最終章 第二十六話 壊滅の時は
(全く、ごちゃごちゃしてきたな。寛大聖教の連中はFencerを敵視していて、その中の一名の暴走によって壊滅。問題はその一名の動向、目的は何なのか。で、人間共がそうしている間にも快を巡って人外共が……天護町のこれまでの日常が不思議な位のどんちゃん騒ぎじゃあないか)
グリードは頭を掻きながら資料室の奥へと進んでいく。
資料室の奥、廊下の右壁には扉があり、そこには【研究室 1】の文字が記されていた。
軽くグリードはノブを回し、引こうとするが、引っかかったかのように微動だにせず。
押しても見るが、同様に反応は無い。
グリードが壁の辺りを確認し、そっと触れてもみるが、そこにはセキュリティと思しきものは一切見当たらなかった。
(またバリケードか)
グリードが扉に触れると、扉は跡形も無く消滅していく。
扉の先を覗くと、グリードの想定通りの光景が広がっていた。
椅子や机が要塞の様にでたらめに積み上がっており、壁を成していたのである。
机と椅子の要塞を、グリードは手で触れ扉と同様に消していくと、足元で乱雑に倒れている本棚がグリードの目に映った。
グリードは本棚を片手でゆっくりと起こしていくと、本棚のガラスから漏れ出るように資料らしき書物の束が出ていく。
書物の束を、元の位置に戻そうとした瞬間――グリードの視界に電流と形容すべき衝撃が迸る。
【力ノ指輪、及び魔法石研究記録】
(まさか、これは……?)
グリードは、その記録長をめくり、特に気になったページを深々と読み込んだ。
“――1983年 3月12日
寛大聖教から押収した数々の鉱石は、硬度計による耐久試験によっていずれも硬度・靭性、その外見において地球に現存するものと酷似しており、それぞれが仄かに熱や異常な靭性を持っている事が分かった。
また、応酬時には若干のひびが入っており、その管理体制も工具箱などに仕舞われていた事から寛大聖教の資金源ではないようだ。
紅いものを炎のロードナイト、水色を水のカイヤナイト、黄緑を風のジェダイト、黄色を岩のモリオン、緑を雷のアンバー、透明なものを氷のラピスラズリと我々はこれを呼称することにした。
今後とも、研究を続けていく所存である。
“――1983年 3月13日
便宜上、その靭性と硬度から呼称を決めていた我々だが、それを否定せねばなるまい。
あれらは到底鉱石とは呼べる代物ではなく、これまでの四代元素に関する常識すら稚拙な見解に過ぎなかったのだ。
紅いものを研究員が硬度計で破壊したところ、突如自然発火したのである。
最初我々はこれを摩擦によるものと想定していたが、同様にカイヤナイトを破壊すれば、水が弾け飛び、モリオンを砕けば砂埃が散った。
問題は、ラピスラズリとアンバーである。
ラピスラズリを破壊しようとした瞬間、ひび割れかかったラピスラズリから冷気が漏れ出、破壊された瞬間一気に硬度計ごと床を凍りつくしたのだ。
研究員は測定途中でその場を離れたため、手袋が凍った事以外、特筆すべき被害は無し。
高度計は床と一体化し、別の部屋を使う事を余儀なくされた。
別の硬度計を使い、アンバーを砕こうとしたがアンバーから出た電流によってコンピュータはショートし、硬度計が破壊された為実験は中止。
我々はこの宝石の個体差に着目し、研究していきたい所存である。
“――1984年 1月9日 重要単語備忘録
・禁忌古文書 主に鳥居や、深海など他世界の入り口と呼ばれている場所から出土する石板→古代にも異世界との繋がる瞬間が?
・魔力とは 人外の持つエネルギーの総称、元素エネルギー、自然現象を発生させ操るための力→かつて人間にもあった?(備考 古文書4番より)
・破壊の際に漏れ出るエネルギーは、吸収した魔力によるもの→魔力を持った人外が握ることで送る事ができる?
・レクスへロスブロードとは 古文書四番に記された古代の王であり英雄。大柄な体躯を持ち、当時の記録を忠実に再現すると2メートル以上の身長となる。死体が発見されていない→実在の可能性無し?(備考 寛大聖教の短剣との関連。ビルガメシュ叙事詩との関連)
・日本神話のはるか以前に大陸の文化が?→短剣のデザイン、出土した石板の文字に共通、独自の古代文字(楔形文字、ヒエログリフなどよりも古いとみられる。ヘブライ語の原形?)
・宝石の利用方法→寛大聖教は知っている?→全て押収の必要 有
ページをめくれば、どれもがグリードの見知った効果が次々と解明されていく様がありありと記されていた。
宝石の使い方から、その発生源。
そして、世界の始まり――デモニルス歴についても。
グリードの手が止まったのは、その中でもあるページが目に止まった時。
“――1990年 2月10日 力ノ指輪、プロトタイプ開発成功
宝石の能力を引き出すには、前提としてその封じられた魔力を開放する必要がある。
我々は、その力を偶然通りかかった悪魔属の爪、指の骨を使い指輪の形に形成した。
理論上、これにより指輪自体に魔力を持たせ、魔力と魔力を繋ぎ留め、握り締めるだけで宝石の力を最大限に操れる。
悪魔属の爪を、宝石を型にはめた際の固定針とすることで、必要魔力の調節可能。
尚、使用後の魔力が枯渇した場合、強制的に破壊される模様。
今後、禁忌属や対人外兵器運用のみならず、各方面でのエネルギーの供給などが期待される。
量産の必要も考え、捕らえた悪魔属の指を一本一本、耐久性もテストしつつ採取する所存である。
参考資料、古文書1番にこれと酷似したものに記述があるためそれに倣い、“力ノ指輪”と呼称することとする。
“――2022年 5月11日 力ノ指輪、改良型の完成
度重なる硬度計と試用などから、骨を(現段階、別途試験段階の装備 以下は双剣と呼ぶ)双剣に使った金属でコーティングすることでプロトタイプに見られた宝石の暴発問題の解消に成功。
この魔力を吸収し抑える金属の出土により、量産体制が整ったと言えるだろう。
双剣より、安全な兵器の運用が期待できる。
これを、最重要作として研究室5に保管、管理しておくこととする。
パスワードは――”
パスワードの所は黒く塗りつぶされ、読めず。
グリードは記録帳を仕舞って廊下に出る事とした。
長い、長い廊下を抜けた先は、巨大な――穴が空いた壁が現れる。
穴とガレキの具合から、爆破によって無理矢理に突破されたであろうことはグリードの想像に難くなかった。
穴の奥には、何らかの金属でできた箱が台座の上に置かれており、箱には深い切り傷ができている。
グリードが傷から中を覗くが、そこには何もなく。
試しにと言わんばかりに、グリードは人差し指を差し込んでみると――人差し指は内側に引っかかる様子も無く、中で曲げる事さえできる始末だった。
グリードが後ろを向き、ガレキの中に注目するとそこには【研究室5】の文字が刻まれた看板が紛れている。
導き出される答えはただ一つだった。
(ははぁ盗まれた、のか。しかし何の為だ?)
グリードが念じ始め、全身に魔力が集い、瞬間移動魔術を使う。
目的地は――ちはと棕の居る森である。




