧品やらは買えているのだろうか?
甘いものやら美味しいものやら好きなものを食べられているのだろうか?
体の調子が悪いところはないだろうか?
素直に聞けば、教えてくれるだろうか?
クリオネはそこそこ女の子らしい生活を満喫していたそうだが…。学園での付き合いもある為仕方がない。
カルマは時折、そんな事まで考えてしまう。
会ってなかった事による反動が来たような気もするが、立派になった妹に寂しさを覚えつつも3人が離れる事によって得られたもの確実に大きいと感じている。
ヤカゲは恐らく、この結果が分かっていた。
そんな気がする。
ヤカゲは突如立ち上がり、髪を耳に掛けながらカルマの隣に腰を下ろす。幼少期から変わらない緑色の瞳。長いまつ毛、少し紅潮した頬。淡いピンクの唇…。
「マー兄は、心配しなくて良いよ?」
「……ヤカゲ?」
「医療費の安定供給と、軍内部での信用回復が進めば、マー兄にもクー姉にも余裕は出来ると思うから…、もう少しの辛抱」
「そうだな…」
「ーーーーーおいで?」
ヤカゲは笑みを浮かべ、カルマの肩と頭を抱き寄せる。
「マー兄は、考え過ぎ」
「いや…ヤカゲこそ無理してないか?」
「無理はお互い様…。しすぎが良くないだけ」
「…そうか」
「マー兄も少し寝た方が良いよ? ……多分、帰ったら騒がしいし」
「ふっ、そうだな…」
ヤカゲはカルマの耳元で優しく囁く。
彼女は少し、アネモネに似てきた。カルマはそう思う。
いや無理して似せようとしているのか?
再開してから妹っぽさが時折、無くなる。
カルマは兄として、ヤカゲの前に立って舵を取る必要は無いのかもしれないと感じ始めていた。
彼女は、ヤカゲは…。
一人でも立って行けるそんな女の子だ。
いつまでも兄面はしていられない。
しかし、兄で居続けたいと自分自身が願うのであれば、せめて強く、もっと強くなる必要がある。頼り甲斐のある男にならなければならない。
陰ながら彼女に足りない部分を補ってやれば良いとカルマは愚考する。
カルマはアネモネの一件以来、ヤカゲの様子を見てから、そう決意していた。
しかし困ったものだ。
ヤカゲがぽんぽんとカルマの頭を撫でる。
「…少し、寝る」
「うん。…おやすみ、マー兄」
「ーーーー」
また、カルマの耳元に甘い吐息が掛かる。
これではまるで、兄妹の立場が逆だ。
本日の作戦終わりに見る夕暮れは温かいが少し切ない。
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