最終章 第二十四話 我が身の正体
すみません、遅くなりました。
次回、急展開です
燃え盛る激情。
氷塊の如き、視線。
眼前の者を叩き伏せる、溢れる力。
全てを、憎悪でもって破壊する暴力。
快は、その空間においての支配者となっていた。
正面の敵を、ねじ伏せる為に、用意した空間の。
それは、まさしく悪魔の支配者。
内なる憤怒を、解き放った瞬間であった。
「消え失せろ、お前のような奴はいちゃいけない」
突き出した拳が煌めくと同時に、悪魔が消滅する。
悪魔が黒き炎に包まれ、みるみるうちに消えていくと同時に――快の周囲を包み込む空間も瓦解していく。
それは、二者を閉じ込める、ガラスでできた箱から元の世界へと解放していくように。
完全に元居た場所へと戻ると、快にまとった、赤黒いオーラは展開した空間と共に消えていった。
消えていく赤黒い炎は、薪を燃やし尽くし――残ったのは灰だけだと示すように。
「大丈夫かい君、迷子?」
ふと快が我に返ると、目の前には警帽を被った男の顔。
周りを見ると、倒れていた筈の電柱が元の形状に戻っており、上を見上げると流れていた流星は消滅していて、朝焼けに空を染めている。
男の視線を躱すように、首を傾け後ろを見てみれば、喫茶店は何事も無かったかのように光を灯していた。
「いいえ、大丈夫です」
「親元まで送って行こうか?」
「タクシー代を持っているので、大丈夫」
快がそう言うと、警察官の男は立ちあがって怪訝そうな顔を浮かべる。
快は、軽く念じ、隻眼で警察官を捉え、警察官の胸元にそっと手を触れた。
妖しい、桃色のオーラをまとい、警察官の顔をじっと見据えて快は言う。
「何も、問題はありません。大丈夫。それにここはあなたの管轄外の筈だ……いいね?」
「何も……問題は……ありません。ここは管轄外……」
警察官は復唱すると、快の元からそっぽを向いて立ち去った。
快は、それを見届けほっとした様子でその場に座り込む。
(心を操る魔術……魔神ダンタリオンの魔術を引き出したはいいけれど、疲れた。にしても、一体なんだったんだ今の景色は……)
快の見た光景。
それは、快がダーカーズデビルノコンの鎧を発動させた時の光景と酷似していた。
快の脳裏で、景色を回想すればするほどに、映像は途切れ、砂嵐の雑音を彷彿とさせる――誰の物とも知らぬうめき声が聞こえてくる。
うめき声に耳を傾ければ、ふつふつとした加虐的な感情と、吐き気を催す程の憎しみが湧きあがる。
快は、その感覚に対し恐怖を覚え、後に思考を停止させた。
(一体これはなんなんだ? デモニルスの残骸とか言っていたけど……“デモニルス・クロウズ・シャルハルトル”だっけか……何者? それに……)
快は、周りを再び確認する。
遠くにはどんどんと朝日に照らされていく、赤レンガ作りの屋根に覆われた住宅達。
正面には食事をしていた喫茶店。
今まさに快が踏みしめているアスファルトさえ、元通りになっていた。
快は、思わず呟く。
「訳がわからない。全部が元通りになっている……まるで世界をまるごと書き換えたような……はっ!?」
世界を書き換える。
思い当たる事象は一つしかなかった。
そして――快は、飲み込んだ宝石の説明を思い出す。
ダーカーズデビルノコン。
触れた者の記憶と、魔力を記憶し吸収し続ける魔の宝石。
(禁忌権……発動した覚えはないのに発動して、あいつをやっつけた。だとしたら、間違いなくダーカーズデビルノコンの記憶がそうさせているに違いない。じゃあ……この記憶の正体は!?)




