白川夜船の向こう側
毎日12時と17時更新!!
よろしくお願いします。
身体が重い、怠い、動かない。
このまま死ぬのだろうか。
意識がまるで世界に溶けていくかのような感覚にヤカゲは襲われていた。
これは二度目だ。
ーーーおやすみーーーおはようーーーおやすみーーー
誰かにそう言われている気がする。
そんな錯覚。
時間が長ようで短く、また短いようで長い。
植物状態になった私は毎日そんなうたた寝のような微睡を体験をしていた。
その時に似ている。
「やぁ」
「…だれ?」
「やだなぁ、僕だよ」
「ーーーだれ?」
目の前に立っているのは、薄桃色の綺麗なロングヘア。
左目が前髪で隠れた1人の女の子が、何もない空間に両手で頬杖をつきながらいつの間にか、私の顔を覗き込んでいた。
その手は細く、病弱で、そのまま光を突き通すのではないかと思えるほど白い肌。
黒いネグリジェがより一層、その白さを強調していた。
可愛らしい仕草で、蠱惑的な表情を見せる紫色の瞳は、どこまでも吸い込まれそうだった。
『やだなぁ、さっきまで一緒に戦った仲じゃん!、ジェミニーだよ!』
「ジェミニー?」
そうだ、思い出した。
私はカルマと純白の悪鬼と戦っている最中だったんだ。
悪鬼が、純白の繭になった事は覚えている。
しかし、それ以降の事はあまり覚えていない。
『あはっ ようやく思い出した?』
「ーーーうん、今どうなってるの?、死んだのかな。それにしてもここは白いね」
あたりを見渡せば、そこは一面ただ白い空間が殺風景に広がっていた。
『はにゃ?、酷く冷静だね。カルマが此処に来た時は割とわちゃわちゃしてたよ』
「んー、まあね」
擬死体験歴が長いから。
というかイメージ通り美少女居るんだね。
それよりも、いつも寡黙なカルマが取り乱してわちゃわちゃしているところに少し興味が湧くが、そうも言ってられない気がしている。
「私に何かあるんでしょ?」
『察しがいいのは嫌いじゃないよ。でもちょっと不気味だね…。好きだよそういうの』
「早く本題」
『わーかった、わかった。……ったく〜、折角の演出が台無しじゃないか』
ジェミニーが華奢な手を後ろで組みながら歩き始めたので付いて行く。
「……それで?」
『この空間は、ヤカゲちゃんの同胞がモノリスと深くパスが繋がった時に生まれる心理空間。僕も驚いてるんだけど、本来繋がる筈のないパスが繋がっちゃったね。マスターが君を守る為に頑張ったみたい』
ジェミニーは両手を大きく広げながら語る。
「へぇ、そうなんだ。メルヘンだね…」
『他にも理由ありそうだけど、それはわかんないや、ごめんよー』
「ううん…、大丈夫」
わかんないことだらけだ。
でも、同胞というのはおそらくD³sの事。
未体験な事なので脳内処理は追いついていないが、恐らくD³sである者は全員経験する何かなのだろう。
私に起きている現象については、ジェミニー自身も正確に理解していないようなので、それについては後々考えることにしよう。
それよりも、
カルマが咄嗟の判断で私を守る為に動いてくれていたみたいだ。
確かにカルマは意識を失う直前、私の持つ銃に触れていたかもしれない。
それならカルマはーーー
『あぁ、マスターは心配しないで。そっちはなんとかなりそうだから、身体の半分持ってかれたけど』
「えっ?!!」
あまり気にしてないふうに見えるジェミニー。
どうしてここまで平然としていられるのだろうか。
『それよりも……、あのコは危険だね。繭から飛び出した瞬間、とてつもない音波……。かなり耳障りな魔法を周辺に撒き散らしていったよ…。幸いその1発で顎は崩れてたけどね…再生してるかな?』
「……どういうこと?」
『僕にも分からない。繭になる前の弾丸が効いてると思いたいけど……。形が変わったアイツは、君達と似た雰囲気を感じたよ。人型だったし』
人型?、私達と同じ?
いや、違う。
違っていてほしい。
頭が全力で否定的な解答を探しているが、どうやら見つかりそうにない。
『……君、頭は普通だけど、知識とかは異常にある感じなんだね…変なの〜』
「……失礼だね」
『ギャハハッ、でも戦闘に関しちゃマスターより良い線行くよ?、何で戦わないの?』
「ーーーッ」
私は普通に生きたいだったし、戦いなんて向いてない。それに私が私じゃ無くなるような気がしたし、それに…
『今まで訓練で戦った奴の事は忘れた方が良いと思うよ?』
ジェミニーが私の顔を覗き込む。
「……どうして?」
『単純な話さッ!、僕やマスター、それに君だって戦う為に生まれたんだから気にしてたらこの先…生きられないと思うよ?、そういう世界が広がってるんだからさッ!』
ジェミニーの言う通りだ。でも…。
『ヤカゲちゃんは、普通に生きたいだけなんでしょう?』
「え?、うん…。できればだけど」
どうやら気持ちが読み取れるみたいで隠し事は出来そうもない。
『なら、尚のこと戦うっきゃないでしょっ! …マスターもおんなじだよ? 』
「同じ…?、同じかぁ…、いてっ」
ーーートスン
ジェミニーが私の胸を小突く。
『ヤカゲちゃんは、生きたい! だから戦う!、とりあえず、それだけで良いんだぜッ!』
生きたいから戦うか。
確かに結びついていなかったかもしれない。
とりあえず、訓練用と評して目の前に現れた悪鬼に成り果てた人間を、自分自身が生きる為と言い聞かせながら、せめて苦しませずに…と、命を奪ってきた。
それに関しては罪悪感はあったが、仕方がない事だと割り切っていた。思ったより私は軽薄な人間なのかもしれない…。でも、
「……独り善がりでいいのかな?」
『にゃはは、周りの事なんて後々ッ!、そんな事考える余裕ないっしょ?』
「……あはは、そうかも」
私はジェミニーに笑顔を向ける。
開き直りだろう。
『……本題に戻そっか。時間ないみたいだし』
「どういう事?」
『起きたら分かるよ。単刀直入に聞くけど、ヤカゲちゃん。君ってまだ使った事ないんでしょ?』
「うん。痛いところ突くね…」
『だから、教えてあげる。マスターには内緒ね。……彼もまだ出来ないからさ』
「…何ができないの?」
ジェミニーは寂しげに笑う。
先程の蠱惑的な笑みと違った表情。
カルマはジェミニーを扱えている気がするけど。
モノリスの事だと思ったが違うのだろうか。
彼女にも言えない心音みたいなものがあるのだろうか。
いつか、この子の気持ちも汲み取れたらな。
前世の私のような経験は非常に苦しい。
伝えたいけど伝えられないという経験は痛いほど経験してきてるから。
私はジェミニーの頬を優しく撫でる。
『およ? ……ヤガゲちゃんって優しいんだね。君は自分が思っているより軽薄じゃないみたいだよ? ……にゃはは、お姉ちゃんみたいだっ。 僕達にその気持ちがあるなら出来そうだねーーーーー』
ジェミニーは目を瞑り、頬撫でる私の手を強く優しく握った。
『ーーーー《対話の権利》の獲得を』
私とジェミニーは更に深い心の奥底に潜りんでいった。
感想、修正等ありましたら宜しくお願いします。
『よかった』『続きが気になる』と思って頂けたら、
ブックマークや評価をしてくれると泣いて喜びます。
明日の更新分で一章が終了。
ボリュームはいつもの倍あります。(土下座)
二章からは迷宮都市編。主人公が15歳。
成長した姿でのスタートとなりますぅううう。




