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‐禁忌の召喚者‐ ~The Toboo summoner~  作者: ろーぐ・うぃず・でびる
最終章 The Toboo summoner
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最終章 第十四話 宴の始まり

 荒廃しきった、かつての街。


人々で賑わっていた残骸だけが残り、代わりにおぞましき影だけが練り歩く。


 影らの形作る光景、それはまさしく、深海からの悪夢模様。


 フジツボを、全身に生やし、腐りかけた身から体液を滴らせる人型。


 それらを振り払い、あるいは徹底的に格闘による殲滅を試みる黒衣があった。


 グリード・タタルカである。


 伸ばした拳により、弾け飛ぶ肉片。


横一文字に放つ蹴りで、深淵なる教徒を薙ぎ払う。


 汗一つ垂らさず、グリードは深淵なる教徒共を処理していく――が、永遠とどこからともなく湧いてくる。


減らしていった、側から。


「まるでキリがないな」


 グリードは地面を蹴り、宙返りし――十分に腕を広げる間を確保する。


 そして、空間を掻くと、衝撃によって生じた空間の裂け目に、深淵なる教徒の軍勢は吸い込まれていった。


 肉片、体液、ビルの残骸、ありとあらゆるものを巻き込みながら吸い込んでいく裂け目。


 グリードが、戦闘を繰り広げている業六区の街を、その後ろの住宅屋根から見ていた棕は呟く。


「すげぇ……ざっと数十体は吸い込まれてるぞ。けど、吸い込まれた側からあいつら……!」


「グリード、奴らは痛みを感じません! 手っ取り早く街ごと消し去りましょう!」


 アムドゥシアスが叫ぶと、グリードが後ろを向いて返す。


その視線は、碧の、妖しい輝きを放っていた。


「そんな判断できるわけないだろ、仮にもここは人間達の住む場所だぞ。ならできる限り害や痕跡は残したくない」


 一瞬ながらも、瞳は、強く訴える。


“できない”のではなく、“しない”のだと。


「黙って魔力が回復するまで大人しくしてろ」


 グリードが前に降り直し、地面に手を置く。


 手は、やがて漆黒のオーラをまとい、オーラはグリードの全身から放たれ周囲を暗黒へと還る。


(禁呪“暗黒竜凄軍(メツボウノホシ)”) 


 漆黒のオーラは竜の頭部を思わせる形状になり、空中へ分散した。


五匹が十匹、十匹が二十匹、二十匹が六十匹に分裂し空を泳いでいくと、それらは雨の様に降り注ぐ。


 着弾地点は、もれなく集まった深淵なる教徒達。


着弾する寸前、竜の頭部は口を開けて教徒達を喰らうように消滅させていく。


 喰らった後も竜が消える事は無く、地面すれすれに滑るように移動した。


移動した先は教徒達。


 グリードの正面には、禁忌権によって生成された裂け目。


 その周囲と、業六区一帯には魔術の竜。


見ている者らには彼らの付け入る隙どころか、無限に湧く事さえも封じ、勝利は目前かに思われた。


「そらそら逃げろ逃げろ。これは自動追尾するし、俺の意識する限りは弾を無限に増やせる。肉体も、脅威度A三以上でないと耐えられない上魔力で弾くにしても同様、A三以上じゃないとまともに操れない。大人しく破滅を受け入れろ」


 余裕の笑みで呟いていた時。


 一切隙が無いはずの背後から、教徒がグリードのうなじに噛みつく。


 その痛みに気付き、振り返って肘鉄を打つ。


打った瞬間に教徒は弾け飛び、消滅していくのを見るとグリードは冷静に分析を試みた。


教徒が、発生する原因の。


(ここらの道はT字に分かれている。おまけその先の建物跡を考慮してもそこら辺は俺の魔術が巡回している。俺の正面には来られない筈だし……自然発生している? じゃあ何故この辺りにのみ?)


 グリードが考察していた時。


「あ、兄貴後ろ!」

 

 棕の声で振り向くと、そこには驚くべきものがあった。


 巨大な津波、海をそのまま地上へ叩きつけんとするばかりの水の壁が迫っていた。


「なんでもありだな……」


 グリードが津波に向かって腕を伸ばそうとした瞬間。


 津波の中には、ある少年が漂っていた。


 堂々と、髪を水の中で浮かばせ、少年が拳を握ると、津波は弾け、巨大な水球へと分かたれる。


「快お前……!」


 水球は、やがて一つの――怪獣の姿へと変わっていく。


ダゴンに、酷似した姿だった。


「父なるダゴンが命ずる。深海へ、帰れ!」


 快がそう言うと、水球は業六区一帯に降り注ぎ、教徒達を包み込む。


 包み込まれた教徒達は、抗う素振りもなく一瞬で包まれ、溶けていく。


「まさかあなた……あなたって人は……あぁぁぁ……」


 驚嘆の声を、アムドゥシアスは漏らす。


快の、小さな体躯に宿った神々しさとおぞましさ、壮大さを前に。


「成功した……」


 快が呟くと、棕とちはの居る屋根の上にゆっくりと降り立った。


すると、水球はどこかへと飛び去っていく。


 それはまさしく、水球の流れ星と呼ぶに相応しい光景だった。


「皆、待たせてごめん。怪我は?」


 快が棕とちはの顔を見合わせると、ちはが言う。


「怪我っていうような怪我もしてない」


「こんぐらい慣れっこ。ギター間違えて頭にぶつけた方がまだ痛かったよ」


 棕とちはが返すと、快は頷く。


「……ダゴン、まさかまさか操れるなんて」


 アムドゥシアスが零す。


「能力を引き出している最中は、妙に血が騒ぐような感覚がしたけど……引き出して、分かった事がある」


「へぇ、詳しく聞かせてくれ。俺の働きが骨折り損のくたびれ儲けだったって報告じゃなけりゃな」


 後ろから、屋根に飛び乗り快に話しかけるグリード。


「あ、ありがとう。食い止めてくれて! 正直……食いとめてくれてなけりゃ、かなり不味い事になってた」


「どういう事?」


 ちはが訊くと、快が固唾を飲みながら答えた。


「奴は、過去に自分とは違う世界――魔界から、地上界の魔神との契約をして、力を授かったんだ。“魂を無くしてなお、肉体に意思と機能のみを宿す力”を。奴を信仰していた魚人属や、人間にも同様の力を分け与えて――消滅したとしても、同一の存在を無から生成し、操り、ダゴンが命じない限りは消滅しないし、できない」


「要は、無限湧きのからくり人形を操れるって事か。しかも、あいつ自身も人形……傀儡(くぐつ)に過ぎないと」


 グリードの解釈に、相槌を打つ快。


「そうだ、そこまでして果たしたかった目的は、三つ……息子であるベルゼブブを殺し、その信仰者を虐殺し、傀儡を増やす事だったらしい。能力と一緒に記憶を引き出すことになるなんて思いもよらなかったけれど」


 快が語り終えると、棕は衣装を解いて、アムドゥシアスをポケットから取り出した印章封印札に仕舞おうとする。


 刹那――。


 印章封印札から、巨大な手が伸びた。

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