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‐禁忌の召喚者‐ ~The Toboo summoner~  作者: ろーぐ・うぃず・でびる
最終章 The Toboo summoner
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最終章 第二十話 もがき溺れて

 夜に、光り輝く瞳。


 不気味な声色は、快が一度聞いた事のあるものだった。


「その声、ローとかいったっけ」


「大当たり。少年、この間は悪かったね」


 飄々と笑う、ローに快は鋭く睨む。


『悪かったね』という一言では、決して快は納得できる素振りを見せず。


 眼孔を鋭くさせながら、ローの脇を横切ろうとするとローは道を塞ぎ、手を伸ばして言う。


「申し遅れた。私の名はロード・デヴィラニアス=ジーグ。愛称はローだ、よろしく」


 握手を求めるローの手を放置し、快は尚も睨み、後ろへ振り向く。


 すると、ローが回り込んで止める。


「何の用? ここで僕を殺す気か?」


「ははは、とんでもない! 私が単に仲良くなりたいだけだよ」


 そう語るローの様子は、どこかわざとらしく感じられるものだった。


 快は、指を鳴らし――軽く力を込める。


「少しどいて」


 瞬間、周囲の時間は停止し、それに従ってローの動きも止まった。


 時間が停止する中、さっさとローを通りすがり、歩道の方へと行き、リュックの中身に着替えると快は軽く念じ、時間停止を解除する。


「は? 消えた……いや違う!?」


 ローが後ろを振り返ると、そこには何食わぬ様子、態度でリュックに先程まで着替えていた服をしまい込む快の姿があった。


「君、今何をした? どうやって私から逃れたんだ?! そもそも……君にそんな新品の服を買う財力なんてあったの――」


 ローは問いかけながら、快にゆっくりと近づく。


 すると、快は咳き込みながら堂々と振り向き立ちあがる。


 その瞬間、快の瞳が光ると同時に、ローの体が――硬直した。


「僕が何をしようと勝手だろう。邪魔をするな悪魔」


 硬直した体は、舌の先端すら動かす事が叶わず。


 正面を捉えた瞳も、正面を向いたまま――瞼を閉じれずに止まっていた。


(どういう事だ……?! 石化魔術か? だが意識はある……まさか、これも私の知らない、快の会得した魔術だとでもいうのか?!)


 快は、冷たく言い放つと――その場を去る。


 それは道端に落ちた石を、踏み抜き、あるいは蹴り飛ばし道を往くように。


 ライトに照らされた街路樹の並んだ歩道を、快は歩んでいくと――快はふと、息を飲んで我に返る。


(待て……何が起こっている?!)


 深く深呼吸し、取り入れた酸素によって若干冷やされたであろう頭で、回想する。


 自分に起こった、衝動的な、得体の知れぬ高揚感に支配された行動の数々に――快はやがて、段々と違和感を覚えるようになっていった。


(さっきから、まるで……自分が自分じゃないみたいだ)


 快は、急いで後ろを振り返り、再び来た道を戻る。


 洋服店前の駐車場――その入り口付近には、動きを一切封じられたままのローが居た。


「待って、今助けるから!」


 快は再び、念じる。


 が、今度は何も起こらない。


「どういう事だ?! 治れ! 治れよ!」


 快はローの前で祈るように手を組み、しゃがみ込む。


 しかし、何も起こらない。


 祈る仕草を変えても見るが、同様に何も起こらず。


 ただ、時間ばかりが浪費されるだけだった。


「どうして……どうしてだよ?! ベルゼブブの時は上手くいったのに、ベリアルの時も……!」


 快は徐々に、自らの起こした軽率な行動に、激しく後悔を覚え始める。


(何が足りない?! 念じるだけじゃだめなのか、ならベルゼブブの言ったことは嘘だって言うのか!?)


 次第に、快の覚えた感情は――自責から、憤怒へと変わっていく。


 思うままに行かぬという、理不尽さへの憎悪、憤り。


 快が歯を食いしばり、念じた瞬間――。


 ローの体が、動いた。


「え?」


「ふはぁ! けほっ、けほ……肺まで止まっていたから死ぬかと……!」


 ローがせき込みながら、その場に倒れこむと快は両手を胸の前で縮こませ、歩み寄る。


 快が眉を寄せ、手を伸ばすとローは自力で立ちあがろうとする。


「あの、大丈夫ですか!? ごめんなさい……」


「いや、息を整えれば大丈夫。魔界じゃご挨拶みたいなもんだこれぐらい……(ここまで強力な魔術を喰らったのは初めてだけども)」


 埃を軽く払い、ローが言うと、笑顔で羽織っているジャケットを両手で整えた。


 快は、それを見て申し訳なさげに――お辞儀をする。


「さっきの態度、明らかにおかしいものだったし……本当に、ごめんなさい」


「何、別に気にする事じゃない。が……気になる点が一つ……“お前”は、誰だ?」


「え、朝空 快(きよそら かい)……歳は12歳血液型O型……ですが」


 困惑した様子で、快は名乗る。


 が、ローは指を指して返す。


 次に放ったのは――否定の言葉。


「違う。君じゃあない……君の中に巣食う、“化け物”の事だよ……」


「化け物……?!」


 快がおうむ返しに言うと、ローはしばらく考え込んだ様子で、快の肩に手を置く。


「まぁ、立ち話もなんだ。お腹も空いたろうし、食事でもしようじゃあないか。君ぐらいの年頃なら、夜に食事なんて大人っぽくて少し憧れるんじゃない?」


 ローが笑い、快の肩を前の方にそっと押す。


 快は、罪悪感のままに――ただ無言で従わざるを得ないでいた――。



 一方、天護町の極北。


 そこは、Fencer基地の所在地。


 闇の静けさに紛れ、基地の塀を殴って易々と破壊し、強行突破する影があった。


 グリードである。


 塀を破壊した先にあったのは、かつて見た基地と同じ物とは思えぬ有様。


 ヘリや軍事車両、美しく基地の駐車場やヘリポート一杯に整列されていたそれらは、いまや一台も残っておらず。


 荒々しく、何らかの金属片だけが放置されていた。


 道を成していた、灰色のタイルも焦げた後が残っており、何らかの事故があった事を物語っている。


(おいおい、あれだけ人外に詳しい面しておいてまさかやられたか?)


 地面を蹴り、グリードは一瞬で基地に向かって飛ぶように移動した。


 入口で止まると、奇妙な事に気付く。


 入口の扉は、自動ドアであった――にも関わらず、透明なドアから見えるそこは、金属板で封鎖され、バリケードらしきものになっていた。


 グリードはそれを軽々と蹴破ると、金属板とガラスでできていたであろう自動ドアは跡形も無く消滅していく。


(ちょっと力の調節をミスったか)


 そんな事を思いつつ、グリードが入口をまじまじと見つめる。


 グリードはそこに残った痕跡から、金属板は自動ドアに溶接されていたようだ、という結論に至った。


 周りを見れば、電気一つ点いておらず、出迎えてくれる筈の四角柱すら機能していない。


(警戒の仕方がまず異常だな。下手なタイミングで電力配給にトラブルがあったのか、それとも遠出か? いや、あり得ない。あの金属片からして……)


 考察するが、グリードは異常事態を前に思考は無駄だと決め込み――奥へ歩みを進める。


 暗闇の中、足音だけが響く。


 碧色の瞳を、暗黒の中で揺らめかせながら進んでいくと――グリードはある音に注目する。


 それは生き物の、息遣いのような音だった。

 

 グリードが耳を澄ませて、息遣いに傾けると、会話のような声も聞こえてきた。


「死にたくない死にたくない……」


「馬鹿野郎、だからこんな穴蔵を掘ってるんだろうが! 大人しくしてりゃ、バレない。それにここは金庫も近い。壊れる事も無いし、金庫のパスを持ってるのも俺達だけだ」


「あぁそうだよ、何も心配するこたない」


 女性二人に、男性一人の声。


 三人は何かの来襲を、恐れているような声色だった。


(何がどうなってる? まるで僅かしか生き残れてないみたいじゃないか)




 暗黒の中で、二人の戦士はもがく。


 内側の闇に触れ、外界の闇に溶けて――。


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