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‐禁忌の召喚者‐ ~The Toboo summoner~  作者: ろーぐ・うぃず・でびる
最終章 The Toboo summoner
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最終章 第二十二話 残骸という人格


 快は、堂々として笑みをたたえ続けるローを、ただ見つめる。


 どこか楽し気なローの様子は、快にとって不審に思わせるもので、自身に与えられる食事がそれを加速させていた。


(何が目的で、僕を呼んだのだろうか。Fencerの壊滅を僕に報告するなんて、どういうつもりなんだ。僕のバックに付くであろう味方が減ったと怯ませでもしたいのか?)


 そう思いを巡らせて、快が席を立とうとした瞬間、ローは目を輝かせ語る。


「おっと、話を聞いておくれよ? さて、Fencerの壊滅、リーダーに完全にああして依存していた以上は存続や復興も難しいだろうね――これから人外は蔓延り、もっと争いは激化するだろう。禁忌の存在を中心にね。君とて例外じゃあないむしろ争いの原因と言っていい」


 ローが席を外そうと立ち上がる快の肩に手を伸ばし、座らせると快は困惑した様子で従った。


 余裕を浮かべたその態度に、快はやがて静かな苛立ちを覚え始め――眼孔を鋭くし、ローを睨み上げる。


 その様子を、想定内とばかりにローは膝を組み、両手を広げて一息を吐く。


「――ほらほら、怒ってきた。問題の部分がやってきたぞ。もう一人の君が現れたぞ、“君”をジキルとしたら、お前はハイドとでも言うべきか。破滅をもたらす人格よ、魔改造の慣れ果てよ」


 静かに、小刻みな笑いを抑えてローは席を立つ。


 快はやっと解放された――かのように釣られて席を立つと、受付でその足は止められた。


「あの、ぼくくん、お勘定まだだってお兄さんに言っておいで? それとも、ぼくくんが払う?」


 店員の声である。


 快はそれに呼び止められると、上着のポケットに乱雑にしまっていた一万円札を取り出し、お釣を受け取って雑にリュックのポケットへしまい込むと、店を出た。


 出口には、何食わぬ顔で佇むローの姿。


 快が声をかけようとした瞬間――ローが後ろを突然振り向く。


 快は、静かな声で、ローに言った。


「何のつもりなんだ、何がしたい? 僕に、何をさせ何を望んでいる?」


 開けていく闇夜、切り裂かれていく暗黒と輝きだす背が低い屋根の群衆を背に――ローは牙を覗かせる。


 ローが両手を広げると、その手は先ほどよりも鋭く伸び、後ろからは漏れ出る様に黒煙が立ち込め出していた。


「少しは、自分で考えないか? 私がこんな行動をした理由を、わざわざ説明してきた訳を……問題は君には要求しちゃいないという事だけだ。“お前”に要件があるんだ、その人格に」


「その人格?」


「そうだ……気づいていなかったのか? 君の中には、激しい感情があるはずだ……特に、負の感情が魂に刻まれ、魔力の主成分となっている……あの教会で君を見た時は、まさかとは思ったよ、が、愛魅に対して啖呵を切ったあたりで薄っすら、そして、今! 君の言動を見て確信に至った」


 快が歯を食いしばらせ、ローへ一歩出ると快は叫ぶ。


「だからどうした、僕は僕だ! 朝空 快(きよそら かい)だ!!」


 猛禽の翼を広げて、赤い爪を鋭く尖らせ、黒煙をまき散らすロー。


 まき散らされた黒煙は、周囲を巻き込み、上空へと昇って行き――太陽を隠していく。


 さも、天を偽るように。


「あぁそうだろう“君”はね! だがその奥にあるものはなんだ そのカードは! 魔神の召喚と使役、異常な行動力! 人外に対して臆する事の無い性格、勇敢を通り越してもはや蛮勇ではないかい?!」


 黒煙に隠した人型は、その形をどんどんと崩壊させていった。


 骨の折れるような音と、何度聞いたかもわからぬ、肉が破裂する音が響きわたり、醜いシルエットが暗闇の中で鈍く光っていく。


 黒煙が辺りから晴れていくと、やがて快の目に――そのおぞましい造形が露わになる。


 猛禽の翼の下には、コウモリの羽が生え、顔は山羊に似て、口はわにの様に裂けている。


 口から覗かせる歯の一本一本血に濡れているかのようにぬらぬらと紅く光り、頭部は鱗の様に光る粘液の髪に覆われ、瞳孔は十字を模したが如く。


 眼は、左右で赤と緑に発光し、紫の斑点に灰色の体は3メートルにも及び、大型の肉食獣を彷彿とさせ、尻尾はカギのように曲がり、鋭い。


「私は、禁忌の存在を前々から知っていた。世界を混沌へと導く存在だという事もね。それが目の前に居るのなら、排除させてもらう。君には申し訳ないけど……お前に言っているんだ“デモニルスの残骸”ィ!」


 声から、ローだという事を察知した快は構え――目を閉じて念じる。


(今度こそ!)


 快は、魔術を発動させようとするが、何も起こらず。


 対するローの攻撃も無く、ただ何かが崩壊する音だけが響いた。


 快が目を開けると、そこには意外で――自身が思っていたよりはるかに衝撃的な光景が広がる。


 ローは、一見すると何もしていなかった。


 後ろを振り向くと、喫茶店は破壊されており、快はすぐさま正面のローを睨む。


「お前、何をした?」


 平然として、ローは答えた。


「あぁ、こうでもしなければ君から残骸が抜け出さないから……怒りが無ければね!」


 ローが上を向くと、口先から緑色の光線を放つ。


 光線は空中で割れていき、流れ星のように夜の街に降り注いでいった。


「この町はお気に入りだったのだが……残念」


「まさか……あれが地面に着いたらこの町は!?」


 快が上を見上げ、すぐにローを見つめると、ローは赤い歯を覗かせ笑う。


 それは、快の予想を――肯定する意を持っているに他ならず。


 察した瞬間、快の中で――“何か”が切れる。


 快の身は、赤黒いオーラに包まれ、髪の毛も同様に薄く紅に染まって行った。


「お前、何も知らない人達を自分の目的の為に巻き込むって言うのか!」


 快が怒鳴ると、ローはおぞましい、獣の唸り声と混じったような大きな笑い声で返す。


 下衆にも感じられるであろう、高笑いに似たものを含みながらローは言った。


「フハハハハハ!! そう、それだ! それが見たかった! お前のその人格に興味を引いてやまなかったんだ! デモニルスの残骸よ、貴様が現れたおかげで私は怯えながら生活しなくちゃいけなくなった。折角、魔界の連中から抜け出して、争いとは無縁の生活を送れるかと思えば……よくも私の目の前に現れてくれたな?」


「逆恨みか、小物が!」


 激昂し、快が右手の平をかざそうとすると、快の右腕は切り飛ばされた。


「ぐっ……!?」


 斬り飛ばされた瞬間、快はあまりの展開の速度に何が起こったかのか、理解できずにいた直後――。


 正面に向いた、ローの口から舌が伸ばされる。


 舌は二枚に分かれており、その表面は猫のそれをより鋭くしたかのようにとげとげしい物だった。


 伸びた二本の舌は、快の両足に巻き付き捕らえ、バランスを瞬時に崩し体を地面へと引きずっていく。


 快がもがこうにも、舌のとげに肉を裂かれ、腱を断たれ、骨にまで貫かれ――もはや足としての機能は断絶しているに等しかった。


 苦悶の表情を浮かべながら、快は地面に引きずられ、横に転がされていると、道路の方へと放り投げられる。


「何が起こった……!?」


「せいぜい、轢死体として果てるが良い。感謝もしているぞ? ジェネルズを葬ってくれたことに関しては!」


 ローが吐き捨てた刹那、快は空中で一回転し、左手を地面に着けた。


 勢いのままに、足を宙から道路へ置くと快は一点を睨む。


 ローの姿を、捉えて。


「チィィ……!」


 快は、右肩に力を込め、再生させると拳を作り、念じ始める。


 拳にまとったのは、紫電、その中心には白炎。


 快は、全速力でローの元へ駆け、横切る車の天井を飛び越え――頭部目掛けて、拳を振り下ろす。


「お前も葬ってやる。お前の上、ルシファーとベリアル……魔王の器達の力でな!」


 拳を、ローの眉間に叩き下ろした刹那。


 ガラスが割れたように、風景が瓦解していく。


 その先に現れたローの姿は、依然変わらず。


 ただ、快の愚かさを、嘲笑うかのようだった。

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