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7.やりすぎました?

「本当にすみません! 助けてもらったのに……リールには私から厳しく言っておきますから」

「いや、気にしなくていいよ」

「そうだよお姉ちゃん。あたしの蹴りなんて効かないんだし」

「効かないからといって、蹴ってもいいとは一言も言っていないけどな」


 不服そうなリールが俺のことをギロっと睨む。

 まったく、俺より年下の癖に生意気や奴だ。

 姉のラナのほうは清楚だし口調も丁寧で、どこぞのお嬢様っぽさが出ているのに。


「やっぱり身長と精神年齢は比例するのか……?」

「だから身長の話はするなって言ってるだろ!」


 がしっと今度は脛を蹴られた。

 人体の構造として弱点ではあるが、そういう場所ほど普段から魔力で強化している。

 俺に弱点への攻撃は通じないぞ。

 むしろ蹴った本人に痛みがいくほどだ。


「っつ、なんだよこいつ。岩か!」

「勝手に人を人外するな。君の蹴りが弱いだけだ」

「くっ……いつか絶対泣かせてやる」

「そうか。楽しみにしてるぞ」


 悔しそうに俺を睨むリールを見ていると、少しばかり優越感を覚える。

 数分前に出会ったばかりだが、彼女の扱い方はなんとなくわかった気がするぞ。

 どことなく、()()に似ている気がするせいだろうか。

 雑談に花を咲かせていると、ゴーンと鐘の音が響き渡る。


「試験開始十分前の合図ですね」

「そうか。いつの間にか時間が経っていたんだな」

「行こうよお姉ちゃん」

「うん。レインさんも一緒に行きませんか?」

「ああ、もちろん。それから呼び捨てでいいと言っているのに」


 まだ親密度が足りなかったか。

 出会って数分だ。

 いきなり呼び捨てはハードルが高かったのだろう。

 だとしたら俺だけ呼び捨て、というのも変ではないか?

 馴れ馴れしいとか思われない?

 こいつちょっと話しただけで仲良くなったと思ってるよ、笑笑とか思われない?


「おい、変人レイン! いつまでぼーっとしてるんだよ」

「……お前は敬語を使えよ」


 リールには格好つけないと心の中で誓った瞬間だった。


  ◇◇◇


 試験は大きく二部に分かれている。

 第一部は筆記。

 この国の歴史、魔術、剣術、異能の基礎など。

 主に一般教養を問われる問題を解く。

 筆記試験は比較的簡単で、常識がない者を振るい落とすために実施されている。

 のだと、俺は予想している。

 事実出題された問題はどれも簡単なものばかりだった。

 試験に向けて準備していれば余裕で答えられる。


 試験開始から二時間。

 一部が終わり、三十分の休憩を挟む。


「はぁ……疲れた」

「たかが一時間と少し椅子に座っていただけだろう? 根性がないな」

「ぐっ、あたしは勉強が苦手なんだよ。筆記とか頭使う系は特に疲れるんだ!」

「威張っていうことじゃないな」

「ふふっ」


 俺とリールのやり取りを見ながら、ラナが嬉しそうに笑う。

 

「笑わないでよ、お姉ちゃん」

「ごめんね? でも嬉しくて。こんなにも早くお友達ができるなんて思わなかったから」

「なっ、こいつが友達? 冗談やめてよ!」

「俺も同感だな。初対面でいきなり蹴りをいれる奴と友人になんてなれるか。ラナはともかく」

「ふんっ! 効かないとかドヤ顔で言ってた癖に、小さい男だな」


 それはフリだと思っていいのか?


「……小さいのはお前だろ」

「小さくないわ!」


 うん、やっぱりフリだったな。

 このやりとりは割と面白い。

 友人になれるかどうかは別として、話して面白い相手であることは認めようじゃないか。


「小さくてよかったな」

「こ、この!」


 今度はお尻を蹴飛ばされた。

 ちょっと反動で浮いたけど、もちろんダメージはない。

 反対に彼女の蹴った足が痛そうだ。


「ホントなんなんだよ……」

「レインだ」

「そういう意味じゃないし、馬鹿なのか?」

「あの程度の試験で疲れている誰かさんに言われたくはないな」


 煽るほど彼女はムキになって悔しそうな表情を見せる。

 リールをいじるのは面白い。

 なんだか癖になりそうだ。


「……やはり似ているな。あいつに」

「は? 今度はなんだよ」

「いいや、何も。ところで、二人は専攻は何にしたんだ?」

「専攻? あたしは剣術だけど」


 先にリールが答えた。

 俺は視線をラナに向ける。


「私は魔術です。レインさんは?」

「俺も魔術だ。奇遇だな」

「……まさかお姉ちゃんが魔術だから合わせたんじゃ……ストーカーか」

「そんなわけないだろ。偶然だ。しかし……」


 俺はリールを見てニヤっと笑みを浮かべる。


「そうか。お前は剣術なのか」

「な、なんだよ」

「いいや、ピッタリだと思っただけだ」


 彼女はキョトンと首を傾げる。

 気を抜いていたとはいえ、俺に不意打ちを入れたこと。

 何度も喰らっている蹴りは、俺じゃなければ相応のダメージを受ける重さだった。

 おそらく体術、身体の身のこなしは天賦の才を持っている。

 異能を所持していないなら、魔術より身体を動かす剣術のほうが向いているだろう。


「専攻が違うなら、入学後は受ける授業が別々になるのか。それは残念だったな」

「は? 何言ってんの?」

「ん? 違うのか? 専攻とはそういうものじゃないのか?」

「いえ。専攻はあくまで、自分が何を得意としているのか、何を学びたいのかの意思表示です。必須の講義は違いますけど、この学園の授業は自由選択性なので、どれをいつ受けるかは自分で選べるんです」


 ラナが丁寧に説明してくれたおかげですんなり頭に入った。

 そうだったのか。

 俺はてっきり専攻によってクラスでも分けられるのかと思っていた。


「そんなことも知らないで試験を受けにきたのかよ」

「あいにくと辺境の村出身だからな。詳しいことは誰も知らない。王都に来てから聞いたんだ」

「ふーん」

「なんだ? 田舎者と煽ったりしないのか?」


 そう来ると思って返しを用意していたんだが……。

 彼女は小さくため息をこぼす。


「あたしを何だと思ってるんだよ。しないよそんなこと……あたしたちも似たようなもんだし」


 消え入る声でリールは呟いた。

 聞こえてはいたが、どこか意味深な表情が気になって、あえて聞かないことを選択する。

 それから時間は過ぎて、二部の試験に入る。

 二部は試験というより検査に近い。

 身体測定、筋力、速力、魔力量などを計り、剣術専攻の者は剣技を披露し、魔術専攻は魔術を披露する。

 自分は凄いんだぞ、というアピールの場らしい。

 受験者が多いから効率を重視して、測定の順番はバラバラだ。

 俺たちは先に魔術専攻の試験場へ案内された。


「ここでは自分の得意な魔術を披露してもらう。壁側に見える的があるだろう? あそこに向けて何でもいいから魔術を使ってくれ。では最初の者は前へ」

「お、いきなり俺からか」


 一番手のグループには俺も入っていた。

 魔術を披露するアピールの場。

 ここで自分が学園に入る資格があることを証明しなくてはならない。


「さて、どうするかな」


 ここには大勢の人の目がある。

 いずれは同級生になる者たちばかりだ。

 格好悪いと思われないためにも、それなりの結果を見せる必要があるだろう。

 かといってやり過ぎは禁物だ。

 ドン引きされたら夢の学園生活がスタートから躓く。

 それに、あまり強いところを見せると、また決闘祭りになるかもしれないし。

 

「軽めでいいか」


 俺は右手をゆっくり持ち上げて、人差し指で的を指す。

 そのまま指を上下にふる。

 ここが室内ではなく野外でよかった。


「――【雷虎(らいこ)】」


 天から下った雷が、的を一撃で粉砕する。

 威力はかなり抑えた。

 隣の的まで破壊しないように。

 

「ふぅ」


 これなら無難に合格できるだろ。

 と思って振り返ったら……。


「……あれ?」


 みんな目を丸くしてドン引きしていた。

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