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‐禁忌の召喚者‐ ~The Toboo summoner~  作者: ろーぐ・うぃず・でびる
最終章 The Toboo summoner
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最終章 第十八話 静かなる決起

今回は、掌編程の短さです。

2022/7/11 19:05

余りにも短すぎたので、文章を追加しました結果、長くなってしまいました。

ゆっくり、楽しんでください。

 全てが終わりを告げるような、夕暮れ時。


 闇は、太陽が治める時間の終わりを――夜を告げ始め、森に一足先に広がっていく。


 そんな光景の影響か、薪の前に映る少女の顔に影が差していた。


「もう、いいかなって……皆に、かえってきてもらうのもさ」


 ちはが言うと、グリードが疑問を投げかける。


「何故? 皆で仲良く暮らしていたなら、是が非でも帰って来てもらいたいだろう」


 グリードの問いに、棕が静かに、答えた。


「兄貴、訊き方ってもんがあるだろ……けど、どうしたちは」


 棕がそっと、後ろへ返りちはの肩を手を置く。


「もう、死者が帰る体が無いんじゃ復活もできないし、死んだのに、また甦らせるなんて都合が良すぎる……なんだか、罪深い事のような気がして……怖くなって」


 ちはは、棕の前から距離を取って手を擦り、下へ俯きながら言う。


 そうしていると――グリードが、ちはの前でしゃがみ込み、両手を肩に置いた。


 笑みをたたえ、瞳をしまう瞼は弧を描いて。


「ちは……お前は優しいな。大好きだぜ、そういう考えを持つ奴は」


 グリードの言葉を聞いたちはが無言になる。


 棕はその様子を見て、座り込み、唸る。


「里子に出すっていっても、どこもかしこも安全とは言えないし……快ならともかく、ちはは本当に普通だからな……快の時とは少し事情も違うし……よし、うちと暮らすか」


 突拍子も無い提案に、アムドゥシアスが返す。


「な! また勝手に決めて……!」


 アムドゥシアスを、黙らせるように棕は答えた。


 いつになく、今までに聞いた事の無いような声で。


「家も無い、身内も死んで、復活できる手段があったとしても、それはエゴだって考えに至ってる。なら、うちが引き取るほかないよ。 報道も、拾い子だって言えばそれまでだろう。それにこうして出会って、目の前で野山に放っておいたんじゃうちは罪悪感で狂っちまいそうだ。ちはに、せめて……生きていく手段を教えて、しばらくの居場所をあげないと」


「棕さん……あたし、ただでさえ皆を巻き込んでしまって……いいのに、なんとかやって――」


 ちはが、暗く低い声で言うと、棕はちはを後ろから抱きしめる。


 冷えたちはの心を、温かく、包み込むように。


「なぁ、“そういう”のは、いい大人になってから言いなって。罪の意識よりも、まず、な」


 棕の言葉を聞き、ちはの瞳から、溢れ出るように涙が流れていく。


 グリードは立ちあがり、その様子を微笑んで見つめていた。


 棕の隣に居たアムドゥシアスは、ただ無言で――二人を眺める。


「で、いいのか“保護者”さん。デカいお子さんに妹が増えるようだけど?」


 グリードが軽口交じりに言うと、アムドゥシアスは深く息を吐いて言った。


「全く、棕の子供好きには呆れますね。わかりました、ここは黙って認めましょう」


「へへっ、やりぃ」


 棕が悪戯っぽく、笑顔で返す。


 グリードは頷き――我に返ったように俯いて、顎を擦り、思いに耽る。


「どうかしましたか?」


 アムドゥシアスが訊ねると、グリードは目をアムドゥシアスに向けて答えた


「いや、思えば近頃……特にここ一週間あたりか? 妙な事が沢山起きてると思ってな」


「というと……あのジェネルズの没後? でしょうか」


 グリードは頭を縦に傾ける。


「あぁ。まずポグロムアの活動の活発化、同時にかは知らないが……魔力で感知してる限りだと天護町以外の地上界を襲う輩が居ない。めっきり音沙汰が無いんだ……逆に言えば、天護町ばかりが狙われ始めている」


 棕がちはの頬を揉みながら、質問を投げかけた。


「? なぁ、魔力で感知って言ってもどうやって存在を知ってるんだ?」


「仕組みで言えば、コウモリの超音波が分かりやすいか。魔力を持った奴らは保有する魔力量が多ければ多い程、その音波が広くなって、受け取る魔力で感知できる――つまり、体から放たれてる微量な魔力で、存在がわかるんだ。けれど、今じゃそれが無い。不気味な程だ」


「良い事ではありませんか? 各世界の有力者が暴徒を抑えている証拠でしょう」


 アムドゥシアスが返すと、グリードは腕を組みながら――問う。


「じゃあ逆になんで今の今まで隅から隅の存在に至るまでそれができてなかったんだ? 監督不行き届けにも程があるだろうが」


「それも、そうですね……それに、業六区といい、天護町の被害が激しすぎるのに対して……確か怪異に対する組織Fencerでしたっけ……あの組織が機能していないような……」


 アムドゥシアスが返すと、グリードは目を大きく開き、答えた。


「ふむ……Fencer……よし、わかった。棕、ちは。お前達とはお別れだ」


「え、いきなり何?」


 棕が戸惑うと、グリードは背を向けると同時に何かを棕に向かって投げる。


 棕はそれをキャッチし、手を見てみると、そこにはリストバンドのようなものがあった。


「そのバンドは快の指輪の劣化版だ。それを付けて、なんかあったら呼べ。それじゃ」


「え、あ……ちょっと!?」


 棕の言葉を聞く前に、グリードはその姿を消す。


 それを見て、アムドゥシアスは胸を撫でおろした。


 緊張から、解き放たれるように。


「やれやれ……頭のキレる無法者は相手どって疲れますな……」


「うちは憧れるよ?」


 棕が言うと、ちはが混じって返す。


「あたしは苦手。親切だけど、なんでも一人で決めつけすぎだし、ちょっと怖い」


 アムドゥシアスがくすり、という擬音が似合うような笑みを堪えた後、咳払いする。


「そういえば、快君は果たして大丈夫なのでしょうか」


「そうだな……でも兄貴がなんとかしてくれるっしょ。あいつ快に割とべったりだし」


 何気なく放った棕の一言に、ちはが噴き出して言った。


「あれ、グリードってもしかして……ロリコンでショタコン?」


「ぶーっ!」


 棕が顔を真っ赤に、酔ったかのように噴き出す。


 と同時に、アムドゥシアスも我慢ならない様子で地面を叩いて笑った。


 三者は、大声で笑う。


 黒衣の友を置いて、黒衣の友を出汁に――。


「ちょっと寒いな。なんか……ありもしない妙な噂が流されてる気が……」


 野山の遥か遠く、天護町の空で、そんな一言が落とされた。



 

 一方、業六区を離れ、行き交う車に横切られ――歩道を、歩く少年が居た。


 快である。


 疲れ切った体、引きずるようにして――闇の中を歩いていた。


(ベリアルと戦って、魔界に帰ってもらったはいい、けれど……疲れた)


 快は歩道を歩いた先にある橋に辿り着いた所で、柵の下に座り込む。


 座った時の硬い感触を、酷く染み渡らせながら。


 手を見れば、埃と擦り傷に塗れた黒い手。


 あたかも、生への対価として――孤独な戦いの世界に、両手足を引きずりこまれたかのように感じてならなかった。


(ポグロムア、ジェネルズ……そして、グリードか)


 膝を畳み、体育座りの姿勢になってうずくまる快。


 頭に沸いたのは、ふとした疑念だった。


(なんで、僕はここまで生に執着してきたんだろう……僕って、なんなんだ)


 ベルゼブブの言葉。


 ポグロムアが説いた、価値。


 相手にしてきた者達と、犠牲にしてきた者達の記憶を反芻し――快の脳内に、初めて――“生”への、否定的な感情が湧いた。


 快は、歯を食いしばらせながら地べたを叩く。


(ふざけるな。僕は、道具や機械なんかじゃない……人間だ。もっと、平和に暮らせるはずなんだ。なのに……何故僕はここまで傷つかなくちゃいけない。犠牲にしてきたものが、多すぎる)


 快の目には、涙が浮かんでいた。


 嗚咽は、車の走行音にかき消され、闇夜に溶けて。


 ふと足音が聞こえてくると、快は立ちあがって、俯きながら足音の方角へ向く。


 足音の先には、塾帰りの女子高生と思しき人物が居た。


「ねえ、君大丈夫?」


 声をかけられ、快は上を向く。


 すると、女子高生の顔は青ざめた様子で、顔をこわばらせた。


「ひっ!」


 思わず、女子高生は触れてはいけないものに触れたかのように横切って走り去る。 


 その反応は、快の心を深く抉るものだった。


(なんで?)


 快が進んだ先の地面の水たまりに、自分の顔とその姿を見れば理由は露わになる。


 ぼろぼろの黒いシャツ、灰色の下着はぼろきれの様で、手足には血管の様に赤黒い線が迸り、四肢のみ肌は文字通りの漆黒。


 空いた眼孔には、先天鏡がはめ込まれ、髪はぼさぼさと乱れている。


 残った人間らしい隻眼も、泣き濡らしていた事で赤く腫れていた。


 どう捉えようと、その醜悪さに気づかなかっただけだという事を、快は気づく。


 絶望に似た、どす黒い感情を孕んで。


(なんてことだ……もがいている内に、姿がまるで……人間じゃないみたいだ)


 快は、両手足を地面に落とし、深く、深く頭を落とす。


「うぅ……うああ……うあああああ……どうして……どうしてだよ!」


 快の呟き、嘆きは誰にも届くことは無かった。


 その時だった。


 手に持っていた、宝石――ダーカーズデビルノコンが爛々と輝いたのは。


 ダーカーズデビルノコンは、妖しく輝いていた。


 快の目には、今や灰色に霞んだ世界に輝く月の様に――太陽の様に、自分を包み込む存在のように感じてならず。


 如何なる妖艶な人間も、この世に存在する、あらゆる絶景よりも――隻眼に、魅力的に映る。


 快は、その場で横になり、それを愛おし気に撫で回す。


「不思議な宝石だな、お前は。指輪にはめ込んだ時には、使っちゃいけないって言うのに……割となんとか操れて。しかも強くてさ」


 返ってくる返事は無い。


 それでも、快は語り続けた。


「なぁ、今の僕が人間だって言うならさ。今度は逆に僕を好きにしていいから……“人間”に、してくれないか?」


 快が、虚ろな目で微笑みながら言う。


 すると、ダーカーズデビルノコンは妖しく光り、快の目を奪う。


 快は、まるで操られるかのようにそれに噛り付いた。


 リンゴの様に咀嚼し、味わい、飲みこむ。


 硬質だったダーカーズデビルノコンは、快に食べられるときにのみ、その本体を柔らかくしているようだった。


 それを食べ終えた瞬間。


 快の隻眼の中に閉じ込められた、丸い瞳は――変化していく。


「うがぁぁっぁ!!?」


 快は、あらん限りの力で、もがき叫ぶ。


 その小さな体に、烈火の如き熱さと、貫かれたような鋭い痛み、吐き気が迸ったのだ。


「あぁ!? あがぁぁぁ!!」


 快の気づかぬうちに、口からは血を滝の様に吐き出し、それが鼻に入って呼吸ができなくなる。


 仰向けから体勢を変えれば、全身を圧迫されるような痛みが襲う。


 理性的な判断のできる思考力は、もはや失せていた。


「あぁぁぁ!! あぁ!」


 果てには自分の首を絞め、痙攣する足をより一層ばたつかせる。


 一瞬一瞬の内、途切れて眼に映るのは――現実とは思い難い映像だけだった。


(苦しい……痛い、しかも、なんだあの光景は)


 荒廃した風景。


 殺伐とした景色に敷かれるは、枯れ果てた大地。


 その上には曇天が広がり、陽の温もりは一切なかった。


 曇天を、焼き焦がす様に漆黒の炎が降りていき、漆黒の炎は、激しく燃えながら徐々に周囲に熱を与え、地面へ下りる。


 地面へ炎が着くと、一斉に眼前の光景全てを埋め尽くすほどに燃え広がって行く。


(これ……見た事がある……まさか、あの指輪を使った時のような!)


 その炎が、今度は快の体から発せられていた。


 身を包み込んでいく炎、映像が流れている間は苦痛はないが、一瞬で現実の――橋の上へと引き戻され、苦痛を与え始める。


(苦しい……!)


 快が、反射的に祈った瞬間。


 映像の色彩、全てが反転し、現実へと引き戻された。


「あれ……?」


 周りを見れば、何事もない風景が広がっている。


 立ちあがり、快はふと柵の下を覗き込む


 橋の下には、河川敷が広がり、川が流れていた。


「食べて……良かったのか?」 


 微妙な、気分の変化を感じつつ、また快は地面の水たまりを覗きこんでいった。


 特に、これといった変化は見て取れなかった。


 ただ、血管のような模様に深みが増した程度。


「とりあえず、寝よう」


 快は柵を飛び越え、河川敷に降り立つと――変化に気付く。


(? なんだか、嫌な気分が不気味な程晴れてるし、体が頑丈すぎるような)


 快が、橋の下にまで行き、柱に身を持たれかけると、手を握る。


(むしろ……いい気分だ)


 歪に笑う、その口許には牙が生えていた。

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