表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
転生した大英雄は今世でモテたいと叫ぶ(切実) -童貞のまま人生を終えてたまるかよぉ!-  作者: 日之影ソラ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

6/20

6.清楚な姉、腕白な妹

 身体が浮く体験をしたことはあるだろうか?

 意識的に飛んだのとは訳が違うぞ。

 ふわっと浮かんだと思ったら真横にドゴーンと吹き飛ばされた。


「ごっ、ぶへ」


 受け身を取り損ねて頭を地面にぶつけ、車輪のごとく転がってうつ伏せに倒れ込む。


「うごっ、ふっ……」


 咄嗟に魔力による肉体強化を施したおかげで外傷はない。

 俺じゃなかったら死んでたね、これ。

 最低でも大怪我してたぞ。

 ただし、怪我はしていないだけで衝撃はダイレクトに伝わっている。

 つまりは……。


「いったぁ……」


 全身痛い。

 とにかくいたい。

 特に蹴られた?左のわき腹がめちゃくちゃ痛い。


「大丈夫お姉ちゃん? 怪我とかしてない?」

「ちょっ、ちょっとリール、いきなり何をしてるの!」

「何って助けに来たんだよ! おいそこの変態!」


 突然現れたショートカットの少女は俺に指をさす。

 いや、俺を指さしているように見えるだけだ。

 なぜなら俺は変態じゃないから。


「おいお前だよ! 銀髪の変態」

「……」


 俺だった。

 銀髪は俺しかいないから確定した。

 俺はゆっくりと起き上がり、身体についた砂や泥をはたいて落とす。

 予期せぬ事態に陥ったが、モテる男は動揺しない。

 ここでもクールに決めようじゃないか。


「ふっ、俺の不意を衝くとは中々やるじゃないか」

「何あの決め顔……キモ」

「……」


 キモイと言われてしまった。

 普通にショックを受ける。

 彼女はガルルルと狼みたいに威嚇していた。

 どうやら色々と誤解を生んでいるらしい。

 ここは冷静に、一つずつ誤解を解いていこう。


「おほんっ、君は大きく二つ勘違いをしている。まず一つ、俺は男に絡まれている君のお姉さんを助けただけだ。断じて変態ではない」

「嘘つくなよ! さっき変態みたいな顔でお姉ちゃんの手を掴もうとしてた癖に!」

「へんっ、あれは彼女の怪我を治癒させたかっただけだ。あと変態じゃない」

「そんなわかりやすい嘘に騙されるわけないだろ! 怪我を治すって、どこにも怪我なんてしてないじゃん!」


 彼女は姉の全身をパッと確認して自慢げに言う。

 そう、彼女は怪我をしていない。

 そのことに彼女が、姉本人が一番驚いていた。

 

「あ、あれ……?」

「どうしたの? お姉ちゃん」

「腫れが治ってる……? さっきまで真っ赤だったのに」

「え? ほ、ホントに怪我してたの? 大丈夫なの?」

「う、うん。もう全然痛くないよ」

「当然だ。俺が治癒させたんだからな」


 二人は息ピッタリで俺のほうへ振り向く。

 どちらも目を丸くして驚いていた。

 あの一瞬、蹴り飛ばされる直前に俺の指は、彼女の患部に触れていた。

 酷い怪我じゃなかったからな。

 治癒させるのに時間はかからなかったよ。


「これで一つ目の誤解は解けたかな? じゃあ二つ目だ。こっちのほうが重要……極めて深刻な間違いを正しておかなければならない」


 俺の今後のためにも。

 この誤解だけは解消しなければならないんだ。


「……な、なんだよ」


 俺は呼吸を整える。

 そして、言い放つ。


「俺はキモくない」

「……」

「俺は、キモくない」

「い、いや聞こえてるから」


 よかった。

 いきなり耳が遠くなったのかと心配したぞ。


「あ、え? そこ重要?」

「重要なことだ! 命に匹敵する重要度だと言っても過言ではない! 俺の将来に関わることなんだぞ!」

「ご、ごめんなさい」


 感情が高ぶってつい大声を出してしまった。

 そのせいで妹のほうを萎縮させてしまったようだ。

 乱暴とはいえ相手は女の子。

 反省しなければ。


「すまない。取り乱した。改めて、誤解は解けてくれたかな?」

「……」

「リール」

「わ、わかってるよ。えっと、誤解してすみませんでした。さっきはいきなり蹴ったりしてごめんなさい」


 姉に諭され妹が頭を下げる。

 少々不満げな顔をしていたが、しっかり謝罪はしてくれた。

 あとは俺の気の利いたセリフで、彼女が罪の意識を感じないようにすれば完璧だ。


「気にしなくていい。あの程度の蹴り、いくら喰らっても怪我ひとつしないからな」

「っ……やっぱムカつく」

「リール!」

「だってお姉ちゃん、やっぱりこいつ変だよ!」

「そ、それは……ちょっと思うけど」


 どうやら姉のほうにも変だと思われていたらしい。

 変態、じゃないだけマシなのか。

 下手に格好つけるのは逆効果なのかもしれないな。

 それにこれをずっと続けるのは疲れる。

 最初の掴みは十分だし、ここからはなるべく自然体で行こう。

 俺は小さく息を吐く。


「あの、さっきは助けてくれてありがとうございます。私はラナ・シレイルです。こっちは妹の」

「リール・シレイル……です」

「ラナとリール、うん、覚えた。俺はレインだ。ここにいるってことは、ラナも試験を?」

「はい。レインさんも、ですよね?」

「呼び捨てでいい。たぶんそんなに年齢も離れていないから」


 俺は今年で十七になる。

 試験を受けられるのは満十五歳以上だから、少なくとも離れていて一つだ。

 十も二十も離れていなくて、同級生というものになるなら畏まる必要はないだろう。

 

「ちょっと、あたしもなんだけど」

「ん?」

「あたしも、試験を受けに来たって言ってんの」

「……え?」


 あまりの驚きに勢いよくリールのほうへ視線を下げる。


「姉の付き添いじゃなくて?」

「なんで付き添いがいるんだよ! あたしも受験者だ!」


 リールの見た目はラナによく似ている。

 髪の色はラナよりも淡い金色で、長さは短いが揃えればそっくりだろう。

 ラナも決して身長が高いほうじゃない。

 そんな彼女の隣で、リールは頭一つぶんくらい小さい。

 てっきり十五歳未満だとばかり思っていた。

 

「単純に身長が低いだけだったのか」

「身長の話はするなぁ!」

「ぐほっ!」

「ちょっとリール!」


 今日はよく腹を蹴られる日だなぁ……。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
新作第二弾投稿しました!
用済み勇者、捨てられたのでスローライフな旅に出る ~勇者はやめても善行はやめられないみたいです~
https://ncode.syosetu.com/n8428hs//

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

7/25発売です!
7pm86qqs2f5ubja2g3z3lfl515it_3v1_133_1jk_1j0pl.jpg

8/30発売です!
458if3gek4wehi5i7xtgd06a5kgb_5gq_160_1nq_cq3f.jpg

― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ