白雲孤飛の果て
毎日12時と17時更新!!
よろしくお願いします。
今日の更新分で一章完結です。
「少々、遅かったかの…」
「うそ、何なのこれって…」
2人が目の当たりにしたのは、倒れ込んでいるヤカゲとカルマの姿。
天童でさえも、未だかつて対峙した事が無かった悪鬼が、倒壊しかかった訓練所に佇んでいた。
「此奴は……、ぬ?、似ておるの…」
「カルマ!?、カゲちゃん!?」
「?!、これ! 待たぬか!」
純白の異形には目も暮れず一目散に兄妹のところへ駆けつけようとするクリオネ。
天童はクリオネやカルマ、ヤカゲの事を気にかけるが、異様な存在感を放つ存在から目を離せずにいた。
幸い、休眠状態。
身体を両手と翼で抱き込み、宙で逆さで浮かび上がる様は神々しささえ感じた。
身体を取り囲むように飛ぶ魔法の剣。
それすらも白く銀色に美しく輝く。
いっそ、温かささえ感じる。
それはまるで天から落ちてきたような。
「これでは、まるで……」
「カルマ!!、カゲちゃんしっかりしなさい!」
天童は、クリオネの声に耳と目を傾けながら、異形の様子を警戒。
カルマの右半身は、見るも無残な姿になっていた。
しかし、D³s特有の生命力なのか、あるいは心臓をモノリスに変質させた彼ならではのものかは分からないが、生命活動は止まっていない。
一方ヤカゲは無傷とは言えないものの、何故か握る事ができているカルマのモノリスから朧げに出ている光で彼女を包んでいた為、大事には至ってないようだ。
本来D³sのモノリスは本人にしか扱う事が出来ない筈だと天童は認識しているが…。
今までの惨たらしい研究を間近で見てきた天童にはヤカゲの存在が特異的な何かに見えた。
「ペルセポネ、第一、第二上限解放。癒しなさい」
クリオネは自身の下腹部に手を当てながら祈る。
『伴侶クリオネ、高貴なる祝福を』
クリオネの下腹部から現れた白い2本の糸が絡まり合う。
まるで揺籠のような形を作り、カルマに翳し治療を開始し始めた。
みるみる身体が修復させていく。
クリオネのモノリスは奇跡そのもの。
天童がそう思った瞬間、
ーーーキィィィン
甲高い音が聞こえるとカルマとクリオネの隣に、純白の天使。
いや異形の悪鬼が立っていた。
「ーイジーブ¿」
「ーーーっ?!!」
天童は、目を離したつもりはなかった。
しかし、突如現れた。
「ーーーッ!?、不味い!」
一瞬反応が遅れたが、天童は杖を脇に構えて接近。
悪鬼の喉元を切り裂くかのように、杖を振り上げる。
それに気づいた異形の悪鬼は、瞬時に距離を取る。
「ッ?! お爺さま!!」
「構うなッ! 治療を続けよッ!」
距離をとった悪鬼は身体の周りに飛び交う12本の剣を、治療を施す最中のクリオネを無視して、天童に向かって飛ばしてきた。
天童は魔法の軌道を瞬時に予測する。
杖に銀色の亀裂が走る。
「閃剣七ノ太刀ーーーーー薄雪」
天童は12本の剣先に合わせるように、杖で包み込むように威力を相殺した。
天童が編み出した抜刀術を中心とした剣術である閃剣は、花に擬られた合計9種の剣術。
七ノ太刀は対魔法師用、魔法を受け止め相殺する為の剣技。
天童の息子に継承され、今後モノリスの発現が見られないヤカゲに指南していく事を考えていたが、一向にそれが叶わなかった事を天童は悔やむ。
「……刺突攻撃なら槍を飛ばさんか、ほれ?、邪の天使」
「ーケールーール」
(彼奴が放ったのは間違いなく《オリュンポスの輝剣》じゃ……)
天童が知る魔法師で扱える人間は少ない訳ではない。
天童が、現在教え子として覚えている限りでは息子である童子、エクスマキナート学園のクラウン、近衛魔法騎士団のシスティーナ、そしてもう1人……。
天童の嫌な予感が、脳裏を過ぎるが今はそれどころではない。
「ぬッ?」
持っていた杖が先程の攻防で崩れ去る。
《オリュンポスの輝剣》は近距離、中距離戦闘用に開発された攻防一体型の魔法剣。
本来投げ飛ばすのではなく、自身の周りに待機させながら遠隔で振るう守りの剣。
魔法発動後の硬直を防ぐ目的もある魔法だ。
その魔法を奴は中、遠距離で飛ばしながら運用してきた。
(ーーーならばッ)
「…少し借りるぞッ」
地面に転がっていたヤカゲの打刀二式を瞬時に拾い、後ろに振り向きながら刀を水平に振るう。
「閃剣六ノ太刀ーーーー空木」
空を切った刀は、空間から飛礫のようなもの二つに霧散させた。
六ノ太刀は七ノ太刀と同様に魔法を斬り落とすために編み出された剣術だが「薄雪」と違い、魔法の術理に関係なく、やや強引に切り落とす剣技。その代わり技の出が速い。
天童は納刀しながら悪鬼を睨みつける。
「貴様…ッ!、その戦法を誰から学んだ……いや盗んだのじゃ!?」
「ーーロロ¿」
純白の悪鬼が設置した不可視の魔法は《ニュクスの彗星》。
《白嶷》を管理する軍事組織が立ち並ぶ要塞都市ニュクスで開発された空間から突如現れる奇襲用の学術系魔法。
本来、魔法は同時に処理ができない。
《オリュンポスの輝剣》という高等魔法と正確な魔力操作と空間把握が要求される《ニュクスの彗星》を同時に扱う。
確実に仕留める一手を好む魔法師は現代で1人しかいない。
「ど、どういうことなの?、お爺様……」
「クリオネ、お主も薄々気づいておるじゃろ……」
「ッーーーー」
高等魔法の並列発動を可能にした1人の魔法師。
D³sが最も敬愛し、母のように接し、姉のような存在である彼女。
「ーーテ、ーゲテテテテte」
天童には「逃げて」と言ったような気がした。
天使の姿を模した悪鬼に顔は無い。
しかし、どこか寂しく、どこか切なく、本当は戦いたくないような顔をしている。
そして、別の意思も働いているようにも天童には見えた。
その時、悪鬼の腹部からもう一つの口が開く。
「tttttttttttttttttーーーーー」
突如、声にならない奇声をあげその音は、天童とクリオネの耳を貫いた。
ー
ーー
ーーー
ーーーーー
天童は視界が揺らぐ中、後悔していた。
ヤカゲは闘いを好まない。
当たり前だと天童は思う。
それで良いと考えていた。
しかし、どこかヤカゲの脳裏には日々の訓練で向けられる視線や、兄姉がD³sとして成果を上げている事に心の奥底で距離を感じていたのかもしれない。
普通に育って欲しいと考えていたのは天童や兄姉の価値観の押し付けであり、その他大勢からは生体兵器D³sとして期待されていた事に悩んでいたのではないか?
ーーーーー
ーーー
ーー
ー
天童は思考を切り替え、感情を押し殺すように刀を握り込み、唇を噛む。
しかし、天童の視界は揺らいでいた。
悪鬼の甲高い奇声を聞いた途端、周囲が歪み、酩酊したよう感覚が天童とクリオネを襲っていた。
「ぐッ」
「……こ、これって」
魔法を音に変換する技術。
その効果は万能。
音に乗せてあらゆる効果を付与する魔法。
歌姫と呼ばれたアネモネ・ローズマリーただ1人でだけ。
しかし、彼女が使っていた美声や楽器の音色とは程遠いものを天童は感じていた。
「姉さん……。どうして……」
「ーーーー」
クリオネは天童と違い、自身のモノリスによって魔法の効果を打ち消せているようだが、杞憂していた事が目の当たりとなり、顔が青ざめていた。
「クリオネ!、しっかりせぇ!」
「っ!! お爺さま…、あの悪鬼は…ッ、姉さんの!!、アー姉ちゃんの!!!、どうして!?」
「儂もわからぬわい…!、解せぬな…ッ、侵食が早すぎる……。 それに妙じゃ…。しかし、今2人で死の後の言っても仕方無かろうて…ッ、ヤカゲとカルマを頼むぞ……」
天童は涙目を浮かべるクリオネを横目で確認しながら、叫び散らした悪鬼と対峙する。
幸い悪鬼化したアネモネは音に乗せた魔法を発動した後、頭を抱えながらもがき苦しんでいる様子。
連続で魔法を使用してこなかったのが唯一の救いだった。
天童は刀を左腰に据え、構えながら思案する。
恐らくアネモネが必死に自身に取り繕う悪鬼に抵抗しているのだろうと希望的観測を抱く。
彼女に施されたモノリスの移植手術による影響は、ナットの投薬管理によって非常に緩やかなものになっていた筈。
しかし原因は不明だが、アネモネは異形の悪鬼に成り果ててしまっている。
(あの魔法、対峙するとこうも厄介とはのう……)
音は戦場に置いて駆け引きや予測をする上で重要な要素の一つであり、逃す事ができない事象。
それを戦闘中に操れるというのは、如何に厄介か。
それほどまでにアネモネという一人の魔法師が編み出した魔法は素晴らしいと天童は称賛する。
天童は対抗手段を模索しつつ、横目で後ろのクリオネを確認する。
(頼るしか、あるまいの… )
天童は自身の不甲斐なさを呪う。
「……クリオネや。儂にも、ちとモノリスの効果を分けてくれんかの…、可能か?」
「わ、わかりました。ペルセポネ、お願い」
『伴侶クリオネ、承知しました』
それを聞いたクリオネは意図を理解したのか、天童に向けモノリスの効果を付与する。
継続的な回復効果はアネモネの魔法を唯一緩和し打ち消す。
対処的ではあるが現状最も有効な手段と言える。
天童の腕に巻き付く白い糸のような神々しい輪。
さながら天使の輪のように見えるそれは、彼女自身の優しさそのものを具現化したような美しさだと天童は感じた。
それと同時にクリオネのモノリスの特異性もまた、ヤカゲとはまた違う方向で各国が欲しがるだろうと杞憂してしまう。
何れにせよ、この場に居るクリオネという存在が唯一、アネモネの魔法への対抗策であると天童は考えたが、最悪耳を潰す事も考慮に入れる。
クリオネが声を殺して呟く。
「保って2分と思ってください…」
「……ほっほ、不安じゃの〜」
「もう…! 文句を言わないでください!!」
「ーーむ?」
ーーーーキィィィン
今度は先程とは別の甲高い音が聞こえ、悪鬼が天童の近くに現れ、至近距離で魔法を発動してきた。
「ぬんッ!!」
「カeーシテ」
「返して」と言ったのだろうか、その言葉に天童は顔を顰める。
放たれた学術系魔法最速の《ヘルメースの速剣》を刀で往なし、そのままもう一度、喉元へと剣先を突き立てる。
甲高い音と共に悪鬼はまた、距離を取り空中へ飛翔する。
悪鬼は回避行動を取る直前に《オリュンポスの輝剣》を発動。
天童は、周囲に配置された魔法の剣を捌いていく。
(速いの……、何から何まで……まるでヤカゲじゃ…)
防戦一方な天童は、打開策を思案するが一向に出てこない。
おそらくあの甲高い音は、自己加速の魔法を付与している可能性が高い。
天童はその速さに付いて行くのが精一杯。
クリオネに言われた通り、天童は老いを感じていた。
悪鬼は頭を抱え始める。
「ーーーアタアタアタシシシシシ、ドドドdddoシシテシテシテシテシテ」
「もう良い……!もう良いんじゃ…、アネモネ…!!」
「?!、姉さん、お願い…ッ!、もうやめて!!」
頭を左右に揺らしながら狂ったように周囲へと魔法を放つアネモネの姿に二人は、呼びかけるしかなかった。
おそらくアネモネ自身もコントロールの効かないモノリスと戦っているのだ。
意識が無くなって行く中で、必死に。
狙いが定まらない魔法の一部を、天童はクリオネやカルマ、そしてヤカゲに当たらないように最小限の動きで削っていく。
「ーーーヤダヤダダヤダア・アア・アアアア」
「カァッ!!」
「もういやよ…。もういやッ! 」
カルマに治療を施しながらも、俯き咽び泣くクリオネには目も当てられなかった。
(一刻も早く楽にしてやらねば……)
そう悟った天童は自身の守りを捨て、暴走するアネモネに相打ち覚悟で、特攻を仕掛ける。
「もう、良いのじゃ…、アネモネよ。……どうか安らかに眠るがよい」
(儂は何処で間違ったんじゃ……。こんな事になるならいっそ…)
天童の頭に過る嫌な思考と後悔。
しかし、ここは戦場。
迷っている場合ではないと天童は頭を切り替える。
そして、腰に携える刀に手を掛ける。
「閃剣四ノ太刀 ーーーーーー赤椿」
「ーローテ」
その技は、相手を苦しめず痛みを感じる暇すら与えない断頭の剣技。
(もう、苦しませぬよ……)
「ーーーーーお爺様ッ!!!」
「ーーーぬ?」
天童が放つ剣先がクリオネの声に反応して鈍った。
迷ったのだ。
ほんの一瞬。
心の中で殺してはならないと。
アネモネや大切にしてきた家族の顔が思い浮かぶ。
悪鬼化したアネモネは首を捻り、断頭の刃が喉を掠めるも、紙一重で交わした。
彼女は一瞬の隙を見逃さなかった。
「ーーー■■■■」
それは極光。
刀を空振り、空中で身動きの取れない天童の背中に狙いを定めてアネモネの背中の一部から口が開き、光を放った。
「ほっほっほ、 ……甘さが出たわい」
(所詮ワシも、娘っ子に弱いジジイじゃったか)
天童が死を感じたその時ーーーー
『いつまで、寝てんのさ?、ヤカゲちゃん』
そんな言葉とともに、意識がなかった筈のヤカゲが極光に手を伸ばしながら立っていた。
天童と襲いくる光との間の空間が歪む。
「第一上限解放、おはよう、■■■■■…」
眩い光と共に白い何かが恍惚と姿を現した。
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