五体満足なら幸せですか?
初連載です。今後とも宜しくお願いします。
私は普通の人生に憧れていた。
普通の定義は様々で、結婚して幸せな家庭を築く事を普通だと思う人も居れば、独りで楽しく生きている事を普通としている人もいる。もしかしたら自分の夢を叶えられる事を織り込み済みで普通だと思っている人もいるかもしれない。
私の場合は、学校に行く。友達と遊ぶ。趣味を楽しむ。そこに友達という存在もできたら欲しいかなぁ。兎に角そんな感じ。
でも、その人生の前提条件として必ず存在するのは五体満足である事。
手足が動く。頭が動く。体の自由が保障されている事が何よりも重要なんだ。
なら「五体満足なら幸せ」か。
決してそんな筈は、ないよね。
私もそう思うよ。
そんな言葉をベッドの傍らで耳にして来たんだ。
「五体満足なら幸せ」
そんな価値観は何処から生まれるんだろ?
「五体満足でなければ不幸」みたいな事も、わざわざ証明しなくたって幸せな人は幸せだと思うし…。
こんな事を考えるくらい、私は悲観的な子に育ったのかもしれない。
もし、二度目の人生があるのなら、この性格は治したいなぁ。友達も沢山じゃなくても良いから欲しいかな。とにかく制服が着てみたい。スカートって女の子らしくていいなって。ローファーとかも憧れる。JKってやつだ。
もちろん、友達は別に居なくてもいいって思ってる人も私は否定しないし、きっと独りの時間の方が有意義で、何より楽って感じるのも分かるからね。
あぁ、女の子してみたかったなぁ。
今日もベッドの上で天井を見つめながら空想に老けていた。
ーーーーー
ーーー
ーー
ー
「七海さん、残念ですが……」
「もう、可哀想よ…」
「そうだな……。お前はよく生きた。こんな身体で10年も…」
(死にたくない… お父さん、お母さん)
病棟の一室で、医者からの言葉に、両親は抱き合いながら私の様子を伺っているのだろうか。
私の身体は一切動かない。
頭は愚か、目を動かす事でさえも正直難しく思う。
私は叫んだ。心で叫び続けた。
声にならない訴えは届く事はない。
涙が出た。初めてだ。
身体が動かなくなってから10年。
病棟のベッドで私が初めて涙を流した。
そんな私を見た両親が口にしたのは、
「そうか… 辛かったんだな」
「もう、お願いしましょう…」
(違うっ!! 私は生きたいの!! 諦めたくない!!)
怒りや悲しみ、色んな負の感情が込み上げてくるが、自分自身ではどうしようもない。
伝える手段は10年前に失っていた。
交通事故により、心肺一時停止。
脳に対しての酸素供給が絶たれ、残った後遺症は全身麻痺。
意識不明の状態と診断された私は、意識だけは明瞭に残っていた。
そんな状態で私は10年。
長い時を病棟の天井を眺めながら過ごしていた。
最初は両親も諦めず懸命に、色んな病院に駆けずり回って助かる方法を探してくれていたのは知っている。
それは感謝をしている。
病棟の天井ばかりだと退屈だろうと色んな本を読み聞かせてくれたり、外の景色を見せくれたり、出来うる限りを尽くしてくれた。
それでも私の表情や身体は動かせなかった。
非常に申し訳ないと思っている。
そんな中、ある選択を両親が決めた。
私は知っている。
延命治療の医療費は、一般家庭で維持するのは難しすぎる事に。
両親は10年も頑張ってくれたんだ。
仕方がない。
そう割り切る事ができればどれほど楽なのだろうか。
生きたいな…。
そう強く心で願い、目で訴えかけても両親は、涙しながらこう言うの。
「もう少しの辛抱だからな」
「大丈夫よ。もう少しで楽になるからね」
私の心とは程遠い言葉を投げ捨てる。
勝手に産んで、勝手なエゴを押し付ける。
身体も心も、全部思い通りにならないなぁ。
その1週間後くらいだろうか。
私は眠るように、15年という短い人生に終止符を打つ事になった。
ー
ーー
ーーーー
ーーーーーー
泡の音が聞こえる。
まるで海。水の中。
「ーーーNo.04、バイタル安定」
「モノリスの反応を確認、しかし体内に生成されるはずのものがありません……」
「身体の欠損はあるか?」
「ありません……」
意識が微睡む中、沢山の研究員らしき人達の会話が朧げながら聴こえてきた。
(あれ……、私って)
知らぬ間に新しい医療機関に移されたのだろうか。
しかし、液体に満たされたカプセル?に似た桶に入れられているような気がして、これまた随分と発達した施設だなと悠長に感想を抱く。
「D³sとしての運用は可能か?」
「……身体構造に変化が見られないため、断定はーーーー」
「ーーーくそッ、失敗か…」
(モノ?、ドー…? なに? )
わからない単語が出てきた。
目を通した本の数は多い方だと思ったんだけどね。
10年も寝たきりになっていれば、わからない単語もあって仕方がないかと思うあたり色々悟ってしまったなと思う。
失敗やら、変化やら、何を言っているんだろう。
とうとう、両親にまで見捨てられたのかとそう思った。
「処分いたしますか?」
「致し方ないだろう……」
(ーーはい?、処分? え、ま…っ!)
「待たぬか」
自身が産声を出す前に、70歳くらいと思われる厳格な男性の声が容器内に響いた。
「テンドウ様…しかし…」
「待てと言っておる。手ずから拾ってきた命。……みすみす手放してたまるか」
「ーーでは、どうなされるつもりですか?」
老人は、私が入った容器の前まで、杖をつき中の様子を伺ってきた。
はっきり見えないが、その老人の目は慈愛に満ちており、酷く安心感を覚えた。
(助かったのかな……)
「ーーワシが育てる…」
「老師、自らですか?!」
「悪いか?、この子はきっと彼らの希望になるじゃろうて……」
「希望…、 ですか」
「うむ」
テンドウと呼ばれる老人は、私が入る容器に手を伸ばし、優しく撫でていた。
(希望…、希望かぁ…。)
どこの誰だか全くわからないが、直接触れられてはいないものの不思議と安心する温かい手だと思いながら私は、また目を瞑った。
この時、私は赤ん坊になっていた事に全く気づいていなかった。
「そうじゃの。おぬしの名は……」
こうして私は、見知らぬ世界で新たな人生を歩む事となった。
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