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鬼に金棒、私に刀

初連載という事で時間を分けて連投しています。

 5歳になった私。付けられた名前はヤカゲ。


 根暗な私にはピッタリだ。


 宗教国家アルバスの楽園都市ガーデン。


 思想がやや強そうな都市に存在する一面白い壁だらけの医療研究機関。


 そこの廊下を必死に走り、ある人から逃げていた。


「これっ!!ヤカゲ!、待たぬか!」


「やだぁああああああ!!!、手に持ってるのなに!?、物騒!! 女の子に絶対持たせちゃいけないやつ!!」


 逃げるのも当然。


 年端のいかない女児に対して、日本刀?に似た武器を振り回す老人が鬼の形相で追いかけてくるのだから当たり前だよね…。


 廊下のすれ違い様に見える大人からは「やれやれ」と言った表情をされたり、「またか」と生暖かい視線を送られていた。


「老師!!、え?、ヤカゲ様!?」


「ヤカゲ様、危ないですよー」


「あははっ ごめんねーっ!」


 施設内廊下で遭遇する見知った研究員に手を振りながら走っていると、曲がり角に差し掛かった際、1人の女性スタッフとぶつかりそうになった。


「?!ーーきゃっ!!!」


「ご、ごめんなさぁーい!!」


 謝りながら女性の頭の上を飛び越え、天井を蹴り、壁を蹴り、曲がり角を曲がってスピードを落とす事なく走り去る。


「ーーもうっ!! ヤカゲ様!!」


「こらぁっ!!待たんか!!」


 尻餅を付いている女性スタッフを尻目に、ぜえぜえと息を切らしているお爺ちゃんをやり過ごした。


 ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・


「はぁ、はぁ、全く……。彼奴の身体能力と反射神経はどうなっておるんじゃ? すまんの。そこの娘や」


「ろ、老師様! いえ、とんでもございません!!、それにしても凄いですね」


「全くじゃ……」


 老師と呼ばれた男は、先程見たヤカゲの一連動作を思い出しながら、女性スタッフが転んだ際に落ちた資料を集めるのを手伝う。


「あの子達の中でも一番身体能力が高いですし…… この前の座学試験では平均94点、動体視力試験はぶっちぎりのトップスコアでしたよ!」


「ほっほっほ そうじゃったか。ーーーほれ」


 資料を拾い終わり、女性スタッフへと返した後、一礼して去っていくのを確認しながら、老師と呼ばれる、ある機関の最高権力者は、目の前の廊下を走り去っていくヤカゲについて杞憂していた。


「あとはモノリスだけじゃのう……」


 老師の左手に持つ武器。


 モノリスと呼ばれる物の中でも一般兵用に量産された武器種-打刀二式-。


 誰でも扱えるようにD³s(ドールズ)の1人が開発した汎用型兵器の一つ。


 開発したD³sの1人が体内に持つモノリスは、武器の開発、修復に特化した能力となっているが詳細は不明。


 現在進行形で本人協力の元、研究が進められている。


 その能力もさることながら、一般兵にも扱えるモノリスを僅か9歳という若さで実現しているのは、彼の頭脳故に可能にしたのだろうと老師は考えていた。


 D³sは身体の臓器を代償にして体内でモノリスを精製しながら生まれる次世代を担う生体兵器として開発が進められていた。


 しかし、ヤカゲは他のD³sと違い身体構造的な特徴も無く、またモノリスの発現すら見られていない。


 すくすく元気に育ってくれている事を考えれば幸いと思うのも、赤ん坊の頃から手塩に掛けて育てた親バカならぬ、爺バカで老師は頭を抱える。


 老師は手が全く掛からなかった息子と違い、本当に世話が焼けると血の繋がりのない孫の成長を微笑ましく思っていた。


 そんな事を考えながら、老師は施設の窓から眺める月を見つめるのだった。



 ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・


 今日の月は綺麗ね。


 と思いながら施設の中庭の木の上に登り、お爺ちゃんをやり過ごそうと考えていたが、どうやらこれ以上追って来ないらしい。


 歳かな。


 私のお爺ちゃんこと、テンドウ フジワラ。


 妙に日本名っぽい名前、漢字に直すと藤原天童なのかな。


 私が処分されかけた際に救ってくれた命の恩人とも言える存在。


 なんでもその辺に捨てられていた私を拾ってくれたとかは、最近聞いた。


 本当かは知らない。


 それに、今はそれどころではない。


 私を元気に育て、偏った知識ばかりだが色んな事を教えてくれる優しい爺ちゃんが、刀らしきものを持って追いかけてくるという状況が最近繰り返されていた。


 とうとう本性を表したか。お爺ちゃん。


 あの人はきっと鬼なのだ。


 前世で、七五三という文化があったけど…。


 男の子に刀、女の子にも刀ってどういう了見なのだろうと頭を抱える。


 そういう文化圏なのかな。


 私は今生活している施設しか知らないため、定かではないが、中世っぽい印象はあるものの、科学はそれなりに発達しているっぽい。


 そして、この世界で生きていくのに必要なものが、天童が持っていた刀。


 あれがきっとモノリスなのだろう。


 この世界は、アッキと呼ばれる化け物が潜んでいる。


 人類はその化け物と戦う術を探りながら日々奮闘していた。


 歴史を少し紐解くと、アッキが跋扈する世界になる以前は、2つの宗教間での争いが絶えず、聖地を巡って血で血を洗う世の中だった。


 そして、魔法と呼ばれる技術を用いて人間同士殺し合っていたそうだ。


 魔法あるんかい。


 思わずツッコミを施設の先生に入れてしまったのは今でも覚えている。


 これで私も魔法少女に!と前世で4歳くらいの時に独りで見ていたプリティーでキュアッキュアなバトルアニメを一瞬思い出した。


 しかし、いつまで少女語れるのかと思い「一瞬でないわ〜」と悟ってからその夢は枯れ果てた。


 前世で寝たきりだった分、精神年齢相応の対応ができているかと言われると正直怪しい。


 でも魔法を使ってみたいとは思うのが少女の嗜みだと思う。


 一向に教えてくれる気配はないけどね。


 理由はアッキに対して有効打、致命傷を与える事が困難だから、と研究員口を揃えて言っていた。


 しかし、困難というだけで今でも使える人間は多数存在しており、また例外的にアッキに対しても致命傷を与えられる人間も複数名居る事は、調べが付いている。魔法師学園もあるらしいから行ってみたい。


 それにも関わらず、研究員だけが詳細を尋ねても教えてくれなかった。


 この手の話はノリノリで全て話してくれるのが、異世界の相場と決まっていると思っていたのに、ここに居る研究員達は、嫌な顔をして誤魔化す。


 アッキやモノリスについては、ある程度教えてくれるのにね。


 モノリスはアッキの心臓部を含めた生体部品を人為的に改造して作られた兵器。


 従来のモノリスは人を選ぶ。魔力を多く持つ人が扱えるモノリスの性能が良く、また強力だったそうだが、汎用型モノリスが開発された事で、様々な価値観を変えていったそうだ。


 汎用型は魔力に依存しないと解釈しても差し障りはない。


 モノリスと魔法と呼ばれる技術の研究が国内の経済バランスを取っているらしく、汎用型モノリスの誕生により魔法に対しての認識が覆りつつある。


 故に、この時代の「研究」とやらは、モノリスの研究の事を指すそうだ。


 こちらの世界に現存する魔法に関する研究は、非常に緩慢になっており、経済的な価値を見出せていない現状があるらしい。


 だから魔法に関して教えるより、アッキやモノリスの知識を優先して教えてくれているだと楽観的に考えている。


 意地悪してるだけなのかな?


 何れにせよ、アッキという人類共通の敵の出現によって各国は一丸となり協力する事になったのは不幸中の幸いだろう。


 私がいる施設《白嶷(はくぎょく)》は、この世界に存在する二大宗教が一つになってできた宗教国家アルバスという国に存在しており、現行で研究が進んでいるのがD³s。


 お人形さん、ステキだね。


 そんなお人形には夢が詰まっている訳ではなく、おっかなびっくりな兵器(モノリス)が詰まっている生体兵器…。


 つまり私と言う訳だ。


 マジカル少女ではなくメカニック少女。


 うん、全然可愛くない。


「ヤカゲちゃん、こんなところにいたの?」


 前世の癖でぼーっと思考に耽っていると、ある女性が声をかけてきた。


「あっ、アー姉っ!、テンじぃに見つかるから見逃して? お願い!」


「あら、また逃げてたの?、ふふっ、相変わらず仲のいい親子? ーーーいや、お爺ちゃんと孫ね」


「ーーーえぇ、仲が良いはずのお爺ちゃんが、刀持って孫追いかける構図のどこに睦まじさ感じるのさ?!、いつの時代なの!」


「んー、時代にはあってると思うのだけど?」


 そうでした。


 心の中で納得しつつ、アネモネが腕を組む姿を凝視する。


 胸の下で組まれた腕。


 口元に人差し指を当てる姿勢。


 如何にもお姉さんという感じ。


 羨ましくて見惚れてしまう。


 綺麗な水色の髪を靡かせるファンタジーヘアーのアネモネはD³s達のお世話係。


 歳の離れたお姉ちゃんであり、お母さんみたいな人だ。


 ちなみにD³sではない。


 それにしても、


「おっきい……」


「?、ふふっ、あなたも成長すれば大きくなるわよっ!、私の勘ね」


 どうやら口に出してしまったみたい。


 視線と言動に気づいたのか、微笑んでくれた。


 ちょっと恥ずかしい。


 この余裕が欲しい。


 精神年齢的には年上な筈の私は、実年齢17歳の女の子にありとあらゆる点で負けていると思うと非常に情けない話。


(やっぱり異世界っ子達の精神は早熟なのかな…?)


「そ、そんなに落ち込まれても困るわよ…。さっ!、降りてきなさい。夕食できてるわよ? みんなも集まってるしっ」


「あぁ、ごめん。ただの考え事だよっ! 今日の夕食は何??」


 アネモネに尋ねながら木から飛び降る。


 宙返りに捻りを加えながら庭に備え付けられた手すりに着地する。


「相変わらず、そういうところは恐れ知らずね…… 今日は鶏肉のコンフィよ」


「ーーお、おしゃれ…」


 コンフィとやらは言語的にも胃袋的にも初めて口にする料理。


 非常に楽しみだなと思いつつ、アネモネという神様が姉力と女子力を足して2で割らずにぶち撒けた娘に敗北感と尊敬の眼差しを向ける。


 私はこの血の繋がりのない長女が大好き。


 優しいし、分からないことはすぐに教えてくれるし、遊んでくれるし、美味しい料理も毎日作ってくれる。


 正直、幸せ尽くめだ。


 しかし、こと魔法に於いてはあまり教えてくれなかった。


 本当に何でだろう?


 そんな事を考えながら家族が待つ食卓へと足を運ぶ。


 その食卓には天童が居たのは、言うまでもなく。


 逃げた事について2.3時間、問い詰められ翌日からモノリスを使った実戦訓練がいきなり始まるのであった。

引き続き宜しくお願い致します。

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