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‐禁忌の召喚者‐ ~The Toboo summoner~  作者: ろーぐ・うぃず・でびる
最終章 The Toboo summoner
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最終章 十七話 神へのなり変わりか?

 倒れた快に、ベリアルは手を差し伸べる。


「立てよ、人間」 


 話しかけた時には、快は既に満身創痍。


 全ての力を出し切り、薄い二酸化炭素を口から出すのに精一杯の様子だった。


「わかった、お前の強さもわかったからよ。立ってくれや、でなきゃ夢見が悪いぜ」


 ベリアルは、快の小さな手をつまみ上げると、懐から一つの、黄金に輝く、小さなメロンに似た果実を取りだす。


 果実を砕き、その欠片を快の口に押し込むと――快は自然とそれを飲み込んでいく。


(メロンみたいな食感に、バナナみたいに酸味が一つも無くて……甘い、これは一体?)


「食え食え。天界にしかない、知恵の実とも呼ばれてる実だ……口にすれば、気休め程度かもしれんが魔力と再生能力を含めた身体能力が向上する。待て、吐き出そうとするな、これは嘘じゃない」


 ベリアルの言葉のままに、実を咀嚼し飲む。


 体感、数秒と持たぬうちに快は全身から力がみなぎるのを感じていき――すぐにその場から立ち上がった。


「ありがとうございます、なんていうか……遺伝子に染み渡るような美味しさでした!」


 快の発言を、鼻で笑うとベリアルは髪をかき上げる。


「はっ、“遺伝子に染み渡る”ね。あと、今更敬語は止めろ」


 快が立ちあがるのを見ると、ベリアルは軽く手を脚絆で拭い、脚絆のポケットから再び何かを取り出した。


「こいつもやる。今の俺様には無用の長物(ガラクタ)だという事がわかって、持て余していたところだ」


 ベリアルが渡したものは、赤黒い鉱石。


 血液を凝固させ、暗闇に封じ込めたかのような――快の拳大の大きさの石。


 グリードから貰ったものより、深い色のそれがなんであるか、快は分かっていた。


「これは……ダーカーズデビルノコン……?!」


「なんで知ってるんだ? まぁいい、かなり純度の高い代物だ。お前程の魔力の持ち主なら、使いこなせるだろうさ。使い方はその内自分で分かるだろう……それと、印章封印札も渡しておく」


 ベリアルの手には小さすぎる、印章封印札を渡そうとする――が、一瞬快は戸惑いを見せ、受け取るのを躊躇う。


「どうした? 何、俺様の趣味範囲内だ。契約は大体二ヵ月程度、契約内容は“強い相手と戦わせる事”。破棄もできるし、お前がずっと有利……もはや契約書というより人間でいうところのテレホンカード? みたいなやつだ」


「いや、内容じゃなくて……どうしてここまで親切にするのかなと。いきなり、温度差というか……」


 快が困惑し、眉をひそめながら言うとベリアルは言った。


「俺様は、認められない人間に対しては嘘を吐く。弱い奴は、表面上の聞き心地良いおべんちゃらにすぐひっかかって勝手にくたばる。だが、唯一おべんちゃらじゃ誤魔化せない物がある。“力”だよ。お前は俺様に立ち向かい、力を示した……」


「はぁ……」


 納得のいかない快に、続けるベリアル。


「アツいじゃねぇか。俺様のこれまで向かってきた奴は俺様と同等の体格、それか少し小さいぐらいだったのが……二倍近く違う、戦闘経験はぺーぺー、だがいっちょ前に食らいつく……まるでテネブリスの一族を思い出して胸が高まってな。お前に力を貸してやろうと思った訳よ」


「テネブリスの一族……?」


「あぁ、特にお前の姿はユンガを思い出す。あの闇の雷魔術と体術を見たか? あれは俺様が全力で叩きこんで教えてやった代物だ」


 ベリアルの発言に、一瞬動きが凍る。


「あぁそ……えええええええええええ!?」


 豪快な笑い声と、驚愕の声が同時に響く。


 それは、言葉を交え、拳を交えた互いに芽生えた絆を示すように。


 荒涼たる、戦地で――。 




 一方、グリード、棕、ちはの三人は


 野山で、薪をしていた。


「野宿か、懐かし」


 棕がパーカーのフードを被り、横になりながら呟く。


「にしてもアムドゥシアスは大丈夫なんだろうかね」


 グリードが茂みを背に座り、薪を入れながら言うと、ちはが返す。


「もしかして、アムドゥシアスさん? の他に強い奴が居て食べられてるんじゃ……」


「あー、あいつなら喰われねぇよきっとまずいから」


 棕が返すと同時だった。


 棕の隣に、魔法陣が現れ――その姿を現したのは。


「私が死なないと安心しきっているようですね?! ええ!?」


 一角獣の角、緑と白のツートンカラーの毛髪を生やしたタキシードに似た服を着た悪魔が現れた。


 アムドゥシアスである。


「お、お帰り~」


「お帰りじゃないでしょうに……魔力が回復するまで時間はかかるわ、あのお方の軍勢で列ができていたわあぁ……地上界が羨ましくなるほどのパワハラ……いや、パワハラという言葉すら可愛く見えますがね」


 アムドゥシアスが腰を擦り、横になると隣の棕がアムドゥシアスの頭を撫でた。


「ほぉ、どういう事だ?」


 グリードが訊ねると、アムドゥシアスが答える。


 立ちあがり、埃を振り払い咳ばらいをして。


「快君の力が、ベリアルにバレました……これから、人間に敵対する輩が更に地上界に出回る事でしょう……それに従って、天界の者どもも……」


「何故バレた? お前が拷問でもされて吐いたか?」


 グリードは聞き返すと、アムドゥシアスは怒鳴る。


「失敬な! 私は痛みには慣れているので吐きませんよ……きついことには変わりないですが。恐らく快君が高名な魔族と関わりがあるばっかりに、言伝、あるいは噂で徐々に、存在が広まっているのでしょう。境界が無くなっているので、低級の魔族でも単なる瞬間移動魔術で移動してしまえるのも……」


「なぁるほど。面倒くさい事になってきたな。任務が多いな、ちはの身内の復活、同時に各世界を守りながら、快を追う輩を倒して、ついでに俺に近しい奴らの討伐……」


グリードがそう呟いた瞬間、ちはが手をあげる。


「あ、それなんですけど……」


「お?」


「もう、身内をよみがえらせるのは、いいかなって……」


 そう語るちはの顔は笑顔。


 少女の笑顔には、影が深く刺していた。

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