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14.昨日はどうも

 翌日。

 俺は何事もなかったように学園へと足を運んだ。


「ぅ、うーん……」


 大きく背伸びをする。

 ぐっすり眠れたし、昨日の疲れは残っていない。

 むしろ身体を動かせたことでこわばりが減ったようにすら感じる。


 昨日の晩は一応警戒していたが何もなかった。

 念のため部屋に結界を張っておいたから手出しできなかったのか。

 というより、昨日の一戦で目的は達成されたのかもしれない。

 もし奴らの目的が俺ではなく、他になにか企んでいるのだとしたら……。


「面倒になりそうだな」


 平和になっても争いが完全になくなることはない。

 現代でも俺は戦いに縁があるらしい。

 いずれ起こる激しい戦いを予感して、大きくため息をこぼした。

 するとそこへ駆け寄る二人の足音に振り向く。


「おはようございます。レインさん」

「ラナ、おはよう」

「おい、あたしの返せよ」


 リールが右手を差し出す。

 さっさと返せと、言葉だけじゃなく目と行動が訴え掛ける。


「はぁ、先に挨拶だろ。せっかちだな」

「い・い・か・ら! 返せ!」

「ちょっ、腰を引っ張るな! 返すから」


 相変わらず乱暴な女だな。

 まぁ命を狙ってこないだけ、昨日の女性より幾分マシだけど。

 俺は腰から剣を外し、彼女に返す。

 返すとすぐに剣を抜き、刃の状態を確認した。


「……お前、鉄か何か斬っただろ」

「よくわかったな」

「当たり前だろ。あたしの剣なんだから」

「何かあったんですか?」


 リールは刃を鞘に納め、となりでラナが心配そうに尋ねてきた。


「ちょっと知り合いと喧嘩になっただけだ」

「喧嘩で剣抜いたのか!?」

「受け止めただけだよ。怒ると乱暴になる奴なんだ。どこかの誰かによく似てる」

「危ない奴だな。あんまりあたしらと関わらせるなよ」


 と、逃げいる彼女が忠告してきた。

 どうやら自覚なしのようだ。


「そっちはどうだ? 変な奴に絡まれてないか?」

「あ、はい。今のところ……大丈夫みたいです」


 ラナはきょろきょろと周囲を見渡して答えた。

 探していたのはラドルスだろう。

 さすがに昨日の今日でちょっかいはかけてこないか。


「ならいい。今日からは気にせず過ごせるな」

「はい。レインさんのおかげです。本当に……感謝してもしたりないくらいです」

「別に気にしなくていい。俺にも利はあった」

「利益って、なんの利益だよ」

「ふっ、さてなんだろうな」


 もちろんモテ要素が増えたことだよ。

 口では言わないけど。

 ラナも格好よかったって言ってくれたし。

 か弱き女の子を救う……まさにモテる男だろ?


「ニヤニヤしてる……ねぇお姉ちゃん、やっぱりこいつも変だよ」

「あははは……」


 ラナの好感度も間違いなく上がったはずだ。

 順調順調。

 やっぱり学園はいいところだなぁ。


  ◇◇◇


「……また退屈な授業を受けるのか」


 やっぱり学園は面倒なところだ。

 今日も朝から座って熟知した内容を聞かされる。

 

「今日は寝るなよ。一緒にいるあたしたちまで先生に目をつけられるんだからな」

「そう言われてもなぁ……」


 退屈なものは退屈なんだ。

 せめて俺が知らない知識でもあれば……。

 何か興味をもてそうなものはないかと、講義をする部屋をぐるりと見渡す。

 改めて見るとかなりの人数が同じ講義を受けていた。

 こんな基礎中の基礎に時間をかけるなんて、本当に穏やかな時間になったなと思う。

 昔はすぐにでも戦えないと命を守れなかったのに。


「まぁその所為で発展も止まって……ん?」


 視界の端で、一人の生徒に注目する。

 階段状になっている席の中央左端。

 俺たちがいるのは上段からだと髪の毛くらいしか見えない。

 真っ黒のショートヘアで、細身で小柄な女性。

 周りが隣の席同士で話をしている中、ポツリと一人浮いている。


「どうかしましたか?」

「……いや、ちょっと知り合いを見つけただけだ」

「お知り合い?」

 

 俺は不敵に笑う。

 どうやら授業中、眠らずに済みそうだぞ。


  ◇◇◇


 退屈な授業が終わり、休み時間になる。

 次の授業開始まで十五分。

 ほとんどの生徒は教室を移動したり、そのまま残ったりと行動を始めた。


「次の授業は三階だよね、お姉ちゃん」

「うん。遠いから速くいかないと」


 二人がせっせと席を立つ中、俺は座ったまま彼女を見つめる。


「レインさん?」

「何してんだよ」

「……悪いけど、次の講義は二人で行ってもらえるかな?」


 黒髪の女の子が立ち上がったのを見て、俺はゆっくりと立ち上がる。


「ちょっと用事を思い出した」


 二人と別れた俺は一人で部屋を出る。

 先に出て行った黒髪の女性はすでに姿がなかった。

 俺の視線に気づいて逃げたのか。

 おかげでより確信がもてる。


  ◇◇◇


 学園の中央には庭がある。

 それなりの広さがある庭には、湖や林もあった。

 もうすぐ講義が始まるこの時間、庭を歩いている者などいない。

 ただ一人、黒髪の彼女が急ぎ足で行く。

 その眼前に――


「もう講義が始まる時間だぞ」


 俺は堂々と立ち塞がった。

 彼女は立ち止まり、髪と同じ黒い目で俺を見る。

 いきなり声をかけられたのに顔色一つ変えない。

 が、動揺によって魔力が揺らぎを感じる。

 その小さな揺らぎは……。


「昨日ぶりだな」


 一言をきっかけに、大きさを増す。

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