十字架を背負う者
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よろしくお願いします。
一章 終話 です。
普通に生きてちゃダメなのかな。
ご飯が食べたくても口が開かない。
外が見たいなと思っても顔が動かない。
脇にいるであろう人に声をかける事ができない。
病室のベッドはまるで生暖かい「棺」だ。
貴女は死んでるんですよと、生きながらに時間が私に囁いているような、そんな感覚だった。
生きた心地がしなかった。
でも今は違う。
ここには優しい兄姉やお爺ちゃんが居て…。
血は繋がっていないけど、家族ができた。
お話だって出来るんだよ?
ご飯だって食べられるんだよ?
凄いでしょ。
みんなと笑って楽しく過ごす毎日。
幸せだった。夢みたいだった。
やっと私にとっての普通が訪れたんだって思えた。
でも目の前に広がってきた現実は酷いものだった。
正直、目を背けたかった。
争い。A-CKIと呼ばれる化け物との戦いだった。
異世界で魔法が使える?
未知の兵器で戦える?
自分だけが特別?
確かに楽しめる人もいるのかもしれない。
実際私もそんな妄想をしていたけれど、実際目の当たりにしたら怖いんだよ?
でも、慣れってのも怖いね。
自分も何か間違えれば、そうなってたかもしれない子達に刃を向けていた。
もし立場が逆だったらゾッとした。
自分じゃなくてよかったって。
私は案外、薄情な女の子だったと気づいた。
だから何も特別なんて要らない。
普通の人生が欲しい。
もしこの世界に神様が居るのなら教えてよ。
貴方はどうしてこんな世界に私を連れてきたの?
普通の幸せを願う事が間違いだと言う世界があるのなら、私はその世界そのものが間違っていると思う。
でもね。
こうも思えるようになったんだ。
普通だ、当たり前だと思える事もまた、一つの特別なんじゃないかなって。
アネモネが普段から美味しい料理を作ってくれて、クリオネが暇を見つけては私と遊んでくれて、カルマが必死に私達の生活を守ってくれて、ナットが愚直に私達の取り巻く環境を変えようとしてくれている。
自身が出来る方法で普通を獲得し、守るために戦っている。
戦う事を普通だと思っていないのかもしれない。
自身の為に戦える、抗えるという事もまた特別なのかもしれない。
お兄ちゃんやお姉ちゃんがD³sとして能力を使えている理由が分かった気がした。
普通の生活を守る為の特別になろうとしているんだ。
D³sとして何かの為に戦える可能性を生まれながら持つ事ができたのは不幸ではなく、寧ろ幸運な事なのかもしれない。
前世の私みたいに抵抗する事もできず、命が奪われてしまう人間もいるのだから。
なるほど。
小説や漫画のキャラクターってこんな気持ちだったのかな?
ならD³sとして私に何が出来るのか。
ヒーローなんかにならなくて良い、みんなを支えられるお姉ちゃんになりたいの。
こんな卑屈な私でも一緒に居てくれる家族が居るから。
いつかこの性格も。
時間は掛かるかもしれないけれど直したい。
だから生きたい。何がなんでも。
ありふれた幸せのために。
今だけは「心」は要らない。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
心の深い深い底の方。
1人の女の子が座っていた。
それは誰かに似ていた。
誰に似ていたかは、はっきりしない。
上手く思い出せないけど、彼女が言う。
「生きたい?」って。
それは私の願望だった。
前世では叶わなかった些細で見に余る願い。
だから迷わず願った。
ーーー生きたい。
その言葉を聞いた彼女は、満足げな笑顔でわたしに答える。
『そっか。じゃあ仕方がないね』
おはよう。
ーー
ーーー
ーーーーーー
ーーーーーーーー
私が目覚めて真っ先に目に飛び込んできた光景は、天童があの極光に貫かれそうな瞬間だった。
しかし、焦る気持ちは無い。なんでだろ?
悪鬼化したアネモネが放った極光に立ち向かうように空間から出現した純白の棺に、クリオネと天童は魔の抜けた表情を浮かべていた。
「なんじゃ…、あれは…?」
「……カゲちゃん?」
確かに物騒だよね。でも私にはお似合い。
極光は棺に阻まれ、辺りにキリキリと金属音を軋ませながら四散する。
周囲に撒き散らされた光は、辺り一面を破壊する。
その威力は悪鬼化したアネモネの翼すらも巻き込んでしまっていたが、白い棺は微動だにしなかった。
私が棺に入ってました。それなら分かる。
しかし、自分の身体から棺が出てきた感じが全くない事に疑問を覚えるが…。
まぁ、そいうものなんだろうと勝手に解釈しておく。
極光を放った後の硬直で、悪鬼は直ぐに動き出さない様子。
「ーーコワワ¿」
また、棺の様子を伺っているようだ。
「カロン、第二上限解放」
『ーーー』
返事は無いが、自身の中にカロンの存在を知覚できていた。
( 変な感じだなぁ… )
クリオネがそんな私を心配そうな目で眺める。
膝の上にはカルマが安らかに眠っていた。
「もう、大丈夫なの…?」
「うん。大丈夫」
「ヤカゲや…、もしや、お主…」
「……使えるようになったみたい。だから見てて」
クリオネは不安がり、天童は浮かない表情をしていた。
「待ってッ!カゲちゃん、……あの悪鬼はッ」
「アー姉なんだよね…」
「ーーーー」
後ろでカルマを抱き抱えるクリオネは、こくりと頷く。
「大丈夫、身体だけは取り戻せると思うから…」
意識は恐らく今の私では、無理だろう確信めいたものを感じる。
でも、私は戦う事を決めた。
これ以上、失いたくない。
モノリスの使い方は何となく理解している。幸い棺の中身は使い慣れた刀だ。もう一つは…。後でいいや。
「ジェミニーはちょっと待って」
『はいよ、ヤカゲちゃん』
ジェミニーと短くやり取りを交わし、カルマの手元に銃を置く。なるべく近くに居た方がカルマも安心だろう。
「おいで、カロン」
棺は私の声に反応し、隣に降り立つ。
棺を左手で支えながら、アネモネの様子を伺う。
「それ動くのね…」
「ほほ、物騒じゃわい…」
「…そうみたい?」
『むぅ?』
クリオネがそんな感想を漏らすとカロンは少し不満そうにしていた。
棺に少し可愛いと思うのは変だろうか。
アネモネは私の棺に警戒しているのか動こうとしない。
理性的な判断なのか、本能的な判断なのか。
何にせよ様子を見る必要がある。
これから増えるか分からないが、カロンの能力は二つ。増えてほしくないなぁ。物騒だし。
その内1つの能力を使う。
「カロン!、第二棺《緣断》」
『ーーー』
棺の蓋が開き、白い刀が出現する。
「コーイーコーイーワー」
(……怖いの?、アー姉? いや、これは取り憑いた悪鬼の感情かな )
ーーーキィィィン
耳を劈く高音が不快感を煽る。
一瞬で異形の移動速度が上がるも、目で捕捉できていた。
「速いね…」『ーーー』
動きと目線で、棺と刀を警戒しているのが理解できる。
左手で棺の底に付くハンドルを持ち肩に担ぐ。
右手に持つ刀を程よく握りしめ、姿勢を屈める。
ヤカゲは自身の長所が身体能力と反射神経だけだと自覚している。
一気に踏み込み、異形へ接近を試みる。
異形は焦った表情はあまり見られない。
「ヤーー¿」
「……かかったかな?」
異形の右手が青色に光り始めた。
魔法を防ぐように棺を地面に叩きつけ固定。
棺の背後に隠れつつ、放たれるであろう技を確認する。
(……右手、左上段からの薙ぎ払い)
対峙する悪鬼が接近戦用最速の魔法剣《ヘルメースの速剣》である事を即座に判断できたのは、訓練後のアネモネの言葉を覚えていたから。
そして魔法師の戦い方は遠・中距離戦に持ち込むか、近接戦闘に持ち込むかの二択。
距離を詰めれば、最速の魔法を放ってくるのは魔法師として殆ど反射に近いと以前ナットから聞いた話だ。
魔法と棺が金属同士がぶつかり合うような音を発しながら力が拮抗するように見えたが、当然威力の乏しい魔法は弾かれるのは容易に想像が付く。
魔法の手刀が消失したタイミングで、勢いよく棺に回し蹴りを入れ、アネモネに向けてシールドバッシュを狙う。
相手の姿勢が崩せれば御の字。
『…雑』
(ごめんね… )
「コーーッ¿」
アネモネは再生した翼をはためかせ、後方に飛び退く。さらに《オリュンポスの輝剣》が発動する兆候が見られた。
「カロン!」
蹴り飛ばした棺を飛び退いたアネモネの左後方へ配置。
一気に足に力を入れ、アネモネの懐を過ぎ去り、その棺を足場に方向転換。
発動前に超近距離戦に持ち込んでしまえば問題は無い。《オリュンポスの輝剣》発動直後の硬直を狙う。
(…捉えた )
「ーイイtttttt」
両翼の付け根を刀で斬り飛ばす。
「何…、あの速さ…?」
「ほほっ、息子を見ておるようじゃ…」
クリオネと天童が反応を示しているが今は無視。
カロンに念話で指示を出す。
1回目の指示を発声したのはこの為の布石。
声に出さない方が悟られ難いに決まってる。
(『 第一棺《斗掻星の鎖》』)
ーーーーガシャン!!
棺から出現したのは、白銀の鎖。
カロンは即座に新しい棺をアネモネの落下地点から召喚し、魔法剣の発動箇所へ12本の鎖を放ち、魔法を破壊した。
さらに両手足を縫い付け捕縛する。
「ータtttッ¿」
距離が詰められた時点で勝負はついている。
知識通りで助かった。
アネモネが基本に忠実な魔法師だったのかもしれない。
もがき苦しむように鎖を外そうと身体を動かしていたが、一向に外れる気配がない。
「『ーー捕まえた』」
「ーーハハハハナナハナハハ」
私は手を棺に翳し、より強く悪鬼を拘束する。
(もう、大丈夫かな… )
だから、安心して欲しい。
「……カゲちゃん」
「《対話の権利》をアー姉から引き剥がす…。その後はクー姉のモノリスで治療できる? 」
「え?、あ…う、うん」
「ありがとう… クー姉。……あとで私もお願い、ペルセポネさん」
『?ーーー貴女に祝福を』
一通りカルマと治療を終え、その場で座り込んでいたクリオネは、一瞬動揺していたが、私の一言で安心したのか強張っていた身体の力が抜けていった。
私の事を必死に守ろうと頑張ってくれていたカルマは未だに目覚めないが、心配はないとジェミニーが言っていた。
(マー兄は起きてから…、いやもっと後かな)
カルマの能力は奪ってばかりの力じゃない。それを伝える事は、今の私に資格はないから。
私が使っているモノリスの方が偽善極まりない能力だと自覚している。
『失礼…』
「あはは、ごめんね」
カロンには筒抜けだった。ちょっと申し訳ない。
「テンじぃ…」
「……分かっておる」
いつも優しいじいちゃんは、この後の事を理解してくれているようだ。
少し安心する。
天童の身体には複数の傷痕があるが、クリオネなら直ぐに治してくれるだろう。
私は左手でジェミニーを拾い上げ、悪鬼化したアネモネに振り返り、覚悟を決める。
アネモネはまるで棺に磔にされているような状態だった。
「ジェミニー、一発だけ…、あっ、デートだね」
『ギャハハッ、正気かい?、いいよ』
言葉にしなくても伝わるのは便利だ。
「……ごめんね。アー姉。もっと私が、D³sとしての自覚を持ってたらこんな事にはならかったのに……」
「ーカー、ナーナーデ」
アネモネは私の声を聞くと暴れるのをパタリとやめた。
しかしアネモネの身体を這いずり回るモノリス…化物は違った。
腹から口のようなもの開き、極光ではない別の魔法を発動しようとしたその時、
「ジェミニー」
『……はいよ』
私はわざと左手に持つ銃を自分の頭に向けて放った。
ーーードパンッ!!
その音が聞こえてから、世界の音が無くなったように思えたが、今はどうでもよかった。
脳内にキィーンと耳鳴りのようなものが響いているがお構いなしだ。
発砲音だけ鳴らしてくれたジェミニーは私に重傷を負わせる事なく的確に鼓膜だけを裂いた。
耳から血が流れるが気にしない。
音に作用して発動する広範囲魔法の対策は、シンプル。
聴かなかったら良い。そう思った。
後ろで騒いでいる天童やクリオネの様子が少し可笑しかった。
急に自身の頭目掛けて銃をぶっ放す7歳児を見れば無理もない。
でも生きるためなら、もう手段は選ばない。
これから背負っていく自負。
右手の刀《緣断》に銀色の光を纏わせる。
ジェミニーから吸い取られる魔力の流れで身体が覚えてくれた。
使うのはこれが初めてだけど、何となく直感でわかる。
この刀は魔力を纏わせれば悪鬼のコアやモノリスのみを断ち切れるもの。
恐らく、それ以外は何も斬れないナマクラになる。
『む?』
また不機嫌になってしまった。違うのかな?
私は鎖で繋がれた悪鬼化したアネモネの頭のコアを的確に突き刺す。
こんな光景をクリオネに見られたら怒られるに違いないと思ったが、許して欲しい。
「大丈夫だよ、アー姉 」
「アリガトウ」
口が動いたような気がしたが、何も聞こえない。
ただ酷く安心したような目をしている。
そんな気がした。
ーーーパキッ
手にガラスが割れた時のような感触が伝わる。
刀を引き抜くと、刺し傷はついていなかった。
それと同時に、アネモネの体に亀裂が入り、白い殻のようなものが砕け始めた。
鎖はアネモネの身体に入り込み、白い核と殻を回収していくかのように棺に収めていくが考えるのは後にした。
刀をその場に捨て、倒れ込むアネモネを正面から抱き抱え、支える。
目を閉じたアネモネは安らかに眠ったまま。
「おかえり、アー姉……」
振り返るとクリオネは座り込みカルマを膝に乗せながら号泣しているようだ。
目の前で起きている出来事を少し切なそうに見る天童。
ようやく目覚めたのか、カルマは何が起こっていたのかを確認する素振りを見せていた。
全く音が聞こえないけれど、恐らくこの倒壊した《白嶷》という施設に広がるのは、これから何かが始まるであろうという嵐の前の静けさ。
アネモネは長らく起きてこない。
それでも、いつか必ず起こしてみせる。
私は覚悟をした。
今後こんな悲劇を起こさせないためにも強く生き、皆を、家族を守る事も。
私は私らしく生きられない可能性も。
十字架と棺を背負う覚悟をした。
五体満足には、きっと心は含まれていない。
戦える自分を受け入れる方が幾分か幸せ。
だから、おやすみ。夢見た、私。
皆さん如何だったでしょうか?
感想、修正等ありましたら宜しくお願いします。
『よかった』『続きが気になる』と思って頂けたら、
ブックマークや評価をしてくれると泣いて喜びます。
一章はこれにて終了です。二章は 迷宮都市編。
ヤカゲが15歳になり、成長した姿を描いています!
8年間の空白は、小出しにしつつ5章に回収予定ですので楽しみにしていてください!




