最終章 第十五話 暴虐を越えて
キリストとベリアルに、何の調和があろうか。 ――コリント人への手紙第六章より
印象封印札から伸びた手は、アムドゥシアスのものよりも大きく、鋭い爪が伸びている。
紫色の、稲妻を纏ったその爪は、快の見た事があるものだった。
思わず棕が印章封印札を荒廃した業六区の方へ投げ捨てた瞬間、雷鳴が空に轟く。
銀色だった封印札は、焼け焦げ、黒へと変わり地面へ力なく落ちてった時。
封印札の周りに、三角形の魔法陣が現れる。
グリードが身構えていると、快が手を後ろにやった。
「グリード、棕とちはをどこか安全な所へ」
「安心しろ、もう正体は解った。あれくらいなら、俺一人で十分だ」
グリードがそう言うと、快は首を横に振る。
「この力は、神々のものだ。なら、力を借りている神と話をするべきなのは僕だろ。三人は、安全な場所の確保を」
快の発言に、グリードが頷くと棕とちはを両腕に抱え、屋根を蹴って飛び去って行った。
「ちょ、待てってあれうちの! アムドゥ! 帰ってこい! それと快、お前もな!」
棕の声が段々と消えていくと、快は胸を撫でおろし――しっかりと、両足を広げ、息を整え、拳を握り構える。
雷鳴の中、現れる異形の怪物達を前に。
「さて、僕は一人になった。軍団けしかけてまで余程怒らせてしまったみたいで申し訳ありませんが……!」
「怒らせた、だあ?」
封印札を割り、いよいよ巨体――腕の主が現れる。
それは海で快が見たものと同じ。
紫色の長い爪は地面を食い込ませて。
輝かんばかりの金髪は風になびいて荒々しく。
血で染め上げたかのような赤い二本角に、片方裂け、奥歯が剥き出しになっている頬。
筋骨隆々の巨躯の背後に浮かぶのは六枚の猛禽の翼。
“悪魔”という言葉を、具現化したような姿。
彼が古来からの魔界の住人だという事を物語らせるには充分すぎるその威圧感。
裂けた口からは、炎を漏れ出させている。
瞳は、黄色。
「知ってるかもしれないが改めて自己紹介だ……借りパク野郎」
悪魔は、地面を踏み潰し、快の正面へと一歩近づく。
家の屋根程の大きさから、快は彼が二メートル程の大きさであることが分かる。
「俺様の名はベリアル……魔王の器・ベリアル……地上界じゃ色々派手な事をやって有名になったもんだ」
髪を撫でて語るベリアル。
快は、歯を食いしばり――奮える足を踏みしめ、屋根から飛び降り近づく。
威圧に抵抗するかのように。




