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3.モテる男の条件

 前世の俺はモテなかった。

 まったくモテていなかった。

 女の子に言い寄られたことはもちろんないし、手を握ったことさえ……うん、ないな。


「悲しっ」


 なんだか涙が出て来たぞ。

 どうしてだろう?

 強さなら誰にも負けていないのに、男としては底辺にいる気がする。

 惨敗だよこれは。


「今世はモテてやる。絶対にモテてやるぞ!」


 俺は再び心に誓い、握りこぶしを作る。

 こんな理由で転生までしたなんて、仲間たちに知られたどう思われるかな。

 馬鹿じゃないの、とか言われそう。

 でも仕方がないじゃないか。

 童貞のままじゃ死にきれないんだもの。


「っと、そろそろ準備しないと」


 洗面台に移動した俺は歯を磨き顔を洗う。

 髪を整えるのは後にして、先に昨日の夜準備しておいた服に着替える。

 着替え終わったら髪形をチェックだ。

 寝癖があるとバカっぽく見えてしまう。

 身だしなみなんて、自主的に整えたことはなかったな。

 どうせ戦えば乱れるものだし、他人からどう見られようと気にしなかった。

 一週間風呂も入らなかったときは、臭いから入れとキレられたけど。

 それくらいズボラだった。

 今から思えば、俺がモテなかった理由の一つに挙げられるだろう。

 今世では同じ失敗は繰り替えさない。

 モテるために必要なことはなんでもやろう。

 幸いなことに、俺にはいいお手本がいた。


「まさか俺がイクサを見習う日が来ようとはなぁ」


 魔術の大天才イクサシス。

 あいつはモテていた。

 俺と一緒で魔術師か興味ありませんよーとか、そんなことを言っていた癖に。

 まったく思い返すだけでも妬ましいぞ。

 俺に果たし状が届く一方で、あいつには熱烈なラブレターが届く。

 俺がむさい男と熱い決闘を繰り広げている裏で、あいつは綺麗な女性と甘い時間を過ごす。

 

「裏切者だ、あいつは」


 時々俺に向って、偶には女の子と遊んだら?

 とか言いやがる。

 当時の俺は興味はなかったけど、今の俺なら仲間じゃなかったらぶん殴っていた。

 まぁもっとも、簡単に殴られるあいつじゃない。

 【賢者】イクサシスが残した魔術の基礎は、千年以上経過した現代にも残っている。

 彼が世界に、人々にもたらした恩恵は大きい。

 俺たち四人の中でも、彼がもっとも人類の発展に貢献している。

 そこは認める。

 モテモテだったことはムカつくけど。


 ただ!

 逆に考えてみたよ。

 あいつがモテていたなら、俺だって同じようにすればモテるんじゃないか?

 強さは俺のほうが上だったし、顔はまぁ……あいつのほうが格好よかった思うけどさ。

 そこまで大きく離れていたってわけじゃない。

 イクサを見習って立ち振る舞えば、モテる男の感じが出せるに違いない。


「よし」


 身だしなみを気にするようになったのも、イクサの影響だ。

 あいつは戦いに行く日でも服装とか髪形に拘っていた。

 どうせ乱れるのに馬鹿だな、とか思っていたかつての自分をひっぱたきたい。

 俺たちの戦いは大勢の人々に見られていた。

 そう、見られていたんだ。

 全然気にしていなかった俺と違って、イクサは周りの目も考えていたんだろう。

 俺が気付かなかっただけで、あいつなりにモテる努力をしていたに違いない。

 だったら俺も倣うまで。


 仕度を済ませた俺は部屋に鍵をかけ、宿屋から街中へと出る。

 ここは王都、この国で最も大きな街。

 俺の生まれは辺境の小さな村で、王都へ来るには馬車でも十日はかかる。

 そんなド田舎からどうして王都にやってきたのか。

 もちろん、モテるためだ。


 街を歩く俺の手には一枚の応募用紙が握られている。

 そこには入学者募集と書いてある。

 ここ王都には剣術や魔法、異能といった力を持つ者を育てる最高の教育機関(と聞いている)がある。

 王立フォルトーゼ学園。

 なんだか聞き覚えのある名前だけど、たぶん気のせいだろう。

 俺はこの学園に入学するため、本日開催される試験を受けることにした。

 

 学園とはどんな場所か?

 知識や経験を身に着けるための場所?

 違うな。

 あれは出会いの場だ。

 見知らぬ男女がたくさん集まって様々な催しを行うんだぞ。

 素敵な女性と自然に出会うために、これほど優れた場所があるだろうか。

 実際俺に学ぶことなんてないし。


 剣術は無茶苦茶強い剣士が近くにいて、あいつに勝ちたい一心で身に着けた。

 魔術は大天才と共に研究しているうちに自然と身に付いた。

 異能は珍しかったけど、身近に持っている奴がいて、それが羨ましくてどうにかして手に入れた。


 俺には前世の記憶だけじゃなく、かつての力もそのまま残っている。

 特に魔力はすさまじい。

 昔から魔力量は多いほうだった。

 だけど今は、かつての数倍の魔力を身体に感じる。

 まるで過去から現在の長い時間、ずっと蓄え続けていたように。


 俺は立ち止まり、拳を握る。


「今なら術式を使わなくても大抵の相手と戦え……って違う! そういう考えだから駄目なんだ俺は!」


 顔をぶんぶんとふる。

 そんな風にすぐ戦いと結びつける。

 昔から残っている悪い癖だ。

 モテる男の条件に、戦い好きは入っていない。

 こんなんじゃまた同じ失敗を繰り返すぞ。


 俺はパチンと頬を叩く。


「よし。行くか」


 そうして再び歩み始める。

 すでに目的地は見えていた。

 白い街並みの中でひときわ異彩を放つ漆黒の建造物が。

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